五味太郎

ごみたろう・1945年東京都生まれ。桑沢デザイン研究所ID科卒業。工業デザインやエディトリアルデザインのデザイナーを経て創作活動を開始。1973年『みち』(福音館書店)発刊以降、絵本を中心に450点を超える作品を発表。うち約100タイトルの本が約25カ国で翻訳出版されている。『かくしたのだあれ』『たべたのだあれ』で「サンケイ児童出版文化賞」、『仔牛の春』で「ボローニャ国際絵本原画展賞」、『言葉図鑑(全10巻)』で「ライプツィヒ世界でもっとも美しい本コンクール賞」など数々の賞も受賞している。

絵本作家になりたいと思ったことなんて、一度もない

「絵本って何ですか?」ってよく聞かれるんだけど、それ、何だかよくわからないんだよ。実際、「何だろうね」と思って描いているわけ。絵本って何かわからないし、読み手によっていろいろな受け取り方がある。決まった表現はないから、面白いなあと思って描いている。でも、世の中でしっかり勉強をしてきた人は「絵本というのは、こういうもの」と決めたいんだね。雑誌なんかを見るといろんな人が「絵本というのはこうやって役立つんですよ」「3歳児にはこんな絵本がおすすめ」なんて語っている。「まあ、よく言うぜ」みたいなことを平気でね(笑)。

 

おすすめの絵本を聞かれたら、俺も答えるよ。「やっぱり、五味太郎でしょう」って(笑)。だって、商売ですから。俺は本を作って暮らしていて、それ以上の何者でもない。簡単だよ。でも、それを貫くのはすごく難しい。何百冊も描いていると、「こんなに皆さんから喜ばれる本をいっぱいお描きになって」ということで表彰されたり、褒められたりするから。そりゃ、俺だって、描いたものを誰かが見てくれるというのはうれしいさ。特に子どもはシビアで、つまらないと見向きもしないから、あいつらからの反応はたまらないね。たまたま読んだおばあちゃんにもウケたとか、行ったこともない外国でもウケたなんてことがあるのもなかなかいい。だけど、「皆さんを喜ばせよう」と思って描いているわけじゃないから、褒められても、ピンとこない感じがあるわけ。ただ、俺ももう70歳だからさ、この間賞(東燃ゼネラル児童文化賞)をもらった時(2015年9月)には「今後は素直に褒められることに慣れていきたい」ってコメントしたの。みんな、椅子から転げ落ちそうになっていたけど。

 

絵本作家になりたいと思ったきっかけ? 何かになりたいと思ったことなんて一度もないよ。「ウルトラマンになりたい」と思ったことも、「鳥になってはばたきたい」と願ったこともない。やりたいようにやっていたら、今に至るって感じ。ガキのころから、多分、「言い出しっぺ」だったんだよね。例えば、「缶蹴りやろうぜ」と言って、みんなでやるとするじゃない。夢中になって、しばらくすると俺は飽きちゃうんだけど、みんなはまだやってるんだよ。で、俺はそっと群れから逃げて、次にやりたいことを考える。ずっとその繰り返しだったような気がする。

 

絵や本は好きだったけどね。高校で進路をどうするかという時も、いい加減なもんだったよ。当時、ウロウロしているヤツが芸術系の大学を受けるというのがはやりでさ。受けたはいいけど、受験勉強はしていないから、あっさり不合格。じゃあ、どうしようかという時に桑沢デザイン研究所という専門学校の看板を見かけて、何か悪くない感じだなと思って取りあえずの所属先として入ることにしたの。デザインには興味があったしね。ただ、デザインの根本は誰かが教えてくれるようなものではないよなあという意識はどこかにあったよ。

 

専門学校を出てからしばらくは広告や商品のデザインをやっていて、面白いなとも思ったんだけど、どこかしっくりこなくて。なぜなのかわかるまでに時間がかかったけど、結局、クライアントありきで言われたものを作るというのが俺には合わなかったんだと思う。そんな中でなんとなく絵本を描いてみたら、楽しかった。それで10冊くらい描いたころに友達が「こういうの、売り込んだ方がいいんじゃない?」って出版社のリストをくれてね。あいうえお順に持って行ってみたら、「いいね。うちで出そう」と言ってくれたのが、岩崎書店。その本が思ったよりも売れて2作目も出せることになり、それ以降もどんどん描いているうちに、気がついたら「絵本作家」って呼ばれていた。

 

こういう取材を受けると、「学校はどこですか?」「影響を受けた作家は?」なんて聞かれたりするじゃない。適当に答えたりすると、でっち上げの記事を書かれたりするんだよね。「◯◯先生に憧れて絵本作家を志し、専門学校で学んでプロになりました」なんて。だから、こう見えても、俺、うかつなことは言わないよう気をつけているよ。

 

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気持ちいい感じで仕事をしている人には、覚悟のようなものがある

町で誰かに会うと、単純にその人が自分の仕事が好きかどうかってわかる。タクシーの運転手さんにせよ、大工さんにせよね。気持ちいい感じの人って「私は好きでこの仕事をやっているんです」「私にはこの仕事しかないのよね」という覚悟のようなものがある。その仕事がもともとやりたかったのか、いろいろ試してみた結果なのかはわからないけど、最終的に「これで生きていくしかないでしょう」という感じがあるよね。

 

気持ちいい感じって言っても、必ずしも愛想がいいとかじゃないんだよ。ある洋服屋さんに入った時に気になるコートがあって、試着しようとしたら、店員さんが「似合いませんね」って言うの。代わりに奥から別のを取り出してきたから、「なんだよ。仕方ないなあ」と思って着てみたら、悪くなくてさ。その後ときどき「五味さんに似合う服が入荷しましたから、ちょっとお店に寄ってください。取り置きしていますから」って電話が入るようになって。「おいおい。俺の好みは聞かないのか」と思いながらも行って着てみると、なぜか似合っちゃうんだよ。だから、しばらく彼女が選んでくれるものを着ていたんだけど、あっという間に本部に引き抜かれていなくなっちゃった。

 

逆に、イヤイヤ仕事をしているのは、ソツがない人が多い気がする。そこそこ器用で、あちこちでいい顔ができてしまうタイプがかわいそうな感じ。余計なお世話だけどね。それこそ、大学に入って、就職活動をしていくつかの企業から内定をもらい、給料で仕事を選んだような人がのちのち危ないかもしれないよ。そういう人は子どもの時からお手本をなぞることに一生懸命で、自分が何を好きで何がイヤなのか、自分がどういう人間なのかというのを見つける暇がない。幼いころは「僕のやり方」「私のやり方」というものを持っていたのにどんどん失っていく。社会に出て20年、30年とたつころには「自分は何をやってきたんだろう」ということになっちゃうんだよね。

 

つまり、何が言いたいかというと、焦らない方がいいんじゃないかってこと。今の人たちって「早く結果を出さなきゃ」「自分に合う仕事を見つけなければ」と考え過ぎだよ。学校を卒業した20代やそこらで、30年、40年先の生き方を決めるなんて無理。俺の実感から言って、本当に仕事をしているという感覚が出てきて、楽しいなと感じるようになるのって40歳を過ぎてからじゃないかな。それまではもがいたり、バタバタ。ひどいもんだよ。だけど、いろいろやってみて、「何か違う」と思って初めてわかることって多い。30代までは予行演習だと思って、わがままに行くしかないんじゃない? 「ずっと予行演習だと思ってのんびりしていたら、50代になって慌てた」と言っていた友人がいたけど、それもOKだよね。寿命も延びているしさ。

 

新入社員も即戦力が求められる時代? そんな話、真に受けない方がいいと思う。経験もない人にいきなり結果を求めるなんて現実的じゃないし、「すぐに結果を出せ」なんて結果を出したことがない人の言葉だよ。もちろん、自分から「早く結果を出したい」と思うなら、それは別に悪いことじゃない。性格によってのんびりしているとか、セカセカしているってあるから。だけど、周りの人の言うことはまともに聞いちゃダメ。「余計なお世話」ってことも多いからさ。ただ、相手も悪意はないから、ケンカにならないように聞く技術は持っていたいね。「なるほど」とうなずくとか、メモを取るとか。

 

あと、「希望のない時代」っていうフレーズもメディアは好きだけど、俺に言わせると、よくわからないね。希望なんてあるわけがないさ。だって、「希望はどこにあるの?」という探し方しかしていないんだから。「希望は君の中にあるんだ」って誰も言わないじゃない。

 

仕事だって同じ。「希望の仕事に就けない」とよく聞くけれど、それって本当に君の希望なの? 「人気企業ランキングに入っていて、みんなに一目置かれる」とか「大企業で、親も安心する」とか誰かの希望なんじゃないのって話。それをどうのこうの言わないけどね。「満員電車に乗らなくていい」「早起きしなくてもいい」というようなことでもいいから、もっと自分のペースで希望の仕事を考えた方が、明るいビジョンが出てくると思う。希望の仕事なんて、ない。自分で作るんだよ。

 

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INFORMATION

『大人問題』(講談社/税込み596円)は五味さんが「大人」に対して思うところをつづったエッセイ。独自の鋭い視点で社会や教育について論じられており、「とにもかくにも心穏やかではない大人たち」「どんなときでもわかったような顔をしていたい大人たち」「よせばいいのにいろいろと教えたがる大人たち」など目次に並ぶ言葉から、ハッとさせられる。

 

 

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取材・文/泉彩子 撮影/臼田尚史

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