「長時間労働」「ノルマが厳しい」など、大変そうなイメージが付きまとう人手不足業界。なんとなく「避けておこう」と考えている人も多いのではないでしょうか。ところが、よくよく調べてみると、人手不足の業界や企業にこそ、活躍のチャンスが広がっている場合があるというのです。人手不足業界・企業の可能性について、雇用ジャーナリスト・海老原嗣生さんと、採用のプロ・曽和利光さんにうかがいました。
どんな業界が「人手不足業界」なのか?
そもそも、どの業界が人手不足なのでしょうか?リクルートキャリアが発表した2018年12月末時点の業界別転職求人倍率によると、上位3業界は、コンサルティング業界(5.59倍)、インターネット業界(3.21倍)、建設・不動産業界(2.65倍)で、前月(11月)と比べて求人数が増加した上位の業界は、1位:人材・教育業界、2位:IT通信業界、3位:外食・店舗型サービス業界でした。
■業界別転職求人倍率(2018年12月末時点。前年同月、および直近6カ月間)
1年前、および過去半年間の求人倍率を見たところ、1倍を切っている業界もあるものの、多くの業界で人手不足であることがうかがえます。
人手不足業界・企業というと、「求人に対してなかなか応募者が集まらない不人気業界・企業」と受け止められがちですが、採用のプロ・曽和利光さんは、「人手不足企業にも2種類ある」と話します。
「1つは、ニーズのある事業を行なっている、いわゆる成長産業だがその将来性が十分に認知されておらず、採用が必要数に追いついていない企業、もう1つは、成熟し過ぎていて将来性が見込めなかったり、魅力に乏しいために、人が集まらない企業です。入社後の活躍が見込めるのは、前者の事業が成長している企業。さらに、同じ業界でも、前者と後者が混在していたりします。どちらに当てはまる企業なのかを見極めることが大事です」
人手不足業界・企業に入るメリットとは
成長中の人手不足企業で働くメリットには、どのようなものがあるのでしょうか?雇用ジャーナリスト・海老原嗣生さんが、2点挙げてくださいました。
1. 自分の特技が生きる可能性がある
「例えば、中国語が得意でも、人材豊富な人気企業に入った場合、そう簡単に中国赴任は任せてもらえないでしょう。しかし、人手不足企業は、文字通り『選手層が薄い』状態ですから、『中国語ができる人はいない。あなたがすぐに行ってくれ』と任せられる可能性があります。バッターボックスに立てる回数が増える、と捉えてもいいでしょう」
2. 不景気になって優秀な人材が入社すると、大きく事業が伸びる&彼らの先輩になれる可能性がある
「就活生にはまだピンとこないかもしれませんが、世の中は常に、好景気と不景気とが順番にやってきます。今は好景気ですが、将来いつか不景気になると、それまで積極採用を行なっていた企業の中にも採用を控える企業が出てきます。そのため、人手不足企業に、それまで採用できなかったような人材を採用するチャンスが巡ってくるのです。そういった企業に、景気回復とともに爆発的に成長した企業が過去にはいくらでもあります。
裏を返せば、(今のような)景気の良いタイミングのときに、将来性のある“人手不足”の企業に入っておけば、この後、景気が落ち込んだときに優秀な人材の『先輩』として働くことができるし、その後の企業の成長に乗って、自分自身もより広いステージで活躍できる可能性もあるということです」
業界ごとに「良さ」がある:流通・サービス業、飲食業の場合
また、「業界ごとに詳しく見ていくと、意外な『良さ』が見つかる」と海老原さんはいいます。人手不足業界を語るときにしばしば名前が挙がる流通・サービス業と飲食業を例に、良さを4つ教えていただきました。
1. 働き方がホワイト化している
「流通・サービス業や飲食業に応募者が集まらない理由として圧倒的に多いのが、『労働時間が長いから』です。しかし、これらの業種では、今、急速に労働時間や働き方が見直されています。人手不足だからこそ、働き方を改善しなければ従業員が離れていってしまいます。だから、どんどん改善されています。業界全体に先入観を持たずに、調べてみてください」
2. 店舗勤務を終えた後の昇進スピードが速い
「新人の配属や育成のプランが大まかに決まっている企業の中には、『5年間は店舗勤務』など、入社後数年間の現場経験を基本形としている企業は少なくありません。この「現場の仕事」を避けたがる就活生も多いようですが、その先に目を向けてみましょう。30代の役員がざらにいて、現場を抜けた後の昇進スピードの速さは他業種に比べると圧倒的なのがこの業界です」
3. グローバルな人脈をつくることができる
「流通・サービス業や飲食業各社は、人手不足を補うため、留学生をはじめとした外国人採用に積極的です。例えばある回転寿司チェーンでは、『回転寿司のオペレーションを学んで、自国で出店したい』という意欲ある外国人を多数採用しています。そういった企業に入れば、事業に本気の外国人との人脈をつくることもできますし、語学力がある人はそれを生かすこともできます」
4. AIなど省力化技術への投資と最先端の取組みを行っている
「人手不足の中で事業を行うには、省力化や効率化がカギ。AIやIT、ロボットの導入や、これらの技術に対する投資が進んでいるのも、流通・サービス業や飲食業の特徴です。例えば、飲食業において、「注文は来店客がタブレット端末で行う」というオペレーションはすっかり定着しています。最近ではそれにとどまらず、調理ロボットの導入や食器の回収・洗浄のオートメーション化など、省力化につながる技術はどんどん取り入れ、人は人にしかできないところに注力することに取り組んでいます。こういった最先端の取り組みを間近で見ることができるというわけです」
最後に、海老原さんは次のように補足してくださいました。
「例として流通・サービス業および飲食業を紹介しましたが、このほかの人手不足業界についても調べてみるとそれぞれに良さが見つかり、『この業界は自分には合わなそうだけど、こっちの業界なら自分に合っているかも』と思える場合があります。しかも、目指す人が少ないわけですから、その業種の良さを高い確率で享受することができるでしょう。自分が『合っている』と感じる業種でなら、働いていても楽しいはずですし、実力を発揮できて、自身の成長も期待できるでしょう」
入社後成長できる、人手不足企業の見極め方
では、入社後成長できる、あるいは活躍できる人手不足業界は、どのように見極めるとよいのでしょうか?企業の採用・人事に詳しい曽和利光さんは「業界としてひとまとまりで見るのではなく、一つひとつの企業について『事業が成長しているかどうか』『社員を大事にしているか』の2点を見てほしい」と話します。
視点1:事業が成長しているか
「事業が成長しているかどうかは、収益を見ればわかります。直近10年分の売り上げや利益の推移に注目するとよいでしょう。伸びていれば、成長の最中にある企業だと判断できますし、停滞していたり、減っていたりすれば、後者の企業と判断できるでしょう」
視点2:社員を大事にしているか
「人手不足企業は、人を大事にしなければさらに人手不足に陥りますから、基本的には『社員一人ひとりを手間暇かけて大切に育てる』というスタンスの企業が多いですが、残念ながら、中にはそうでない企業もあるので、注意しましょう。
また、この視点の発展形として『何によって人手不足を解消しようとしているか』という点にも注目するとよいかもしれません。ITやロボティクスなどの導入により生産性の向上にどんどん取り組み、人には人にしかできない仕事を担わせるようにしている企業には期待できますが、採用の基準を下げて日本人・外国人を問わず安い労働力を求めるなど、生産性向上の努力をせずに対症療法的な対応に終始している企業は、人を使い捨てる可能性があります。慎重に見極めてください」
「皆が避けるから避ける」ではなく、一度情報収集をしてみるのも手
このように、詳しく情報収集していけば魅力を感じられたり、「合ってるかも」と思える点が出てきたりする可能性がある人手不足業界・企業。「皆が避けているから」となんとなく避けるのではなく、一度調べてみてはいかがでしょうか?
最後に、海老原さんと曽和さんからメッセージを頂きました。
自分に合っている企業なら、人気・不人気を問わず実力を発揮できる(海老原さん)
「企業選びの大前提は、『自分に合っているかどうか』です。合っていれば実力を発揮できるし、得られるものも大きい。人手不足企業を見るに当たっても、『皆が避けているから』『人気がないと言われているから』などと表面的な情報だけで捉えるのではなく、『自分には合っている』と思える働き方や環境があるかもしれないと思って、徹底的に調べてほしいですね。同じ業界でも、企業ごとに社風も異なりますし、例えば同じ人手不足という問題を解消するための手の打ち方も、それぞれに違うはずです。そういうことは、実際に尋ねてみないと本当にわからないものです。手間を惜しまず、自分で実際に見て、考えてみてください」
逆張りすることで、人材市場での自分の価値が高まる(曽和さん)
「人材市場において、自分の市場価値を高めるには、希少性を持つことが重要とされています。その希少性をどうやってつくるかというと、よく言われるのは、『クロス』か『逆張り』です。『クロス』というのは、複数の専門性ないし技術、経験を掛け合わせること。『逆張り』とは、『皆が行かないところに行く』ということです。
人手不足企業への就職はまさに『逆張り』です。その効果として大きいのは、海老原さんもお話しされていますが、昇進・昇格のスピードが速いということです。転職市場に、もし、同じ30歳で『人気企業で係長』という人と、『人手不足企業で部長』という人がいた際、市場価値が高いのは人手不足企業の部長です。数十人、あるいは数百人、数千人の『部』のマネジメントを行うという経験は一つの専門性ですし、課長には課長の、部長には部長の市場というものが存在しますから、部長という市場においても、30歳の部長経験者は希少で、価値の高い存在となり得るのです。
このように、人手不足企業という競争相手がさほど多くない環境に身を置けば、昇進・昇格の機会も豊富ですし、上のポジションに就けば実力に転化していきます。『逆張りを狙ってみようかな』と思った人は、ぜひ人手不足企業に挑戦してほしいですね」
取材・文/浅田夕香
撮影/鈴木慶子(海老原さん)、刑部友康(曽和さん)
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