坂東 眞理子さん(昭和女子大学 理事長)の「仕事とは?」

ばんどうまりこ・1946年富山県生まれ。69年、東京大学卒業、総理府(現内閣府)入省。内閣総理大臣官房広報室から青少年対策本部の『青少年白書』執筆アシスタントを経て、婦人問題担当室(現男女共同参画局)設置とともに32歳で日本初の『婦人白書』を作成。カナダと米国・ハーバード大学に留学後、総理府老人対策室。95年、埼玉県副知事に任命され、3年後には女性初の総領事として在豪州ブリスベン日本国領事、01年内閣府男女共同参画局長を務める。2003年、昭和女子大学理事、04年教授、05年副学長を経て、07年より学長、14年より理事長を兼務。16年、学長を退き、理事長専任に。執筆活動にも力を入れ、おもに女性をテーマとした著書多数。中でも『女性の品格』は300万部を超える大ベストセラーとなった。

自分にできること、役に立てることは何かを考える

官僚を辞め、昭和女子大学の理事となったのは2003年。57歳でした。振り返ってみますと、私にとって最も大きなキャリアの転機だったと思います。総理府(01年に内閣府に統合)で男女共同参画室長を務めたり、女性をテーマにした本を書いてきた経験を見込んでいただいたのでしょうか。「女子大学のこれからを一緒に作っていってほしい」と当校関係者から依頼を受けたのが始まりでした。

30年あまり社会人として歩んできた経験から、当時の私には「社会が女性に求めるものが変わってきている」という実感がありました。私が社会に出た1960年代は「家庭で良き母、良き妻であることが女性の幸せ」と多くの人が考えていた時代。女子大学にも「良妻賢母型」の人材を育てることが求められていました。でも、今は日本経済も不安定で男性ひとりで家計を支えにくくなりましたし、離婚率・非婚率ともに増加しています。女性も社会的に自立する力を持たないと、生きにくくなっているのです。

では、社会で自立していくために最も必要な力は何かというと、自ら考え、行動していく力。言われたことをきちんとやることももちろん大事ですが、テクノロジーの進歩でルーティンの仕事ならコンピュータの方が上手にこなすものも増えました。社会で必要とされ続ける人材になるには、言われなくても自分で考え、行動していく力を備えなければいけません。女子大学の教育に携わることで、そういう人材を育てるお手伝いができたらと新しい世界に飛び込みました。

当時の当校には「良妻賢母型」の人材教育が根強く残っており、また受験生が減少したこともあり、多くの職員や教員に「これまで通りの教育では、社会の変化に対応できない」という危機感を持っていました。そこで、皆さんと協力してキャリア教育を充実させ、良妻賢母教育のイメージからの脱却を図ることに取り組みました。学内には年配層を中心に「女性が無理に働き続けなくてもいいよ」という考えの方たちももちろんいましたが、その考えを真っ向から否定するようなことはしませんでした。大事にしてきた伝統を「今日から変えましょう」というようなことを人は簡単にはできません。「これからの女性が幸せになるには、キャリア教育も大事なんですよ」と少しずつ伝えつつ、自分のできることからやって、周囲の理解を得るしかないと考えていました。

ですから、最初に手をつけたのはカリキュラムや人事といったコアな部分ではなく、周辺分野でした。例えば、公務員時代に培った行政の知識を生かして、世田谷区と連携し保育所(現在はこども園)や子育て広場(育児中の人たちが集える場所)の機能を備えた「NPO昭和」を立ち上げ、ボランティア活動を通して学生たちが地域で活動しながら学べる場を作りました。また、学生に国内外のボランティア活動や体験プログラムの情報を提供する「コミュニティーラーニングセンター」も学内に設置。こちらも地域や団体と連携して活動することで地域に受け入れられ、当大学の新たな挑戦を皆さんに広く知っていただくことができました。

07年学長に就任してからは1学部、3学科を新設することによってグローバル教育を充実させたり、身につけられる技能を明確に打ち出し、受験生が徐々に増加。10年には全国の女子大学(卒業生1000人以上)中、就職率がトップに。現在も5年連続トップを維持しています。高い就職率の背景として大きいのは、学部内にキャリア支援担当の教員を置き、キャリア支援センターの職員と連携して学生の就職をサポートしてきたこと。当初はキャリア教育に携わることに抵抗感のあった教員の方々も、今では協力をしてくださるようになってうれしいですね。受験者数や就職率の増加といった実績を示すことで、改革の効果を実感してもらうことができたんだと思います。

新しい環境で何かを変えたいと思うと、多かれ少なかれ、抵抗はあります。では、どうすればいいのかというと、端っこの方でちょろちょろっと新しいことを形にするのがコツなんです(笑)。確立したものを根本的に変えようとすると、もとからそこにいる方々にとっては自分のやってきたことを否定されたように感じて抵抗が大きくなる。ところが、端っこの邪魔にならない場所で何かをやり、それがちゃんと機能すると、周囲から受け入れられるようになります。

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仕事はいいことばかりじゃない。自分の醜さを痛感させられることもある

私が大学を卒業したのは1969年。若い方たちには想像できないかもしれませんが、民間企業のほとんどが大卒女性に門戸を閉ざしていた時代でした。途方に暮れていた時、総理府(01年に内閣府に統合)が女性をひとり募集していることを教えてもらい、運良く採用されました。

入省後、最初の1年間はお茶くみやコピー取りといったアシスタント業務からスタート。それでも、仕事をさせてもらえることがうれしくて前向きに取り組み、任される業務もそれなりに広がりました。ただ、自分のやりたいことが明確にあったわけではありませんし、26歳で出産後は思うように仕事ができず…。「自分には何もできない」という思いに駆られ、苦しい時期が続きました。

だからといって、何の技術もない自分に再就職なんてできそうにないし、専業主婦としてやっていける自信もない。職場で認めてもらいたくて、自分にできること、役に立てることを常に考えるようにしていました。例えば、27歳で青少年対策本部に配属された時は、みんながあまりやらない匿名の原稿書きを空き時間に自分から引き受けてやっていたんですね。そのうちに文章を書く仕事が回ってくるようになり、『青少年白書』の執筆にアシスタントとしてかかわることに。その後、29歳で新設の『婦人担当問題室』に異動。『青少年白書』の経験を基に自ら提案し、32歳のときに日本初の『婦人白書』を完成させました。この時取材を受けたのがきっかけで出版社から「本を書きませんか」と声をかけていただき、プライベートで執筆活動をするようになりました。

「書く」という自分の武器を見つけ、ようやく「自分にも何かができるかもしれない」と思えるようになりましたが、それからも新しいことに挑戦するたびに自分の足りないところを思い知らされ、落ち込んでは努力してかろうじて壁を乗り越えてきました。今でもことあるごとに「自分はまだまだだな」と思わされます。

20代のころは「自分の能力を発揮できる、楽しい仕事がしたい」と思っていました。キラキラとした「いい仕事」がどこかにあるんじゃないかという気持ちがあったんです。でも、仕事というのはいいことばかりではありません。どの仕事にもいいこともあれば、大変なこともある。苦労をしたり、「私って嫉妬深いな」「私って意外と怠け者だな」と自分の醜さを痛感させられて、イヤになってしまうこともある。「自分を成長させてくれる仕事」なんて素敵なものはこの世に存在しないんです。大変なことが起きたときに、自分がどう向き合い、何を得るか。仕事で成長するというのはそういうこと。そして、人は仕事をして初めて自分が何者かがわかってくるものだと思います。

私が仕事から得た一番の宝物は「できることから一歩ずつやることが、何かを変える」と学んだこと。例えば、「女性が働きやすい世の中にしたい」と理想を語っても、行動しなければ何も変わりません。でも、皆さんが会社に入って、育児中の先輩が子どもの急な発熱で早退しなければいけないときに、「早く帰ってあげてください。私がフォローしますから」と言うことができれば、それは世の中を変えているんですよ。世の中を変えていくのは大統領や総理大臣といった「偉い人」じゃない。あなた自身だということを忘れずに、社会で活躍していっていただけたらと思います。

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INFORMATION

坂東さんの著書『働く女性が知っておくべきこと グローバル時代を生きるあなたに贈る知恵』(角川書店/定価780円+税)。企業がグローバル化し、個人のライフスタイルも多様になった今、社会で活躍するために必要な力は変化してきている。「一般的な大学生活を送っている女子大生に、キャリアを追求してきた叔母がアドバイスする」という構成で、これからの時代に自分の生き方を自分で決めて生きていくための秘訣(ひけつ)を伝授する。女性だけでなく、男性にも役立つ内容だ。

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取材・文/泉彩子 撮影/刑部友康

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