中国から見て北西側に位置するカザフスタンの首都アスタナにある日系メーカーに勤務。現地での楽しみは、駐在員仲間とのグルメ散策と、趣味を増やすこと。
日本に対する関心が高い同僚たち
はじめまして。柴です。カザフスタンの首都アスタナにある日系メーカーに勤務しています。
勤務先で同僚として働いているのは、カザフスタン人が95パーセント、ロシア人が4パーセント、日本人が1パーセントといった構成です。取引先で見ると、カザフスタン人80パーセント、ロシア人20パーセント。つまり、多くのカザフスタン人とロシア人に囲まれて仕事をしているわけです。
英語が話せる同僚とは英語を話しますが、その割合は全体の5パーセント程度と非常に少数。残りの同僚はロシア語しか話せないので、ほとんどロシア語でコミュニケーションしています。社外の取引先であるロシアの企業の担当者は、95パーセントほどが英語を話しますが、日系企業の子会社が多いためか、日本人の出向者も少なくなく、日本語が話せるロシア人スタッフもいるため、日本語を使う場面も。顧客も、5パーセント程度は英語を話し、残りはロシア語でのコミュニケーションとなっています。
日系企業に勤めているからなのかもしれませんが、職場の同僚には、日本に対する興味がある人が多いですね。2015年10月に安倍首相がカザフスタンを訪問した際も、「カザフを訪問する日本の真の狙いは?」といった政治・経済に関する質問を僕にしてきたり、僕が職場に持ち込んだ「消せるペン」に関心を示したりと、幅広く興味を抱いているようです。また、日本人駐在員たちが残業までして業務を完遂しようとする姿勢も、かなり興味深く感じているようです。
顧客も同様で、日系製品に対する信頼があついことを感じます。やはり、「日本製は品質が高い」という認識が浸透しているようですね。それは、機械類の寿命が他国製に比べて長いことが主な要因のようです。当社も、そういった優位性と、修理などのサービスの手厚さの両方をアピールして日系製品を売っていこうと頑張っています。
親日派が多くてやりやすい一方、ビジネスがやりにくい一面もあります。例えば、転職が当たり前の文化らしく、急に辞めてしまう社員が多いのです。おそらく前から決まっているのでしょうが、急に「本日が最終日」と言ってあいさつにくる時もあるほどなので、「今月いっぱいで辞めます」くらいは日常茶飯事。以前、同僚が転職先について相談してきたことがあったのですが、彼も1カ月以内には辞めていました。仕事を放り出して辞めてしまうようなことはありませんが、後任への引き継ぎが甘かったりすることは正直あります。転職の動機は、基本的に「もっと給料が高い会社へ」という待遇面でのステップアップが大多数ですが、時には「親戚から仕事を斡旋(あっせん)され、断れないので」といった理由で転職する場合もあるようです。
なお、急に辞められてしまった場合、人員の補充が必要になるわけですが、他部署の者として見ている限り、人事担当者が後任者を雇うのにさほど苦労している印象は受けません。失業率は5パーセント程度と総じて低く、売り手市場なのですが、もともと当社は新卒採用が少なく、他企業からの転職組が多いせいなのかもしれません。
顧客とのアポイントがなかなか取れない点でも苦労しています。アポイントが取れない相手には国営企業が多く、さまざまな言い訳を用意していてアポイントを入れられないようにしてくるのです。その理由の一つとして考えられるのが、公的な組織として、一民間企業と頻繁に会うのはまずいと考えている可能性があること。ただし、一度アポイントを取ってしまえば、ドタキャンなどはあまりありません。
そうは言っても、顧客を訪問した先で、平気で数十分待たされるのはこたえます。基本的に、顧客の方が立場が強いので、待たされることは往々にしてあり得ることかもしれません。一方、社内のメンバーたちは、意外と時間に律儀なので、社内会議は時間通りに始められます。そもそも時間を守るのは、社会人のマナーですからね。
ただ、時間に律儀なだけあって、定時きっかりに帰るところには、感心するやら困惑するやら。理由は、「家族第一」だからではないかと思います。もちろん、1分でも長く余計に働くのはもったいないといった気持ちもないわけではないでしょう。とはいえ、仕事が残っているのに時間が来たから放って帰るということはありません。仕事が終わっていないスタッフは、ブツブツ言いながらも残業して仕事を終わらせます。
カザフスタンの人々には、韓国に対する親近感があるとも感じています。こちらには韓国人の2世や3世の人が多く住んでいるので、歴史的に何かしらのつながりがあったのではないでしょうか。特に、韓国のゼネコンが参入してきていたり、韓国製の建設機械を多く見かけることから、かかわりの深さを感じています。僕が住んでいるマンションも、韓国のゼネコンが建設したものです。
業務の必要性を根気強く説明する
仕事を円滑に進めるために気をつけているのは、より細かく丁寧に指示を出すこと。日本人同士だと「あうんの呼吸」が通じますが、こちらではそのように相手がこちらの意をくんでくれることは期待できないため、相手がしっかりと理解するように細かく説明する必要があるのです。例えば、会議で「こういう方向に進めよう」といったん決めても、誰かがグイグイとその方向に進めないと、何も進まないという状況が多々あります。「自分がやらなくても、誰かがやる」というメンタリティが根底にあるのかもしれません。そこで、僕は、「なぜこれをやる必要があるのか」をしっかりと説明して、必要性を理解させた上で、「次に何をしたらいいか」という観点から細かく指示を出すようにしています。
加えて、指示されたことをすぐに忘れてしまう傾向があるため、何回も粘り強く指示を出すようにしています。メモを取る習慣もないらしく、「これ送って!」と依頼したときも、すぐに「OK!」と返事こそ返ってくるものの、肝心のものは待てど暮らせど送られてこないことがほとんど。口頭でも何度も言いますが、メールでプッシュもしています。ただ、反応がない場合は、往々にして「なぜそれが必要か」を理解していないことが多く、そういう意味でも、指示を出す時点で説明をすることが重要となってきます。
次回は、カザフスタンという国についてお話しします。
アスタナ一番の観光名所「バイテレク」。高さは、アスタナに首都が置かれた1997年にちなんだ97メートルだ。
バイテレクの展望台には、現在のナザルバエフ大統領の手形があり、自分の手を重ねる観光客も多い。
バイテレクの三層になった展望台からはアスタナ市内を360度一望できる。
アスタナの近代的かつユニークな建築物の一例。アスタナの都市計画案は日本の建築家、故・黒川紀章氏によるものだ。
ときおりレストランで注文する鴨肉の串焼き。焼き具合が絶妙でとてもおいしい。
構成/日笠由紀