大事なのは、“恥をさらすこと”!?勝地涼さんに聞いた自己PRの秘訣

勝地涼さん写真

プロフィール 勝地 涼(かつぢ・りょう) 1986年、東京都生まれ。2004年、『シブヤから遠く離れて』で初舞台。05年の映画『亡国のイージス』で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。以降、ドラマ・映画・舞台など幅広く活躍。シリアスからコミカルまで幅広い演技力に定評がある。近年の出演作に宮藤官九郎脚色・演出の舞台『ロミオとジュリエット』(18)や映画『食べる女』(18)など。今年はNHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』や映画『マスカレード・ホテル』に出演中。

3月9日から始まる岩松了さん作・演出の舞台『空ばかり見ていた』(https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/19_sorabakari/)に出演する勝地涼さん。稽古が始まったばかりの2月上旬に、稽古のことや舞台にかける思いをうかがいました。今やドラマ・映画・舞台に欠かせない顔である勝地さん。いい状態で30代をまい進する今、これまでの葛藤や転機について振り返ってもらうと――。

「やってみないとわからない」のが稽古の面白さ

―舞台デビューは、岩松了さん作・蜷川幸雄さん演出の『シブヤから遠く離れて』。劇場は今回と同じシアターコクーンでしたね。

そうです、17歳でした。舞台を好きになったのは蜷川さんと出会ったおかげでもあるし、舞台で初めて発したのが岩松さんのせりふだったというのも、すごく大きなことだと思っています。だから今回、『空ばかり見ていた』で岩松さん作・演出の作品に出られるのが感慨深いです。

―岩松さんの作品は、せりふがすてきですね。

きれいですよね。読めば読むほど味がしてくるというか。最初に読んでも、すぐにはわからないけど。「え?」って聞き返したり、同じことを何周か繰り返したりする会話が出てきたり、人間らしくて面白いんですよね。あと、誰かが話していて、話題が急に変わったりするじゃないですか。

―私たちの日常によくある、ちょっとした面白さがすくい取られていますよね。

そうなんです。稽古もすごく楽しくて。例えば、ダメ出しをされるときの、岩松さんの言葉のチョイスがすごく好きなんです。

―例えば、どんなことですか?

「今の言い方だと、生理で言っているだけだから、相手のせりふをちゃんと受けて」とか。

―感覚でなんとなく言わないで、と。

そうです。相手のせりふをちゃんと気持ちで感じて、それを受けて自分のせりふを言ってほしいって。そういう基本的なことを大事に言ってくださるんです。「(せりふを言うときに)体に負荷をかけてくれ」とか。

―そのせりふが発されるだけの感情を、実際に体で感じて言ってほしいってことですか。

そうです。蜷川さんもよくおっしゃっていました。蜷川さんはもっと荒々しくて、「(せりふを発するだけの)痛みを(実際に)感じろ」と髪の毛を引っ張っられるんですけど(笑)。やっぱりせりふって簡単には吐けないんです。だから稽古も本番も疲れますけど、そこができていないと舞台に立てないというのをあらためて今の稽古で感じます。

―岩松さんの書かれるせりふは、いろいろな方向に取れることが多いですよね。だから、役者さんが発する温度やニュアンスで、せりふの意味合いが変わって、その掛け合いで人間関係が見えてくるところが面白いなと思います。

だから、そのせりふの思いをちゃんとくんで言わないと、成り立たないんです。そのせりふから感じて、受け取れるものがないと、相手の役者さんはゼロから構築しなければならなくなってしまうので。

―日常の中でも、つい不機嫌に放った言葉が、間違った方向に膨らんでけんかになったり、言葉の投げ掛け合いってスリリングですよね。

そういう繊細で微妙な感じが、特に岩松さんの舞台は面白いと思います。せりふがいろいろな方向に取れるから、稽古で役者の体から吐くまでは、そのせりふの方向性も見えないことが多くて。

―ええ。

そうやって方向性が見えていない中で、みんなで探っている状態が面白いし、本番でもそう見えたらいいなといつも思うんです。相手役との微妙な距離を測りながら、微妙な間合いのまま探り合う。本番で、すでに方向性が見えていたとしても。

―探っている時の、どこにいくかわからない感じが、いいんですよね。

そこを楽しんでいただけるといいですね。稽古して同じ場面を繰り返すと、どうしても慣れてきてしまうので。岩松さんがおっしゃるように、ちゃんと相手のせりふを聞いて反応するということを意識してやっていきたいと思います。

―台本を書かれた岩松さん自身もわからないところを目指していて、演者さんも観客もみんながわからないところに向かうのがいいですね。

だから、稽古場では、みんなが同じ立ち位置という感じがするんです。岩松さんも、「ちょっとわからないから1回やってみてもらっていい?」という言い方をしてくださるので。「こう演じてほしい」と言われると、そこで方向性が決まってしまいますけど。

―そうですね。

僕らも実際にせりふを言ってみないとわからないところがあるし、書いている岩松さんご本人にもわからない部分もあって、僕らがやってみたのを見て初めてわかることもある。すごくいい現場だと思います。

―わからないから、面白いという…

そこを探っていくのが舞台の稽古の面白さだし、そういうところが小説ではなく、舞台の楽しいところだと思っています。

勝地涼さんインタビュー写真

人と出会った縁は大事にしたい

―勝地さんが今のお仕事に就かれたきっかけはスカウトだそうですね。ご自分の意思ではなく始められて、この仕事の面白さに気づかれたのは?

デビューしてすぐに、いい監督やいい先輩と出会えたことが大きいと思います。10代で始めているから、まだ仕事という感覚ではなくて。学生だから、逃げ場があったんです。でも、『シブヤから遠く離れて』の蜷川さんもそうですし、映像でもいい監督と出会って。

―(日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した)『亡国のイージス』の阪本順治監督とか?

あの映画は『シブヤから遠く離れて』を阪本さんが見に来てくださって、それでオーディションに呼んでいただきました。運がいいとよく言われます。

―というのは?

10代から20代になる時にいろいろな壁にぶつかって悩んでいた時期にも、宮藤(官九郎)さんや古田新太さん、いのうえひでのりさんに出会えたりして。それがすごく僕の中で大きかったと思います。

―どんなことを感じました?

自分の魅力って、特に若いころは、わかった気でいても、実際にはわからないじゃないですか。それが、いい先輩に出会えたことで、「おまえの魅力はバカなところなんだから」とか「芝居はできていないけど、がむしゃらで面白い」とか言ってもらえて。

―そういう言葉、大きいですね。

「おまえ、面白いな」と言ってくださった方に出会えたから、今があるのかなと思います。どうあるべきかなんて、その時はわからなかったですから。ただ、人と出会った縁だけは大事にしようと思っていました。

―というと?

こびる必要はないけれど、先輩とのうまい付き合い方があるということを父親にも言われていて。先輩から飲みに誘われて、普通に断ってしまう人もいると聞くんですけど、僕の場合は断るという選択肢はなかったです。

―先輩の話が、面白くて?

面白かったですね、本当に。普段聞けない話がいっぱい聞けて。古田(新太)さんと飲んでいても、8割は笑い話ですけど、2割ものすごくいい話があったりして、そのおかげで今の自分があるので、すごく感謝しています。

壁を壊せたのも、出会いがあったから

―先ほど、10代から20代になる時に壁にぶつかったとおっしゃっていましたが。

10代と20代で求められる芝居が変わってくるんです。23歳ぐらいになってくると、その年齢から始めた役者も増えてきて。すると、「あれ、自分が持っていないものを持ってるな」って気づかされて。

―それは、どんなことですか?

子どものころから始めていると、無難に平均点を出す癖が付いているんです。せりふはその通りに言うとか、NGを出さないとか。でも、大人になって始めた人たちの中には、基本を知らなくても120点出してくる人がいて。

―それは、なかなか…。

かなわないなと思うけど、焦ってどうしていいのかわからなくて。そういう時に、(いのうえひでのりさんが主宰する)劇団☆新感線と出会って、壁をぶち壊してくれたんです。

―ご一緒されて、いかがでしたか?

劇団☆新感線の笑いって、豪腕じゃないですか、あの声量も含めて。特に、僕が出演させていただいた『犬顔家の一族の陰謀~金田真一耕助之介の事件です。ノート』は新感線の中でもギャグ重視の“ネタもの”って呼ばれていて、達者な役者さんたちが楽しんで演じるような演目なんです。

―そこに若手の俳優さんが入るのは、すごい経験ですね。

皆さんが圧巻すぎて、自分は何もないと気づかされたというか。古田さんができる間合いを、自分ができるわけないんだから、とにかく大きな声でやろうと。そういうことで殻が破れたのかなと思います。今悩んだって仕方ない、だって20代前半でそれはできないって思えたんです。

勝地涼さんインタビュー写真

自分のことをうまく伝えるためには?

―勝地さんといえば、Instagramも話題です。プライベートをどこまで見せるか、そういう線引きについては、どうお考えですか?

SNSをやる時は、いろいろ悩みました。最初にTwitterを始めたんですけど、それは笠原秀幸くんと立ち上げたユニットの舞台を宣伝するためでしたし。SNSをやることで、作品以外の自分を知ってもらえるけれど、一方で、難しさもあると思いました。

―難しさ、ですか?

作品以外のプライベートを出してしまうと、役者として面白くないと思われるのかなと。でも、今は時代も違うし、インスタで見せているプライベートは、どこを切り取るか、自分自身で考えて出しているものだから。

―就活では自己PRで悩む人も多いようです。SNSも少し似ていますね。

自己PRですか…。SNSをやるのなら、何のために上げているかわからない情報を載せても仕方ないと思うんです。今の自分にとっては、発信の一つの手段と捉えています。

―自分の何を伝えていくか、ということですね。

ただ、ニュースになると、自分のことを知ってもらえるきっかけは増えるけど、作品以外のイメージも増えて、どんな役をやっても、そのイメージで見られてしまう。難しいところですけどね。でも、今はもっと自分のことをたくさんの人に知ってもらった方がいい時期だと思って続けています。

―就活生が自己PRするときに大事だと思うことはありますか?

カッコつけないことですかね。「自分はこれができます」って言うよりは、恥をさらせるかだと思うので。でも、わからないです。就活したことないから。面接で恥をさらしたら落とされるのかもしれないし(笑)。ただ、同じことをオーディションで感じたことがあって。

―というと?

優等生的な発言をしている人は、だいたい落ちているような気がして。自分はこういうところが魅力だと思ったら、ダサくてもがむしゃらに伝えるとか、とにかくカッコつけない方が伝わる気がします。

―長く役者さんを続けていらっしゃいますが、支えになっているのはどんなことですか。

10代のころは「(東京の)自由が丘出身です」というと、鼻で笑われたりして(笑)。都会育ちで、苦労知らずだと思われていることが逆にコンプレックスで、そういう悔しさをバネにしていた時期もあったような気がします。あと、舞台と映画とドラマをバランスよくやりたいと常に思っているんですけど。

―はい。

僕の周りにはいませんけど、舞台をやっている方で、テレビに出る俳優を批判する方もいると思うんです。でも、自分が踏んでいない畑の文句を言う人にはなりたくないと思っていて。だから、全部の畑を踏んでいきたいです。

―本当に、幅広く活動されていますね。

でも、まだ踏めていない世界がいっぱいあるんです。例えば、シアターコクーンで主役をやったこともないので、「その畑を踏むまではやってやろう」という気持ちで頑張っているのかもしれないです。

―人を気にするより、自分の問題だと。

人をうらやんでもしょうがないですから。(共演して友人でもある)小栗旬くんがすごく売れた時、正直うらやましかったですけど(笑)。それは旬くんにしか見えない景色があるから。自分が悩んで立ち止まっていても何も変わらないと思いました。

―先程うかがった稽古のお話とも似ていますね。

今回の稽古もまだ最後まで台本が出来上がっていないから、物語の先はわからないんですけど、わからないなら、わからないなりに堂々と演じてみたらどうなるかなとか。稽古場はチャレンジしていい場なんだと、先輩たちから教わってきたので。とにかく体を動かして、声に出して、やってみないと、わからないことだらけですから。

 

舞台「空ばかり見ていた」PR画像Bunkamura30周年 シアターコクーン・オンレパートリー2019『空ばかり見ていた』
作・演出:岩松 了
出演:森田 剛、勝地 涼、平岩 紙、筒井真理子、宮下今日子、新名基浩、大友 律、髙橋里恩、三村和敬、二ノ宮隆太郎、豊原功補、村上 淳ほか
3月9日~31日 東京公演 Bunkamuraシアターコクーン、4月5日~10日 大阪公演 森ノ宮ピロティホール
4年ぶりにシアターコクーンで上演される劇作家・演出家・俳優、岩松了の新作舞台。反政府軍の首領である吉田(村上淳)、自分も兵士として戦いたいと願うその妹・リン(平岩紙)、そして首領である男に憧れ、妹の恋人である主人公・多岐川秋生(森田剛)、そんな3人と共に闘う兵士・土居(勝地涼)――。アジトである廃校を舞台に、ギリギリの内戦下に置かれた人々のドラマを描く。
https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/19_sorabakari/

取材・文/多賀谷浩子
撮影/鈴木慶子
ヘアメイク/晋一朗
スタイリスト/上井大輔(demdem inc.)


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