就活で説明会や面接が始まると、気になるのが就活のマナー。「ノックは3回」「お辞儀は30度」「髪は黒色で」などのマニュアルも出回りますが、確かに「このルールは絶対なの?」と迷う場面は少なくありません。また、「正解」とされる情報の答えが1つでないこともあります。いったい何を信じたらいいの?と戸惑う場面もあるのではないでしょうか。
一方で「就活生には個性がない」というコメントも一部にはあるようですが、では個性を小出しにしたら、いったいどうなるのでしょうか?
「就職ジャーナル」が実施した髪色とカラーコンタクトに関する実験、ノックの回数に関する意識調査には、就活生からとても多くの反響が寄せられました。
誰にとっても初めての就活。マナーやファッションについてもわからないことだらけです。そこで、就活生の見た目のファッションやマナーの問題をどう考えればいいのか、人事採用のプロに尋ねてみました。
目次
就活で茶髪やカラコンはアリ?ナシ?【調査結果あり】
7割以上の内定者が黒髪で就活に臨んだ
「【内定者500人に聞いた】就活中の髪色、黒髪と茶髪どっちで臨んだ?」という記事では、「黒髪」〜「明るい茶髪」まで5段階に加工した就活生の写真を使い、内定者と企業の採用担当者各500人にアンケート調査を実施。その結果、内定者の約75パーセントが「黒髪」、約20パーセントが「やや茶髪」で就活に臨んでいたことがわかりました。また、「髪色は就活に影響する」と答えた内定者は約7割に上り、「生まれつきの髪色でない限り、髪を染めていると不真面目な印象を与えそう」といった声がありました。逆に「髪色は就活に影響しない」と答えた人からは「(茶髪だったけど)実際に受かった企業があった」というコメントも。
茶髪は採用担当の半数が「気になる」
採用担当者へのアンケートでは、500人のうち約半数が「茶髪は選考に影響する」「どちらかと言うと影響する」と回答。気になると答えた人からは「取引先からマイナスイメージとして受け取られる可能性があると思うので」という声が。また、気にならないと答えた人は「髪の色とその人のやる気や能力、人柄などは関係ない」「髪色は個人の自由だから」と回答しています。
面接でカラコンをつけるなら「フチなし」タイプ
また、「就職ジャーナル」で掲載後、大きな反響があったのが「【就活生が検証】就活のバレないカラコンの境界線はどこ?」という調査・実験の記事です。
瞳を魅力的に見せるカラーコンタクトは、いまやすっかり身近なおしゃれツール。200人を対象にした調査では、カラコンをつけて就活に臨んだことがある就活生は6パーセントに上りました。そこで実際にカラコンを装着した就活生を、二人の人事コンサルタントが採用担当の目線でチェック。その結果、黒の「フチなし」タイプで面接を受けた場合は自然だったものの、茶色の「フチあり」タイプでは目の表情に違和感があり、面接の場では悪目立ちしそうだと評価されました。
従ってこの記事では、面接に平常心で臨むためのツールとしてカラコンを活用するのもいいが、つけるならフチなしを選ぶのがおすすめ、と結論づけています。
ファッションに対する許容度は業種によって異なる
人事・採用に詳しい、人材研究所の曽和利光さんに、就活のファッションについて「採用担当はどう考えているのか」をうかがいました。
まず曽和さんが強調したのは、就活生のファッションに対する許容度は業種によって違うということです。「例えば、金融などの“お堅い”業種は入社後も黒髪が望ましいとされることが多く、ピアス禁止の場合もあります。そうした会社では、就活生のカラコンや髪の色は結構気にしますね。あまりドレスダウンしすぎると印象は良くないでしょう」
一方、アパレルや美容業界は髪の色に対して比較的寛容なところが多く、また、服装もブランドのテイストを取り入れている方が好ましいと言います。「会社は社員の言動や雰囲気もブランドの一部と捉えているので、自社のブランドに合った人を採用したい。そういう意味では見た目が選考に影響しますから、髪の色やカラコンなどは会社に合わせて対応していくのが基本だと思います」(曽和さん)
外資系ではマニュアルは関係なし。基本は清潔感と爽やかさ
一方、外資系企業では、就活生の見た目をどう判断しているのでしょうか。長年外資系企業の人事として活躍し、現在はグローバル人材の育成を手がける株式会社AT Globe 代表取締役の鈴木美加子さんに聞いてみました。
大学時代から独学で英語を学び、22歳で英検1級に合格(TOEIC960点)。卒業後は日本GEに入社し人事部に所属。その後、製薬会社、証券会社、IT企業など外資系企業数社で人事および人事責任者を務め、2014年に会社を設立。現在は、英国発のアセスメントツール「Lumina」を用いた個別キャリア相談、転職支援などを行うほか、企業でグローバルコミュニケーション、リーダーシップ、異文化の研修を行っている。
「多くの外資系の新卒採用で、学生の見た目に求めるものは、若者にふさわしい清潔感と爽やかさ。イマドキの就活マナーで言われるヒールの高さやスカート丈、上着の丈、前髪はピンでとめる…などの細かい決まり事はありません。髪の色も、極端な茶髪でなければ気にしないと思います」と鈴木さん。重視するのはあくまでも「資質・性格・経験」の3つだからです。
実際、鈴木さんの25年の人事経験の中で、明らかに見た目に関連して落とされたケースは2つだけだそう。「1人はスーツの肩にフケが落ちていた候補者。2人目は慣れないパンプスで足が痛かったのか、集団面接で靴を左右とも脱いでしまった候補者。どちらも相手に対して失礼に当たることが理由です」(鈴木さん)
ただし、不自然さを感じさせる装いは避けた方がいいと鈴木さんは言います。「例えば目立つカラコンは、外資系でもあまりおすすめできないかも。外資の面接では目を見て話しますから、目の違和感が採用担当者の注意をそいでしまい、結果的に質問の内容に集中できないかもしれません。それでは本人にとって不利になります」(鈴木さん)
結論として「就活ファッションに迷ったときは、自分の資質・性格・経験を伝えるのにふさわしいかどうかを基準に考える」というのが、鈴木さんの掲げるルールです。「わざわざ選考のときに、本質ではない見た目でとがる必要はないんです。採用されて入社したら、仕事で実力を発揮して、とがるのが一番ですよ」とアドバイス。その心得は、日本企業であれ外資系企業であれ共通する部分かもしれません。
【プロからのアドバイス】よほどのこだわりがなければ、就活で見た目に個性はいらない
ちなみに「リクルートファッションに個性がない」という批判は、人事のプロにはどう映っているのでしょうか。曽和さんは「まずその批判自体に個性がないですね(笑)。そもそも学生の多くはリクルートスーツが好きというわけではなく、就活限定で安くて当たり障りがなく、どこに出ても受けのいい無難な格好をしているだけ。『リクルートスーツごときで個性を主張したくない』というのがホンネでしょう」と持論を展開します。
採用側も、見た目に個性がないという理由でマイナス評価をつけることはないと言います。「そもそも、きちんとした企業の採用担当者は、見た目に左右されず人の資質を見る訓練を積んでいます。第一印象や雰囲気と、仕事における能力は一致しないことを百も承知で、それに惑わされないようにしています。ですから、単純に『目立ちたい』『人と同じは嫌』という理由で見た目に余計な色を付ければ、それは面接担当者にとってただの “ノイズ”でしかない。就活で勝負すべきは見た目ではありませんよ」と曽和さんはアドバイスします。このアドバイスは、先の鈴木さんの外資系企業のものとも共通していますね。
ただし本人に、見た目に対する強い信念があるのなら話は別です。曽和さんは続けます。「人生におけるファッションの重さは人それぞれで、例えば金髪が『ポリシー』や『生き方』だというのなら、就活でも曲げる必要はないんです。認めて受け入れてくれる会社は必ずあるはずだし、むしろそういう会社に入らなければ、入社後に不幸になりますから」。逆に、ファッションに対してそこまでの強いこだわりがないのなら、見た目に関して「普通」を選択することはそれほど問題はないのではないかといいます。
ドアノックの回数、正解は社会人でもまちまちだった?【調査結果あり】
6割の内定者が「3回」ノックしていた
一方、面接での「ドアノックの回数」は就活生が常に迷うテーマの一つです。「【先輩の体験&人事のホンネ】面接でのドアノックは何回がいい?」の記事では、内定者500人のうち約6割が「3回ノックしていた」と回答。理由は「2回はトイレノックだという記事を読んだ」というのが代表的なものでした。一方で「『2回ノックする』『3回ノックする』と、教えてくれる人にも2パターンあった」という体験も。
企業側は「あまり気にしていない」
企業側はどう考えているのでしょうか。過去1年以内に新卒採用に携わった人事担当者500人に聞いたところ、「採用試験ではそこまで期待しないし、日本では2回ノックが定着しているので強く要求しない」という声が一般的。こうしたことから、多くの企業はドアノックの回数にこだわっておらず、常識の範囲の回数で丁寧にノックすれば多くの場合は悪い印象を与えないと結論づけられています。
このように個別の就活マナーには「絶対」はないもの。そのことがいっそう、就活生のモヤモヤを募らせる結果になっているのかもしれません。けれども、採用担当者がどのような基準でこれらを判断材料にしているのかがわかれば、就活マナーに対する理解度や納得度が上がるかもしれませんね。
【プロからのアドバイス】人事担当者は、1つの行動だけで〇×をつけない
曽和さんいわく、「(ノックの回数は)正しくは3回だと聞きますが、それを気にする人事はいないんじゃないでしょうか(笑)」と前置きしたうえで「マナーとは、すなわち相手を不快にさせないこと。それが唯一のルールです」ときっぱり。「こうすれば相手を不快にさせない、ということが大事なのであって、回数を議論している時点でおかしいんですね」
例えば、2回はトイレノックを連想させると言われますが、部屋が広い場合はゆっくり2回たたいた方が、小刻みに3回たたくよりも相手に伝わりやすいかもしれません。「そもそもドアを2回たたかれたことで、(3回じゃないから、と)不快になる面接担当者がどれだけいるのでしょうか?」と曽和さん。確かに「相手をケアする=マナー」と考えると、ノックの回数はさまつなことに思えてきます。
就活のプロが伝授する、就活マナーの3カ条とは?
最後に曽和さんは、マナーに正解を求めたい就活生にぜひ覚えておいてほしい3カ条をあげてくれました。
- 個別のマナーで『唯一こうでなければいけない』という決まり事は極めて少ない
- 相手に対するケアや配慮こそがマナーのすべてである
- 人事担当者は、就活生の1つの行動だけを取り上げて〇×をつけることはない
つまり、たとえノックの回数を間違えたからといって、その行動1つで選考が「終了」になる訳ではありません。面接担当者は就活生の一連の行動と発言を見て、その資質を総合的に判断するもの。ですから面接は、マニュアルに縛られたり小さな失敗にとらわれることなく臨んでほしいと曽和さんはアドバイスします。
まとめ――基本かつ唯一のマナーは「相手を不快にさせないこと」
就活でのファッションやマナーに唯一の正解はなく、そこには「相手をケアする」「不快にさせない」というルールだけが存在します。「どうしたらいいんだろう?」と迷ったら、まず相手企業とそこで出会う人たちを尊重すること。そして自分がどんな人間なのかを相手に伝えるために、見た目を整えること。そんな風に考えれば、おのずと自分なりの正解が見つかることでしょう。
取材・文/鈴木恵美子
撮影/刑部友康
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