「結果が目の前ですぐに出る」という醍醐味
イトーヨーカ堂の事業は、GMS(General merchandise store)いわゆる「総合スーパー」です。「総合スーパー」とは、人が生活する上で欠かせない食品、ファッションを彩る衣料品、豊かな生活を送るための住居関連用品を中心に、総合的に生活シーンを支えるショッピングストアです。
このスタイルをベースに、イトーヨーカ堂は時代とともに少しずつ変化してきました。そして、ここ数年力を入れているのが「モノ」だけでなく、「コト」をお客さまに提案することです。
食品売り場での試食や、玩具売り場で直接おもちゃに触れてもらう場は、皆さんにもなじみ深い「コト」体験と言えるでしょう。最近イトーヨーカ堂が推し進めているのが、「大人の体験」ともいうべき、一歩踏み込んだ取り組みです。
例えば、「文房具屋さん大賞」を受賞した商品だけを集めた売り場の展開。単純にデザインが良いもの、ユニークな機能を持つものなど、面白い文房具がたくさんあります。こんな商品ができたんだ、こんな便利に使えるんだ、ということを知って体験していただくことで、お客さまの商品に対する反応は大きく変わります。イトーヨーカ堂だけでなく、私たちが展開する大規模なショッピングモール全体で、こういった体験型・提案型の取り組みを行っています。
私たちは、現在、全国に175店舗、海外に11店舗を展開しています。多くのお客さまからのご支持をいただけているのは、食の安全と味に徹底的にこだわるといったさまざまな商品戦略によるものだけでなく、「働く社員の方々への取り組み」による誠実な企業イメージを作り、評価されてきたからではないかと思います。
例えば、女性のための出産・育児制度を導入したのは、1991年のことです。今ではごく普通ですが、当時は非常に珍しく、多くの企業に先んじて導入したものでした。現在、出産・育児を経て職場復帰した多くの正社員・パート従業員が、後輩たちの良きロールモデルとなっています。
このように、イトーヨーカ堂では、会社のニーズと照らし合わせながら、社員のニーズを理解し、一人ひとりが力を発揮できる環境を作るという考え方を大切にしてきました。
イトーヨーカ堂で働く大きな魅力は、結果がすぐに出る、ということだと思います。私自身の経験を振り返ってみても、自分の仕事の成果が、お客さまの反応や売れ行きなどによってすぐに体感することができるのは、非常に面白いことです。また、成功するのが容易ではないことも、やりがいにつながるのではないでしょうか。
実際に、「この商品はお客さまに求められているはずだ。間違いなく売れる」と考えて売り場に展開してみたら、まったく売れなかったりすることがあります。ショックですが、気を取り直し、視点を変え、陳列をする場所を変えてみたところ、今度はすぐに売れ始めたりするのです。
お客さまの反応や仕事の成果が、すぐに見られる。だからこそ、いろいろと試行錯誤をしていくことができます。人の心理やマインドを推察しながら、日々、マーケットにトライしていく仕事だと思います。
「どんなものが売れるのか」は、プロのマーケターであっても、そうそう当てられるものではありません。私たちが現場で手がけることになるのは、地域に密着したミクロなマーケットです。しかし、その小さな商圏には何万ものお客さまがいらっしゃいます。そして、そのお客さまが何を求めているかを探求することが大切なのです。
私たちがどのような商品を選定し、どのような陳列をし、どのようにアピールするのか。そこに、さまざまな挑戦を加えていくことで、飛躍的に販売量は変わります。イトーヨーカ堂では、マーケットに対してダイレクトにチャレンジができる、やりがいのある仕事ができると確信しています。
「誠実」を何より大切にしているカルチャー
私自身がイトーヨーカ堂に入社を決めたきっかけは、大きく2つです。ひとつは、採用の面接がとても印象深いものだったこと。志望動機や大学で力を入れた取り組みといったありきたりの質問はなく、雑談から始まり私の人となりを知るための会話、といったものでした。拍子抜けしたものの、なぜかすがすがしく、とても印象深く感じたものです。
もうひとつが、社風です。イトーヨーカ堂の社是に「誠実」という言葉があり、企業理念にも入っていますが、「誠実」とは何なのか、社長が懇々と会社説明会で話していたのを今も覚えています。
お客さまは買ってくれないもの。取引先は売ってくれないもの。銀行は貸してくれないもの。「ないのが当たり前」の中で、何より大事にしなければいけないのは、「誠実」さである、と。策や戦略も大事ですが、まずは周囲の方々への「誠実」から始めるべきだ、というのです。事業戦略以上に、この「誠実」さを大事にしていることが心に残り、きっと職場も「誠実」なのだろうと思ったのです。
それを実感したのは、入社後すぐ。配属になった店舗でのことでした。当時私は、インテリアの売り場の担当。ある時、まだ大した経験もないのに、若気の至りで「レジの位置を変えた方がお客さまのためにいいのでは」と提案を申し出たのです。現在の位置だと柱の死角になっていてお客さまが買いにくい、と思ったからでした。
何度か説得を重ね、上長はやっとOKしてくれました。ただ、いざ実行してみると、レジの移動にかなりの費用が掛かることがわかりました。また、移動したことで何人かのお客さまから「わかりにくくなった」「前の方がよかった」とクレームも頂戴してしまいました。後から、元の位置にしたのも思考錯誤のうえで決まったことを知りました。
それでも、怒られることはありませんでした。私のお客さまに向けた熱心さ、誠実さを評価してくれたのでしょう。その後、上長から「失敗の理由を自分なりに考えて報告しなさい」と言われました。そして「また、新しいことを考えなさい」とも言われました。失敗は勉強。改めて、何ごとにおいても常に「誠実」であろうと、心に刻んだ瞬間でした。
私自身は現在人事を担当していますが、イトーヨーカ堂でのキャリアは、店長をはじめとするリーダーを目指す道、商品部での商品政策を担うマーチャンダイザーへの道などさまざまです。商品調達で海外に駐在している社員もいますし、現在10店舗を展開している中国で店舗運営や商品調達、インフラ、物流などを手がけている社員もいます。今後は、国内ではショッピングモール「アリオ」の拡充、食品に特化したスーパーの拡充に力を入れていきます。中国での出店もこれからさらに進めていきます。
お客さまの利便性向上を図る取り組みとして、グループ会社のセブン&アイ・ホールディングスで進めているオムニチャネルにも取り組んでいきます。これは、例えばネットで購入した商品をセブン-イレブンでも受け取れるといったようなサービスです。時間をかけて、インフラ整備をしていく予定です。
私たちが求めているのは、「実現力」のある人材です。課題の認識や問題の把握をしていても行動に移さなければ何も変わりません。また、闇雲に行動しても解決できなければ何も変わらないことになります。
「これをこうしたらうまくいくのでは」と思って上長に相談しても、却下されるかもしれません。また、内容によってはほかの部門の人を説得しないといけないかもしれません。また、意見を統一するためには、何度も会議を重ねないといけないかもしれません。それでも、行動を推し進められるのが、「実現力」のある人です。信念を持っている人、あきらめない人、口に出すだけでなくやってみる人。そういう人にとっては、活躍の場がたくさんある会社です。
最初は店舗の配属が基本です。まずは小さな商圏でいろいろなチャレンジをしていく。これが将来的には、数十万人、数千万人といったお客さまを対象にしたものになり、スケールの大きな仕事につながっていくのです。
学生の皆さんへ
マーケティングという学問があります。流通業を志す方は、モノを売ったり、人を集めたりするためのヒントや気づきを、マーケティングに求めるという人が多いと思います。私のお勧めは、実際にたくさんの人が集まっている場所や、たくさんのモノが売れている場所に行く経験をすることです。具体的には、長い期間支持されている場所、流行の場所、新しくできた話題の場所などは積極的に行ってみるべきです。外観や内装、什器(じゅうき)等のデザインを見たり、商品の陳列やディスプレーをチェックする。また、集まっている人の心理状態も想像してみる。このように多くの人に支持されるにはそれだけの理由があるはずで、それを感じるために現場に赴くという習慣をつけておくと、マーケティング感覚のようなものも研ぎ澄まされていくと思います。大事なことは、誰かの受け売りを聞くことだけではなく、自らが体験することです。自分に壁を作ったりせず、流行っている場所には積極的に出掛けて楽しむ、という意識を持っておくとよいでしょう。
同社100年の歩み
セブン&アイ・ホールディングスの総力を結集した大型商業施設「GRAND TREE MUSASHIKOSUGI」がグランドオープン
2015年 製品安全対策優良企業表彰、総合スーパー初の「製品安全対策ゴールド企業」に認定。大企業小売販売事業者部門で3度目の経済産業大臣賞を受賞。東京都初の「プラチナくるみん※」 企業に認定
※「子育てサポート企業」として、厚生労働大臣の認定を受けた証し
2016年 女性活躍推進法に基づき、厚生労働大臣より「えるぼし※」 企業に認定。最高位を取得
※ 女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)に基づく認定マークの愛称
取材・文/上阪 徹 撮影/鈴木慶子