「行く」の尊敬語・謙譲語・丁寧語は?就活での正しい敬語の使い方例

就活で多くの学生が苦労するのが、面接やエントリーシート(ES)での敬語の使い方。特に緊張する場面では、丁寧に話そうとすればするほど言葉遣いに混乱してしまった経験がある人も多いことでしょう。実は動詞の中でも「行く」という言葉の敬語表現は、使い分けが難しいものの一つと言われています。

そこで今回は「行く」という言葉の敬語表現とその使い分け方について、元国際線客室乗務員(CA)で人材育成のプロ・美月あきこさんに教えていただきました。

美月あきこプロフィール 美月あきこ(みづき・あきこ)人財育成コンサルタント。CA-STYLE主宰。
大学卒業後、日系・外資系航空会社でCAとして17年間勤務し、人財育成トレーナーとして起業。CA時代に身につけたファーストクラス仕様のサービスを基にした、ユニークな研修手法が好評を呼び、年間180回以上の研修や講演、執筆でも活躍。著書に『スラスラわかる敬語BOOK―こんな時は、こう言おう!』(成美堂出版)、『ファーストクラスに乗る人のシンプルな習慣』(祥伝社)などがある。総合情報サイト All About で「ビジネスマナーガイド」としても活動中。

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「行く」の敬語の種類にはどのようなものがある?

皆さんもご存じの通り、敬語には「尊敬語」「謙譲語」「丁寧語」の3種類があります。まず3つの敬語がどのようなものかをおさらいし、それぞれの「行く」の表現を見てみましょう。

1. 尊敬語

相手の動作や状態に使うもの。
相手や相手の動作、状態などを直接的に高める言い方です。

【「行く」の尊敬語】

  • 行かれる
  • いらっしゃる
  • おいでになる

※このうち「いらっしゃる」「おいでになる」は、「来る」の尊敬語でもあります。

2. 謙譲語

自分の動作・状態に使うもの。
自分がへりくだり、それにより間接的に相手を高める言い方です。

【「行く」の謙譲語】

  • 参る
  • うかがう

3. 丁寧語

自分の話す言葉に使うもの。
それにより話し手が聞き手への敬意を示す言い方です。

【「行く」の丁寧語】

  • 行きます

尊敬語・謙譲語・丁寧語の違い

就活シーン別「行く」の敬語表現。こんなときはどう言う?

【尊敬語その1】志望先企業の社員が「行く」場合は?

  • 御社の○○様は出張へよく行かれますか?
  • 御社の○○様が私の大学へ企業説明でいらっしゃった時に…
  • あの合同説明会には○○様がおいでになったのですね。

志望先企業の社員など目上の人が「行く」ときは、尊敬語を使います。この中では「○○へ行かれる」が一番口にしやすく、誰に使っても基本的に失礼になりません。ただし、それよりも「いらっしゃる」、さらに「おいでになる」の方がよりフォーマルな言い回しになるので、口に出せるようにしておくといいでしょう。

【尊敬語その2】自分の先輩や先生などが「行く」場合は?

  • バイトの先輩が○○へ行かれた時に…
  • ゼミの教授が○○へおいでになりました。

学生時代のエピソードで目上の人の行動について話すときは、身内感覚があるため少し混乱するかもしれません。でもこの場合も、尊敬語を使うのが正解です。それによって「この人は目上を立てる人だな」「先輩・先生を尊敬しているのだな」という印象を持たれることでしょう。

【謙譲語その1】私が…の場合は?

  • 明日8時に、私が御社へうかがいます。
  • 夏休みを利用して実家の北海道へ参ります。

「自分が行く」ときは、へりくだることで相手に敬意を表す謙譲語を使います。このうち「うかがう」は行く先にいる人物を立てる表現。「参る」はその話を聞いている人物を立てる表現で、行く先に敬意を払う相手がいないときでも使うことができます。

【謙譲語その2】自分の身内や親族が…の場合は?

  • 父が4時に貴社オフィスへうかがいます。

主語が身内の場合も、自分がした行動と同じように、謙譲語である「うかがう」「参る」を使います。さらに社会人になっても「上司の田中が御社へ参ります」など、社内の身内の行動について頻繁に使います。

【丁寧語】私が…の場合は?

  • はい、そちらへ私が行きます。

「行きます」は、「行く」という動詞に「ます」を付け加えた丁寧語。相手が目上か目下かに関係なく丁寧に話したいときに使いますが、どちらかといえばカジュアルな表現です。面接の場や、ビジネスでのお客さま・取引先に対しては「うかがいます」「参ります」といった謙譲語を使う方がより丁寧です。

「行かせていただく」はNG?

「行かせていただく」は1度くらいならOK

「○○させていただく」という言い回しは、相手に対して低姿勢な印象を与えるフレーズとして日常的によく使われていますが、「行く」に関して言えば、「行かさせていただく」は「さ入れ表現」と呼ばれ、明らかに文法的な間違いなのでNGです。

「さ」を取って「行かせていただきます」なら間違いではありませんが、決してスマートとは言えません。会話の中で1度なら許容範囲ですが、何度も繰り返されると耳障りに感じる人もいるでしょう。丁寧に話そうとする気持ちは伝わるかもしれませんが、正しい日本語を理解している人に対しては拙い印象を与えてしまいます。

「私が行かせていただきます」ではなく「私が参ります」「私がうかがいます」のひと言に言い換えるのが一番スマートですし、より丁寧に聞こえます。

丁寧すぎてかえって無礼になる「させていただく」の乱用

本来、「○○させていただく」とは、他者の許可を得た上で自分が行動し、それにより自分が恩恵を受けることに対してへりくだる言い回しです。ところが、丁寧に言おうと思うあまり、適切ではない場面で過剰に使われるケースがよく見受けられます。

×:テニス部に所属させていただきました。
○:テニス部に所属していました。

×:御社のサービスをよく利用させていただきました。
○:御社のサービスをよく利用していました。

×:(社外の人に対して)5日間お休みを取らせていただきました。
○:(社外の人に対して)5日間お休みしておりました。

上の2つは、そもそも他者の許可が必要な行為ではありません。3つ目は、自分の上司の承認をもらって休んでいるので、社外の人に対してへりくだる内容ではありませんね。

「~させていただきます」と言っておけば失礼にならないと考え、つい連発してしまう人もいると思います。でも必要以上にへりくだった言い回しは相手に違和感を与え、時には無礼にもなるので注意が必要です。

面接中の学生イメージ

語彙を増やすことで敬語は洗練される

就活生は丁寧に話そうという気持ちが強すぎて、行きすぎた表現になる傾向があります。面接では敬語にとらわれすぎず、言いたいことを的確に伝えることが優先です。その上で正しい敬語が使えるとより良いでしょう。

緊張しても上手に話せるようになるには、やはり語彙(ごい)を増やすのが近道です。もともとの「行く」という言葉から離れて「おいでになる」「参る」といった言い換え表現を使ってみましょう。先輩や先生との日常会話でも、正しい敬語を使うことをぜひ意識してみてください。

取材・文/鈴木恵美子
撮影/鈴木慶子
編集/鈴木健介

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