物事を簡単にあきらめない人や、何かをコツコツと続けている人をよく「粘り強い人」と表現しますよね。この「粘り強い」を、エントリーシート(ES)や面接の自己PRとして使う学生は意外に多いようです。とはいえ、あらためてこの「粘り強い」性格は、本当に企業が求めているものなのでしょうか。また、「粘り強い」とは具体的にどんな特徴があり、どのように表現すれば企業に響く自己PRになるのでしょうか。企業の採用コンサルティングや、学生のキャリア支援を数多く手掛けている採用のプロフェッショナル、西村武士さんに聞いてみました。
西村武士(にしむら・たけし)実践型就活&キャリアデザインゼミナールReaL代表。都内カーディーラーでトップセールスとして活躍したのち、大手人材紹介企業、コンサルティングファームでの採用統括マネージャーを経て2012年より独立。大手からベンチャーまで幅広い企業規模の採用コンサルティングや、企業研修の企画実施に従事。スポーツ選手のキャリア研修も手掛ける。また、「全国就活学外ゼミ」である、実践型就活&キャリアデザインゼミナールReaLは16年間で1080名の卒業生を輩出し、現在も全国18拠点で大学生が主体的に活動中。
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こんな人なら「粘り強い」とアピールできる
ひと口に「粘り強い」といってもタイプはいろいろ
「粘り強い」という言葉の意味は、「根気がある」とか「よく頑張る」ということ。一般的に「粘り強い人」と言う場合は、理屈抜きに頑張る=「根性がある」、決してあきらめない=「頑固」というイメージもあることでしょう。
このようにひと言で「粘り強い」といっても、そこにはさまざまな性質があります。その中でも企業が学生に求める粘り強さには、大きく次の3つがあると考えています。
(1)ストレス耐性
なんらかのストレスを受けても、それを自分の中でうまく整理して切り抜けることができる力。失敗してもあきらめず、それを糧にして次のステップに進むことができる力。
(2)起き上がり力・気持ちの切り替え力
物事がうまくいかなかったときに、素早く気持ちを切り替えて立ち直ることができる力。切り替えが必要な場面で、周囲の人や場の雰囲気も変えられる力。
(3)継続力
一つのことをコツコツと長く続けられる、または毎日のように同じことを正確に継続することができる力。さらにそれを大切にして、やりがいを感じることができる力。
ESや面接で「粘り強い」を自己PRとする場合は、まずは自分の伝えたい粘り強さを上のようにできるだけ具体的な言葉で表現してみましょう。
業務や企業によって求める粘り強さが違う
こうした「粘り強い」といわれる性格は企業側に一定のニーズがあり、就活で十分にアピールする価値のあるものです。ただし、企業の求める粘り強さは、その業務の特徴や社風によっても違うことがあります。さらに業界によっては、あまり強みにならない場合もあるので注意が必要です。
ESや面接で自分がアピールしたい能力や性格を一方的に伝えても、それを企業が求めていなければ意味がありません。その企業が粘り強さを求めているのか、求めているとしたらどんな粘り強さなのかを整理した上で、その環境で発揮できる強みを考えてみるといいでしょう。
企業が求める粘り強さは、どんな仕事で発揮される?
特に必要とされるのは営業、開発、研究職など
粘り強さは、企業のカラーにもよりますが、従来型の業種では幅広く求められている資質です。
中でも特に「粘り強い」アピールが響くと考えられるのは、不動産や自動車ディーラー、生命保険など、BtoC(Business to Consumer。製品やサービスを消費者向けに販売すること)向けの営業職が中心的な人材となる業界です。シビアに数字で結果が求められる仕事なので、いったん断られても手を変え品を変えてお客さまにアプローチする粘りが求められます。とりわけ(1)ストレス耐性や(2)起き上がり力が大事になりますね。
また、商品開発や研究職にも広く求められる資質です。新しい製品を生み出したり、研究で結果を出したりするプロセスには失敗が付きものです。長い時間をかけて目標に到達できなかったときのショックは大きいものですが、それでも切り替えて新しい道を探る精神的なタフさ、(2)の起き上がり力が特に必要とされると思います。
(3)継続力は、高いレベルの几帳面さがないとやりがいを見いだせない業種には、必須な力です。例えば民間企業の総務、経理、人事、労務などの仕事。また、決められたことを丁寧に遂行することが求められる公務員や、銀行の店舗業務などの仕事がそれに当たります。
論理的思考を求める業界では逆効果に?
逆に「粘り強い」ことを強みとして捉えていないために、自己PRに使うと、もしかしたら逆効果になるかもしれない業界もあります。
例えばコンサルティング業界やIT・Web業界、最近は総合商社などもそれに含まれるでしょう。こうした業界は論理的な思考力を最も重視する傾向にあり、継続力やストレス耐性を含む「粘り強い」という資質の優先度はあまり高くはありません。
むしろ「粘り強い」からイメージされる「一生懸命に取り組む」という特徴は、「物事に固執する」「批判的精神に欠ける」と、ネガティブに捉えられてしまう可能性もあります。ですからこうした業界では自己PRに使わない方がいいでしょう。
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「粘り強い」を自己PRで効果的に伝えるコツは?
アピールするなら、具体的な結果を準備しよう
どんな自己PRであっても、採用担当者は「その強みを仕事で本当に発揮できるのか」を判断するため、根拠となるエピソードを重視します。ですから「粘り強い」をPRする場合も、それを裏付けるしっかりとしたエピソードが必要です。
特に「粘り強い」をアピールする場合に気をつけたいのは、大なり小なりなんらかの結果を伴っていなければいけないということです。「○○を達成するために粘り強く取り組んだ」ということを伝えるのですから、結論がただ「頑張りました」では説得力がありません。
また、(1)のようなストレス耐性のある粘り強さをアピールした場合、私が採用担当者なら、あえてテンプレではないイレギュラーな質問をして反応を見るかもしれません。そこでも落ち着いて受け答えができれば、被面接者の言う「ストレス耐性」はより説得力が増すことでしょう。企業が求める粘り強さには、このような臨機応変な対応力も含まれると考えて、準備をした方がいいと思います。
ポイントは「数字」「勉学以外」「チーム」
自己PRを裏付けるエピソードを考えるときに、もし「粘り強い」という表現がしっくりこない場合は、先に挙げたような「切り替え力」や「継続力」といった具体的な言葉に置き換えるとより伝わりやすくなることがあります。さらに注意したい点や、企業に響くエピソードを考えるためのコツをいくつかご紹介しましょう。
具体的な数字で成果を出そう
「粘り強い」に限りませんが、具体的な数字で成果を示すことはとても大切です。企業は基本的に利益を求める組織なので、数字が結論にあると非常に強い印象を受けるものだからです。例えば「○名集客しました」「売り上げを○パーセント上げました」など。ビジネス的な成果でなくても、例えば「○年で○名の子どもに読み聞かせをしました」と、自分の取り組んできたことを数字に置き換えて語れることが大事です。どのようなことでも具体的な数字に置き換えると、相手はあなたの粘り強さをイメージしやすくなるからです。
勉学以外のエピソードを選ぼう
趣味や習い事などを一人で粘り強く続けたとアピールする場合も、ただ単に「続けてきました」ではなく、どんな試行錯誤や挫折があり「段位を取った」「資格を取った」などの成果を入れ込むのが望ましいです。また、「粘り強い」のエピソードに勉学を選ぶのは避けた方がいいでしょう。企業や採用担当者にもよりますが、「勉学は本業では?」「粘り強く取り組むのが当たり前では?」と質問されて終わってしまう可能性が高いためです。
チームの成果はあなたの成果
「粘り強い」をエピソードにする場合、実は一人でコツコツ頑張ったことよりもチームでの成果を選んだ方が、より高く評価される傾向があります。なぜなら、会社での仕事は、チームで取り組むことそのものだからです。ところがチームでの体験があるにもかかわらず「自分はリーダーではなかったから」「主役ではなかったから」と遠慮する学生がいますが、それはもったいないです。どのような役割でも、チームの一員としてかかわったのであれば、チームの成果はあなたの成果。役割と貢献度を具体的にした上で、堂々とアピールしましょう。
アピール力の高い「逆境からの切り返し」
私が今まで接してきた学生の「粘り強い」のエピソードで一番印象的だったのは、学園祭であるイベントを企画するために、許可を求めて学長に直談判した話です。事情があって一度は却下されたものの、市民1000人にアンケートを実施。「ぜひやってほしい」という声を味方に付けてもう一度学長の元に行き、許可を得たというものでした。
いったん断られてもすぐに次の戦略を考え、しかも他人の力を巻き込んでもう一回アプローチするという、まさに本物の粘り強さが発揮されたエピソードでした。
たとえ小さな成果であっても、あきらめずに試行錯誤ののにちに何かを実現した、達成できたというエピソードは、採用担当者の心に残るものです。最初は失敗しても、アプローチを変えることで最終的にうまくいったというエピソードがないかどうか、探してみましょう。
もし周りの人から「粘り強いね」「すぐあきらめないよね」と言われたことがあるなら、自分を振り返り、そんな体験を自己PRにつなげてみてください。
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