エネルギー、地球温暖化、渋滞、交通事故などの問題を技術で解決
近年の自動車業界は技術の進展が目覚ましく、異業種も参入した競争になってきています。そして、近い将来これまで手付かずだったエネルギー、地球温暖化、渋滞、交通事故といった問題は、技術的には解決できるところまできています。
世界のマーケットを見ると、2015年の全世界の自動車販売台数は約9000万台。これが18年には、1億台に達すると予測されています。日本国内だけを見ると、自動車マーケットは減少傾向にあると思われがちですが、世界に目を向けてみると、実はかなりの成長市場なのです。 人口1000人当たりの自動車保有台数でいうと、アメリカが800台弱、日本・フランス・ドイツ・イギリスは600台前後なのに対して、中国は約60台、インドは約20台となっています。このように、新興国に行き渡っている台数はまだまだ少なく、これらの国々は人口も多いので、今後も成長する余地のある産業だと考えています。
当社の業績でいうと、中国とアメリカで確実に成果を上げています。特に、世界最大のマーケットである中国において、日系自動車メーカーの中で当社の販売台数はトップであり、高い利益率を確保しています。また、米国においては、利幅の大きい大型の車の販売が好調です。この2大拠点で台数と収益を上げていることが、ここ数年の好業績につながっています。
現在、当社では自動車の電動化や知能化にフォーカスした「日産インテリジェント・モビリティ」に取り組んでいます。電動化によって実現を目指しているのが「ゼロ・エミッション」。これは、走行中のCO2排出ゼロの車、つまり電気自動車です。すでに電気自動車「リーフ」を販売しています。累積販売台数では世界で一番売れていることから、世の中のニーズに確実に応えているといえるでしょう。そして、数年以内には1回の充電での航続距離をさらに伸ばした電気自動車を発売する予定です。
知能化では「ゼロ・フェイタリティ」の実現を目指しています。これは、日産自動車がかかわる交通事故をゼロにしていこうという取り組みで、16年8月に日本で発売した「セレナ」は、日本のメーカーとしては初となる自動運転機能「プロパイロット」を搭載しています。これは、高速道路において車線変更を伴わない単一車線で、ドライバーに代わって車間距離を一定に保ちながら、アクセル、ブレーキ、ステアリング(ハンドルなどの操縦装置)を自動で制御する機能です。
18年には、高速道路での車線変更を伴う自動運転が可能となり、20年には市街地を自動運転で走れるようになる。こうしたことが技術的には可能となります。しかしながら、法整備もかかわることなので、実際に走らせることができるかどうかは未知数です。いずれにしても、人為的な運転のミスを技術でカバーし、ゼロ・フェイタリティを実現していきたいと考えています。
また、現在は組織を立ち上げた段階ですが、「コネクテッドカー」にも着手しています。これは、自動車とインターネットをつなぐIoT(Internet of Things/モノのインターネット)によるサービスで、数年内に急速に進んでいくだろうと予測しています。この先がどんな未来になっていくのかは、また予測がつきませんが、だからこそ大いにチャンスがある領域だと考えています。
多様性のある職場環境と海外経験でグローバルなビジネスリーダーを育成
グローバル化が進んでいる当社では、日本の会社だからといって、日本人が優遇されることはありません。日本で働く外国籍の社員や海外拠点のスタッフとも対等な関係で仕事をしていますし、アライアンスパートナーのルノー、パートナーシップを組んでいるダイムラーや中国の東風とも同様です。こうした多様性のある環境で働くには、常にグローバルな視点で物事を考えること、そして、自分とは違ったものを受け入れるキャパシティーの広さが求められます。
当社でグローバルな人財が育っている理由の一つは、職場環境です。入社時から、海外拠点のスタッフと英語でやりとりしながら仕事を遂行していかなければなりません。会議に1人でも外国籍の社員がいれば英語で進行しますし、経営会議などトップの会議は、資料作成もプレゼンもすべて英語で行われています。言葉に限らず職場自体がグローバルなので、働きながら自然とグローバル感覚が身についていきます。
さらに、海外赴任の機会もあります。グローバルなビジネスリーダーを育成していくために、若いうちに海外拠点で経験を積ませる機会を意図的につくっています。3年目ぐらいまでは日本で業務を学び、その後は、グローバルリーダー志向の強い人に対しては、日本よりも上位のポジションを用意し、現地の人たちをリードして仕事を遂行していく経験を積んでもらいます。
当社では、10年以上前から新卒の職種別採用を実施しており、基本的にはその領域でプロになっていただくことが人材育成の方針です。しかし、将来のビジネスリーダーを育成していくには、同じ部門の経験だけではどうしてもモノの見方が偏ってしまいがちです。そこで、会社側が認め、本人もその意思がある場合には、職種を超えた配置転換を行っているのです。
一方で、学生の時に職種を決めて入社すると、場合によってはミスマッチもあり得ます。そこで当社では、社内でオープンになっているポジションに自らエントリーし、その部署の面接に通れば異動できるオープンエントリー制度を設けています。こうした公募制度を、10年以上前から実施しています。
それから、当社の特徴的な取り組みとして、同業他社など多くの企業からベンチマーク(比較の指標とすること)されているのが、ダイバーシティです。カルロス・ゴーンCEOの旗振りの下、2004年にダイバーシティ ディベロップメント オフィスを設立し、活動を推進してきました。その結果、04年には1.6パーセントだった課長以上の女性管理職が16年には9.1パーセントにまで向上。17年は10パーセント到達に向けて取り組みを進めています。日本の自動車メーカーの平均が1.8パーセントですから、これはかなり高い数字だと思います。
最後になりますが、われわれは若手の社員に、頭、心、対人という要素を期待しています。頭とは、自分なりに物事を深く考える力。心とは、新しいことや変化を受け入れていくキャパシティーの広さや好奇心を持って勉強していく力。そして、対人と言うチームワーク。自動車は3万点にも及ぶ部品から成り立っていて、それを完成させるために、多くの人々がかかわっているからです。当社では、これらの要素を兼ね備えた人財が、グローバルに活躍しています。
学生の皆さんへ
ぜひとも若いうちに海外に出て、世界のいろいろな人々や文化、考え方に触れ、自分の感度を磨いてください。それが、将来の日本の国力や魅力を高めることにつながるのだと思います。例えば、海外で日本製品が支持されていることを知って、日本のモノづくりの素晴らしさに気づくこともある。海外に出たからこそ見えてくることが必ずありますし、それが企業を選択する上での一つの指針になるかもしれません。最近は、大学には留学生も少なくないでしょう。彼らの中に飛び込んで一緒に何かをすることで、海外に出るのと同様の経験が得られることもあるはずです。 もう1つは、何においても”深さ”を追究してください。「自分はこれに打ち込んだ」と、自信を持って言える経験を積んでください。社会に出て新しいことをやろうとすると、反対に遭うことがある。そんなとき、何かをやり切った経験が自分の支えとなり、自分の考えを深めた上で「それでも自分はこれをやりたい。なぜならこう思うからだ」と、周囲を説得し、巻き込むことができるからです。
同社30年の歩み
取材・文/笠井貞子 撮影/刑部友康