「デバイス&サービスの会社」への変革
業界にかかわらず経済状況など不安定要素はありますが、変化の激しいIT業界においてマイクロソフトとしても、創業以来の変革の時を迎えています。従来のソフトウェア中心のビジネスから、デバイスと(クラウド)サービスの会社への変革という新たな全社方針を掲げ、経営の面からも大きく舵を切り、日本法人においても、革新的なソフトウェアをベースとした最先端のデバイスとクラウドサービスを提供していくため、業界内外のパートナーとの連携も含め、さまざまな変革を全社挙げて推進しています。
社内においては、ワークスタイル変革の先進企業を目指し、自社のテクノロジーを使って、働き方を変えるとか、働く場所のハンデを乗り越えるなどに取り組んでいます。自社が先進事例となることはもちろん、市場のお客さまにもその分野で貢献していきたいと考えています。具体的には、現在は就業日5日中最大3日まで在宅勤務(テレワーク)を可能とし、場所に制限されず、かつ生産性を高めるために、自社のソリューションを使いながら、社員の多様な働き方を推進しています。
とはいえ、IT環境というハードのインフラが整っただけではうまく稼働しません。次に必要となるのが、ソフトインフラです。例えば、部下がオフィスにいて目の前で仕事をしていなくても、きちんと信頼してマネージメントできること。あるいは、より効率の良い仕事ができること。こうしたマインドセット(心的態度)の変化にも力を入れ、働き方と働く場所の両方の変革に取り組んでいます。
また、同様のコンセプトを持って変革していこうと考えているさまざまな企業に対してテクノロジーを提供し、ときには私も含めて社員が同行し、制度やカルチャーをどのように変えて実践していけばいいのかというお話をすることもあります。近年は、日本全体で声高にテレワークの取り組みが進められていますので、こうした機会も生かして、間接的・直接的にワークスタイルの変革を広めていこうとしています。
学生向けの活動・若者支援の分野では、ITテクノロジーを使って、進学や就労、起業をしやすくなるような活動を行っています。現在、学校ではタブレット端末による教育や、教科書のデジタル化などの動きが出始めています。こうした学習分野を、マイクロソフトとして支援しています。また、スタートアップ企業(起業したばかりの企業)に対しては、無償もしくは低価格でソフトウェアを提供するなどの起業支援を行っています。
大学生に対しては、社員が大学で講義やセッションを持って、ITをどう活用して効果的なプレゼンテーションを行うかなどをレクチャーし、社会に出たら即戦力になるような仕組みをつくって支援なども行っています。ほかにも、毎年『イマジンカップ』という全世界の学生を対象としたテクノロジーのコンテストを開催しています。こうした活動は、将来的なビジネス成長を見込んでいる部分もありますが、むしろ学生たちに自分のアイデアや技術を発表する場を提供したいという想いのもと、日本の未来を担う世代全体の底上げや社会への支援に軸足を置いた活動です。
働くステージはもちろん、キャリア形成や評価制度もグローバル
私たちが考えるグローバル人材とは、どこの国で何人として仕事をしているかにこだわらない人。マイクロソフトにおける仕事は、日本にいても世界中のマイクロソフトの社員と情報を共有しながら行うことが多く、常に世界との接点が必要となります。日本のマーケットに関する仕事であっても、マイクロソフト全社の中から使えるリソースを獲得し、必要であればアメリカ本社ともコミュニケーションし、サポートを得て仕事をできるようなグローバルな人材の育成は、これからも引き続き強化していきます。
入社の入り口は日本かもしれませんが、働くステージはグローバル。ですから、社内でのキャリアの形成や評価の仕組みも、グローバルで推進しています。日本で働いているからといって、国内で評価するのではなく、他国で同じ仕事をしている同じレベルの社員との比較で評価しています。つまり、切磋琢磨する相手は日本国内だけではなく、グローバルなのです。社員は、次にやりたい仕事がどこの国にあるかという観点で仕事を考えています。海外駐在という観念とは少し異なり、次にやりたい仕事が日本にあれば日本で働きますが、シンガポールやアメリカにあれば、自由にそのポジションに応募して異動していきます。
日本では毎年30名前後、グローバル全体では約1000名の新卒を採用していて、彼らにはMACH(Microsoft Academy for College Hires)という全世界共通の2年間の育成プログラムを用意しています。主な研修は、日本で働きながら日本で行いますが、1年に数回は世界中から仲間が集まってトレーニングや会議を実施しています。こうしたプログラムはすべて英語ですので、それが理解できる英語力は必要です。MACHを通してネットワークができますから、仕事で聞きたいことがあれば同期の感覚でグローバルに連絡を取り合いますし、一緒にプロジェクトを遂行することもあるので、かなり結束力が強くなります。
日本マイクロソフトとして、2013年に日本のIT業界の女性社員比率の平均値を達成いたしました。女性は貴重な人材戦力であり、企業としての競争力をさらに強化するため、女性比率をさらに増やしていく必要があります。新卒の女性比率は約60パーセントと増えていますので、これからの課題は育成です。女性にも長く働いて、マネジャーやリーダーに昇格してほしいと考えています。
いろんな価値観や考え方、バックグラウンドを持った人たちが集まるダイバーシティ(多様性)によって、互いに刺激し合ってクリエイティブなアイデアが生まれたり、単一的な集団では気づかないことに気づくなど、ビジネスニーズに結び付く機会が増えます。その意味でも女性をもっと増やして、女性の声を多くしていきたいですね。もちろん、女性比率を高めるだけでなく、年齢の多様性や障碍(しょうがい)、国籍なども含めたダイバーシティにも取り組んでいます。それに伴い、属性や価値観の違う人たちが入ってきたときに、すんなりと受け入れられる会社のカルチャーづくりや、そのカルチャーを定着させることも今後取り組むべき課題だと考えています。
このようにして、2015年にはIT業界もしくは日本の企業の中でマイクロソフトが、ダイバーシティや女性の活用におけるアイコンカンパニーになることを目指しています。それは単に比率だけの問題ではありませんが、日本のIT企業が一緒にアクションを起こすことで、日本でITキャリアを追求する女性が働きやすい環境、女性にとって魅力的な業界にしていきたいと考えています。
学生の皆さんへ
まずは存分に勉強に励んでください。その上で、1つは論理的思考の形成、2つめは集中力、3つめに最後までやり抜く力を養ってください。この3つを意識して、勉強や研究、クラブ活動などの学生生活を送ってほしいと思います。これらは、どれも社会人になってから必ず必要となるもの。社会人になってから身につけようとしても時間がかかりますし、スポーツの勝ち癖と同じで、経験しないと身につかないのではないでしょうか。論理的思考ができないと、グローバルな中でコミュニケーションがうまくとれませんし、仕事のさまざまな環境の変化の中では、集中力を持って力を発揮することが求められます。また、仕事をしていると、9割近くまではできても、100パーセントに到達する最後の段階で、ものすごいパワーを強いられることが少なくありません。そういうときに、最後までやり抜く力が必要となるのです。こうしたことを学生時代のうちに経験しておけば、それを感覚値に、仕事の上でも実現できると思います。
同社30年の歩み
1986年
米国本社をワシントン州レドモンドに移転。日本法人マイクロソフト株式会社を設立。日本市場向けに一般消費者から法人向けの製品・サービスを提供。
1995年
Windows 95(日本語版)を発売。Office 95(日本語版)を発売。MSNを発表。
1998年
スティーブ・バルマーがマイクロソフト コーポレーション社長に就任。Windows 98(日本語版)を発売。Office 搭載モデルを各PCメーカーから発売開始。
2000年
スティーブ・バルマーがマイクロソフト コーポレーション CEO に就任。ビル・ゲイツがマイクロソフトコーポレーション会長兼チーフ ソフトウェア アーキテクトに就任。.NET戦略を発表。Windows 2000(日本語版)を発売。Windows 2000 Server(日本語版)を発売。
2001年
Windows XP(日本語版)を発売。
2005年
マイクロソフト ディベロップメント株式会社を設立。日本において Xbox 360を発売。
2008年
樋口泰行が日本法人の代表執行役社長に就任。ビル・ゲイツが経営の第一線から退き、ビル アンド メリンダ ゲイツ財団(Bill & Melinda Gates Foundation)での活動を中心とする。
2011年
社名を「日本マイクロソフト株式会社」に変更。東京都内オフィスを統合し、品川本社オフィスを開設。Office 365サービスを提供開始。
2012年
Windows 8を発売。
2013年
3月、Surface RTを発売。
取材・文/笠井貞子 撮影/刑部友康 デザイン/ラナデザインアソシエイツ
※2013年取材