日本トップクラスの製薬企業を目指し、人財の強化に注力
当社は、今後のさらなる飛躍に向けて中期経営計画「Sunrise 2012」を推進しており、2012年はその最終年度となります。具体的な目標として、「国内トップクラスのプレゼンス(存在感)の確立」「国内トップの高成長の実現」、そして「スイス・ロシュ社とのWin-Winの関係強化」を掲げています。
製薬業界をとりまく環境は、年々、厳しさを増しています。国内市場は少子高齢化に伴う医療費の増大を抑制しようとする方向に動いており、国内だけのビジネスでは十分な成長を達成することが難しい状況にあります。このため、当社は2002年にロシュ社と戦略的アライアンス(業務提携)を組み、海外展開の基盤をつくってきました。ロシュ社のグローバルな製品を導入するとともに、そのインフラを活用する一方で、当社の製品をロシュ社に導出し、Win-Winの関係を築いています。
ロシュ社とのアライアンスから9年がたちましたが、この間、当社は“選択と集中”による事業の再構築を行い、医療用医薬品事業への特化、工場の再編なども実行して経営の効率化を図ってきました。企業経営においてハード面でできることはすでに相当程度実施しており、着実に成果をあげています。現在は「日本トップクラスの製薬企業を目指す」という第2ステージに入っており、今後はソフト面、つまり人財の強化が今まで以上に重要になると考えています。
中外製薬は“がん”“腎”“骨・関節”の3領域に注力しており、いずれの領域でも国内トップクラスの売上高を達成しています。しかし、当社はこうした数字だけを目標に置いているわけではありません。トップアスリートのように、戦績だけでなく品格も備えた「真のトップ企業」を目指しているのです。この点、例えば製薬企業の営業職であるMRの場合、売り上げの数字も大事ですが、それ以上に医師をはじめとした医療関係者の方々から、「紹介してもらった製品で患者さんが良くなった」という言葉を頂くことで真の達成感を得ることができますし、モチベーションは高まるものだと思います。つまり、「製薬企業での自分の仕事が、最高の社会貢献につながっているんだ」という熱い思いを持ち続けられる人が求められているのです。
グローバルな視点と「一緒に仕事がしたい」と思われる“人間力”が必要
ロシュ社との関係をより密接にし、グローバルにビジネスを展開していくという観点では、人財に対する考え方を変えていく必要性も感じています。
国内から世界へとビジネスの場が変われば、そこで力を発揮できる人も変わってくるでしょう。地域を問わず堂々とビジネスできる人財を採用し、育成していかなければ、世界で勝負することはできません。
国内市場のみであれば、日本の文化や風習の中で周囲とうまく関係を築くことができればよかったわけです。しかしグローバルにビジネスを展開していくためには、日本とは異なる文化や国民性などをふまえ、あまりよく知らない国の人とでもうまくコミュニケーションができる力が求められます。
そして、グローバル人財にはタフさと粘り強さが必要ではないかと思います。日本人は交渉の場では比較的さっぱりしていると言われますが、世界で多様な人々と交渉していくには、良い意味でのしつこさを持ち合わせていなくてはなりません。本格的な海外進出は当社にとっては大きな挑戦ですから、行く先々で、さまざまな困難が待ち受けていることでしょう。それを乗り越えていくためには、タフさと粘り強さが不可欠だと思うのです。
また、グローバルに活躍するには、単に英語力だけではなく、「この人と仕事がしたい」と思ってもらえるような魅力のある“人間力”が重要な要素になるのではないでしょうか。海外では、宗教観や風習の違いを超え、異質なものを受け入れて、さまざまな人たちと目的を共有しながらビジネスをしていかなくてはなりません。人間的魅力をベースとして、周囲の人に対する愛情、誠実さ、正直さ、思いやりなどを持っていることが大切だと思います。
これからの企業はダイバーシティ(多様性)を推進し、バラエティに富んだ人財を採用・育成して、さまざまな状況に応じてそこにフィットした人財を配置していくことが重要になると考えています。
日本では、企業が新卒者をある時期に一括採用して育成することが自然の流れとなっていますが、世界から見るとこれは非常に特殊な状況です。このようなシステムのもとでは、人財が“金太郎飴”のように均質になりがちです。ますます複雑化・高度化していく社会においては、新卒に限定することなくさまざまな経験を積んだ人を採用し、従来とは異なる価値観を持つ人財も受け入れ、活躍してもらえるような制度や仕組みを作っていくことが求められていると思います。
学生の皆さんへ
社会人になると、自分とは異なる考え方に出合う場面が増え、“正解”のない問題に挑まなくてはなりません。そこで求められるのは、視点を変えて物事を捉え、深く考えることができる力です。
これは一朝一夕に身につくものではありませんが、多くの人と接し、本をたくさん読み、テレビやインターネットなどからさまざまな情報を得て、自分とは異なる考え方を知ることで鍛えられます。私自身は、テレビでよくお笑い番組を見るんですが、芸人さんの絶妙な会話のテンポや間合いからコミュニケーションのとり方について学ぶことが多くあります。また、真面目な討論番組などを通じて、一つの問題に対するさまざまな考え方を知るのも大変勉強になります。
学生時代はどちらかといえば気の合う仲間と過ごすことが多いのではないかと思いますが、好き嫌いで物事を判断して交友範囲を狭めることなく、多様なものの見方を身につけることを心がけてほしいと思います。これからは、社会が単一の価値観で動く時代ではありません。何事にも好奇心を持って積極的にかかわり合って、ものの見方や捉え方を鍛練してください。
同社30年の歩み
1925年、上野十蔵氏が中外新薬商会を創業し、医薬品の輸入販売を開始。1927年より医薬品製造に着手。1943年、商号を中外製薬株式会社(本社・東京都)に変更する。1951年にグルクロン酸の工業化に成功し、解毒促進・肝機能改善剤「グロンサン ® 末・注」を発売。1956年、株式を東京証券取引所(現在(株)東京証券取引所)に上場。1971年には血液分析器および試薬を発売し、臨床検査薬機器分野に進出。1980年代から、いち早く「バイオ医薬品」の開発に取り組む。
1981年
カルシウム・骨代謝改善剤「アルファロール®」発売。1984年には、狭心症治療剤「シグマート®」を発売。
1987年
静岡県に富士御殿場研究所を建設。1989年、アメリカのジェン・プローブ・インコーポレーテッドを買収する。
1990年
遺伝子組み換えヒトエリスロポエチン製剤「エポジン®」を発売。同年、栃木県に宇都宮工場を建設する。翌1991年には、遺伝子組み換えヒトG-CSF製剤「ノイトロジン®」を発売。
1994年
イギリスに中外ファーマ・ヨーロッパ・リミテッドを設立(現在連結子会社)。1995年、アメリカに中外バイオファーマシューティカルズ・インコーポレーテッドを設立(現在中外ファーマ・ユー・エス・エー・エルエルシー連結子会社)。
1997年
中外診断科学株式会社を設立。同年、イギリスに中外ファーマ・マーケティング・リミテッドを設立(現在連結子会社)。
2000年
二次性副甲状腺機能こう進症治療剤「オキサロール注®」、関節機能改善剤「スベニール®」を発売。翌2001年、スイスのロシュ社と戦略的アライアンスを締結。茨城県に筑波研究所を開設。フランスに中外ファーマ・フランス社を設立(現在連結子会社)。制吐剤「カイトリル®」、抗インフルエンザウイルス剤「タミフル®」、抗悪性腫よう剤「ハーセプチン®」、非ホジキンリンパ腫治療剤「リツキサン®」を発売。
2002年
エフ・ホフマン・ラ・ロシュ・リミテッドとの戦略的アライアンスに基づき、中外製薬株式会社と日本ロシュ株式会社が統合し、世界でも新しい「独立経営体制」を構築。アメリカに、持株会社中外ユー・エス・エー・インコーポレーテッドを設立(現在連結子会社)。
2003年
セフェム系抗生物質製剤「ロセフィン ® 」バッグ、高リン血症治療剤「レナジェル®」、抗悪性腫よう剤「ゼローダ®」、C型慢性肝炎治療剤ペグインターフェロンアルファー2a(遺伝子組換え)「ペガシス®」を発売。翌2004年には、閉経後骨粗しょう症治療剤「エビスタ®」を発売。
2005年
世界初のキャッスルマン病治療薬「アクテムラ ® 」を発売。翌2006年には、閉経後乳がん治療薬「フェマーラ ® 」を発売。2007年、抗ウイルス剤「コペガス®」、抗悪性腫よう剤「アバスチン®」、抗悪性腫よう剤「タルセバ®」を発売。
2008年
「アクテムラ」が国内初の抗リウマチ剤として効能・効果の承認を取得。抗リウマチ剤「RoACTEMRA」が2009年欧州、2010年米国で承認される。
2011年
骨粗しょう症治療剤「エディロール®」、持続性赤血球造血刺激因子製剤「ミルセラ®」を発売。
取材・文/千葉はるか 撮影/鈴木慶子 デザイン/ラナデザインアソシエイツ