【マレーシア編】現地の慣習を尊重するのがマレーシアでの仕事術

Reported by ナシアヤム
マレーシアのクアラルンプールにある日系企業出資の合弁会社に勤務。現地での楽しみは、スパ巡りとフットサルなどのスポーツ。週末には、近隣国を訪れてリフレッシュすることも。

時にはスタッフのサボりに付き合う

こんにちは。ナシアヤムです。マレーシアのクアラルンプールにある日系企業出資の合弁会社に勤務しています。

同僚の約8割はマレーシア人ですが、その内訳は、マレー系マレーシア人約3割、中華系マレーシア人約3割、インド系マレーシア人約2割と、いかにも多民族国家マレーシアらしい構成となっています。残りの約2割は日本人となります。

取引先や顧客では、インド系マレーシア人が約5割、中華系マレーシア人とマレー系マレーシア人がそれぞれ15パーセントずつで、やはり日本人は約2割です。仕事で使う言語は、英語が約6割で、日本語が約4割。日系企業の対応も多いので、その際は日本語を使うことになります。なお、マレー語は、あまり使う機会がありません。マレーシア人の多くが、英語が堪能なためです。タクシードライバーも英語が話せます。

現地のスタッフたちには、日本のように「約束の時間の10分前に来る」というような習慣はありません。8時出社の16時40分退社が定時ですが、8時に出社してきても、その後どこかに行ってしまいます。どこに行っているのかというと、なんと屋台などで朝食を取っているのです。それから職場に戻ってきて、ようやく仕事を始めるスタッフが多いので、初めは戸惑いました。

いったん出社したのに朝食のために外出するなど、日本では考えられないことですが、こうした彼らの文化や慣習を否定しても始まりません。むしろ、たまには彼らと一緒に抜けて、彼らと朝食を取ったりランチに行ったりして、コミュニケーションを取るようにしています。

なぜかと言うと、現地スタッフの中には、日本人に対して、「高い給料をもらって、専用のドライバーがついていて、良い所に住んでいるいけすかない奴(やつ)」と不満を抱いている人も少なくないからです。そんな彼らに「上から」指示をしたりすると、一気にお互いの距離が離れてしまいます。したがって、仕事のときこそ上下関係がありますが、「それ以外は一緒だよ」というメッセージを送り、彼らに受け入れてもらわなければなりません。そのためには、「日本人らしくない」ふるまいをする必要があるのです。

私は、一緒に職場を抜け出して朝食を食べるだけではなく、「スタッフがよく行く屋台に付き合って、1食30~40円のものを一緒に食べる」「勧められた脂っこい食べ物も頑張って食べる」「出張先で同じホテルに泊まる」といったことも心がけています。こちらが食事をおごるだけでなく、「たまにはおごってよ」と屋台でご馳走(ちそう)してもらうことも重要。仕事を離れれば対等ということを印象付けるわけです。

すると、向こうからランチや朝食、たまには夕食にも誘われたりするようになりました。親しい関係になったことで、指示も素直に聞いてくれるようになり、仕事がしやすくなりました。日本人同士が、夜、一杯飲みながら関係を密にするのと同じかもしれません。

マレーシア人の感覚を尊重する

また、Japanese Way、すなわち日本流のやり方は、必ずしも受け入れられないことを認めることも重要です。日本流のモノづくりや日本製品、サービス、和食などの文化や歴史・伝統など、日本のものはほとんどがマレーシアの人々や社会に受け入れられていますが、日系企業の仕事の進め方は例外。上司が部下に細かく進捗を確認するのは、日本では当たり前のことですが、マレーシアで同じことをすると、彼らに「監視されている」という印象を与えて、窮屈な思いをさせていることがわかりました。

そこで私は、日本人とマレーシア人を比較しないように、普段から気をつけています。日本に生まれ、日本で育ち、日本で暮らしていると、ついつい日本の生活が当たり前だと思ってしまいがち。そのため、人々がのんびりしているマレーシアでは、ついイライラしてしまいますが、実は日本の方が特殊なのです。

それに気づいたのは、ある時、現地人の上司からその点を指摘されたからです。「日本の本社からの指示で、こういうものがすぐに欲しい」と頼んだところ、「ここはマレーシアだ。出て行け」と言われました。本社が必要だと思ってオーダーしたことでも、現地の人々は「メリットがないことを、なぜやるのか。日本人は不要な仕事を作って、それを私たちにぶつけてくる」と受け取るようです。

それ以降、「日本の生活が当たり前」という考えをいったん捨てて、現地に流れる時間や生活、慣習を尊重し、楽しむように努めました。日本と違ってうまく行かないことに苛(いら)立っても仕方がないこと、日本とマレーシアを比較するのはそもそもナンセンスであることを認め、日本にいた時と同じ感覚で仕事を進めようとせず、心にゆとりを持つことを心がけるようにしました。

そうすると、仕事の進め方も変わってきました。例えば、日本側の都合で急ぎの依頼をするときなどは、初めから腹を割って話し、自分はあくまで味方であることをアピールすることが重要。まず、「本社がこんなことを丸投げしてきたんだ」と自分も相手と同じ側にいることを強調した上で、「仕方がないから、自分でここまで埋めてみた。そうしてあなたの負担を減らしたんだけど、ここだけはあなたにお願いできないかな?」と頼むのです。このように、自分が相手の立場だったらどうかと考えて先回りし、できることをやった上で頼めば、「お前も大変だな」と同情して、引き受けてくれることが増えました。

なお、マレーシアの人々は、仕事に対しては普通か、あるいはそれ以下の力しか注がない傾向がある一方で、イベントごとやスポーツの大会などには、常に全力投球です。普段は眠そうにしている社員も、スポーツ大会になると、大声を出して真剣に勝負を争っており、その姿を見ると、思わず「おいおい、仕事にもそのくらいの真剣さで取り組んでくれよ」と心の中でつぶやかずにはいられません(笑)。日本ではすっかり珍しくなった社員旅行も、マレーシアではまだまだ健在で、皆でおそろいのポロシャツを着て旅行先を闊歩(かっぽ)したり、観光スポットで自撮り写真を撮ったりと、大はしゃぎ。そんな無邪気な姿を見ると、私もうれしくなりますね。

次回は、マレーシア社会の独自性についてお話しします。

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普段の夕食。外食先で総菜をTake away(持ち帰り)したり、自分で作ったりしている。

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同じく普段の夕食風景。アボカドとサーモンを巻いたカルフォルニアロールや納豆巻は、上司夫人からの差し入れ。

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これも普段の夕食。日系スーパーの「イオンビッグ」なら、豆腐などの和食材も手に入る。

構成/日笠由紀

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