メキシコにある日系メーカーの現地法人に勤務。現地では、日本からはなかなか行きにくいところを旅するのが楽しみ。特に、メキシコの有名な観光地カンクンは、何度でも行きたい魅力的なリゾート地だとか。
雨が降ると1車線が“川”になる
こんにちは。うこです。今回は、メキシコでの暮らしについてお話しします。
メキシコで暮らす上で、最大の難関が、自動車の運転でした。日本にいるころはペーパードライバーだった私ですが、こちらに来て、自分で運転しなければならない状況に追い込まれ、恐る恐る運転を始めることに。渋滞がひどく、周りの車の運転マナーも荒い上、道路の状態も悪い中で運転することには、かなりの不安がありましたが、現地の人に助手席に乗ってもらって、教えてもらいながら乗り始めました。おかげさまで、1年後には、「メキシコに来て、一番上達したのは運転技術かも!?」と思えるほどになりました。いくつになっても、成長を感じることは意外とうれしいもので、今では「日本に帰ったら、どの車に乗ろうかなあ」と、帰国後のドライビング・ライフを夢見ています。
とはいえ、運転マナーは本当にひどいと思います。「ウィンカーを出さずに急な車線変更をする」「信号無視」「車間距離が極端に短く、すぐに前の車をあおる」「なんでもかんでもクラクションを鳴らす」といったことは日常茶飯事です。だからこそ、私にメキシコでの運転を教えてくれた現地の人も、「危ないときはとにかくブレーキを踏め」「クラクションを鳴らされても気にせず冷静に運転を続けろ」と、非常に実践的なテクニックを授けてくださいました。
また、日本では「遠くを見て運転しろ」と言われますが、ここでは「下を見て運転しろ」と言われます。なぜなら、道路の状況が日本と比べて劣悪だからです。道路は舗装こそされているものの、大きな穴が開いたままになっていることが多く、マンホール大で深さ50センチメートルほどの穴も、ふさがれずにいます。突っ込んだらパンク必至です。また、水はけも悪いので、毎日夕方にスコールが降る雨季には、1車線まるごと“川”になってしまっていることも。前述の「穴」も、水たまりになっていると運転席からは確認できないので、大変です。
渋滞もひどいですね。職場までわずか5キロメートルの距離なのに、ひどいときは1時間30分かかってしまうこともあるほどです。なぜこれほどまでに渋滞するかというと、それは、皆が交差点にどんどん突っ込むから。赤信号になってから交差点を渡ろうとして突っ込んだ車が、渡れずにそのまま残ってしまうので、青信号になっている方も渡るに渡れずに、どんどん溜(た)まってしまうというわけです。日本のような車検の制度がないため、整備不良の車が道路の真ん中で故障し、車線をふさいでしまうことも少なくありません。
治安も、決して良くはないため、普段はいつも緊張して過ごしています。基本は、赴任時に、会社で受けた「セキュリティトレーニング」。例えば、自宅の駐車場に車を入れるときは、自動ドアをリモコンで開ける前に後ろを確認し、怪しい車がついて来ていないことを確かめてから開けたり、預金を下ろすときには、路上のATMは使わずに、会社が入っているビルの中のATMか、会社の前にある銀行内のATMを利用します。その場合、お金を下ろしてから、すぐに外を歩いたりはせずに、必ずいったん会社に戻り、15~20分経過してから会社を出るようにしています。そうしないと、強盗に狙われてしまうからです。
もちろん、夜一人で道を歩いたりはしません。昼間でも、道端で携帯電話やスマートフォンを出すのは控えています。携帯電話やスマートフォンを操作しているということは、それだけ隙があると見られてしまうからです。万が一、強盗に遭ってしまったときのための「捨て財布」も用意してあります。「金を出せ」と言われたら、パッと渡せるように、1万円くらいの現金を入れてあるのです。これも、現地の人から「金額が大きすぎる。1000~2000円くらいでいいのに」と言われます。現地では、2000円くらいの金額でも「ラッキー!」と思うらしいので。とにかく「抵抗しない」ということが大事らしく、いつそういう事態になってもおかしくないということは、常に意識しています。
会社からは、海外駐在のインセンティブ(報奨)として、年収の数割ほどが支給され、加えて、家賃補助やガソリン代が支給されています。生活するには十分すぎる額だと思いますが、治安の悪さに伴う危険や不便さを考えると、不十分ととらえる人もいるかもしれません。
国内外への旅行が楽しめる
このように、運転のしにくさや治安面では少々難のあるメキシコシティでの生活ですが、では、まったく楽しめないかというと、決してそんなことはありません。メキシコシティは、旅行がとても楽しめる立地だからです。空港も非常に近く、日本で人気のリゾート地カンクンにも、ものの3時間くらいで到着してしまいます。飛行機でも車でも、近隣の国や国内旅行に行きやすく、また旅行に行きたくなる魅力的な街が多いことには、正直驚きました。
今、次に行こうと狙っているのは、プエルトバジャルタやクアトロシネガスといった国内の観光スポット。国外では、ペルーのマチュピチュやギアナ高地など、南米の見どころを巡りたいですね。長期の休みが取れないとなかなか行きづらいので、休暇が取れそうなチャンスを待っているところです。
次回は、メキシコ駐在で得たものについてお話しします。
メキシコシティ市内の渋滞の様子。このように車が数珠つなぎになる。
交差点に後先を考えずに突っ込む車たち。おかげで青信号になっても進めず、渋滞はますますひどくなるばかり。
メキシコを代表するリゾート地カンクン(Cancun)。1970年代にメキシコ政府の主導で開発された。
社員食堂の食事。左側の茶色の粒は、スープで煮込んだ米。メキシコでは、米をスープで炊いて付け合わせにしたり、牛乳と生クリームで煮込んだ後に冷やしてプディング風デザートとして食べたりする。
構成/日笠由紀