【ファシリティマネジメント業界編】プロが選ぶ隠れ優良業界

世の中には、広くは知られていない「隠れ優良業界」があります。シンクタンク・日本総合研究所の研究員に、プロの目線で優良業界を教えてもらうこの企画。今回は「ファシリティマネジメント業界」について紹介します。

「ファシリティマネジメント業界ってどんな業界?ファシリティマネジメント業界を“隠れ優良業界”に選んだ理由とは?」など、日ごろたくさんの業界・企業とかかわっているプロだからこそわかる情報が盛りだくさん。ぜひ、参考にしてみましょう。

日本総合研究所・吉田賢哉氏株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー
吉田賢哉(よしだ・けんや)

東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。専門は、新規事業戦略やマーケティング戦略、企業のビジョンづくり・組織戦略など。製造・情報通信分野などの業界動向調査や商品需要予測も手がける。
過去の記事では、吉田さんが考える優良業界の3つの条件を紹介しました。

「優良企業・業界とは?隠れ優良企業・業界の見つけ方【シンクタンク研究員が解説】」

1. 業界の規模が大きい、あるいは拡大中である
2. 他社との競争が激しくない
3. 取引先に対して有利な立場を築きやすい

今回は、これらの条件に当てはまる「ファシリティマネジメント業界」について吉田さんに解説していただきます。

ファシリティマネジメント業界ってどんな業界?市場規模はどのくらい?

土地、建物やビル設備などを管理・維持するのが主な仕事

優良業界(ファシリティマネジメント業界)イメージ画像

ファシリティ(Facility)とは、設備、施設といった意味を持つ英単語です。ビジネスの世界では、建物や、建物内部の空間、各種設備・備品のほか、「土地」などの企業などが保有する資産について、効果的・効率的な維持管理や、有効活用・資産価値の向上などを行う取り組みを「ファシリティマネジメント」と言います。

ビルメンテナンスとファシリティマネジメントの違い

「ビルメンテナンス」は「ファシリティマネジメント」という大きな概念の中に含まれています。

▼ビルメンテナンス

まずは一般的になじみがあるビルメンテナンスから説明します。

オフィスビルには、空調やボイラーなどの設備が付きものです。これらのメンテナンスにはある程度の専門ノウハウ・知識が必要で、ビルのオーナーや、ビルに入居している一般企業などが自力で行うのは大変です。また、各社が独自に管理を行うと業務効率も高まりません。そこで以前から 、専門の事業者に設備管理を委託することで効率良く管理を行う流れができていました。こうした専門企業は一般に、ビルメンテナンス会社・ビル管理会社と呼ばれます。

▼ファシリティマネジメント

対して、ファシリティマネジメントとは、ビルだけではなく、顧客が保有する資産に対する多彩かつ高度な要望に応える領域と言えるでしょう。

例えば、最近では「施設内の人の流れを感知して照明や空調を自動的にオン・オフし、電気代を安くしたい」「施設の入退室管理システムを強化して、防犯に役立てたり、企業の情報が漏れたりすることを防ぎたい」「使われていない工場跡地やビルの屋上スペースに太陽光発電システムを設置して、新たな収益源としたい」「オフィスの機能性を高めて、従業員が快適に働けるよう環境を整えたい」などのニーズが多くあります。

このように、快適性は損なわずに、コストや手間を削減するために、ビル管理だけにとどまらず多彩な設備・土地・建物の有効活用まで幅広く提案できる企業が「ファシリティマネジメント会社」です。

市場規模は大きく、着実に拡大中

ファシリティマネジメントは、さまざまな分野と連携・連動しています。その結果業界単体での売り上げ規模を正確に算出することが難しいため、まずはファシリティマネジメントの中でも主要なサービスの一つであるビルメンテナンスの売り上げ規模に注目してみましょう。

公益社団法人全国ビルメンテナンス協会(※)によれば、ビルメンテナンス業界の総売り上げは2021年以降上昇し続けており、2024年には前年比売り上げ104%、4兆5980億円を記録しています。このビルメンテナンス市場が着実に拡大しているということは、ファシリティマネジメント業界全般も拡大基調だと言えるでしょう。

なお、参考までに、総務省・経済産業省が発表した「令和3年経済センサス‐活動調査 産業別集計」によると、建物サービス業の売上高は約6兆円とされています。

これは、同調査に記載されている労働者派遣業の売上規模6兆4929億円とも同等の規模で、魅力のある市場規模・市場の成長傾向だと言えるでしょう。

※出典:公益社団法人 全国ビルメンテナンス協会「歴年の業界の総売上げ

3パターンの会社の成り立ちによる違い

ファシリティマネジメント会社は、その成り立ちによって大きくは以下の3つのパターンに分けられます。

1.  グループ会社のファシリティマネジメントを担当していた企業

  • グループ会社で培った経験を基に、他社へのサービス提供を始めるケースが多い
  • 既存顧客がいるというのが最大の強み

2. センサーや計器、カメラなどビルの管理に活用できる機器類を持っていた企業

  • オフィスを効率的に管理する能力を生かしてファシリティマネジメントに乗り出すケースが多い
  • 自社の技術を強みとして、優れた先進的なサービスで、新たな顧客開拓を行うことが多い

3. オフィス機器メーカーや文具メーカー、設計・デザイン会社など

  • 働きやすいオフィス環境を提供する力を生かしてファシリティマネジメントに乗り出すケースが多い
  • 自社の商品やサービスの強みを生かして複合的な空間づくりのサービス提供を行うことが多い
  • ファシリティマネジメント会社を新設立することもあれば、自社内の新規事業としてサービス提供するケースもある

それぞれのパターンごとに、強みとする分野や仕事の進め方に違いがあります。企業を探す際には、そのあたりの違いを頭に入れながら情報を集めるといいでしょう。

ファシリティマネジメント業界を「隠れ優良業界」として選んだ理由

ファシリティマネジメント業界は、先端技術の導入が図られ、新たな取り組みが進む、興味深い有望な業界の一つです。そのように考える具体的なポイントは次の通りです。

1. ファシリティマネジメント会社に管理を外注する動きが加速し続けている

先進の照明システムや太陽光発電システム、入退室管理システムなどの管理・維持には、高度なノウハウ が求められます。

特に最近では、環境配慮、SDGs(持続可能な開発目標)などの発想が世間で広まっており、多くの企業が、地球環境に優しいことを重視するようになっています。こういった状況下で、建物や設備のエネルギー消費を抑制してCO2排出量を減らそうという取り組みや、再生可能エネルギーの割合を高めるために、空いている土地や建物・工場の屋根などに太陽光パネルを設置するなどの動きが進められており、ファシリティマネジメント会社が活躍する機会も飛躍的に増えているのです。

今後も、設備の管理・維持業務を自社の総務部などで担当するのではなく、専門知識を持つファシリティマネジメント会社に任せようとする企業はさらに増えるでしょう。

2. オフィスの生産性向上に注目が集まっている

今、世の中では「働き方改革」への注目度が高まっています。そのため、職場環境の改善によって生産性を高めて残業時間を減らしたり、創造性が高まる仕かけを導入してイノベーションを起こしやすくしたりするなど、オフィスの変革が大きなテーマになっているのです。ファシリティマネジメント業界にはこうした取り組みへの参加も期待されており、さまざまなビジネスチャンスが広がっています。

3. AIやIoTなど先端技術の導入が定着化しつつあり、活躍の幅が広がっている

ファシリティマネジメント業界では2010年代後半から、AI(人工知能)やIoT(※)を組み合わせ、省エネを図りながら快適なオフィス環境を整えたり、入退室管理に「顔認証システム」(カメラで撮影された人の顔を自動識別する仕組み)を使ったりする取り組みが活発に行われていました。

近年では、AIやIoTの技術が一層進展し、より効果的・効率的にファシリティマネジメントを進めることができるようになってきています。また、ドローンを利用して施設の点検・診断を行う取り組みや、故障予知を行って不具合が発生する前に部品の交換を行うことで、施設運営を安定的に継続するような取り組みも広まっています。

このほか、太陽光発電パネルについて、光を透過するガラスパネル型の商品の開発・普及が進められています。これまでの太陽光発電パネルは、建物の屋上や遊休地に設置することが一般的でしたが、今後は建物の窓などにも設置されるようになっていくでしょう。

今後も、このような先端技術を活用した取り組みは広がり、ファシリティマネジメント業界が活躍する幅もますます広がっていくでしょう。

(※)IoT(Internet of Things):「モノのインターネット」と訳され、さまざまなモノをインターネットに接続してデータをやりとりすることで、高度な制御やデータの蓄積・分析を通じた改善の実施などを行うこと。

4. 顧客をリードする立場になっている

現在、ファシリティマネジメントには専門性と先端技術への理解力が求められるため、一般企業は知見のある会社に業務を委託せざるを得ない状況となっています。

ビルオーナー、工場を保有するメーカー企業などの顧客に対して、新たな提案をしていくことで取引先である顧客をリードして有利な立場を築きながらビジネスを進めることができるといった状況が続いており、ファシリティマネジメント業界はさまざまなビジネスチャンスが存在している優良業界であると考えられます。

ファシリティマネジメント業界には、どんな仕事がある?

ファシリティマネジメント業界には、下記のような仕事があります。

営業

建物や土地を持っている企業などに対し、管理・維持コストを下げたり、土地や建物を有効活用できたりする提案をします。プロジェクトが大きくなるほど、顧客企業の総務部や人事部、経営企画部、情報システム部など多くの部署を巻き込んで仕事を進めることが必要になります。また、設備はもちろん、不動産、人事、財務、経営企画など幅広い知識が求められる仕事です。

設計・施工

空調や入退室管理などの各種システムを設計する仕事に加え、導入する際の工事を担当する仕事もあります。設計の場合は、働きやすい環境の実現や省エネといった目的と、工事費・管理費などのコストとのバランスを取ることが大切。施工の場合は、作業に関わる人々の安全を守りながら、期日までに工事をきちんと終わらせることが求められます。

保守・管理

導入された各種システムがきちんと動いているか管理し、トラブルが起きたときには素早く対処します。また、保守している仕組みに問題点が見つかった場合は、営業などを通じて改善策を提案することもあります。

開発

AIやIoTなどの先端技術を役立てたサービスを開発することは、各ファシリティマネジメント会社にとって重要な課題となっています。そこで、自社の技術を高めたり、他社と連携して新サービスを生み出したりする技術職の役割は大切です。

ファシリティマネジメント業界の最近のTopics

ファシリティマネジメント業界では、このような動きが表れています。

環境に優しい施設・建物への関心の高まり

SDGsという言葉が一般的になり、ファシリティマネジメントの領域でも環境に優しい施設・建物への関心が高まっています。

例えば、エネルギーマネジメントの一環として、RE100(アールイー100)と呼ばれる、事業に必要なエネルギーのすべてを再生エネルギーによって調達しようとする取り組みなどが盛んです。

建物内で使われるエネルギー消費量の削減や、空いているスペースに太陽光発電パネルを導入したりなど、さまざまな取り組みが進められています。

センサーやドローンを使った故障予知

近年、AIなどの最新技術を利用したセンサーや、ドローンと高性能カメラを利用した設備点検などが高い品質で実用化されるようになりました。例えば、外からサーモグラフィーで撮影して、断熱性能が下がっているかもしれないとわかれば、ドローンで該当部分を撮影して詳細に確認し、完全に劣化する前に、軽いダメージの状態から補修することで、大規模な修繕をせずにコストや工期を削減することが可能です。

このように、従来よりも早い段階で点検や診断をして故障予知などを行い、小規模な修繕や部品交換などを実現することで効率的な資産活用を実現する動きが活発になっています。

ファシリティマネジメント業界・企業の探し方

最後に、ファシリティマネジメント業界をどうやって探したらいいのか、3つの方法をご紹介します。

1. 就職情報サイトを使う場合

リクナビなどの就職情報サイトを使って企業を探す場合は、フリーワード欄に「ファシリティマネジメント」や「ビルマネジメント」などと入れてみると良いでしょう。

業界から探す場合は、その企業の成り立ちによって「電力・電気」「情報処理」などの業界に属しているケースがありますが、比較的多く見つかるのは「不動産」業界に属しているケースでしょう。

2. インターネットで検索する場合

就職情報サイト同様に「ファシリティマネジメント 会社」「ビルマネジメント 会社」などと検索して各企業のホームページを見るのはもちろんですが、業界団体のホームページを見てみると、会社の一覧を見ることができるでしょう。「ファシリティマネジメント 業界団体」「ビルメンテナンス 業界団体」 などと検索してみると良いと思います。

3. リクナビ就職エージェントを活用する場合

「ファシリティマネジメント会社についてもっと具体的に知りたい」「ファシリティマネジメントに興味があるけど、自分に合っているかな?」というときは、リクナビ就職エージェントに相談してみるのも一つの方法です。

リクナビ就職エージェントでは、専門知識に長(た)けた専任アドバイザーが、マンツーマンかつ無料で就職をサポート。メールと電話の両方でコミュニケーションが取れるので、忙しいとき、じっくりと悩みを相談したいときのどちらのニーズにも応えることができます。

▼リクナビ就職エージェントについて詳しく知りたい方はこちらを参照ください

リクナビ就職エージェントの評判と実態。ほかのサービスとの違いや強みを解説


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記事作成日:2019年2月26日 記事更新日:2025年7月1日

※文中の社名・所属等は、取材時または更新時のものです。

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