就職留年はぶっちゃけ不利?メリット・デメリットと迷った時の“理由別”アドバイス

思うように就活が進まない、志望する企業にことごとく落ちてしまった、もう応募したいと思える企業がない…などの理由で、「来年就活をやり直そうかな」と考えている人は少なくないようです。

その場合、考えられる選択肢は次の2つ。

(1)就職留年:大学を留年して、翌年「学生として」就職活動に再チャレンジする
(2)就職浪人:大学を卒業して、翌年「既卒者として」就職活動に再チャレンジする

今回は、(1)の「就職留年」についてのメリットとデメリット、注意すべきポイントなどについて、“採用のプロ”、曽和利光さんに教えてもらいました。

株式会社人材研究所 曽和利光さん写真1

プロフィール 曽和利光(そわ・としみつ)株式会社人材研究所・代表取締役社長。1995年、京都大学教育学部教育心理学科卒業後、リクルートで人事コンサルタント、採用グループのゼネラルマネージャーなどを経験。その後、ライフネット生命、オープンハウスで人事部門責任者を務める。2011年に人事・採用コンサルティングや教育研修などを手掛ける人材研究所を設立。『「ネットワーク採用」とは何か』(労務行政)、『悪人の作った会社はなぜ伸びるのか? 人事のプロによる逆説のマネジメント』(星海社新書)など著書多数。

「就職留年」のメリット・デメリットとは?

<デメリット>安易に就職留年を選ぶ学生に好印象は持ちづらい。納得のいく明確な理由が必要

大前提として、私自身は「就職留年」はお勧めしていません。就活の結果に納得がいかない、来年再起を図りたいという気持ちはわからないでもありませんが、安易に「就職留年」という道を選んだ人に、企業側は好印象は持てないもの。どこも内定を出さなかった決定的な要因があるのでは?とリスクを感じる担当者が大半と思われます。

就職留年であっても、単純に単位が足りなかった留年であっても、面接では必ず「留年した理由」を細かく突っ込まれます。なぜ就職留年を選んだのか、この1年をどう過ごしたのか、それが自分にとってどうプラスになったのか答えられないと、「安易に就職留年を選んだ」とマイナスジャッジされてしまいます。

 

<メリット>緊張せず面接に臨める、先に入社した同期から企業の実情を探ることができる…など

私自身は「就職留年にメリットはない」と考えていますが、あえてメリットを挙げるならば、ほかの学生に比べて面接慣れしている点が挙げられるでしょう。さんざん面接を受け、「場慣れ」も「おじさん慣れ」もしているでしょうから、受け答えがうまいと評価してくれる企業があるかもしれません。また、選考スケジュールの関係で「応募したかったけれどエントリーが間に合わなかった企業」に応募できる、という点も挙げられるでしょう。

さらに言えば、ひと足早く社会人になった同期の友人に、会社の実情をヒアリングできる点もメリットと言えるかもしれません。実際に働いている人ならではのリアルな生声をもとに、応募企業を選択したり、志望理由を考えたりできそうです。最近はリファラル・リクルーティング(社員紹介採用)を取り入れる企業が増えているので、同期に「自分を紹介して!」と逆リファラルをかけるという方法もあります。

しかし、いずれも「就職留年してでも得た方がいいメリット」とは言い切れず、デメリットの方が大きいと思われます。

「就職留年」すべき?やめるべき?理由別アドバイス

なお、就職留年を選んだ「理由」によってマイナス印象を与えるケース、比較的印象がいいケースに分かれます。それぞれについて解説しましょう。

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× 第一志望リベンジ系

どうしても行きたかった第一志望の企業に落ちたから、来年再挑戦する…というケース。ゼロとは言いませんがリベンジが成功する確度は低く、残念ながらあきらめた方がいいと私は思います。企業側には選考データが残っています。「落ちた理由」を完全に払拭(ふっしょく)できていないと、採用はまずありません。

よく「最終面接で落ちたからあと一歩だった。入社可能性は十分にある」と考える人がいますが、残念ながら逆です。企業は最終面接までじっくり見極め、人となりを理解した上で、不採用のジャッジをしたということ。大企業は志望者が多く、どうしても初期選考が粗くなりがちなので、一次面接で落ちた人の方がまだ可能性があると考えられます。

△ 業界チェンジ・方向転換系

「○○業界に行きたくて片っ端から応募したけれど、ことごとく落ちてしまった。どうやら自分にはこの業界は向いていないとわかったので、仕切り直したい」――。特に人気業界だけにアプローチしていた人に多いケースです。まっとうな理由と言えなくもないのですが、たとえ別業界であっても「どの企業にも落とされた人」を拾いたがる会社はありません

方向転換する理由は、面接で必ず聞かれます。なぜ○○業界ではなく、この業界を志望するのかを熟考し、納得のいく理由を伝える必要があります。

○ 部活や勉強に没頭系

引退まで部活に没頭していた、アルバイトで責任ある立場を任されていた、卒業論文や卒業研究で忙しく、没頭しているうちに志望企業や業界の選考が終わってしまった…など、「就活に時間を割けなかった理由」が明確な人に対しては、それほどマイナスイメージはありません

選手として最後まで走り切りたい、4年間力を注いできた研究をやり遂げたいなどという気持ちは、人事も理解できます。就職留年の中では一番納得度が高い上、一つのことを成し遂げ成果を上げた経験がプラスに評価されることもあります。

それでも「就職留年」を選ぶなら…誰もが納得する「理由」を準備すべし

ここまでデメリットをメインにお伝えしてきましたが、それでもあきらめきれない、どうしても一から就活をやり直したいならば、自分の気持ちとじっくり向き合い「誰もが納得できる理由」を準備することです。

株式会社人材研究所 曽和利光さん画像3

就活でどんな壁にぶつかり、何に悩み、何を反省したのか。そしてこの1年でどんな努力をして、どのように成長できたのか。これらを言語化して伝えることができれば、聞き手の納得度は高まります。自分一人で言語化するのが大変であれば、友人や親兄弟に壁打ち相手になってもらい、客観的な意見をもらうのも一つの方法です。

なお、どんな留年理由であっても、志望企業群は変えた方がいいと思います。例えば、大手ばかり当たって玉砕したのであれば、中小やベンチャーを中心に応募する、人気業界に絞りすぎて内定が得られなかったのであれば、業界スライドか、同業界内の中堅・中小にも目を向ける、など。

前年よりも規模の小さい企業、倍率が高くない業界など、より「売り手市場」である業界・企業を選べば内定が出やすく、就活に対する自信も取り戻せるでしょう。その後の活動に意欲が湧き、志望度の高い企業から内定が得られるかもしれませんし、選択肢を広げる中で思わぬいい企業と出会えるかもしれません。

 

ただ、個人的には安易に就職留年を選ぶのではなく、多少不本意でもどこかに就職をして社会人としての経験を積み、第二新卒としてリベンジ転職を狙った方がよほどいいと思います。「社会人としての最低限のマナーを備え、現場で鍛えられている」と企業の評価も高く、ある程度の実績を上げていれば大手に行ける可能性だってあります。

もしくは大学院に進学し、2年後に新卒として就活に再挑戦するという方法もあります。大学院は研究が中心。よりビジネスに近い脳の使い方ができるので、エントリーシート(ES)や面接でアピールできる材料も増やせそうです。

人事アンケート「就職留年は採用選考に影響する?」

一方、人事へのアンケートではこのような結果が出ました。

新卒採用を行っている企業の人事担当者200人に、「就職留年は、新卒採用の選考に影響しますか?」と質問したところ、最も多かったのは「ケースバイケース」との回答。「ネガティブに働く・どちらかというとネガティブに働く」との回答は13%にとどまり、「ポジティブに働く・どちらかと言えばポジティブに働く」との回答が上回りました。

昨今の人手不足を受けて、「採用予定人数を充足させるために、やる気がある人ならば採用したい」「とにかく若手に来てほしいから、就職留年であっても歓迎する」という企業は少なくないようです。

そして、最も多い「ケースバイケース」という回答の中には、厳しめの意見が目立ちました。以下に人事担当者の声を抜粋し、紹介します。

■「就職留年」は、新卒採用の選考に影響しますか?(1つのみ選択)(n=200)

「就職留年」は、新卒採用の選考に影響しますか?(1つのみ選択)(n=200)の回答結果(円グラフ)

「ポジティブ・どちらかと言えばポジティブ」と回答した担当者のコメント

  • 「熟慮して受けに来ているから」
  • 「その企業に就職したいがために留年したという執念が見える」
  • 「就職留年期間の経験に、期待したい」

「ネガティブ・どちらかと言えばネガティブ」と回答した担当者のコメント

  • 「事情を聞かないとなんとも言えないが、空前の売り手市場の昨今において、就職留年をしているというのは、単純に良いイメージは持てない」
  • 「明確な理由、目的があればいいが単に就職先がなかったためでは説得力に欠ける。就職留年している間にバイトで稼ぐ、資格を取得するなど努力と成果があれば、好評価につながるが、なかなかそういった人材には出会えない」
  • 「1社も受からなかった何らかの原因があると思われるため」
  • 「入社後の仕事ぶりに良い傾向がなかったので」

「ケースバイケース」と回答した担当者のコメント

  • 「留年期間中をどのように過ごしてきたか(資格取得などスキルアップに努めたか、希望職種の現場経験を積んだか、など)によっては、むしろ評価が高まる場合もあり得る。無論、その逆は問題外」
  • 「就職留年しているにもかかわらず、第一志望の業界ではなく妥協して受けに来る場合がある。そういった方は、定着率が悪く、希望した業界の募集があれば転職してしまうケースが多々ある」
  • 「やる気があるかどうかが重要。ただ学生をもう1年やりたかったという雰囲気の人もいる」
  • 「留年期間、単にアルバイトや臨時職員で働いていたというだけでは、採用はしない。自分が採用されなかった理由を分析して、どのような改善に取り組んだか、同期が採用されている中で自分が留年している事実を真剣に受け止め、自分で1年どのような目標を持って取り組んできたかを自己PRで話せる人は、採用してからも仕事に真摯(しんし)に取り組でくれると思う」
  • 「その留年中に得るものがあったのなら問題ないと思う。例えば資格を取得したとか、介護などで波に乗れなかったという場合も、得たものは多いと思う」

「ケースバイケース」の声から判断すると、曽和さんの意見と同様、就職留年を選んだ学生への目線は総じて厳しく、ハードルは低いとは言えないようです。ただ、何かに没頭するなど、就職留年せざるを得なかった理由が明確であったり、就職留年期間中を有効に使うことができ、かつ「なぜ留年して、その期間に何をやっていたのか、何を成し遂げたか」をきちんと整理して説明できるのであれば、必ずしもデメリットばかりとは言えなさそうです。

もう少し就活を続けるか、就職留年を選ぶか。自分が納得できる決断をしよう

内定者と社会人1~5年目の先輩、合計200人に、「学生時代、就職留年をしようと考えたことがありますか?」と質問したところ、「検討したことがある・どちらかといえばある」と答えた人は11%。そのうち、「実際に就職留年をした」人は42%。10人に一人が就職留年を考えた経験があるものの、半数は思いとどまったという結果になりました。

「就職留年した理由」

  • 「納得のいく企業から内定をもらえなかったから」
  • 「就きたい仕事に就けないのであれば、人生をつまらなく感じてしまいそうだと思ったから」
  • 「精神的に疲れてしまって休みたいと思ってしまった」

「就職留年を思いとどまった理由」

  • 「学費のことで親に迷惑をかけたくなかった。ストレートに卒業したかったから」
  • 「もっと視野を広げてみることで思いがけない発見があるかもしれないと思った」
  • 「内定を出していただけたので就職留年せずに済んだ」

就活に行き詰まってしまったとき、「就職留年」は一つの選択肢ではあります。ただ、多くの企業においては選択眼が厳しくなり、「留年を選んだ理由」をとことん確認しにきます。

それでも来年やり直すのか、それとももう少しだけ頑張ってみるのか。安易に決断するのではなく、どちらが今の自分にとっていい選択肢なのかを立ち止まって熟考し、誰よりも自分自身が納得できる決断をしましょう。

 

[人事アンケート調査概要]
調査期間:2018年8月6日~8月8日
調査サンプル:新卒採用を担当中、または過去に担当していた人事担当者200人
調査協力:株式会社クロス・マーケティング

[内定者・社会人アンケート調査概要]
調査期間:2018年8月7日~8月9日
調査サンプル:専門学校生・大学生・大学院生100人、1~5年目の社会人100人
調査協力:株式会社クロス・マーケティング

 

取材・文/伊藤理子
撮影/刑部友康


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