「コミュニケーション力」という“キラーワード”に誤魔化されるな!

雇用ジャーナリストとして、独自の視点から就活や仕事、「働く」を鋭く捉えて発信を続ける海老原嗣生さん。元リクナビNEXT編集長でもあります。今回は、就活真っ最中の学生にホントに役立つ就活の「ホント」と「ヒント」をお話しいただきました。「頑張っている就活生に、心からエールを送りたい!」そんな海老原さんからのアドバイス、3回に分けてお届けします!

第1回目は、活動に焦り気味の学生に贈る「ひと目惚れのリスク」と、就活で必ず言われる「コミュニケーション力」について。その前に、説明会での注意点もひとつ。

ちょっと待った、ひと目惚れ!
出遅れて焦っている人こそ、最初の印象だけで決めてしまわないことが肝心

海老原嗣生氏企業説明会もたけなわ。友人たちが掛け持ちで説明会に参加する中、ブッキングで出遅れてしまった人は少々あせり始めているのではないでしょうか? だからといって、説明会を数社受けただけで、天の啓示のようにそこに決めてしまうのだけは、ちょっと待って。
説明会に登場するのは、現場で実績を上げている入社4~5年目の若手社員であることが多いのです。彼らは実績を出して選ばれている人たちですから、自信がある。仕事に手応えを感じているから「働いていて楽しい、この会社はいいよ」と本心から言えます。まさにキラキラ輝いている人たち。ですから、学生がいいなと思うのは当たり前なのです。そして、少々スタートダッシュに出遅れて、これまで企業説明会への参加が少なかった人こそ、数を見てきていないので、第一印象で決めてしまいがち。
人口構造上、若い人は減る一方ですから、企業も採用にはこれからの社運をかけています。会社説明会やリクルーターに登場するのは、言わずもがな、各社よりすぐりの社員です。1社2社の説明会を聞いただけで、「いいな」と思って決めてしまわずに、いくつも受けてみてほしいのです。いくつか見て比較することで、企業を見る「目」が養われます。この時期、「なんとなく」だけで行動すると、あとあと、後悔しかねません。

グループディスカッションでは、ほかの人を圧倒することが勝ち(価値)ではない

さて、企業説明会には合同説明会と単独の説明会があります。単独説明会の場合、説明会後に、グループディスカッション(集合面談、グループワークなど、名前は各社で異なります)が行われることがあります。また、後日、あらためて面談と称して、グループディスカッションに呼ばれることもあります。

これは、日本経済団体連合会(経団連)が就職活動の日程を、「3月に説明会解禁」「6月に採用面接など選考解禁」としていて、個別面接は6月1日までしないことになっているため、それ以前の段階では、グループディスカッションという名の集合での面談が行われることがあるのですね。その時、心しておいてほしいことがあります。

グループディスカッションや、集合面談では、同じグループの中に物おじせずにガンガン話せる人が、きっといます。自分があまり話せなくて、すっかり負けた気になってしまう人がいるのですが、その落ち込みは不要です。グループディスカッションでは、他の人を圧倒することが“勝ち”でも“価値”でもありません。

企業は、たとえば吉本興業で活躍する若手芸人さんを発掘したいわけではない。しゃべりがうまい人が欲しいわけではないのです。本当のコミュニケーション力がある人を求めているのです。

コミュニケーション力というキラーワードを誤解しない

学生の皆さんが、とかく誤解しがちなのが、コミュニケーション力について、です。
私はコミュニケーション力とは、相互理解を高め合う力だと思っています。具体的には、

1.話す
立て板に水、のように話せなくてもいいのです。自分が伝えたいことを、相手に理解できるように話すこと。聞き取りやすく発話すること、相手との関係に合わせて言葉を選び、比喩表現を変えることも、話す力です。

2.聞く
単にうなずくことではなく、相手から話を聞き出すこと。言っていることを理解し、理解していることを示す表情や相づちを打つことも、聞く力です。

3.配慮する
相手の立場を俯瞰(ふかん)することです。主張の背景にあるものを理解しようとする姿勢がないと、お互いを理解はできません。

4.関係をつくる力
多くの人はこれをコミュニケーション力だと思っているのではないでしょうか。しかし、相手の中にゴリゴリ入っていけば、関係がつくられるというわけではありません。ずうずうしさ=コミュニケーション力ではないのです。「話す」「聞く」のキャッチボールを重ねることで、育まれるものです。

5.関係を維持する力
一人の人と長く付き合うことだけが、維持する力ではありません。人に嫌われない、人を嫌わない力、集団行動に強いことも評価に値する、“関係を維持する力”です。

いかがですか? 誰でもこの中の1つは持っているはずです。できていない部分を数え上げるよりも、自分が得意な部分を自覚し、当日はそこを発揮するように意識しましょう。考えてもみてください。全員が「私が私が」と話したら、会社は成り立ちません。コミュニケーション力は、上記の「1」だけではないのです。

コミュニケーション力があると思わせる話し方にはコツがある

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グループディスカッションでは、盛り上げてしゃべれる人も、まとめ役になりたがる人もいます。そんな押しの強さは自分にはないと思ったら、前の発言者の話をしっかり聞いて、「彼はこう言っていたけれど自分はどう思う」という点を意識して発言すればいいのです。

ポイントは、「前の発言を受けて+αを言う」こと。それができれば、対話の咀嚼(そしゃく)力があるな、コミュニケーション力があるなと思われます。もし、聞くことが得意だったら、「+α」を言いながら、前の発言者に対してさらに意見を聞き出す投げかけをしてもいいし、配慮することが得意だったら、前の発言者の背景にあるものを補足してあげて、自分の見解を言ってもいい。

対話は合気道のようなもので、力が強い人が勝ちではなく、それをうまく利用した方がいい。日頃の会話でも、5つのコミュニケーション力の中で自分の得意な部分を伸ばす対話を心がけてみてください。すると、そのほかのコミュニケーション力も引っ張られて伸びていきます。コミュニケーション力ってのは、こうして、伸ばしていくものなんです。話すのが得意でなくても、コミュニケーション力が高い人は、いっぱいいるんです。口下手なら、そういう人を目指せばいい。誰でもコミュニケーション力は磨けるんです。

海老原嗣生(えびはら・つぐお)●1964年生まれ 上智大学経済学部卒業後、リコーを経てリクルートエージェントにて新規事業企画や人事制度設計などに携わる。リクルートワークス研究所「Works」編集長などを歴任。現在はリクルートエージェントのフェローとして活躍。主な著書に『雇用の常識「本当に見えるウソ」』『学歴の耐えられない軽さ』『課長になったらクビにならない 日本型雇用におけるキャリア成功の秘訣』『「若者はかわいそう」論のウソ』『就職、絶望期』『日本人はどのように仕事をしてきたか』『就職に強い大学・学部』など。

INFORMATION

最新刊は『クランボルツに学ぶ夢のあきらめ方』(星海社新書・4/21発行)。5月には『経済ってこうなってるんだ教室』(飯田泰之氏との共著・プレジデント社)刊行予定。
『クランボルツに学ぶ夢のあきらめ方』『経済ってこうなってるんだ教室』

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