空運(貨物)編・2017年【業界トレンド】

アジアを中心に需要が増大。「越境eコマース」や農産物輸出の増大を見越した取り組みが進む

飛行機を使った貨物の輸送(航空輸送)は、高価で繊細な取り扱いを必要とし、サイズが小さく、短時間で輸送しなければならないモノに向いている。そのため、電子部品や精密機器といった小型で付加価値の高い物品、あるいは、緊急性の高い医薬品などの輸送に使われることが多い。短時間で輸送できる代わりに輸送費が高く、物流コストの削減が求められる時期には、ほかの安価な輸送手段に切り替えられることが少なくない。そのため、景気の影響を受けやすい業界と言えるだろう。

航空貨物を扱う企業は、「航空運送会社(キャリア)」、「フォワーダー(運送貨物取扱業者)」、「国際宅配業者(インテグレーター)」に大別される。航空会社は、自社の航空機を用いて貨物を輸送する企業。全日本空輸(ANA)や日本航空(JAL)のように旅客と貨物の両方を手がける企業もあれば、日本貨物航空のように貨物輸送を専門に手がける企業もある。フォワーダーは自社の航空機を持たず、発送元の国と発送先の国のそれぞれで、輸送・通関に関わる手続きを行う企業。近鉄エクスプレス、郵船ロジスティクス、日本通運などが代表格だ。そしてクーリエ会社は、書類や小口貨物をドア・ツー・ドアで国際輸送する企業。自前の航空機を持ち、さらに貨物の運送を取り次げるため、航空会社とフォワーダーの機能を統合(=インテグレート)した存在だ。国内企業としては、全日本空輸グループのOCSなどがある。またグローバルに見れば、フェデックス、ユナイテッド・パーセル・サービス(ともにアメリカ)、DHL(ドイツ)、TNTエクスプレス(オランダ)の4社が「ビッグ・フォー」と呼ばれる。

国土交通省の「航空輸送統計年報」によると、2016年における国内定期航空輸送の貨物重量は90万4876トン。前年(91万9356トン)より1.6パーセント減だった。国内の航空貨物取扱量は、2011年以降90万~95万トン程度で安定している。一方、国際航空輸送の貨物重量は152万8599トンで、こちらは前年(140万2155トン)より9.0パーセント増だった。国際航空輸送の貨物重量は、東日本大震災の起きた2011年に105.7万トンにまで落ち込んだが、その後は増加基調が続いている。

また、世界全体の航空貨物輸送量は、1996年から2015年の20年間に年率3.7パーセントのペースで成長した(有償貨物トンキロメートルベース)。約20年後の2035年までには、年率4.1%で増加すると予測されており、今後もさらなる成長が期待される 。しかし、航空貨物需要が増えると予測されているのは中東とASEAN地域が中心。世界的な貨物需要増の利益を享受できるかどうかは、今後の各社の取り組みにかかっている。

今後の航空貨物市場で成長領域として注目されているのは、eコマース市場だ。特に、インターネットを通じて外国製の商品を買う「越境eコマース」に期待が集まっている。経済産業省の報告書「平成27年度 我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」によれば、2016年の日本から中国向けeコマース市場は7956億円。中国では日本製品の人気が高く、今後も市場の拡大が期待されており、2019年には2兆円以上に達する見通しだ。こうした需要増に応え、空運会社も対応を進めているところ。例えばANAグループは、2017年3月に中国向け専門サービスの展開を始めている(下記ニュース参照)。

日本の農林水産物・食品がアジアの富裕層を中心に人気となり、輸出が拡大しているのも追い風だ。政府は、2012年時点で約4500億円、2015年時点で約7500億円だった農林水産物・食品の輸出額を、2019年までに1兆円以上にする目標を掲げている。農林水産物・食品は鮮度が重視されるケースが多いため、輸出額が伸びれば空運の利用が伸びる可能性も大。そこで、鮮魚向け航空輸送サービス(日本通運)、多様な温度帯に対応可能な低温輸送サービス(全日本空輸)など、新たなサービスが登場している。

空港関連の話題にも気を配っておきたい。中でも、那覇空港(沖縄県)を「国際物流ハブ」として強化する取り組みには注目だ。同空港には、アジアの中心部に位置する地理的優位性がある。これを生かし、日本を含むアジア主要都市から深夜に飛行機を出発させ、翌朝に到着させる高速物流網の構築を実現した。今後、農林水産物・食品の加工・輸出拠点が空港周辺に整備される計画もある(下記ニュース参照)。航空貨物業界における那覇空港の存在感は、さらに高まっていきそうだ。

空運(貨物)業界志望者が知っておきたいキーワード

ワンストップサービス
1カ所だけ、または1回だけの手続きで、物流に関するさまざまなサービスを提供すること。物品を空輸する場合、空港までの陸路を使った輸送便の手配や通関業務など、さまざまな過程を経る必要があるが、これらをワンストップで提供することで、顧客にとって便利なサービスとなる。
ハブ・アンド・スポーク方式
荷物を大規模な拠点空港(ハブ)に集中させた後、小規模な空港(スポーク)に分散して輸送するという方式。これまで行われていた、発送元の空港から発送先の空港まで直接運ぶやり方より、効率的に輸送できる。
3PL
3rd Party Logistics(サード・パーティー・ロジスティクス)の略。第三者の物流会社が顧客企業の物流改革を提案し、物流業務を包括的に受託し、実行すること。これに対し、顧客企業が物流システムの計画などを行い、実作業を物流企業に委託することをファースト・パーティー・ロジスティクスという。

eコマース関連の取り組みに注目

全日本空輸などの持ち株会社であるANAホールディングスが、中国語のネット通販サイト「ANAカーゴダイレクトモール」を開設すると発表。商品の集荷・配送はグループ内のクーリエ会社OCSが、航空輸送は全日本空輸が分担することで、通関手続きから商品輸送までを一手に引き受ける。(2017年2月28日)

農林水産省が2019年度を目標に、那覇空港周辺で食品加工施設や冷蔵・冷凍倉庫の整備を進めていると報道された。これが実現されれば、鮮度の高い農林水産物・食品をアジアなどに空輸する体制がさらに整うと期待されている。(2016年8月21日)

この業界とも深いつながりが<付加価値の高い貨物を運んで各業界に貢献>

半導体メーカー
小型で軽く付加価値性の高い半導体製品は、空輸で運ばれる製品の代表格

海運
空運、陸運、海運の各企業が連携した「トータルな物流サービス」が増加

食品
魚介類や果物を新鮮なまま輸出するための技術・サービスが発展している

この業界の指南役

日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門未来デザイン・ラボ コンサルタント
市岡敦子氏

市岡敦子

東京大学大学院農学生命科学研究科国際開発農学専攻修士課程修了。未来洞察による新規事業構築支援、官公庁・自治体におけるビジョン策定支援などのコンサルティングを中心に活動。

取材・文/白谷輝英
イラスト/千野エー


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