くじ引きで代表に!? 飯田大輔さんが「恋する豚研究所」を立ち上げるまで|前編

いいだ・だいすけ●1978年、千葉県生まれ。2000 年、東京農業大学農学部卒業。大学3年生の時に母が亡くなり、その母が進めていた社会福祉法人の設立準備を継承。2001 年、日本社会事業学校(現・日本社会事業大学)研究科修了。 同年、「社会福祉法人福祉楽団」を設立。特別養護老人ホームの相談員や施設長など介護現場での経験を経て、2012年に豚肉の加工や販売を行う「株式会社恋する豚研究所」を設立。拠点となる千葉県・香取市の施設にはレストランや地元産の食品のセレクトショップも併設。障がい者の就労支援施設でもあり、福祉と地域活性化をつなげた先進的な取り組みとして注目されている。2013 年、千葉大学大学院人文社会科学研究科博士前期課程公共研究専攻修了。現在、社会福祉法人福祉楽団理事長、株式会社恋する豚研究所代表取締役。東京藝術大学非常勤講師。

福祉について知るために、1年間で全国約120カ所の現場を訪ねた

-福祉には学生時代から関心があったのですか?

まったくなくて、大学卒業後は取りあえず一般企業に就職するつもりでした。ところが、40社ほど受けて、内定はゼロ…。こたえましたが、落ち込んでいる時間はありませんでした。母親が他界し、親族会議で母が生前に社会福祉法人の設立準備を進めていたのでその行政手続きを誰が引き継ぐかという話になり、くじ引きで当たってしまったんです。

-くじ引きですか。

ただし、3人でくじを引き、2本が当たりでした。伯父が理事長、僕が現場を担当、当たらなかったいとこも手伝うという話でしたから、結局、全員当たり(笑)。「やるしかない」と覚悟を決めるためのくじでした。そんなこんなで福祉法人を立ち上げて特別養護老人ホーム(特養)をやることになったのですが、僕は農学部出身で福祉のことは何も知りません。そこで、日本社会事業学校(現・日本社会事業大学)にある1年間のカリキュラムで勉強して福祉関係の資格を取りながら、全国の福祉施設を120カ所ほど訪ね、現場を見ました。いっぱい見ればわかるかなあと思って、手当たり次第に。

その時に感じたのは、福祉の世界は課題が山積みだということです。入浴を待つ入居者を裸で並ばせていたり、施設内のいたるところが暗証番号でロックされていて自由に行動できなかったり。「これで人間らしい生活と言えるのかな?」と疑問に感じるような光景が、当時の介護現場にはありました。それらは福祉の世界では「管理のしやすさ」や「効率」につながる「当たり前」のことだったのかもしれませんが、一般社会ではそうではないはず。“福祉の世界の「当たり前」を一般社会の「当たり前」に近づけたい”という思いを持って、地元にほど近い千葉県の香取市に「杜の家(現・杜の家くりもと)」を設立。法人の経営をしつつ、生活相談員として介護の現場で働き始めました。

違和感をそのままにせず、言語化して伝えることが大事

―介護現場で実際に仕事をして、どうでしたか?

看護師さんや介護福祉士さんなど現場のスタッフたちに、自分が思い描くケアを実践してもらう難しさを知りました。例えば、利用者さんに「水を下さい」と言われたら、その方が水を飲んでいいのか、大丈夫なら、どのくらいの量や温度が良いのかを「生理学などの専門知識に基づいて科学的に判断する」。あるいは、入浴の際に利用者さんの愛用のシャンプーがあればそれを使うといった「個別性に対応する」。そういったケアのあり方が、利用者さんが人間らしい生活をするために「当たり前」のことだと僕は考えていました。しかし、福祉の世界で経験を積んできたスタッフにとっては「ヘンなこと」。ケアのやり方を変えるのは、それまで自分のやっていたことの否定にもつながりますから、当然、面白くはないでしょう。うまく理解をしてもらえず、衝突もありました。

悔しかったですね。相手が理解できるように伝えられない自分が。そこで、知識を補強しなければと千葉大学の看護学部で学んだり、人材マネジメントについて勉強したりしました。自分の考える「ケアとは何か」をみんなに伝えるには、「優しい」とか「温かい」といった形容詞ではなく、科学的な根拠を持って筋道立てて説明することが大事だと考えたんです。そのうちに、理解してくれる人が増え、違和感を言語化することの大事さを感じましたね。全員にきちんと伝えるのは難しいですし、うちで理想的なケアが実現できているかと言えばまだまだですが。

枠組みを超え、地域の人たちが本当に求めているケアを目指す

―2012年に「恋する豚研究所」を立ち上げた経緯は?

特養やデイサービス、在宅介護といった高齢者向けのサービスをやっていて気づいたのは、地域の人たちが抱えている課題はいろいろとあって、複合的なものだということです。例えば、生活相談員として認知症の高齢者のご自宅を訪問して話を聞いてみると、問題は介護だけじゃなかったりする。経済的な問題があったり、障がいのあるお子さんがいたり。地域の人たちが本当に求めているケアを実現するには、「介護保険制度」「障害者総合支援法」「児童福祉法」といった行政の縦割りの仕組みにのっとった活動だけでは限界があると感じるようになりました。

そんな時に、たまたまラジオ番組でヤマト運輸の元社長でヤマト福祉財団理事長(当時)の小倉昌男さんの話を聞き、障がい者の月給が1万円ほど(※)だと知って衝撃を受けたんです。ラジオをさらに聞いていると、小倉さんは障害者雇用の状況を変えようと「障がい者の月給を1万円から10万円にする」と宣言。障がいを持つ人もそうでない人も雇用する「スワンベーカリー」というパン屋さんを作って障がい者就労支援に経営感覚を持ち込み、事業を軌道に乗せたとのことでした。

※2003年当時の就労継続支援B型における工賃(月給)。

その話を聞いて「すごいなあ、うちもやろう」と思い立ったんです(笑)。じゃあ、何をやろうかと考えた時に、当時は「スワンベーカリー」の影響で障がい者の仕事としてパンやジャムを作るのがはやっていたんですね。同じことをするのも芸がないし、伯父が養豚場をやっているので、豚はどうかなと。この辺りは養豚が盛んで、地域性も出るしいいかもということで、少しずつ準備をして、最終的に「恋する豚研究所」をつくったんです。「世のため」「人のため」にというよりは、自分の暮らす地域の人たちが笑顔でいてくれた方が楽しいからやるという感じでした。それに、多分、面白かったんでしょうね。障がい者支援や地域とのつながりづくりというのは未知の分野でしたから。「やってみたい」と心を動かされるものがありました。

後編では「恋する豚研究所」の経営や、現在進行中の新しい事業についてうかがいます。

→次回へ続く

(後編 6月28日更新予定)

INFORMATION

「恋する豚」ブランドの豚を育てている「在田農場の取り組み」やハム作りを紹介した映像が「YouTube」で公開されている。

①農場編
http://www.youtube.com/watch?v=NoGEBgNhhzI
②ハム編
http://www.youtube.com/watch?v=uq5UBs_RfiM

また、「恋する豚研究所」のブランドサイト(http://www.koisurubuta.com/index.html)には千葉県・香取市にある複合施設の案内や豚のおいしい食べ方についての情報も。
ネットショップ(http://www.koisurubuta.com/shop/)で商品を購入することもでき、精肉やハム、ソーセージはもちろん、オリジナルのポン酢が人気だ。

取材・文/泉彩子 撮影/刑部友康

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