永山祐子さん(建築家)の「仕事とは?」|後編

ながやま・ゆうこ●1975年、東京都生まれ。1998年、昭和女子大学生活科学部生活環境学科卒業。同年、青木淳建築計画事務所入職。2002年に独立し、永山祐子建築設計設立。「ルイ・ヴィトン 大丸京都店」(2004年)、「カヤバ珈琲」(2009年)、「木屋旅館」(2012年)、「豊島横尾館」(2013年)、ホール複合施設「女神の森セントラルガーデン」などを手がける。2012年「Architectural Record Design Vanguard Architects 2012」、2014年日本建築家協会 JIA新人賞(豊島横尾館)など受賞多数。

前編では設計事務所での4年間を経て独立し、仕事が軌道に乗るまでの経緯をお話しいただきました。 後編では仕事を通して学んできたことや大切にしていること、今後の展望をうかがいます。

建築というのはモノではなく、コトを生むきっかけをつくること

-独立によって、仕事への姿勢に変化はありましたか?
以前は、設計だけをやるのが建築家の仕事だと思っていたところがありました。ところが、独立すると、事務所の経営、スタッフや工務店さんとの体制づくり、お施主さんとのコミュニケーションなど設計以外にやることが膨大にあって。事務所にいた時は青木さんが場を整えてくれていたんだなということに、ようやく気づきました。独立後は、「設計をする」「建物を建てる」というよりは、自分と社会の関係性をつくりながら仕事をしている感覚があって、どの仕事もすごく勉強になります。

建築というのはモノではなく、コトを生むきっかけをつくることだと思うんです。人の空間はいろいろなものを内包しています。例えば商業施設なら、お店でものを買う、カフェでコーヒーを飲みながらおしゃべりをする、光がきれいに差し込むアトリウムのベンチでちょっと休憩といったことまでたくさんのコトが行われますよね。いろいろな関係性がそこに生まれる場所を建築家はつくっていかなければいけない。そこでキチンとした答えを出すためには、「なぜ、今、この商業施設をここに建てるのか」という社会的なバックグラウンドを理解しておく必要があると思っています。だから、お仕事の依頼を頂くごとにお施主さんの事業についてできる限り知るようにしてきました。そうするうちに、世間知らずだった私も、建築を通して少しずつ社会の仕組みがわかってきたような気がします。

与えられた問いに答えを出すだけでなく、問いそのものを作り出す

-仕事のプロセスで一番大切にしているのは?

お施主さんが求めていることを、きちんと理解するためのコミュニケーションでしょうか。建築家は基本的にはお施主さんからの「こういうものを建てたい」という出題に答えを出していくのが仕事ですが、実際は問いそのものが出来上がっていないことがほとんどで。お施主さんのお話を聞きながら、「やりたいのは、こういうことなんじゃないですか」「それなら、こういう考え方もありますよ」と一緒に考えていくうちに、最初にぼんやりとあったイメージがはっきりしてきたり、180度違うものになることも少なくないんです。この建物で何がしたいのか、どういう場所になっていってほしいのか。みんなで想像しながら、未来のストーリーを作っていく。お施主さんがまだ気づいていない要求を引き出すのも建築家の仕事だと思っています。

-目標のようなものはお持ちになっていますか?

自分から何かを決めるというよりは、状況に合わせて「こうしよう」と考えていくタイプで、20代、30代は「来た波に乗れ」という感じ(笑)。今もなんとなくなりゆきで、頂いたお仕事にきちんと応えていきたいという気持ちは変わらないのですが、ここ数年、建物の企画・開発のプロデュースといった、問いを作るところから携わっていけたらという気持ちがあります。   建築家はやはり出された問いには答えを出さなければいけないのですが、新国立競技場計画の迷走など今建築の世界で起きている問題のほとんどは、出題が悪かったんじゃないかなと私には思えるんです。問題が間違っていたら、解いても意味がなくなってしまいます。そうならないよう、建築家は与えられた問いに答えを出すだけでなく、出題側にも回って、いい答えを出せる状況を自らつくっていかなければいけない。ただ、いい問題を作るにはまちづくりや地域再生だったり、経済だったり、たくさんの視点が必要なので、建築家だけでやるには限界があります。違う分野の専門家たちとチームで取り組めば、より多くの人がハッピーになれるような提案ができるんじゃないかなと考えたりしています。

学生へのメッセージ

「やりたいことが見つからない」という悩みをよく聞きますが、最初からやりたいことがはっきりしている人は少ないと思うんです。私の場合、直感的に「建築をやってみたい」と大学に入ったものの、建築はアイデアを形にするまで時間がかかるので、もどかしさを感じて。比較的短期間で空間を生み出す舞台美術の方がいいかなと現場のお手伝いをしたことがあったのですが、そこで自分のできることがあまりない気がして建築に戻り、「やっぱり私は日常の空間に興味があるんだ」と気持ちが定まりました。「やっぱり、これかも」と思えたのは、「これじゃないかも」があったからなんですよね。自分が何をやりたいかはわからなくても、「これじゃないかも」と判断するのは割と簡単にできると思うんです。だから、少しでも興味があることがあったらまずはやってみて、「これじゃないかも」を見つけることで、方向性を絞っていく方が近道かもしれません。「やりたいこと探し」に行き詰まっている学生さんたちには、消去法で見つける手もあるよと声をかけたいです。

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永山さんにとって仕事とは?

−その1 仕事にいかに主体的に取り組むかで成長のスピードが変わる

−その2 仕事を通して社会とかかわり、社会の仕組みを学んだ

−その3 与えられた問いに答えるだけでなく、問いそのものを作り出すのが仕事

INFORMATION

永山祐子建築設計オフィシャルサイト(http://www.yukonagayama.co.jp/)。これまで手がけてきた建築が写真や解説つきで紹介されており、永山さんの世界観が伝わってくる。講演会や新規スタッフの情報も随時掲載している。

編集後記

自分の設計事務所を構えて15年。スタッフも増え、彼らの成長ぶりも永山さんの最近の楽しみだそうです。「私自身もそうだったのですが、最初は何もわからないまま取りあえず目の前のことをやって、世の中どころか何も見えていないような感じなんですよね。でも、無我夢中でやっていると、急に視界が開けて、『あれ? 私、結構、遠くまで見えている気がする』と思える瞬間があるんです。はたで見ていると、スタッフにもそういう成長を感じる時があって、ひそかに喜んでいます。社会に出た頃って迷うことも多い。でも、とにかく何かをやって階段を1段、2段と上がると、見える景色が少しだけ広がって、新しい選択肢に気づけたりするものかなあと思います。どんな仕事を選んでも、一生懸命やれば、必ず先は見えてきますよ」と永山さん。若手への優しいまなざしが印象的でした。(編集担当I)

取材・文/泉 彩子 撮影/刑部友康

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