グローバル企業の日本オフィスからシンガポールに派遣され、シンガポールのみならず、日系企業のアジア・オセアニア事業にフォーカスしたプロジェクトにかかわる。現地では、シンガポールの環境を満喫しようと、朝のランニングやクラシックバレエのレッスン、ヨガ、ゴルフなどのスポーツにアクティブに取り組んだり、友達や同僚と家族ぐるみでプールブランチ(プールサイドで食事を楽しむこと)やバーベキューパーティーなどを楽しんでいる。
詳細さよりもスピードが問われる
はじめまして。Banbiです。グローバル企業の日本オフィスから、シンガポールへ赴任となり、シンガポールのみならず、アジア・オセアニアの日系企業の現法へのご支援のプロジェクトに携わっています。
シンガポールオフィスの職場のメンバーの国籍は非常に多様なので、どこの国の人が多いかは正直よくわかりません。そもそも「この人はどの国から来ているんだろう?」などと考えたことがあまりないのです。一方、プロジェクトがらみでかかわるクライアントさんでは、プロジェクト開始までは基本的に日本人駐在員のマネジメント層の方々とお話しさせて頂くことが多く、一旦プロジェクトが開始すると、シンガポール、タイ、マレーシア、インド、中国といった国々の現地メンバーとも仕事をしていくことになります。実際の業務では英語を使用することが大半ですが、日本人駐在員とのやりとりや、本社やマネジメント層への報告を行う場合などは、日本語も使います。
シンガポールで仕事をしていて感じるのは、Efficiency(効率性)であり、詳細なプロセスよりもスピードが問われ、結果が重視されるということ。時間をかければよいものができるのは当たり前。「Quick and Dirty(クイックアンドダーティー)」に、まずは多少粗くとも早いタイミングで期待値に近いものを出す、というスタンスなのです。最初の段階から細かい設計や数字を整えようとしたり、最初のチェックポイントの時点で完璧な資料を作ろうとする傾向がある日本との違いを、つくづく実感します。200以上あるサービスにかかわっているコストの洗い出しを、クライアントである企業のローカルメンバーに依頼したことがあるのですが、その時は、なんと1日くらいでざっと数字を出してくれました。この数字が精緻かどうかと言えば、抜け・漏れや誤りはあるものの、全体から見ると判断を進めるには十分であり、その後の進め方や結果に大きな影響を及ぼすほどのものではないことがほとんど。「とりあえずこの数字で全体感としてOKなので、これから精緻化していきましょう」と先に進んでいくことができます。
資料作成においても、日系企業では、担当者から係長へ、そして課長、部長へといった具合に、承認プロセスが非常に多い上に、その承認を得るまでに何度も何度も事前ネゴや打ち合わせをして、色使いに至るまで細かいチェックをしているイメージがあります。対してシンガポールでは、最終段階までに形になっていればいいという感じでしょうか。「さほど体裁が整っていなくても、内容について早く合意することが重要。体裁を整えるのはその後でOK」といった考え方が共有されているように思います。当社もグローバル企業なので、日本式のやり方よりはこうしたやり方が主流であることもあり、私としては非常にやりやすいです。
「Quick and Dirty」には、スピードが速いという利点がある一方で、困った側面もあり、日常生活でもよく目にすることがあります。例えば、ビルやコンドミニアムは、建設が始まったと思うと、あっという間に完成するものの、実は品質面の仕上がりは非常に雑。ドアノブやエレベーターのスイッチパネルがまっすぐ設置されずに、多少曲がっていたりすることも日常茶飯事です。住めないほどひどい不具合ではないものの、やはり日本人としては気になるので、こういうときは大家さんに修理をお願いしています。
日本語での会話は慎重に
定時になるとさっさと帰宅するところも、実にシンガポールらしい一面です。ご支援させていただいている企業では、8時30分から17時45分までが就業時間。もちろん、多忙な時期は残業されていますが、基本的に18時くらいになると皆さんさっさと帰宅するので、それ以降はまずつかまりません。その一方で、日系企業の駐在員の方は遅くまでオフィスに残り、夜遅くまで日本の本社との間でメールが飛び交っているようです。
当社の場合も、日本オフィスではプロジェクトチームで仕事をする都合上、メンバー全員が一緒に残って議論をしたりすることも多く、その点では、日系企業とあまり変わりはありません。しかし、同じ会社でも、シンガポールでは、やはり18時、19時には帰宅する社員が主流。ただし、家に仕事を持ち帰り、家族と夕食を食べてから仕事を済ませるというスタイルなので、実質的な労働時間は就業時間よりも長くなると思われます。これは、アジア以外の地域にいるメンバーと時差のある中で仕事をすることが多いため、オフィスの立地に縛られずに業務に携わる必要があるせいかもしれませんが、個人主義、効率性重視といったことも影響しているように感じます。
こちらでは、自分の能力をやや誇大に評価している人が多いようにも感じます。「10」のうち、「5」を知っているだけで「知っている」「できる」と断言してしまうので、「謙譲」を美徳とする日本人は、はじめは慣れないかもしれません。特に中国系の人々にその傾向が顕著で、「こういうことをしたいんだけど…」と難しい課題を持ち出したときでも、「Ok Ok.No problem. I can do that!」とあっさりと引き受けてくれるのですが、本当にできるかというと、実際のスキルは伴っていないことが、後から判明することもあります。こうした経験から、彼らの「できます」は、日本人の「できます」の70パーセントくらいの感覚で受け取るようにしています。
一方、タイで働くローカルスタッフは、「とりあえず、時間は気にせずにゆっくり取り組もう」というようなゆったりとしたスタンスで仕事に臨んでいるように感じます。中には、予定していたスケジュールがどんどん遅れ、予定の2カ月後の稼働で調整されているプロジェクトもあるほどです。日本人だったら、2カ月遅れというと相当の危機感を感じそうですよね。でも、皆さん、「まあなんとかなるさ」とのんびり構えているように見えます。したがって、タイ人スタッフに何かを依頼するときは、かなり日程に余裕を持ってお願いするようにしています。
ローカルスタッフとのやりとりを円滑に運ぶために気をつけていることは、よく会話をすること。どんなに些細(ささい)なことや、日常生活の小さなことでも、立ち話程度でいいから会話をすることを大切にしています。話題は、仕事の相談や改善にむけた提案はもちろんのこと、最近の天気の話やおいしかったレストランの情報交換、バカンスの予定など。私はオープンなので、ボーイフレンドのことなど、プライベートなことも結構、話しますね。
クライアントとのやりとりに関しては、透明性を担保することにも気をつけています。特に、日本人同士が日本語で会話していると、ローカル社員から「何かを隠しているのではないか? 本社と何かを企(たくら)んでいるのではないか?」と疑われてしまいがちなので、可能な範囲で情報を開示していくことを心がけています。細かいニュアンスをくみ取らなければならないような大事な話は日本語でしますが、その内容を「今、こういったことを相談していて、こういうことを議論していた」と必ずローカル社員にフィードバックしています。
次回は、多民族国家シンガポールの文化についてお話しします。
超高層ビルが立ち並ぶシンガポールのビジネスエリア。シンガポールは、金融をはじめとするグローバルビジネスの拠点として東南アジアのリーダー的存在だ。
Amoyストリートには、昔ながらのショップハウス(棟続きになった細長くて間口の狭い家屋)が建ち並ぶ。
日の出間際のマリーナベイ。早朝ランニングの途中で毎日、目にする光景だ。
職場の仲間と楽しむバーベキューパーティー。家族ぐるみで一緒に休日を過ごすことで、一層、親しさが増すことに。
構成/日笠由紀