株式会社大和証券グループ本社 執行役社長 CEO 日比野隆司【企業TOPが語る 仕事とは?】

1955年生まれ。東京大学法学部を卒業し、79年に大和証券入社。99年に大和証券グループ本社経営企画部長、2002年大和証券エスエムビーシー執行役員。04年に大和証券グループ本社取締役兼常務執行役。07年に取締役兼専務執行役。09年に取締役兼執行役副社長。11年4月より現職。

入社半年で、数十億円規模の取引を任される

私は大学時代、あまりインパクトのない学生生活を送っていました。特段、熱中したこともなく、勉強も遊びもクラブ活動も“ほどほど”にしながら4年間を過ごしたように思います。

大和証券に就職した際も、あまりドラマチックなエピソードはないんです。法学部に在籍していたので、同級生は官庁や法曹界に進む人が大多数でしたが、私自身は法律があまり好きになれませんでした。やりたいことが見つからないまま4年生になって、漠然と「金融セクターならさまざまな産業・ビジネスにかかわることができるのではないか」と思っていたところ、大和証券で働いていた大学の先輩から声をかけられて「ぜひ、大和証券に入社してほしい」と言っていただいたんです。望まれて入社できるのは幸せなことだと感じました。

また、当時は、アメリカのウォールストリートには燦然(さんぜん)と輝くイメージがあり、「アメリカの優秀な学生はインベストメントバンカー(投資銀行員)かコンサルタントになる」という話も耳にしていました。日本の証券会社は、いよいよ発展していくというタイミングだったのです。高い成長性に魅力を感じたことも、大和証券への入社を決めた理由の一つです。

入社後は、債券部に配属されました。最初の1年は、楽しいというより緊張感の方が大きかったですね。当社には「若いうちから仕事をどんどん任せる」という社風があり、さらに証券市場が伸び盛りで人手が足りない状況だったこともあって、3カ月ほど研修を受けた後はすぐに大きな仕事を任されたんです。お客さまとの間で債券売買の諸条件を詰めていくのですが、当時でも、債券取引は一つの商いで数十億円規模になることが少なくありませんでした。「新人にここまで仕事を任せてくれるものなのか」と驚きましたし、今振り返ってみると、充実した新人時代だったと言えるでしょう。

入社3年目には、ロンドンの現地法人に赴任しました。

当時の海外赴任は、今以上の重みがありました。日本からロンドンへは直行便がなく、アンカレッジ(アメリカ合衆国アラスカ州)かモスクワで給油する必要があった時代で、海外との距離感も今の感覚とは違ったんです。海外勤務には相当の覚悟が求められましたが、役員から「ロンドンに行ってみる気はあるか」と打診された時、私は二つ返事で受諾しました。

私は1955年生まれですが、50~60年代は、日本が貧困を脱して徐々に豊かになっていった時代です。64年には東京オリンピックが開催され、国際化の進展を肌で感じて、子ども心に「将来は世界をまたにかける国際人になりたい」という夢を抱きました。二つ返事の裏には「ビジネスパーソンは、グローバルに活躍するもの」という子どものころからの強いイメージがあったと思います。

出発する際は、債券担当の役員以下、債券部員全員が箱崎の東京シティエアターミナルに集まって見送ってくれました。部長や同期があいさつをし、衆人の中を三本締めで送り出されて、恥ずかしさとうれしさがないまぜになったような気持ちだったことを今も鮮明に覚えています。  ロンドンには約5年間、在籍しました。若いころに海外赴任を経験し、国際感覚を身につけられたことは、その後の仕事においても大きな土台になっていると思います。

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“国際人度”を高め、ハングリー精神を持とう

ビジネスパーソンとして大切なのは、何よりも「真摯に仕事に取り組むこと」だと私は思っています。何事もおざなりにせず、きちんと納得のいく仕事をすることが大事です。

一般的に、会社員の仕事というものは「ほどほどにしておこう」と思えば多少手を抜けなくもないものだと思います。しかし、「ほどほどでいいんだ」と考えて仕事をしているようでは、ビジネスパーソンとしての成長は止まってしまいます。どんな仕事でもとことん突き詰めてベストを尽くし、一つひとつ最高のものに仕上げていく、その積み重ねによって人は成長し、ビジネスパーソンとして一人前になれるのです。つまらない話に思えるかもしれませんが、私は新入社員にも、いつも「仕事に取り組む姿勢の違いが、長い間にとてつもない差を生むものだ」と言っているんです。

それに、仕事に真摯に取り組めば、自分自身の成長につながるのはもちろん、周囲もきちんと見てくれているものでもあります。妥協したおざなりの仕事と、ぎりぎりまでベストを尽くした仕事の違いは、傍から見れば本人が思っている以上にまるわかりなんです。

いつも目一杯、頑張って仕事をする人というのは、周囲の人や上司、人事担当者などの目に留まります。すると、次のチャンスを得やすくなり、仕事の幅が広がっていきます。一生懸命頑張っている人は、周りが「頑張りを生かせる組織に配属しよう」と考え、本人の向き・不向きもふまえた上で最適な部署に配置されるものです。

真摯に仕事に取り組み、成長し、チャンスを与えられれば、ビジネスパーソンとしての成功もおのずとついてきます。社長に就任してから、「どうしてトップになれたのか」と尋ねられることがありますが、私はただ、どんな仕事もいいかげんにせず、一つひとつ積み重ねてきただけなんです。そして、このスタンスが一番大事なのだと思っています。

これから社会に出ていく学生の皆さんには、“国際人度”を高めておくことも期待しています。多くの日本企業にとって、国内市場だけで生き残ることはますます難しくなっており、ビジネスのグローバル化を避けることはできません。また、証券会社のビジネスに関して言えば、国際感覚がとりわけ重要です。投資銀行業務などグローバルなビジネスを手がける社員だけでなく、国内で個人投資家を対象に資産運用のコンサルティング業務に携わる社員でも海外資産を組み入れた商品などを取り扱うわけですから、国際感覚は欠かせないのです。

また、英語はやはり使えなくてはなりませんし、中国語もできればなおいいでしょう。今の時代、海外の情報を取り込んだり、外国人ときちんとコミュニケーションを取ったりするための語学力は、ビジネスの基本です。地味な話だと感じるかもしれませんが、年齢を重ねてから語学を習得するのは大変なものです。若いうちに身につけておくことを勧めたいですね。

もう一つ、皆さんに望みたいのは、「ハングリー精神を持つこと」です。

世界経済の重心は欧米先進国からアジア・新興国へと移りつつあり、こうした動きは今後も継続するでしょう。大和証券グループでも、日本を中核に据えたアジア全域をマザー・マーケットとし、アジアで必要とされる資金や技術と日本の余剰資金や先端技術を結ぶという、社会的意義のあるビジネスを展開していくことを目指しています。このため、日本に留学して学んだ中国や東南アジア出身者も採用しているのですが、彼らを見ていると、「ハングリー精神の強さでは、日本人はかなわないな」と感じることが少なくありません。

ハングリー精神というのは一般的には貧しさや恵まれない環境の中で培われるものですから、日本のように豊かな国でハングリー精神を持つのは難しいでしょう。中国や東南アジアのアグレッシブな人たちと互角に戦うのは大変なことです。しかし、今後は日本人もハングリーにならなければ、アジアの中で相対的に厳しい状況に陥ることになるかもしれないのです。若い皆さんの中から、海外に出ていっても主張すべきは主張できる、「アグレッシブにビジネスを創造していこう」という気概を持ったたくましい人がたくさん出てくることを願っています。

先ほどもお話しした通り、アジア・新興国では今後も経済成長が継続していくものと想定されています。その環境においてわれわれは日本を含めたアジア全域をマザー・マーケットと捉えてビジネス展開していきます。つまり、証券会社の活躍するフィールドは規模も範囲も大きく広がっています。ぜひそのようなフィールドでダイナミックに仕事がしてみたい、という情熱を持った皆さんとお会いできることを楽しみにしています。

 

新人時代

入社3年目の82年から約5年間、ロンドンの現地法人に赴任しました。写真はロンドン勤務時代の職場で、同僚と一緒に撮影した1枚(右から3番目)です。
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プライベート

休みはなかなか取れませんが、休日はできるだけ家族と一緒に過ごすようにしています。外食をしたり、夏休みには旅行に行ったり。家族旅行は、年に一度は必ず行っていますね。それから、週末にゆっくり休める時は、妻と2人でゴルフを楽しみます。あまり時間がない時は、一緒に近所のゴルフ練習場に行くこともありますね。もともと妻はあまり運動が得意ではないのですが、「引退後に向けて共通の趣味を持とう」と思い3年ほど励まし続けたところ、自分から楽しんで取り組むようになったんですよ。

取材・文/千葉はるか 撮影/刑部友康 デザイン/ラナデザインアソシエイツ

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