日本学生平和学プラットフォーム(JSAPCS)

団体プロフィール
設立
:2015年2月 活動内容:勉強会、座談会、シンポジウムなどの企画・運営 人数:8人(男女比=3:5/学年構成=2年生3人・3年生2人・4年生3人) 活動拠点:都内のミーティングスペースなど 活動日数:週1回

日本学生平和学プラットフォーム「JSAPCS(Japan Student Association on Peace and Conflict Studies)」(ジュサパックス)は、「平和学」を学ぶ学生団体。平和学とは、「平和の達成」と「戦争の回避・解決」という目的を達成する上で必要なすべての学問・情報を指します。JSAPCSでは、紛争解決学、開発学、国際関係論、国際法、安全保障論などといった学術分野から国際情勢、国際問題まで、幅広いジャンルを対象に、勉強会やイベントを実施。有識者を招待したシンポジウムや映画鑑賞会なども企画し、「平和学」を通してメンバー同士の知識を広げていくことを目的としています。

中立的な立場で「平和学」を学ぶ場を作る

紛争や貧困など世界にあふれるさまざまな問題について、知識を深めたい。理解することで自分のことのように考えられるようになりたい――。そんな思いから、2015年2月に早稲田大学の学生を中心に設立されたJSAPCS。それまでの「平和」をうたったサークルや学生団体では、思想や信条などが偏っていることもあったため、「特定の思想・信条を掲げない中立的な団体である」ことを掲げ、純粋に「平和学を学びたい」という学生が活発に議論を交わせられる場づくりを目指しています。

そもそも「平和学」とは、ノルウェーの平和学者ヨハン・ガルトゥングによって体系化された学問で、戦争の回避、防止が主な研究対象とされてきました。JSAPCSでは、この平和学を広義にとらえ、さまざまな学問分野で「平和」につながる概念の理解を深めることを目的としています。「平和学」が含まれる学問は、紛争解決学から平和構築論、開発学、難民問題、国際法、国際関係論、人権保障、ジェンダー、グローバルヘルス、テロリズムなど多岐にわたります。

外部の専門家を招聘(しょうへい)し、勉強会や座談会を実施

JSAPCSでは、メンバーが勉強会や座談会を企画・実施。SNSを通して企画内容を発信し、大学生を中心に参加者を募ります。これまで行った勉強会のテーマは「紛争分析入門-ルワンダとISISのケースを通して-」「ジェンダーと平和-宗教文化下での女性への暴力を考える-」「シリア難民-発端、現状、国際社会の対応-」「抑圧されるマイノリティ-ロヒンギャのケース-」「ジャーナリズムを考える-報道が紛争と平和に与える影響-」など、メンバーの興味関心に沿って選ばれたテーマや、その時々の国際情勢を反映させた内容などさまざま。メンバーによる研究発表形式のものもあれば、外部の専門家を招へいして座談会形式の双方向コミュニケーションの場を設けることもあります。
「議論を深めるために、質疑応答やディスカッションの時間などを大事にするのがJSAPCSの勉強会や座談会の特徴です。これまでに講師として、元国連日本政府代表部・成冨剛史さんなどを招いたことも。OB・OGの幅広い人脈からつながりが広がっていくのも、JSAPCSで活動する面白さです」(代表・越後さん)

他団体とのコラボレーション企画も行う

勉強会や座談会のほかにも、2015年には映画配給会社と連携し「平和学」にかかわる映画の無料試写会も行ってきました。上映した一つが『消えた声が、その名を呼ぶ』。20世紀最初の虐殺といわれている、1915年にオスマン・トルコ国内で起こったアルメニア人の虐殺をテーマにした作品です。上映会とシンポジウムには、駐日アルメニア大使のグラント・ポゴシャン氏や、元「国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)」法務官の佐藤安信氏をはじめ、大学教授など有識者をゲストに招へいし、ジェノサイドの歴史について議論を深めました。
ほかにも、国際協力をテーマに活動している他の学生団体や、大学のゼミなどと共同で「日本の国際平和協力」に関するシンポジウムを開催するなど、ネットワークを広げ、知識を深めています。

代表者インタビュー

写真左から
野宮亜華沙(あかーしゃ)さん/東洋大学4年生 総務担当
松林俊樹さん/慶應義塾大学2年生 副代表
越後紳平さん/順天堂大学3年生 代表
大里悠輝さん/法政大学4年生 会計
林実花さん/順天堂大学2年生 広報

Q1 活動の目的や活動する上で大切にしていることは?

JSAPCSが目指すのは、「平和学を学ぶ学生のプラットフォーム」となること。メンバーや外部講師の方からのインプット、勉強会を通じたアウトプット、ディスカッションの機会など、知識を深める上での双方向のコミュニケーションを大切にしています。(松林さん)

Q2 団体に入ったきっかけは?

大学1年時に『女を修理する男』という映画を見て、平和学へ興味を持つようになりました。この映画は、コンゴ民主共和国東部で今も続く性暴力の現実と、被害者の女性たちの治療にあたるコンゴ人婦人科医デニ・ムクウェゲさんの活動を追ったドキュメンタリー。武装勢力による組織的な性暴力の背景にあるのは、携帯電話に必要なレアメタルが豊富に取れる鉱山の権益争いです。映画を見て、「遠い国の悲劇が、自分が今手にしている携帯電話とつながっている」という現実に衝撃を受け、知るべきことがこの世界にはたくさんあると思うようになりました。知識を深めれば、これまで素通りしてきた世界情勢も自分に関係する出来事として考えられるようになるかもしれない。もっと勉強したいと思い、JSAPCSに入りました。(越後さん)

高校時代に尊敬していた先生が青年海外協力隊出身者で、経験談を聞くうちに、私も国際協力について学びたいと思うようになりました。大学に入り、国際協力について学べる場を探していたときにJSAPCSを発見し、「まずはいろんな問題について“知る”ことから始めよう」というスタンスに共感して入りました。(林さん)

Q3 活動を通じて何を学んだ? どんなことを得ている?

「広義の平和学」を扱っているだけあって、メンバーの興味関心も幅広く、知らなかったことを知る機会がたくさんあります。みんなで集まってミーティングを行うとき、会ごとに担当メンバーを設け、その人が自分の関心事をみんなに発表する時間があるんです。あるとき、議題に上がったのは「日本のホームレスについて」。そこで、ホームレスの方たちが『BIG ISSUE日本版』という雑誌を作り、その売上金額の一部を自分たちの収入にしていることを初めて知りました。それまで、『BIG ISSUE日本版』を売っている前を通り過ぎることは何度もあったけれど、目に留めて「その雑誌はどうやって作られているのだろう」などと考えることはありませんでした。知識を得ると、通り過ぎていた情報が入ってくるようになり、見える世界は変わるということを実感しました。(野宮さん)

Q4 ズバリ、JSAPCSに入って良かった?

他の学生団体とコラボレーションを組んで、勉強会やシンポジウムを共催することもあり、人のつながりがどんどん広がっていきます。JSAPCSを通じていろんなバックグラウンドの人に出会えることは、貴重な財産だなと思っています。(越後さん)

大真面目に「平和」やそれに関する情勢について議論できる場があることがうれしい。ミーティングの場では、どんな議題を持っていってもディスカッションが始まります。刺激し合える仲間の存在が大きいですね。(松林さん)

Q5 逆に大変だった・つらかったことは?

勉強会や座談会を企画し、実施するまでのタスク管理が大変です。企画を詰める段階でのメンバー間のスケジュール調整から、招へいする講師の方の選定、依頼内容の確定、日程調整までやることがたくさんあります。参加者を募るSNSの文章はどうするのか、当日参加者に配布する資料はどう作成するのかなど、コンセンサスを取りながら、期限までに確実に進めていかなければいけません。みんな大学が別々なので、学校行事が忙しい時期もバラバラ。活動の優先順位も時期によって変わります。こまめにコミュニケーションを取りながら、団体の活動を維持していく大変さを日々痛感しています。(越後さん)

《社会人との出会い・つながり》
OB・OGの方たちが民間企業や官公庁、海外の大学院などさまざまな場所で活躍していて、先輩たちを通じて人脈が一気に広がっていきます。勉強会や座談会を企画し「こんな専門家に来ていただきたいな」と考えていると、OB・OGのどなたかとつながりがあって実現に至ることが多々あり、ネットワークの強さを感じます。(大里さん)

《これから団体・サークル選びをする皆さんへ》
やりたいことだけやって嫌なことはやらなくてもいいのが、大学生の特権だと思います。こんなに自由な時間はない。面白そうだなと思うサークルや学生団体があればどんどん入ればいいし、やってみて違うなと思えばやめればいいんです。やらなければわからないという気軽な気持ちで、行動してみてはいかがでしょうか。(大里さん)

活動内容をよく調べるのも大切だと思います。例えば、同じ「国際協力」をテーマに活動していても、JSAPCSのように議論によって知識を深めることを主な目的とした団体もあれば、長期休暇を利用して海外で数週間活動する団体もあります。物理的に自分は行けるのか、お金はどれくらいかかるのか、海外にはどんな目的で行くのかなどを整理して、身の丈に合ったコミュニティを選ぶといいと思います。(野宮さん)

取材・文/田中瑠子 撮影/臼田尚史

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