厚切りジェイソンさん(お笑い芸人)の「仕事とは?」|前編

あつぎりじぇいそん・1986年米国・ミシガン州生まれ。17歳の時に飛び級でミシガン州立大学に入学。イリノイ大学大学院・アーバナ・シャンペーン校に進み、エンジニアリング学部コンピューターサイエンス学科修士課程修了。米国・GEヘルスケア、米国企業の日本法人支社長などを経て、12年、IT企業・テラスカイ入社。役員として働きながら、14年10月にお笑い芸人としてデビュー。芸歴わずか5カ月で「R-1ぐらんぷり2015」決勝へ進出する。テレビ、CM、舞台で活躍。ラジオ番組『厚切りジェイソンのThursday Night Why』(TOKYO FM/毎週木21:15~21:40)でパーソナリティも務めている。

25歳で念願の「社長」に。「この先、同じことを繰り返しても面白みがない」と思った

-「初来日は大学在学中の2005年。19歳の時ですね。

大学でコンピューターサイエンスを学んでいて、日本企業で研究をするために1年間東京に滞在しました。その時に今の妻と知り合い、日本で働きたいなとも考えましたが、日本企業の多くはジェネラリストを養成する人事システム。僕が学生時代に身につけた専門知識をすぐに生かせる会社があるようには思えませんでした。就職活動では米国の企業を30社ほど受けて、受かったのは3社。その中から就職先を選んだ基準は、入社後の成長スピードです。GEには「リーダーシッププログラム」という独自の人材育成プログラムがあって、原則として2年間で3〜4つの異なる分野の実務プロジェクトにリーダーとして携わるというもの。入社後の早い時期に挑戦的な仕事を与えられるので、成長が早まるんです。

当時の僕は「もっと権力が欲しい」「もっとお金が欲しい」という欲望でギラギラしていてね(笑)。「社長になりたい」ということしか考えていませんでした。そのために早く成長して自分の価値を高めなければという思いがすごく強かった。GEでは大学院に通う費用も負担してもらえ、コンピューターサイエンスの修士号も取れましたし、理想的な環境でした。

-一方で日本語能力試験1級も取得して、日本進出を計画中のIT企業に転職。25歳にして日本法人の社長に。その後、現在の会社に転職され、役員として活躍されています。ビジネスの世界で成功しながら、お笑いをやろうと思ったのはなぜなんですか?

まずは単純につまらなくなったんです。社長になりたいと数年間頑張ってきたけれど、いざなってみたら、「あれ? こんなものなの?」と。肩書がつき、お給料が上がっても、想像していたような満足感はありませんでした。この先、同じことを繰り返しても面白みがないなと感じるようになり、何か別のこともやってみたいなとお笑い養成所に入りました。

「ダメだから、もうやらない」ではなく「次はどうしよう」と考える

-お笑いはもともと好きだったんですか?

日本語の勉強のためにテレビ番組をいろいろ見る中で、ネタ番組の『エンタの神様』でお笑いにハマり、自分でもやってみたいと思うようになりました。お笑い養成所に通い始めた直接的なきっかけは、近所のショッピングセンターで開催されていた無料のお笑いライブ。プロの芸人さんが来るのでよく見に行っていたのですが、ある日、お客さんのひとりとしてステージに上がって、ザブングルの加藤さんと腕相撲対決をする機会があったんですね。そのライブが終わった後に、無理矢理加藤さんに名刺を渡して「今度、飲もうよ」と誘ったら、本当に連絡をくれて。「お笑いをやりたいんです」と相談したら、加藤さんが所属している事務所の養成所に週末だけのカリキュラムがあることを教えてくれて、入ることにしたんです。ただ、最初は「ただやってみたい。やらないと後悔する」という気持ちだけでしたよ。自分が芸人として売れるなんて思っていなかった。養成所のライブでもまったくウケなくて、寒い感じでしたしね。

-ウケなくて落ち込みませんでしたか?

Why!? ウケないからといって精神的にやられていたら、多分何もできないですよ。ライブというのはお客さんの反応を知って、ネタをより良くできるチャンスじゃないですか。養成所のライブではダメ出しの連続でしたが、それは僕の芸が良くなるためのアイデアをみんなが出してくれているということ。それを無視してどうするっていう話ですよ。それでヘコんでいたら、改善の可能性はない。「今の自分はダメだ。もうやらない」ではなく、「今の自分はダメだけど、次はどうしよう」と考えないと。

ビジネスもお笑いも、目的を達成するためにはトライアンドエラーが必要

-デビューのきっかけになった漢字ネタが生まれたのはいつごろですか?

1年間の養成所時代の最後の最後、卒業ライブで初めて披露したらすごくウケて。そこからデビューにつながって、バーンと火がつきました。本当に暗闇に電気が一斉につくようにいきなり。ただ、それまではひたすらトライアンドエラーの繰り返しでしたよ。例えば漢字ネタも授業で最初にネタ見せ(新作のネタをみんなの前で披露すること)した時は道具なしで、不思議な漢字を10個ほど紹介するだけでした。反応は悪くなかったものの、爆発的な笑いにはつながらなくて、「どうすれば、もっとインパクトが出るかな」と考えて思いついたのがホワイトボードを使うこと。さらに、トークと文字を書くタイミングを調整したりして今のスタイルができたんです。ビジネスもお笑いも、目的を達成するためにはトライアンドエラーが必要。「こうしたら、どうなるかな」とやってみて、結果を分析し、うまくいかなければ「じゃあ、どうすればいいかな」と考えてまたやる。人生のすべてはこの繰り返しなのに、たいていの人は最初の「やってみる」をやらない。すごくもったいないです。

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後編では、お笑いを始めたことによる変化や、やりたいことをかなえるコツを教えていただきます。

→次回へ続く

(後編 12月7日更新予定)

INFORMATION

本名のジェイソン・D・ダニエルソン名義で執筆した著書『ジェイソン式英語トレーニング 覚えない英英単語400』(主婦と生活社/1300円+税)が2016年12月12日に発売予定。アメリカにいながら独学で「日本語能力試験」1級を取得したジェイソンさんが独自の勉強法を英語学習に応用。頭を“英語脳”に切り替える方法を順に追って説明している。
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取材・文/泉 彩子 撮影/刑部友康

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