味の素株式会社 西井孝明さん【人事部長インタビュー】

新しい価値の創造、開拓者精神によって築くグローバル健康貢献企業

うま味成分であるアミノ酸を池田菊苗博士が発見したことをきっかけとして、当社が創業したのは1908年。2009年、その100年の企業活動の蓄積をあらためて振り返り、「私たちは地球的な視野に立ち、“食”と“健康”そして“いのち”のために働き、明日のよりよい生活に貢献します」というグループ理念を礎に、われわれが今後も受け継いでいきたい価値観を「味の素グループWay」として定めました。それは、「新しい価値の創造」「開拓者精神」「社会への貢献」「人を大切にする」の4つです。特に新しいものをつくり出す、新しい世界を開拓していくことへのこだわりは、とても強い会社だと言えるでしょう。

私たちの事業の核にあるのは、やはり「うま味」です。このうま味成分の発見を「味の素」という調味料として商品化し、それを軸として発展させたのが学生の皆さんもよくご存じの食品事業です。そして、このうま味成分はアミノ酸であり、この技術を医薬、健康といった分野に広く展開させてきました。例えば畜産業において、動物の飼料にアミノ酸を加えることで動物が健康になり、過剰に抗生物質などの薬剤を投与しなくてもおいしい肉ができる。アミノ酸の効用を医薬品に生かす。このように新しい価値を次々と創造しながら、開拓者精神を発揮して、創業後の早い時期から海外に次々と進出してきました。  味の素とはどんな会社か。その問いにひと言で答えるならば、「グローバル健康貢献企業グループ」であり、「おいしさの本質を究めて健康な生活を創り出すこと」を中心として、各々の事業が相互に連携しながら、世界に拡大していくことが、われわれが目指す将来像なのです。

その姿を実現するにあたり、まずはグローバル経営をさらに推進していきます。現在の売上高に占める海外の割合は30%。これは100年の歴史の中で達成してきた数字ですが、近い将来で50%まで引き上げようとしています。それには、これまでよりも成長のスピードをより加速させなければなりませんし、競争が激化する中、海外でも日本と同様、優秀な人材を確保することが喫緊の課題となっています。

また、グループ経営の推進にも力を注いでいきます。調味料・食品、アミノ酸、医薬品、冷凍食品、飲料など、事業領域は多岐にわたっており、それぞれの領域においてターゲットとなるマーケット、商品を開発する技術を専門的に特化させて、よりお客さまのニーズにフィットした展開を目指していきます。

自らの仕事の領域をどんどん広げられる風土が、成長の礎に

専門分野に特化して事業を拡大していく人材にしても、あるいはすべての事業領域を横断して当社の基盤を支える人材にしても、新卒ですぐに活躍できる能力・スキル・知識を備えているはずがありません。最初の10年間を「基礎固め」の期間ととらえ、事業部、職種、国を越えた3回程度のジョブ・ローテーションを経て、さまざまなビジネスに対応できる力を積極的に開拓していただきます。

私自身のキャリアを振り返っても、営業に始まり、マーケティング、プロダクトマネジャー、事業管理、人事と、入社後28年間でさまざまな仕事を経験してきました。それによって、それぞれの仕事に必要な能力・スキルを身につけるのと同時に、会社の事業がどのように成り立っているのか、全体を俯瞰できるようになったと思います。

味の素グループでは、中国・東南アジアなど、国を問わず、同じ能力・経験を持った人がともに働き、切磋琢磨しています。5年、10年後を見据えたとき、海外ではもちろん、日本の現場でも、これまでよりも高いレベルの競争が繰り広げられていくはずです。これから入社してくる皆さんにとっては、意欲さえあればグローバルに通用する人材として成長できる環境があると言えるでしょう。

味の素の「成長できる環境」の礎には、自ら仕事の領域をどんどん広げられる風土があると思います。私たちは伝統的に、自分の目標はそれぞれ個人が作り、それを上司と共有するという仕組みを持っています。しかし、自分で決めた目標に書いてあることだけをやっていればいい、ということでもありません。関連部署、取引先、お客さまとの関係が構築され、新たな情報を得る中で、興味と意欲を持ったことを「自分に担当させてほしい」と言えば任せてくれ、「ダメ」と言われることがあまりないのです。

また組織として成果を出すため、主体的に行動するチームスピリットを大切にしています。

私にもそんな経験がたくさんあります。

例えば、マヨネーズ担当のプロダクトマネジャーとして、課長になったばかりのころ。私のほかにスープ、レトルト食品、調味料、冷凍食品など、10人を超えるベテランのプロダクトマネジャーがおり、自らが担当する商品をより強くアピールしていこうと、競い合うように仕事をしていました。しかし、それぞれいい商品は作っていたのですが、世の中に出ていくメッセージに統一感がまったくない。「それでいいのか」という疑問が、営業から挙がってきたのです。そこで各事業部に横ぐしを刺して、一貫したセールスプロモーションを行い、メッセージを統合しよう、ということになりました。

プロダクトマネジャーも全員これに賛成でしたが、どのプロダクトマネジャーが幹事となって動くのか、となると、誰も手を挙げません。この仕事は誰かがやらなければならない。そう強く感じて、私が手を挙げました。課長歴たった2カ月、ほかの並みいるベテランを差し置いて、です。

しかし、私が勇気を持って手を挙げたことで、3人のプロダクトマネジャーの先輩が、強力にサポートしてくれました。その結果、全体がまとまり、半年後に出したメッセージは非常にいいものになって、営業からも動きやすくなったという声をたくさんもらいました。また、メッセージの統合という作業を通じ、お客さまが何を欲しているのかということにあらためて向き合った結果、各領域の商品の質が向上していく、という副産物もありました。

自らの担当領域を必死で回しながら、わざわざ遠くのボールを拾いにいった。それは本当にタフな日々でしたが、確実に私の成長を加速させ、また、評価にもつながったと思います。

この経験を聞いて、味の素で求められることを、単に個人の成長意欲や向上心だけに収れんさせるのは間違いです。すでにお話ししたように、確かに新しいものをつくり出すこと、果敢に開拓していくことにこだわりを持つのは重要なことです。それが、1つのうま味成分の発見を現在のような多岐にわたる事業として、世界22の国と地域に展開する礎であることは間違いありません。しかし、その独創性や開拓者精神に則った一つひとつの仕事を育て、完遂するには、チームワークで仕事をしているという強い意識、つまり、チームスピリットが欠かせないのです。

1人でできる仕事は限られています。 グローバル経営、グループ経営が進めば進むほど、多様なバックグラウンド、多様な価値観を持った仲間と働くことになります。多様性を受容し、また、それを背景としたそれぞれの個性を引き出すためには、ますます「チーム」を意識することが欠かせなくなるのです。

個人の成果を追求するのではなく、組織としてより高い成果を挙げるために、今、自分はここで何をすべきか。そのように主体的に考え、リスクを恐れず、それを行動に移して責任を果たす。そのために必要なスキルを自ら積極的に開拓していける。そんな人材であってほしいと思います。

学生の皆さんへ

社会人になって、圧倒的に失うもの。それは、自由な時間です。皆さんはパソコンや携帯電話で必要な情報を簡単に引き出すことができますが、できるだけ多くの人と触れ合い、一緒に何かをするという経験を、時間がある今のうちにたくさんしてほしいと思います。

味の素に限らず、社会に出て働くということは、人と人とがぶつかり合ったり、協働したりするということです。そして、それがあってこそ、たくましく成長し、仕事で成果を出していくことが可能になります。人との触れ合いが、仕事の原点とも言えるわけです。 勉強を通じて知識や技術を磨き、スポーツによって体力を鍛え、人との協働で心と人間力を磨く有意義な学生生活を送られた上で、当社でお会いできることを願っています。

同社の30年の歩み

1907年に、池田菊苗教授が昆布より「うま味」を取り出す研究開始。創業者の鈴木三郎助が、合資会社鈴木製薬所設立。1908年に池田教授が「グルタミン酸塩を主要成分とせる調味料製造法」の特許取得。鈴木三郎助、上記特許の権利を池田教授と共有し、『味の素』の製造開始。1910年には、台湾、朝鮮に特約店を設置し、創業2年にして海外展開をスタート。
味の素株式会社 イメージ画像

1981年

成分栄養剤『エレンタール』発売。その後、甘味料『Pal Sweet 1/60』の発売(1984年)、抗悪性腫瘍剤『レンチナン』発売(1986年)など、食品・アミノ酸事業からさらなる領域の拡大を図っていく。

1984年

アメリカにてハートランドリジン社(現・味の素ハートランド社)設立。インドネシアにアジネックスインターナショナル社設立(1987年)、ベルギーのオムニケム社(現・味の素オムニケム社)に出資(1989年)など、積極的に海外展開。

1990年

カルピス食品工業社(現・カルピス)と提携。「ワールドワイドな総合食品企業」を目指し、事業拡大を図る。

1991年

ベトナム味の素社設立。同年ナイジェリアにウエストアフリカンシーズニング社、1994年にはカルピスビバレッジインドネシア社、1996年には味の素中国社設立など、調味料、飲料、冷凍食品など幅広い事業で海外進出。1995年には、トップアスリート向けに『アミノバイタル』PROを発売。

『アミノバイタル』PROイメージ画像

1997年

コーポレートガバナンスの強化を目指し、「味の素株式会社行動規範」を策定。2000年にはそれを「味の素グループ行動規範」として発展させ、国内外のグループ会社に浸透させる方針を取った。

1999年

新しいコーポレートロゴとスローガン「あしたのもと AJINOMOTO」の展開を開始。2002年には東京スタジアムのネーミング・ライツを取得し、2003年「味の素スタジアム」がオープンするなど、ブランド価値の向上に努める。

2000年

冷凍食品事業を分社化し、味の素冷凍食品設立。2002年ギャバン朝岡社(現・ギャバン)に出資(2006年に子会社化)、2003年J-オイルミルズ社設立、2007年カルピス社を完全子会社化、2010年味の素製薬社設立など、多事業領域からなるグループ経営を推進。

2001年

上海ハウス味の素食品社設立。その後、上海味の素調味料社(2002年)、インド味の素社(2003年)、ロシア味の素社(2004年)など、新興国を中心にグローバル化を推進。『ピュアセレクト』マヨネーズは、2006年で10周年を迎えた。

『ピュアセレクト』マヨネーズイメージ画像

2009年

創業100周年を機に、次の100年の成長に向けたグループ経営の目指す姿を示す。「味の素グループWay」として、江頭社長時代以降に“AJINOMOTO WAY”と呼ばれた、過去100年継続されている味の素グループの価値観を明文化した。

2010年

スローガン「おいしさ、そして、いのちへ。」導入。

 

取材・文/入倉由理子 撮影/刑部友康 デザイン/ラナデザインアソシエイツ

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