食品編・2018年【業界トレンド】

人口減で国内市場は頭打ちの恐れあり。海外進出や新ニーズの開拓などが重要な課題だ

食品業界には、レトルト・冷凍食品、お菓子、パン、即席めん、大豆製品、乳製品などを製造する加工食品メーカー、小麦粉や食用油、砂糖などを製造する食材メーカー、食肉加工、水産加工、乳業などを手がける企業などがある。国内の大手企業としては、明治ホールディングス(菓子、乳製品が中心)、味の素(調味料、冷凍食品が中心)、山崎製パン(パン、菓子類が中心)などが広く知られた存在。一方、ネスレ(スイス)をはじめとする外資系企業も、国内市場で一定のシェアを獲得している。

経済産業省の「平成29年工業統計速報」によれば、2016年における食料品製造業(従業者4人以上の事業所)の「製造品出荷額等」は、前年(28兆1022億円)より0.1パーセント減の28兆736億円。2013年以降成長を続けてきた市場だが、4年ぶりに減少となった。食品業界は消費者にとって不可欠な存在で、需要は比較的安定しているが、日本では将来の人口減少が予測されており、中長期的に見ると市場が縮小する危険性は否定できない。そこで各社は、生き残りやさらなる成長を目指し、さまざまな方向性を模索している。

1つ目の方向性は海外進出だ。アジアの新興国などでは人口増や所得の拡大が続き、食品への支出が伸びている。また、アジアや欧米などでは日本食に対する関心が強い。こうした動きを背景に、海外需要の取り込みに力を入れる取り組みが盛んになっているのだ。例えば、醤油(しょうゆ)などの調味料に強いキッコーマンは、2017年3月期の売上高4022億円のうち、海外売上高が2285億円を占めた。また味の素でも、2017年3月期における売上高1兆914億円のうち、海外食品セグメントの売上高が4289億円を占めている。今後も、海外展開を目指す企業は増えていきそうだ。

2つ目の方向性は、新たなニーズへの対応だ。例えば、シニア向け市場は注目株。噛む力や飲み込む力が弱くなり、普通の食事をとれない高齢者を狙った「食べやすい加工食品」や「食品に加えることで飲み込みやすくする補助剤」などは、売り上げ増が望めそうだ。また、共働き家庭や単身高齢者などが増えていることを受け、冷凍食品市場も拡大が期待されている。

3つ目の方向性は、付加価値を高めることで商品単価を高める取り組みだ。特定の保健機能成分を含む食品である「特定保健用食品」(通称「トクホ」)の市場は、引き続き注目されている。また、保健に関する特定の目的が期待できる「機能性表示食品」は、トクホとは違って国の審査が必要なく(販売の60日前までに科学的根拠を示しながら消費者庁に届け出ればよい)、販売へのハードルが低いため、注目する企業が増えている。さらに、健康・美容志向の高まりを受け、栄養バランスの良さを訴える商品に力を入れる企業もある。

売り上げの向上だけでなく、食の安心・安全を守ることも重要な課題だ。食品業界では以前からHACCP(下記キーワード参照)などの衛生管理手法に尽力してきたが、中小企業などの中には取り組みが十分でないところもあった。しかし、安全性を高めながら食品の輸出量を増やしたい政府の方針などもあって、食品業界のすべての事業者にHACCPを義務化する動きが進んでいる。また、「フードディフェンス」にも注目しておこう。これは、悪意を持った人物が食品の製造ラインのどこかで異物を混入させるようなケースに備えること。工場の入退室管理や持ち込み物検査、従業員教育などを通じて意図的な異物混入を防ぐ意識は、業界内で急速に広まっている。その一環で、食品安全の規格「FSSC22000」(下記キーワード参照)の認証を取得する大手企業もある。

さらに、「企業の社会的責任(CSR)」(下記キーワード参照)を果たそうとする動きも盛んだ。例えば、食品の製造に用いられた電力が再生可能エネルギーであることをアピールしたり、従業員の健康増進に努めて経済産業省の「健康経営優良法人」の認定を取得したりするのは、その一例。食品業界は消費者にとって身近な業界であるため、環境や地域に配慮した経営を行うことが、ブランドイメージの向上につながりやすいのだ。

食品業界志望者が知っておきたいキーワード

HACCP
Hazard Analysis and Critical Control Pointの略。「ハサップ」と読む。国際的に認められた衛生管理手法で、原材料の入荷から製品の製造、出荷までの工程に潜む危険要因(中毒菌汚染や異物混入など)を把握し、それを除去・軽減する取り組みを指す。
FSSC22000
安全な食品を生産・流通・販売するためのマネジメントシステムである「ISO22000」を、拡張・補強したもの。「フードディフェンス」の考え方も含んでおり、近年では認証の取得に取り組む企業が増えている。
CSR
Corporate Social Responsibilityの略で、「企業の社会的責任」と訳される。企業はその活動を通じ、顧客、従業員、取引先、株主、地域社会などに貢献しなければならないとする考え方のこと。環境保護や文化・社会貢献などを目指し、CSR活動に取り組む食品会社は少なくない。

このニュースだけは要チェック<食の安全を守る取り組みは重要>

・水産加工大手の日本水産(ニッスイ)が、国内にある6つの直営工場とグループ会社3社の工場でFSSC22000の認証を取得したと発表。ニッスイグループは、すべての生産拠点においてFSSC22000の認証取得を目指す方針。食の安全性を高める取り組みの一つと言える。(2017年9月4日)

・経済産業省が「健康経営優良法人2018」を発表し、食品業界からは味の素、カゴメ、カルビー、キッコーマン、キユーピーなどが「特に優良な健康経営を実践している企業」として選ばれた。従業員の健康管理に戦略的に取り組む食品会社は、今後も増えると期待されている。(2018年2月20日)

この業界とも深いつながりが<コンビニとスーパーは有力な流通チャネル>

コンビニエンスストア
販売チャネルとして深い関係だが、コンビニのPB食品は強力なライバル

スーパー
コンビニと同様に、重要な販売チャネルでありPB食品分野では競合

専門商社
食品の流通には、「食品卸」と呼ばれる専門商社の力が欠かせない

この業界の指南役

日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー
吉田賢哉氏

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東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。専門は、新規事業戦略やマーケティング戦略、企業のビジョンづくり・組織戦略など。製造・情報通信分野などの業界動向調査や商品需要予測も手がける。

取材・文/白谷輝英
イラスト/千野エー


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