「失敗することは、怖くないんです」と語る北乃きいさんの真意とは――?

北乃きいさん写真

プロフィール 北乃きい(きたの・きい) 1991年、神奈川県生まれ。2005年に「ミスマガジン」グランプリを受賞し、同年の『恋する日曜日<夏の記憶>』でドラマ初主演。07年には『幸福な食卓』で映画に初主演を果たし、日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。10年、『サクラサク』でCDデビュー。この年の主演ドラマ『ライフ』も話題になった。そのほかの映画主演作に『ラブファイト』(08)、『ハルフウェイ』(09)、『武士道シックスティーン』(10)など。ドラマでは『アンフェア the special~ダブル・ミーニング』シリーズなどに出演。14~16年には日本テレビ系『ZIP!』の総合司会を担当。18年には舞台『人形の家』で初主演した。4月からはミュージカル『ハル』でヒロインを演じるほか、NHK連続テレビ小説『なつぞら』に出演する。

4月から上演されるミュージカル『ハル』。主人公の青年をボクシングの道へいざなうヒロインを演じる北乃きいさん。今回がミュージカル初挑戦という彼女に、その取り組み方や、これまでのキャリアについて、身近な人たちの就活に思うことなどをうかがいました。

新しい挑戦が、楽しいです

―4月から始まるミュージカル『ハル』では、主人公のハル(薮宏太)をボクシングの道へ導くヒロイン・真由を演じられるそうですね。

勝ち気で真面目で、すごく素直な女の子なんです。自分に近いと感じるところもあって、この役をどうしてもやりたいと思いました。今は日々、ボクシングのトレーニングに励んでいます。

―2008年の主演映画『ラブファイト』もボクシングのお話でした。

不思議とご縁がありますね。小さいころ、アクション女優になると言っていたらしいので(笑)。

―『ハル』のお話が来る前に、ジムに入会したそうですね。

そうなんです。いろいろなジムに体験に行ってみて、雰囲気が好きだったジムに通いはじめたところでした。そうしたら、『ハル』のお話を頂いて。

―すごいタイミングです。

『ハル』でボクシングのジムにも通い出したから、自分の見つけたジムと両方に通うことになって、1日に合計5時間ぐらいトレーニングしていることがあります(笑)。

―ボクシングは、どんなトレーニングしているんですか?

指導してくださっているのが、『百円の恋』や『あゝ、荒野』のボクシング指導の松浦慎一郎さんで、映画のシーンに必要なところだけ重点的にトレーニングしてくださるんです。

―具体的にうかがってもいいですか?

例えば、「右を打って、次は左」みたいな動きがあるときに、私が左から打った方がやりやすければ、それを生かして、そのシーンの動きをつくってくださって。本番までの時間を考えると、ゼロからマスターするわけにいかないので効率がいいんです。

―わりとハードなトレーニングだそうですね。

体はキツいけど、すっきりします。松浦さんが褒め上手なので、トレーニングが楽しくて。ボクシングは外腹横筋(がいふくおうきん)を鍛えるとよいそうなんです。女性はつきにくい筋肉らしくて、今はそこを鍛えるのが楽しいです。

―初のミュージカルということですが、ボイストレーニングも?

CDデビューの時もしていたのですが、ミュージカルの発声はまた違うんです。私はJ-POPの癖が付いているので、どうしても笑顔で「い」の口のまま、口を横に開いて歌ってしまうんですけど、それだと声帯や喉を壊すらしくて。

―負担が掛かるんですね。

ミュージカルはもっと口を縦に開く発声らしいです。今回の先生は「喉が痛くなったら、やめていい」というやり方で。無理なく発声できるポイントを探せば、喉は痛くならないそうなんです。習得するのは難しいですけど、新しいことに挑戦できるのは、やっぱり楽しいです。

ミュージカル『ハル』PR写真。北乃きいさん
▲ミュージカル『ハル』より。北乃さんは、ボクシングに夢中の少女・真由を演じる。

初めての主演舞台は、ダメ出しの嵐でした

―北乃さんのこれまでの出演作を拝見すると、ご自分の持ち味が生かされる作品を丁寧に選ばれている印象を受けます。1本の作品に時間をかけて取り組まれていますよね。

不器用だから、2本の仕事を掛け持ちできないんです。「これは北乃きいに合っている」と言われるような仕事をしたいと思ってやってきたので、そう言ってくださってうれしいです。ただ、最近は少し変わってきているんです。

―どんなところですか?

稽古はこれからですが、『ハル』で演じる真由役のモードに、すでに入り始めていて、4月から始まるドラマ『なつぞら』の撮影も少し重なっているんですけど、年齢を重ねたせいか、前よりも混乱しなくなってきて。今なら、掛け持ちもできるのかなと思ったりしています。

―舞台初出演は2012年の『サイケデリック・ペイン』。2018年に上演された『人形の家』で初主演されていますね。

『人形の家』は初主演で、しかも古典の名作で、とにかく大変でした。ダメ出しの嵐で、ノートが真っ黒になりました。そもそも稽古にノートを持っていく考えがなくて、台本に書いていたら、あっという間にいっぱいになって(笑)。

―演出家の方にもよりますが、舞台の稽古はダメ出しの時間がありますよね。

そうですね。『人形の家』の時は「ノートの時間」と呼んでいましたけど、キャストの皆さんと演出家の方のダメ出しを聞く時間があって。映像の仕事では、みんなの前でダメ出しをされることは少ないので、メンタルを鍛えないといけないなと思いました。

―舞台を経験するごとに、鍛えられました?

1回ダメ出しされると慣れてきて、その舞台でご一緒している皆さんの前では大丈夫になるんですけど、『ハル』は初めて組む皆さんなので、慣れるまでが大変だと思います。

―そうですよね。

ダメ出ししていただくと、言葉では「ありがとうございます」と言うのですが、実際は気持ちが追いついていないこともあって。でも、そこで学ぶことが多いので、しっかり受け止めてやっていきたいです。

北乃きいさんインタビュー写真

壁はクリアできていないです

―女優さんを続けてこられて、壁にぶつかったことはありますか?

毎回、ぶつかっています。壁にぶつからない仕事なんて、ないです。

―その壁はどうやってクリアするんですか?

クリアできていない気がします。毎回、できなくてもがいているうちに、撮影や舞台が終わっていくので。クリアする努力はしているんですけど。

―北乃さんの「壁」というのは、新たな課題のことなんですね。作品ごとに新たな課題があると思いますが、クリアできないというのは、100%できている感覚がないということでしょうか。

そうです。特に舞台は、わかりやすい課題が何もないと、裸で立っているような気分になって本当に怖いです。

―裸で立っているような気分、というと?

舞台は、お客さんに見えている結果がすべてだと思うんです。裏の努力はすべてが見えるわけじゃないから、わかりやすい課題がある方が、努力をしていることがわかりやすいような気がして。

―例えば、どんなことですか?

『なつぞら』だと、皆さん、北海道弁を覚えないといけないんです。でも、私はそこまで方言を話さなくてもいい役で。皆さんが頑張っているのに、私だけ課題が1つ少ないと「その分お芝居を頑張らないと」と思います。

―情熱を注げる課題があった方がいいんですね。

そうですね。これまでも課題のある役が多かったので。例えば、警察官を演じたドラマ『アンフェア』シリーズも一見、普通に見えますけど、拳銃の構え方とか警察官の動きを覚えないといけないんです。そういう課題があるだけでモチベーションが違ってくるんです。

―ストイックですね。

自分ではわからないですけど、課題がないと、自信をなくしたりするんです。だから、そういうときは人一倍頑張るか、自分で課題を作ったりしています。

失敗は怖くないんです

―北乃さんは長女で、下のご兄弟がたくさんいらっしゃるんですよね。

そうです。ちょうど弟と妹が仕事を始めて、就活もしていました。

―アドバイスをされたりは?

特にはしなかったです。私自身は就活したことがないので。ただ、入社試験を受けて断られると、自分が否定されたような気持ちになると思うんですけど、それはその会社と合わなかっただけだからという話はした気がします。

―その通りですね。

自分の良さをわかってくれない会社で頑張る必要はないと思うから。それなら、別の会社で、できることをやった方がいいと思うんです。あと、社会人になった周りの人たちを見ていて気づいたことがあって。

―どんなことでしょう。

みんな、入社して1~2年で辞めたい時期が来るのかなと。そういう人たちの話を聞いていると、そこで人生が決まってしまうぐらいの深刻さで、人生最大の悩みとして捉えている人が多い気がするんです。だから、身近な人がそういう悩みを抱えているときは、ほかにもいっぱい道があると話したりしています。

―北乃さんご自身は、お仕事を辞めたいと思われたことは?

いつ辞めても大丈夫という気持ちでいます。

―それは?

すべてを全力でやりたいと思っているので。人生で1度も後悔したことがないんです。失敗はいっぱいあるんですけど。

―失敗するのは怖くないですか?

怖くないし、失敗はするべきだと思っています。右が崖で、左が安全な道って言われたら、右に行きたがるタイプなので(笑)。自分で決めたことだから、いい結果ではなかったとしても後悔にはならないんです。

―うまくいくかどうかより、自分がやりたいことをやることが大事という?

そうです。そういう基準でやってきたと思います。

―「いつ辞めても大丈夫」とおっしゃったのは、もっと興味のあることに出会ったらということですか?

ただ、今のところ、この仕事以上に興味のあることに出会ったことはないんです。思ったらすぐに動くタイプなので、別の何かに興味があったら、もうそっちに行っていると思います(笑)。15年間、今の仕事より面白いことはないですね。

―13歳でスカウトされて、お仕事を始めたそうですね。

たぶん、13歳から始めていることが大きいかもしれないです。長くやっているから、仕事していることが自然なんです。働こうと意識しないうちから、やってきたので。私は仕事を始めた時、実家で暮らしていましたけど、それもよかったと思います。

―詳しくうかがえますか?

大学を卒業した直後に、仕事も一人暮らしも始めて、どっちも完璧にやろうするのは、わりと大変なことだと思うんです。もちろん、そうせざるを得ない人もいるだろうし、その人の置かれた環境によると思うのですが、許されるのなら、仕事が安定してから、一人暮らしをしてもいいんじゃないかと。

―生活も大事だけど、そのためにやりたい仕事をあきらめないように?

そうです。周りにそうなっている人が多いので。まだお給料がそんなに高くなくて、住みたい場所に住めないとか、やりたいことができないなら、仕事が安定するまで実家でお金をためるのも、一つのやり方かと思います。

そうですね。

モチベーションが「生活のため」になって、本当にやりたいことをあきらめてしまうのはよくないから。そういう覚悟をするのは、結婚して家庭を持つときとか、もっと後でいいような気がします。若いうちから、生きていくために働くと、つまらなくなってしまうと思うので。

―仕事を始める前の話になりますけど、就活では何が大事だと思いますか?

背伸びしないことだと思います。そのままの自分でいることが、一番難しいですけど。新しい現場に入るときは「私は何も知らないので教えてください」というスタンスでいた方がよいとアドバイスいただくこともありますし。後輩の姿勢でいる方が学べることが多いと思っています。

―本当にそうですね。

だから、後輩でいられる時期を活用した方がいいと思います。「わからない」ということを隠さないで、教えてもらう気持ちでいくと、先輩方も教えてあげたくなるんじゃないかと思うんですけど、実は私もよくわからないです。そういうことが得意なわけではないので(笑)。

―そうなんですか?

長女だから、甘えるのが下手なんです。だから、長女が好かれる方法みたいな本を読んだりしました(笑)。甘え下手で、先輩から生意気だと思われてしまうと嫌だから、そう思われないように努力しました。

―先ほど、小さいころはアクション女優になるのが夢だったとおっしゃっていましたが。

くノ一をやるのが夢なんです。海外の人たちに、忍者はかっこいいとよく言われるじゃないですか。海外に受ける、くノ一の映画を作るのが、私の夢なんです。

―かなえてください。すでに筋トレも始めていらっしゃるし。

はい。外腹横筋をつけて、頑張りたいと思います(笑)。

北乃きいさんインタビュー画像

関西テレビ放送開局60周年記念
ミュージカル『ハル』

海外でヒットした作品を上演することが多い日本のミュージカル界において、日本のスタッフ・キャストがゼロから手掛けるオリジナル・ミュージカル。ストレート・プレイからミュージカルまで第一線で活躍する演出家・栗山民也の下、Hey! Say! JUMPの薮宏太、北乃きい、Travis Japan/ジャニーズJr.の七五三掛龍也ほか、フレッシュな若手キャストが揃う。安蘭けい、栗原英雄、梅沢昌代、今井清隆ほかベテラン勢が脇を固める。
主人公は小さな田舎町で母親と暮らす高校生・ハル(薮宏太)。空虚な日々を送っていた彼は、ある日、町にやってきたボクシングに夢中の少女・真由(北乃きい)と出会う。真由に誘われ、ボクシングにのめり込んでいくハル。彼が人生と向き合いはじめた時、町にも大きな変化が訪れようとしていた――。
演出:栗山民也 脚本・作詞:高橋亜子 作曲・音楽監督 甲斐正人
出演: 薮宏太(Hey! Say! JUMP)、北乃きい、安蘭けい、栗原英雄、七五三掛龍也(Travis Japan/ジャニーズJr.)、梅沢昌代、今井清隆ほか

4月1日(月)~14日(日) TBS赤坂ACTシアター
4月22日(月)~28日(日) 梅田芸術劇場メインホール

取材・文/多賀谷浩子
撮影/鈴木慶子
ヘアメイク/ミズグチサチコ
スタイリスト/大和田一美(アペレア)


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