電力編・2017年【業界トレンド】

電力自由化や燃料費高騰で経営環境は激変。業界再編が加速する可能性もある

従来の電力業界は、政府の規制に守られた「安定した業界」であった。しかし、2011年に起きた東日本大震災や、ここ数年進んでいる「電力自由化」の流れを受け、環境は大きく変わっている。

震災を機に、電力各社は全原子力発電所の稼働を停止した。2015年以降、一部の原発は稼働を再開したが、現在でも多くの原発は稼働を止めている。その結果、火力発電への依存度が高まって液化天然ガス(Liquefied Natural Gas、略してLNGとも呼ばれる)などの燃料費がかさみ、2012年3月期決算では電力10社のうち9社が赤字に転落した。その後、電気料金の値上げや燃料調達の最適化により、2015年度は10社すべてが黒字となったが、今後も原子力発電所の再稼働など不透明な部分は多い。

震災以降、消費者の中で節電意識が高まり、電力需要が減る傾向にあることも見逃せない。電気事業連合会によると、2010年度における電力10社の電力需要は9064億キロワット時だった。ところが、震災後の2011年度には8598億キロワット時と激減。その後も減り続け、2015年度には7971億キロワット時となっている。近年は「ネット・ゼロ・エネルギー」(下記キーワード参照)の建物が普及し始めるなど、一般消費者や企業の間で節電意識が定着。今後も、電力需要は縮小する可能性がある。

こうした中、2016年4月、電力の小売りが全面的に自由化された。一般家庭を含む全ての消費者が、利用する電力会社や電力料金のメニューを自由に選べるようになったのだ。これにより、2017年4月6日時点で390社もの企業が「登録小売電気事業者」となった。例えば、ガス会社、石油会社、携帯電話などの通信系企業をはじめとする多彩な企業が、新規参入を果たしている。

電力自由化は、今後も進む見込みだ。2020年4月には、発電所などを運営する「発電事業」と、送電網や変電所などを運営する「送配電事業」の兼業が禁止される予定(発送電分離)。これによって送配電設備を持たない事業者も発電事業に参入しやすくなるため、さらなる競争環境の激化が見込まれる。

こうした中、既存の電力会社が提携によって競争力を強化する動きが目立つ。例えば、東京電力と中部電力は、2015年に共同出資会社「JERA」を設立し、火力発電の燃料調達や海外発電事業を統合した。これにより、燃料調達における価格交渉力の向上や海外事業の効率的な運営による収益力の向上を期待している。また、両社は2018年に、国内の火力発電事業も全面的に統合する方向で検討中だ(下記ニュース参照)。また、2016年4月には、関西電力が東京ガスとの提携を発表。当面はLNGの安定調達とLNG火力発電所の運営・保守に関わる技術連携を進める方針だが、今後は海外における火力発電所の共同建設なども視野に入れているという(下記ニュース参照)。こうした動きはますます盛んになると考えられ、電力会社同士、あるいはガス会社なども含めた業界再編が進んで事業者が数社に絞られることも予想される。

水素を燃料として発電する「水素発電」(下記キーワード参照)の動向にも注目しておきたい。現時点で水素の価格は高いが、水素発電が広まって大量の水素が消費される時代が到来すれば、価格が下落して関連ビジネスが拡大すると考えられる。政府は現在、環境負荷低減・省エネルギーなどを目指して「水素社会の実現」を推進しており、水素発電に期待される役割は大きい。このような背景のもと、水素発電を導入する取り組みが活発化している。例えば大林組と川崎重工業は、関西電力と神戸市の協力を得て、2018年に水素発電による電気の供給を目指すと発表。既存の電力各社も研究を進めていると見られる。

電力業界志望者が知っておきたいキーワード

ネット・ゼロ・エネルギー
消費エネルギー量を削減するとともに、消費したエネルギーと同量のエネルギー量を生産することで、エネルギーの正味(ネット)消費量がゼロまたは概ねゼロになる建築物のこと。住宅の場合は「ZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)」、ビルの場合は「ZEB(ゼロ・エネルギー・ビルディング)」と呼ばれる。2012年以降、政府による補助金が投入されており、今後の拡大が期待されている。

水素発電
水素を使って火力発電を行うこと。太陽光などの再生可能エネルギーを使って水素を製造すれば、CO2(二酸化炭素)を発生させずに発電できるため、地球温暖化の対策として有効。また、水素はさまざまなエネルギー源から製造可能なため、エネルギー源を安定供給するための「エネルギーセキュリティ」を担保する上でも期待されている。

エネルギーミックス
特定のエネルギー源に頼っていると、経済や国際政治などの環境が変わってそのエネルギーを使い続けられなくなった場合、重大な危機に陥る。そこで、さまざまな発電設備の特性も踏まえ、供給の安定性、経済性、環境性、持続可能性などの観点から電源の構成を最適化することをエネルギーミックスと言う。

ネガワット取引
電力会社の要請に応じて企業などが節電した電気使用量を、電力会社が買い取ること。節電によって生み出された電力を、発電された電力と同じ価値があると見なしてお金を支払うことで、省エネや環境負荷の軽減を目指す。2015年3月、経済産業省は「ネガワット取引に関するガイドライン」を策定している。

このニュースだけは要チェック<電力会社同士が提携する動きが活発に>

・東京電力と中部電力は、2018年に国内の火力発電事業を全面的に統合する方向で検討を進めている。国内の火力発電所の運営や統廃合を効率的に進め、収益力を高めたいとの思惑がある。(2017年2月20日)

・関西電力と東京ガスは、LNG安定調達とLNG火力発電所の運転・保守に関わる技術連携を進めていくことで合意した。また、今後の海外事業への共同参画なども視野に入れているといわれる。(2016年4月11日)

この業界とも深いつながりが<異業界からの参入企業が新たなライバルに>

家電量販店
「電気料金に応じてポイントを付与」を売りに電力業界に参入する家電量販店もある

住宅メーカー
オール電化住宅などで協力する一方、ZEHが普及すると電力需要がさらに減る可能性も

石油
原油や天然ガスは火力発電に不可欠。石油会社の中には電力事業に参入する企業もある

この業界の指南役

日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 未来デザイン・ラボ コンサルタント
小林幹基氏

kobayashi_sama

京都大学大学院情報学研究科修士課程修了。大手電機メーカー、ニューヨーク大学客員研究員を経て現職。専門は、海外進出戦略、事業戦略、未来洞察による新規事業開発。

取材・文/白谷輝英 イラスト/千野エー

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