アイスランドを拠点としてグローバルに展開しているIT系企業に勤務。オフタイムの楽しみは、現地の友人とのバー巡り。日本から家族や友達が遊びに来た際には、大型四駆車で旅行に行くことも多い
同僚の積極的な態度に刺激を受けた
こんにちは。桜山です。今回は、海外駐在で得られる収穫や、そのためにできることについてお話しします。
英語はもともと得意なのと、アメリカに留学して現地の大学を卒業したこともあって、大学1年のころに受けたTOEFL(R)テストでは120点満点のうち89点というスコアを記録。大学卒業後に日本で受けたTOEIC(R)テストのスコアは、945点でした。アイスランドに赴任してからテストの類はまったく受けていないのですが、日本で就職して働いていた間に英語力が後退していたので、そのころと比べて、今は留学時、もしくはそれ以上のレベルまで上達している気がします。
語彙力を磨くために努力したことは、やはり英語で話し、聞くことでした。話す際には、文法や時節の正しさは置いておいて、要点を適切にまとめて伝えることが重要です。ただ、それ以上に大切なのは、「自分はあなたに何かを伝えようとしているのだ」「自分はあなたと話がしたいのだ」という態度を表すこと。「うまく話せないから話さない」という態度は、海外では理解されにくく、「そもそも話す気がないし、私たちに興味もないから話さないのだろう」と思われてしまうようなのです。実際、赴任当初の私も、会議などに参加すると、「まずは学ばせてもらおう」という受け身の態度で、自分が知らない内容や未経験の分野に関しては特に質問もせずにいました。一方、同時期に入った同僚は、果敢に発言していたのですが、えてして的外れな質問だったり、トンチンカンな反論だったりしていたので、内心、「あんな質問をしていて大丈夫なのかなあ」と、ハラハラしながら見ていました。ところが、時がたつにつれて、どうも様子が違うことがわかってきたのです。彼の方が、会議中に発言を求められたり、「興味があるなら、やってみるか」と新しい企画に参加させてもらえたりと、高く評価されるようになっていったからです。その経験から、私もなるべく機会をとらえて発言しようと心がけるようになりました。
日本人の交換留学生を見ていても同様で、成績はトップレベルなものの、ほかの交換留学生と距離を置いて生活していた学生は、帰国時にアイスランドの生活について感想を聞いても、「まあ、ある程度予想していた通りでした」とあまり手ごたえを感じていなかった様子。そんな彼とは逆に、英語は決して得意ではないものの、持ち前のオープンで積極的な性格で、誰とでも隔たりなく接していた学生は、現地の学生たちからも絶大な人気を得ていました。そんな様子を見ていると、やはり発言の内容や正確さよりも、相手とかかわろうとする積極的な姿勢こそが求められているのだと思います。
自由な学生時代に何をするかが重要
アイスランドで働くことで、私自身、社会人として、そして人間として成長したことを実感しています。自由な環境の中で自分自身を律する大切さを学べたからです。「わからないことがあれば、遠慮せずに質問したり、確認してもいい。むしろそうするべき」ということを身をもって知ることができたのも、貴重な経験でしたね。加えて、自分の英会話スキルが、海外の仕事の場面で十分通用するレベルに達しているという自信もつきました。留学時にも英語は使っていましたが、仕事となるとやはり別問題だと考えていたからです。
在留許可や税金の申請など、生活する上で必要な手続きを、ほぼ自力ですべてこなしている点でも、自分の成長を感じますね。英語のスキルに関しても、ビジネスの場面で使えるあらたまった話し方や、相手を怒らせずに反論する方法、相手の怒りをなだめる言い方などが身につきました。英語は、日本語に比べてストレートではありますが、そうは言っても、語句や文法の使い方によって、相手に与えるイメージがだいぶ違うことがわかってきたからです。
ときに真剣に本音を言い合い、ときにふざけて笑い合える同僚や上司が得られたことは、私にとってとてもラッキーだったと思っています。こうしたオープンな環境は私の性格にとても合っていて、このような職場で働けることは、そうそうあることではないように思えるからです。
海外での仕事を楽しめるかどうかは、個人差があると思います。こちらで暮らしていると、「自由」とそれに伴う「責任」には、仕事だけではなく一般生活の中でも直面します。この場合の「責任」とは、「仕事をしっかりとしないといけない。さもなければクビになる」という単純なものではなく、今、自分が「自由」の中でとっている行動が、果たして未来の自分自身に対して「責任」を負った上でのものなのか、という意味合いだと考えてください。学生のうちは特に、社会人に比べて時間があり自由があると思います。だからこそ、その間にその自由の中で何をするのか、すべきなのかを考えてみましょう。そのときに「最低限のことをやっていれば良いだろう。後は自分の好きなようにやる」というふうに考えてしまうと、せっかくの学生時代を十分にのちの人生に生かすことができません。私自身、それほど高い理想を掲げていたわけではありませんでしたが、海外では海外ならではの苦労があることや、ときには自分のやり方を変えなければならないことも覚悟した上で臨んでいましたよ。
海外で働く場合は、その国の文化だけではなく、日本の文化についても理解を深めておくことが大切です。仕事以外で現地の人々とコミュニケーションする際に、非常に役に立つからです。アイスランド、そして海外には、日本に興味を持っている人が想像以上に多くいます。日本についての話題が豊富であればあるほど、盛り上がることができるでしょう。なにしろ、日本にも良いところはたくさんあるのですから。だからこそ、アイスランド生活をエンジョイしている私でも、たまに日本に帰りたくなるのです。ただし、日本でしか体験できないことがあるのと同じように、海外には、日本では経験できない楽しみを見つけることができます。海外ならではの楽しさを経験したい人は、ぜひとも海外生活や海外駐在に挑戦してみてほしいと思います。
レイキャビクにあるハットルグリムス教会は、74.5メートルもの高さがあり、アイスランドで一番高い教会となっている。教会前の広場には、アイスランド生まれのバイキングだったレイフ・エイリクソンの像。アメリカ大陸をコロンブスよりも前に発見したと言われている。
レストランで出てきたクジラ肉。クジラの肉を食べるのは、日本人だけではないことにビックリ。
右側にある四角い塊ははクジラの脂身で、フォークに載っているのは羊の睾丸と、実にバラエティに富んだ食材たちに、アイスランドの食文化の奥深さを実感する。
レイキャビクにあるタイ料理レストラン。エスニック・レストランの中では、タイ料理の店がダントツに多い。
構成/日笠由紀