シンガポールにある日系メーカーの営業拠点に勤務している。休日の楽しみは、シンガポール川沿いの倉庫跡地を再開発した観光スポット「クラークキー」のカフェで昼間からビールを飲むこと。
よく聞く言い回しをメモして自分でも使ってみる
こんにちは。ベコです。今回は、日本人駐在員の役割などについてお話ししたいと思います。
私自身は、もともと帰国子女だったこともあり、海外転勤には抵抗ありませんでした。むしろ、チャンスがあればぜひ行きたいと考えていたので、人事から海外赴任の打診があったときは、またとない機会だと喜び、即座に手を挙げました。
英語のスキルに不安がないわけではありませんでしたが、外国人に囲まれる環境には慣れていたこともあり、なんとかなると楽観していました。赴任してから気をつけていることは、とにかく積極的に英語を話すこと。家の中は日本語ですが、それ以外は、街中でもタクシーの中でも、積極的に英語で話をするようにしています。タクシーの運転手には話し好きな人が多いので、少し話しかけると、天気の話や道路の話、場合によっては仕事の話や、運転手が日本を旅行で訪れたときの話などにまで話題が広がります。基本的に私の方からは特に話題は選びません。
子どもを連れてスーパーに行ったときは、レジの担当者に「先にお菓子をスキャンしてくれる?」と頼んだりすることもあります。重い品物ばかり買った日には、「自分で運ばなくちゃいけないから大変だよ~」とこぼしたりして、なるべくコミュニケーションを図るようにしています。
人が使っている言葉で、「おっ!」と思ったものは、意味を調べてメモしておき、その後、実際に自分でも使ってみたりもしています。「~point of view」という言い回しも、皆がよく使っていたので真似して使い始めました。自分の立場や部署の意見として発言する際に、「~point of view」はとても便利な言葉なのです。Suggestion(提言)やReference(参考意見)という感じでしょうか。例えば、「As per our discussion, we decide to proceed like this. But company point of view, we should stop and reconsider.(これまでの私たちの話し合いにしたがって、このように進めることにしましょう。会社としては、いったん中断して再考しなければならないところですが…)」といった具合です。あとは、初対面の人に対する気の利いた言葉や、目上の人に対する尊敬の念を示した言葉をもう少し覚えたいと思っています。
海外で仕事をする中でわかったことは、なにごとも、いい意味で“いい加減に”仕事をすることが必要だということ。余裕のない状況になってしまうと、イライラして事がうまく運ばなくなるからです。「世の中にはいろいろな人がいる」ということを知ったという意味では、視野が広がったとも言えるでしょう。
働きやすい職場環境を整えるのが駐在員の役目
前回も触れたように、今、シンガポールは建設ラッシュ。経済は成長を続けており、人材確保が非常に大変だと聞きます。その理由の一つは、シンガポール人の雇用を確保するために、政府が外国人の駐在を制限していること。また、スキルや経験を備えた人材は、より高い給与を提示した企業に行きたがるので、優秀な人材を得たければ、それだけの給与を用意しなければならないことも挙げられるでしょう。こんなとき、日系企業と違って海外の企業は、「ヘッドハンティング」という言葉に象徴されるようなやり方で、技術を持った人を確保することで競争力を手に入れようとします。しかし、そのような有能な人に出会えるのは非常に稀(まれ)な上、高い給与に惹(ひ)かれて入社した人は、さらに高い給与を提示されれば、また別の会社に移ってしまう傾向があります。
したがって、日系企業が優秀な人材を確保しようとするときには、「この会社にいたい」「この仕事をやりとげたい」といった気持ちを共有してもらえるような、働きやすい職場環境を整えたり、私たちの熱意を伝えたりする努力が必要になると思います。それが、私たち日本人の駐在員に課された使命なのではないでしょうか。
こうした使命を果たすためには、自律的に仕事を進めることができる“馬力”と我慢強さ、強い信念を持つことが大事だと思います。それと同時に、「仕事は仕事、プライベートはプライベート」とメリハリをつけて、うまく気持ちを切り替えるようなコントロールができるといいでしょう。さまざまなバックグラウンドを持つ人たちと仕事をする上では、その人を理解することも必要ですが、それと同時に、相手の考えや状況に過度に流されずに冷静に判断することも大事だと思います。
将来、海外で仕事をしたいと考えている学生の皆さんに言いたいのは、まず日本人以外の人々に対して、ビビらないでほしいということ。また、海外で仕事をしていると、多くの場面で日本人としての立場から発言するチャンスがあるので、普段、何気なくとっている行動や、自分がどういう人々に囲まれて生きているのか、自分の立ち位置などを、客観的に見ることができる視点を身につけておきましょう。そうすることで、海外の文化に身を置いていても流され過ぎることなく、いろいろな場面で必要に応じて自己修正ができるのではないかと思います。
シンガポール名物のリゾートホテル「マリーナベイ・サンズ」を下から見上げた情景。建物の上に空中庭園が載せられている。
シンガポール・アート・ミュージアム。東南アジアの近代芸術作品や、国際的な現代アートの作品が展示されている。
シンガポール内の観光名所を効率よく回れる2階建て観光バス。「HOP ON HOP OFF」とは、どこで乗り降りしてもOKという意味だ。
バスの中には、このような連結バスも。一度に大量の乗客を運べる点で画期的だ。
アルビレックス新潟シンガポールの試合風景。シンガポールにおける国内プロサッカーリーグ「Sリーグ」では現在6位(2014年6月17日現在)。
シンガポールに建てられている公営住宅。シンガポール住宅開発局(Housing & Development Board、通称:HDB)が管理するため、「HDB」とも呼ばれる。
構成/日笠由紀