総合商社編・2018年【業界トレンド】

資源価格の低迷を受けて各社は「非資源分野」に注力。新事業を探す取り組みが盛んだ

総合商社は、特定の分野に的を絞った「専門商社」とは異なり、幅広い分野で取引を行っている企業。エネルギー、金属、インフラ、機械、化学品、繊維、食品、情報・通信サービスなど、実に多彩な商材を手がけている。慣習的に、三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事、丸紅の5社を「5大商社」、豊田通商、双日を加えた7社を「7大商社」と呼ぶことが多い。

総合商社にとって、収益の柱は2つある。1つは、原料や商品などの取引にかかわり、手数料を得る「トレーディング」。もう1つは、有望な事業を手がける企業に投資を行い、株式の配当や、投資先の成長後に株式を売却することなどで利益を得る「事業投資」だ。1990年代くらいまで、総合商社の収益はトレーディングが大半を占めていたが、近年では事業投資の割合が高くなっている。

とりわけ、2000年以降の総合商社に大きな利益をもたらしたのが「資源ビジネス」だ。中国など新興国の成長により、石炭・鉄鉱石・銅などの資源需要が世界的に増加。その中で、各社は天然資源の開発・採掘事業に出資したり、関連企業の買収を行ったりすることで利益を上げた。しかし2015年以降は、中国経済の成長が鈍化するなどして需要が伸び悩んだために資源価格が低迷。その結果、資源領域の比重が高かった企業では赤字決算に転落したケースもあった。

そこで近年の総合商社は、「非資源領域」への展開を重視している。例えば、三菱商事は2016年9月、コンビニエンスストア大手のローソンを子会社化すると発表。2017年2月には株式公開買い付け(TOB)によってローソンの株式の過半数を所有し、子会社化を実現した。三菱商事はもともと、食品のトレーディング経験が豊富。さらに、三菱食品などの食品卸売会社や伊藤ハム米久ホールディングス(食品加工メーカー伊藤ハムなどの親会社)などをグループ内に抱えるなど、食品にかかわる企業とのつながりも強い。このような「商社の総合力」を生かし、原材料調達→製造→物流→販売といった一連の流れにすべてかかわることで、各社は利益の最大化を目指している。

新たな分野に乗り出す動きも盛んだ。三井物産は2016年、インドや東南アジアなどで病院を運営するコロンビア・アジアグループに出資。さらに、2018年3月には追加出資を行った。このほか、2015年にイギリスの医療情報を扱う企業を買収し、2017年にアメリカの医療系人材派遣会社を買収するなど、ヘルスケア領域を重要な成長分野と捉えて積極的な事業展開を行っている。一方、住友商事は2018年3月、中国の大手映画・コンテンツ事業者である大地メディアグループと共同で新会社を設立。中国など海外向けに、コンテンツ・エンターテインメント関連事業を展開していくと発表した。また、2018年2月には新会社を立ち上げ、デジタルメディア事業を本格化させると発表している。同社は以前から、ケーブルテレビ事業・番組供給事業のJ:COMなどを手がけており、今後もメディア関連事業をより成長させていく方向だ。ほかにも、発電・次世代自動車や交通インフラ・農業・畜産業などの取り組み事例も増えてきている。

フィンテック(下記キーワード参照)やAI、IoT(下記キーワード参照)といった成長分野で、スタートアップ企業やベンチャー企業(下記キーワード参照)を支援する動きにも注目したい。例えば、新事業プランのコンテストを開催する、スタートアップ企業やベンチャー企業が多く集まる施設の運営にかかわるなどが、そうした試みの代表格だ。大きく成長する可能性のある企業を探し出し、出資を申し出る、ビジネスに関するさまざまな相談に乗る、顧客・調達先・各種データといった自社の経営資源を提供するなどの支援を早い段階から提供することで、将来の利益を獲得するのが狙いだ。

総合商社志望者が知っておきたいキーワード

フィンテック
金融(Finance)と技術(Technology)を合わせた造語で、ITを活用した金融サービスのこと。近年では、仮想通貨、AIによる投資へのアドバイス、お金の利用履歴から自動で家計簿などを作成するサービスなど、先端技術を活用した新たな金融サービスが数多く生まれている。
IoT
Internet of Thingsの略称。「モノのインターネット」と訳される。身の回りのさまざまなモノがインターネットに接続され、データがやり取りされることで、より高度な制御や、データの蓄積・分析を通じた改善の実施などが可能になること。
スタートアップ/ベンチャー企業
スタートアップ(start up=始める)とは、設立されたばかりで、新たな領域でビジネスを展開する企業を指すことが多い。一方、ベンチャー企業は和製英語で、やはり設立から間もない企業を指す。両社の間に明確な差はないが、大きな市場を開拓できる可能性を秘めた企業は「スタートアップ」と呼ばれるケースが多い。
アクセラレーター
「加速させる人」という意味を持ち、スタートアップ企業・ベンチャー企業のビジネスを成長させる手伝いをする企業や組織を指す。近年、総合商社がアクセラレーターの役割を果たすケースが増えてきている。
事業ポートフォリオ
企業が手がけているいくつかの事業の組み合わせ方を指す。複数の事業を並行して手がければ、特定事業の業績が落ち込んだときにも他分野の売り上げでカバーすることが可能。また、事業間の相乗効果(シナジー)が生まれることも期待できる。最近の総合商社においては、資源ビジネスとそれ以外のビジネスをどのように組み合わせるか、そして、資源ビジネスの比重をどの程度にするかが課題となっている。

このニュースだけは要チェック<AIやIoTへの投資が活発に>

・三井物産は日立製作所などとともに、AI関連の研究開発・事業で先進的な取り組みを行うスタートアップ企業のプリファード・ネットワークスに出資することを決定。AI分野でのビジネスチャンスを探すとともに、自社グループや重要顧客の保有資源の有効活用や課題解決にAI技術を活用していく方針だ。(2017年12月11日)

・住友商事が、イタリアの化粧品ODM(Original Design Manufacturingの略で、顧客のブランド名で販売される製品を企画提案・設計・製造すること)と協力し、日本での化粧品ODM事業に本格参入すると発表。インバウンド需要の高まりなどで活性化する国内化粧品市場を目指した取り組み。(2018年2月19日)

この業界とも深いつながりが<手がけるビジネスは実に幅広い>

IT(情報システム系)
フィンテックなどでIT系のスタートアップ企業と協力する機会が増加

病院・診療所
海外病院に出資するなど、ヘルスケア部門に力を入れる総合商社もある

食品
商社が食品メーカーやコンビニエンスストアに出資するケースも多い

この業界の指南役

日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー
吉田賢哉氏

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東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。専門は、新規事業戦略やマーケティング戦略、企業のビジョンづくり・組織戦略など。製造・情報通信分野などの業界動向調査や商品需要予測も手がける。

取材・文/白谷輝英 イラスト/千野エー

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