株式会社三越伊勢丹(三越伊勢丹ホールディングス) 中村守孝さん【人事部長インタビュー】

百貨店のあるべき姿を実現し、新たな百貨店モデルの構築に挑戦する

近年の小売業を取り巻く状況を見ますと、小売業販売額が年間130兆円規模とほぼ横ばいで推移する一方、弊社を含めた百貨店業界は年々規模が縮小する厳しい状態が続いています。多少薄日もさしてきていますが、今後も消費市場全体の大きな拡大が期待できない中で、百貨店各社の中には「脱百貨店」を目指す動きも見られるようになりました。しかし私たち三越伊勢丹グループは、今後も百貨店事業を中核に据え、お客さまの生活のさまざまなシーンでお役に立つことを通じて、世界随一の小売サービス業グループを目指していきたいと考えています。

百貨店の業績が低迷した理由の一つに、『同質化』の問題があります。長らく続いたビジネス慣習の中で品揃えから販売に至るまで、お取組先(取引先)さまへの依存が続いた結果、店舗の独自性を失いかけているのです。歴史をひもといてみれば、本来、百貨店はその発祥において極めて革新的な存在でした。現在では当たり前になっている現金での正札販売(※)をいち早く実現したのは、日本最初の百貨店である三越です。そして伊勢丹も、駅から遠い立地面のハンディキャップを克服するために、対象顧客を絞った売場展開など、これまでにない店舗づくりに次々と挑戦してきました。こうした革新性こそが三越伊勢丹のDNAであり、百貨店の存在意義なのです。

私たちは今、自分たちの原点に立ち返り、時代に適合した新しい百貨店ビジネスモデルの構築に挑戦しています。私たちが目指す『百貨店のあるべき姿』とは、お客さまのニーズを自ら把握し、自ら品揃えし、自ら販売するという商売のコントロール権を掌握すること。そして私たちがお客さまの生活そのものに深くかかわり、衣食住全般にわたって新しいライフスタイル像を創造していくことにほかなりません。お客さまの一歩先を行く潜在的なニーズにお応えし、新しい価値を提供していく。それができれば、百貨店はもちろん、例えばスーパーマーケット事業やWebでのEC事業などグループ全体で、お客さまの生活になくてはならない存在として確固としたポジションを確立できるに違いありません。

『百貨店のあるべき姿』を実現し、他社が追随できない高いレベルの価値を提供できる店舗構築の取り組みを行う一方で、新たな事業の開発・育成も今後の成長戦略の重要なカギを握ります。アジアを中心とした海外事業の拡大と強化、コスメショップの「イセタンミラー」や紳士雑貨の「イセタンハネダストア」など小型店舗の出店、さらにWeb事業としての百貨店ECの拡大など、さまざまな領域で新事業に取り組んでいくことになるでしょう。

※掛値なしの正しい値段を商品につけて販売すること。

従業員の力を最大限発揮する体制構築が明日の三越伊勢丹を作る

『高収益で成長し続ける世界随一の小売サービス業グループになる』。このグループビジョンを実現するため、私は2012年4月に人事部長に着任後、さまざまな人事改革に取り組んでいます。一つは採用活動の変革です。百貨店の基本は接客ですから、対人能力や素直さという資質が求める人材のベースになることはいつの時代でも変わりません。しかしお客さまの価値観や購買行動が大きく変化する中で、より多様な価値観や志向を持った人材を採用していくべきだと考え、面接でうかがう内容などを大きく見直しています。また入社後の処遇についても、これまでは一定の経験を積んだ人材は組織マネジメント業務に就くことがキャリアステップの流れになっていましたが、自分の専門性を追求したいと考える社員には別の選択肢を提供できるような人事制度も検討していく予定です。

2つめは、販売力強化を図るためのマネジメント力向上です。三越伊勢丹、特に伊勢丹はマーチャンダイジング力(商品開発力)で高い評価をいただいてきた企業です。しかし今の時代、お客さまは時に私たち以上に詳しい商品知識をお持ちです。チーム一丸でお客さまの高いご期待にお応えし、またお客さまのお声から次の商品開発に生かす流れを強化していかなければ、私たちが目指す新しい価値の創造はなしえません。もちろん商品の仕入れを担うバイヤーは重要ですが、お買場(売場)の責任者であるセールスマネージャーの役割がこれまで以上に大切になります。三越伊勢丹の店舗にはお取組先さまの販売員を含め、さまざまな立場の従業員がいます。その全員を一つのチームとして結束させ、一人ひとりの成長にコミットし、チームのモチベーションを上げることができるセールスマネージャーは、売上高の向上に大きく寄与できることが実証されています。上司や部下、メンバーと良好な関係を作る『関係性構築力』、自分に与えられたメンバーの能力を最大限に引き出す『チーム活用力』、そして自分自身がこうしたいという強い意志を持って物事を動かしていく『推進力』。この3つがセールスマネージャーに限らず、当社で働く人材に望まれる能力です。今後は企業としてマネジメントスキルの向上を促す仕組みを導入し、バイヤーとセールスマネージャーの両輪がうまく機能する店舗づくりを実現していきたいと考えています。

私は、自分にとって最も正しかった選択が三越伊勢丹(旧伊勢丹)に入社したことだと確信しています。その理由は、三越伊勢丹が私の失敗や挫折にペナルティを与えるのではなく、その代わりに何度も大きなチャレンジの機会を与えてくれる企業だったからです。失敗を恐れず、自分の意思で商品を仕入れ、お買場を提案し、そして心のこもった接客を通じて、お客さまに感動していただくという小売業の醍醐味をダイナミックに味わえる場所、それが三越伊勢丹です。自分自身が最大限の自己実現を果たしてこられた場だからこそ、私のミッションは三越伊勢丹グループで働くすべての従業員が持てる力を最大限に発揮し、伸ばしていける体制を作ることであると考えています。『三越伊勢丹で働く機会を得られて本当によかった』と誰もが感じられる職場づくりを目指して、さらなる改革に今後も取り組んでいきます。

学生の皆さんへ

私は学生の皆さんに、何か一つのことをやり切る経験を積んでいただきたいと思っています。そして多くの人々と接し、さまざまな価値観に触れて、相手の思いを感じ取る力を磨いていただきたいと思います。どのような分野であれ、事業を推進していくためには、たとえ失敗してもあきらめずに前を向き、何度でも挑戦し続ける『情熱』が必要になります。何かをやり遂げた経験は、あなたが社会人となり、近い将来リーダーシップが求められる局面において必ず大きな力を発揮するはずです。懸命に一つのことに打ち込む経験を通じて、自身の力を最大限に伸ばしていただきたいと思います。

同社の歩み

1673年(延宝元年)創業の株式会社三越と、1886年(明治19年)創業の株式会社伊勢丹が2008年に経営統合し、株式会社三越伊勢丹ホールディングスを設立。現在、国内百貨店26店舗(うち首都圏事業会社:株式会社三越伊勢丹9店舗、地域事業会社:17店舗)、海外店38店舗を擁し、2011年度の三越伊勢丹グループ連結売上高は12,399億円で業界首位。「百貨店のあるべき姿の実現」に向け、新しい百貨店モデルの構築に挑んでいる。

2008年

株式会社三越と株式会社伊勢丹が経営統合し、株式会社三越伊勢丹ホールディングスを設立。両社の持つ経営資源を最大限活用し、近年ますます多様化・高度化するお客さまのご要望にスピーディーかつ的確にお応えすることを目指し、設立。

2009年

三越伊勢丹グループ3カ年計画のローリング(2010-2012年度)を発表。優先度の高い重点戦略として、「顧客接点の再強化とお取組先との関係の見直し(百貨店ビジネスモデル改革)」「グループ基盤整備と構造改革の推進」「成長事業の育成」への絞り込みを実施。 三越カードと伊勢丹アイカードの相互利用スタート。

2010年

株式会社三越伊勢丹ホールディングス設立後初の大型リモデルとして、三越銀座店増床オープン。銀座の街と一体化した店づくりを行い、9階の「銀座テラス」が来街者の憩いの場として話題に。
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2011年

会員制宅配サービスの「三越伊勢丹エムアイデリ」サービス開始。
JR大阪三越伊勢丹 オープン。
株式会社三越と株式会社伊勢丹を合併し、株式会社三越伊勢丹を設立。

2012年

ラグジュアリーコスメ編集ショップ「イセタン ミラー」1号店(新宿)、2号店(大宮)をオープン。また、イセタン羽田ストアをオープン。
お客さまとのデジタルコミュニケーションの新しいかたちを提案するWebサイト「ISETAN PARK net」 プレオープン。
株式会社三越伊勢丹ホールディングスが株式会社イードとの合弁会社株式会社ファッションヘッドラインを設立。ニュース配信サイト「FASHION HEADLINE」を立ち上げ、総合的なライフスタイル情報を発信し顧客接点の拡大を目指す。

2013年

3月6日 伊勢丹新宿本店 リモデルグランドオープン。 伊勢丹新宿本店の婦人服フロアが、各々のお客さまのライフスタイルに寄り添って共感価値を掘り下げ、世界最高レベルのファッションを提案し続けることで、マイストア化を実現するべくリモデルを実施。
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取材・文/山下容子 撮影/刑部友康 デザイン/ラナデザインアソシエイツ

就活をはじめる以前に、本当はいろんな不安や悩みがありますよね。
「面倒くさい、自信がない、就職したくない。」
大丈夫。みんなが最初からうまく動き出せているわけではありません。

ここでは、タテマエではなくホンネを語ります。
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