※2015年4月1日付で執行役員人事総務部長から執行役員ICT事業本部長へ異動。
「総合商社=産業的解決のソリューション・プロバイダー」
総合商社というのは、なかなか定義することが難しい存在かもしれません。三井物産も例にもれず、鉄鋼製品、金属資源、機械・インフラ、化学品、エネルギー、生活産業、次世代・機能推進といった多くの事業分野でさまざまな事業を展開しています。しかしあえてひと言で言えば、「産業的解決のソリューション・プロバイダー」というのが最もシンプルな総合商社の説明だと思っています。
メーカーも解決方法を提供しますが、それは製品にかかわることが多い。商社の場合は、原料から製品、サービスを含む物流(製造国から消費国)など、いろんな場をつなぎながら産業的な解決を提供し、ビジネスを効率化したり、国を豊かにしたりする仕事をしています。
その意味では、対象は限られておらず、何でもできる、と言ってもいいかもしれませんが、新中期経営計画の中で三井物産が打ち出しているのは、従来の縦割りの事業分野を超えた7つの「攻め筋」で、新たな価値創造を目指すことです。
ハイドロカーボンチェーン、資源(地下+地上)・素材、食糧と農業、インフラ、モビリティ、メディカル・ヘルスケア、衣食住と高付加価値サービスの7つを掲げていますが、ポイントはこうした中で総合力を発揮する、ということ。縦割りのセグメントで発想するのではなく、連携や協調で発想していくことです。
例えば、化学品の所属であっても、鉄鋼を売ったり、EC(電子商取引)という機能を売ったりしてもかまわない。垣根は作らない。部門最適ではなく、全体最適を考えながら動く。こうしたカルチャーを大切にしてきましたし、これらの「攻め筋」の策定によりこれからもより強固にしていきます。
また、グローバル化の広がりや人々の価値観の変化や競争の激化が起きている時代だからこそ、三井物産が世界に貢献できる可能性がかつてなく高まっていると思います。その中、自らの強み、ビジョンを認識し、きちんと理解していただくことは、ビジネスパートナーや社会に対する説明責任だと考えています。そこで現在三井物産では、アートディレクター/クリエイティブディレクターの佐藤可士和さんをトータル・プロデューサーとして起用し、三井物産ブランド・プロジェクトを推進しています。まずは、ロゴマークの統一と「360°business innovation」というスローガンを発表しましたが、これは第1弾に過ぎません。これから、第2弾、第3弾として、社外に向けて、さらには、社内に向けて、さまざまな取り組みを進めていきます。これは、三井物産という会社をさらに鮮明にさせていく、本当に楽しみなプロジェクトです。
さらに仮社屋への移転と、新社屋の建設も控えています。新中期経営計画、ブランディングプロジェクト、新社屋。三井物産は今、この3つがそろったとてもエキサイティングな時代を迎えています。これは、なかなか経験できないタイミングだと思っています。
本当にやりたい仕事を、見つけられる会社
三井物産が進めているのは、事業の現地化、人材のグローバル化です。そのためには多様な考え方を持った人材の育成がますます必要になっています。そうした人材がいろんな変化に対応し、そのときどきの適切な解答を出し、行動に結びつけていく。そうすることで初めて、会社が目指していることが実現できます。
人の能力は無限大です。したがって、人材育成は毎日全身全霊をかけて取り組まなければいけない、飽くなき挑戦です。そしてその中心に据えられるのは、やはり業務を通じて学んでいくオン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)です。いろんなミスをしたり、失敗を経験したり、現場で本番の練習をすることで大きな学びが得られる。育成の約9割は、やはりこのOJTでの教育になると考えています。
残りの約1割、OJTを補完するのがオフ・ザ・ジョブ・トレーニング(Off JT)の施策ですが、これもたくさんのプログラムが用意されています。その中でも三井物産ならではの取り組みを2つご紹介しておきたいと思います。
1つが、入社6年目までに行われる海外早期派遣制度です。半年間から1年間にわたって海外での勤務を経験します。これは、早いうちに海外の現場を経験してもらうことが目的です。まったく日本語が使えない環境や、日本人ではない上司から指示を受けたり、海外の最前線で自らを鍛えられる機会を作ります。
もう1つが、ハーバードビジネススクールと作ったGMA(Global Management Academy)というプログラムです。これは、三井物産の社員だけでなく、海外現地法人の社員、さらにはお客さまやパートナーも加わって行う研修で、お互いに刺激をし合い、融合しようというプログラムです。
ハーバードにはさまざまなエグゼクティブプログラムなどがありますが、彼らが持っている授業などを取り入れるだけではなく、三井物産がどんな理念に基づいてビジネスを展開しているかといった授業が用意されている、独自のカスタマイズプログラムです。内容も毎年変わっていき、いろいろな新しい工夫が取り入れられています。
総合商社で仕事をする魅力は、いろんな事業、仕事に携われる、ということだと思っています。メーカーにもなれるし、販売店にもなれる。投資家にもなれるし、物流業者にもなれる。鉄鋼、化学、食品、機械など、いろんなフィールドがある。
だから、本当にやりたい仕事を、入社してから見つけられる会社だと思っています。食品に興味があっても、メーカーと販売店では、まったく違う仕事になります。しかし、総合商社には両方がある。
端的にいえば、1000くらいの会社の集まり、というのが三井物産です。会社を変えずに、いろんな仕事のチャンスに出合える。そんな面もある会社だと思っています。
また、総合商社というと、一つの部門に配属になったら、もうほかの部門には移れないのではないか、とイメージする人がいますが、三井物産ではそういうことはありません。ほかの分野に興味があれば、変わることもできる。実際、過去数年で数百人規模の社員が部門を超えた異動を経験しています。
学生の皆さんへ
学生の皆さんにお願いしたいことは2つあります。1つは、何かに深く集中して取り組んでほしい、ということです。今の若い人は、海外に触れるチャンスも、情報に触れるチャンスも、かつてよりも圧倒的に多くなっています。いろんな経験ができる。しかし、だからこそ注意をしなければいけないことは、さらっとなでるようにいろんな経験ができてしまえることです。こだわりを持って深く取り組むことができない危険がある。それでは、自分の個を磨いたことにはなりません。飲食店のアルバイトをしてお小遣いを稼ぐのも構いませんが、例えば同じアルバイトをするのでも「接客の本質は何だろうか、見てみよう」という視点で取り組めば、個を磨く場の一つにできます。また深く集中して頭を使い、物事の本質を探ろうとすることは、社会に出てから大いに生きてくるものです。
それともう1つ、日本の歴史を勉強してほしい、ということですね。グローバルに仕事をしていくと、むしろ自分の国はどうなのか、を問われる機会が増える。自分の国のことを自分で話せるように、日本を知っておくことはとても大事なことなんです。
同社30年の歩み
西豪州LNGプロジェクトに参画。
サハリンⅡプロジェクト契約を調印。
インドネシアのパイトンプロジェクトのプラント建設契約を締結。
ブラジルの総合資源会社ヴァーレ社の持ち株会社ヴァレパール社に出資。
ブラジルで穀物事業を展開。
アナダルコ社が米国ペンシルベニア州で開発・生産中のシェールガス事業に参画。エネルギーの安定供給に取り組むとともに、三井物産の総合力を発揮し、ハイドロカーボンチェーンの拡大を図っている。米国肥料最大手のモザイク社と共に、ブラジルの資源メジャーのヴァーレ社の子会社ミスキマヨ社が権益を保有し、開発を進めていたペルーのリン鉱床開発プロジェクトに参画。
アジア大手の民間病院グループIHHヘルスケア社へ出資参画。
イタリアにおける発の資源権益獲得としてテンパロッサ油田の25パーセント権益を取得。
米国におけるLNG液化事業の最終投資決断を実行。
取材・文/上阪徹 撮影/刑部友康