【航空機部品業界編】プロが選ぶ隠れ優良業界

世の中には、広くは知られていない「隠れ優良業界」があります。シンクタンク・日本総合研究所の研究員に、プロの目線で優良業界を教えてもらうこの企画。今回は「航空機部品業界」について紹介します。

「航空機部品業界ってどんな業界?航空機部品業界を“隠れ優良業界”に選んだ理由とは?」など、日ごろたくさんの業界・企業とかかわっているプロだからこそわかる情報が盛りだくさん。ぜひ、参考にしてみましょう。

日本総研・田中靖記さんプロフィールカット株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー
田中靖記(たなか・やすのり)

大阪市立大学大学院文学研究科地理学専修修了。同大学院工学研究科客員研究員。未来デザイン・ラボ所属。世の中の「非連続的な変化」に着目し、どのような将来が訪れる可能性があるのか検討する「未来洞察」のプロジェクトを手がける。

前回の記事では、普段たくさんの企業と接している日本総研の研究員が考える優良業界の3つの条件を紹介しました。

「優良業界ってどんな業界?見つけ方・探し方のコツは?【シンクタンク研究員が解説】」前回の記事はこちら

1. 業界の規模が大きい、あるいは拡大中である
2. 他社との競争が激しくない
3. 取引先に対して有利な立場を築きやすい

今回は、これらの条件に当てはまる「航空機部品業界」について田中さんに解説していただきます。

航空機部品業界ってどんな業界?市場規模はどのくらい?

航空機の機体やエンジンに使われる部品を製造

航空機部品業界イラスト

航空機部品業界とは、名前の通り、航空機に使われる部品を作っている業界です。

航空機は、フライトデッキ、翼、胴体などの「機体」、ファン、コンプレッサー、タービン、ギアボックスなどの「エンジン」、油圧システム、与圧・空調システム、燃料制御装置といった「装備品」の3つに大別されます。

この業界はピラミッド形の構造になっていて、完成機メーカーやエンジンメーカーが「Tier1(ティアワン。一次請け企業という意味。「パートナー」と呼ばれることもある)」と呼ばれる企業に部品を発注。そしてTier1企業は、一部の部品を自社で製造・組み立て、それ以外をTier2以下の企業に外注する仕組みになっています。

航空機の部品数は自動車の100倍以上

1機の大型航空機に使われている部品の点数は、約300万点と言われます。これは自動車(1台当たり約2万~3万点)よりも格段に多いのです。その分、かかわっている企業の裾野も幅広いと言えます。

航空機には、厳しい品質管理が求められます。空を飛んでいる飛行機は、故障してもその場で止まって直すことができません。ですから、その故障が深刻な事故につながる危険性が高いのです。そこで各部品メーカーには、素材の調達方法、使う工具、加工のプロセスなどのすべてにおいて、規制機関や発注メーカーから認証を受ける必要があります。

なお、こうしたやりとりはほとんどが英語で行われるため、英語力の高い人は実力を発揮しやすいでしょう。

世界市場・国内市場共に拡大の見込み

新興国を中心に経済発展が続いているため、世界的な航空機の需要は拡大しています。経済産業省によれば、旅客需要は年率5%のペースで増加中。今後20年間で、約3万機(4兆~5兆ドル)以上の新造需要が見込まれています。

国内航空機産業も伸びると見られています。2016年の国内市場規模は約1.6兆円(うち、民間航空機が1.2兆円)でしたが、政府は2020年に2兆円、2030年に3兆円程度まで伸ばすことを目標にしています。

航空機部品業界を「隠れ優良業界」として選んだ理由

航空機部品業界が有望だと考えるポイントは、次の通りです。

1. 市場規模が拡大している

アジアなどの新興国を中心に所得が伸び、グローバル化も進む中、観光やビジネスで航空機を使う人は増える一方です。また、LCC(Low‐Cost Carrierの略。格安航空会社)などの新興航空会社も増えていますし、効率性に優れた中・小型機を利用しようとする傾向も強まっています。そのため、今後も航空機の新造需要は拡大するでしょう。当然、航空機部品業界も成長が期待されています。

一方、完成機メーカーやエンジンメーカーは、安全性・経済性の向上、部品の調達にかかる期間の短縮といった取り組みを継続的に進めています。つまり各社は、質の高い部品をより安く、より早く手に入れるため、常に新しい取引先を探しているのです。そのため、中小企業であっても技術力などが評価され、Tier1企業と直接取引をする企業が増えています。

さらに、日本企業が開発している新型小型旅客機が量産を控えていることもあって、国内の航空機部品メーカーにとっては大きなチャンスが広がっていると言えるでしょう。

2. 世界から技術力を評価されている

「JIS Q 9100(ジスキュー)」が必要ですし、熱処理や化学処理といった特殊工程においては、国際的な認証プログラムである「Nadcap(ナドキャップ)」の取得が不可欠です。

現在国内では、約250社がJIS Q 9100に、約150社がNadcapに登録されており、これらの企業は国内外から高く評価されています。なお、登録事業者のうち、中小企業が50~60%程度を占めます。認証を持っているということが付加価値となり、交渉の土俵に立てるようになります。

3. 経営基盤がしっかりしている企業が多い

航空機業界はほかの業界に比べ、莫大(ばくだい)な研究開発費を必要とします。また、投資の回収期間が長いのもこの業界の特徴です。多額の研究開発費がかかることや投資の回収期間が長いことのメリットの1つは、ほかの業界・企業が安易には参入しづらいこと。研究開発が成功し部品供給企業としての地位を確立できれば、長期的に安定した取引が可能となるでしょう。

また、投資回収期間が長い事業に取り組んでいることもあり、将来に向けた投資を盛んに行っている企業もあります。つまり、投資を支える経営基盤がしっかりしている企業が多いのです。

なお、地方自治体の中には、航空機産業に属する企業および企業の集積(産業クラスター)を支援する部門・組織を設置して地元の航空機産業を育てようとするところもあり、航空機部品業界にとって追い風となっています。

航空機部品業界には、どんな仕事がある?

航空機部品業界には、下記のような仕事があります。

生産技術

航空機部品を設計・製造するためには、コンピュータや精密機械を駆使する必要があります。そこで、CAD(Computer Aided Designの略。コンピュータの助けを借りて設計すること)やCAM(Computer Aided Manufacturingの略。コンピュータの助けを借りて製造すること)のオペレーターやプログラマーは、この業界には欠かせない存在です。

生産管理

航空機部品の製造には、厳密な工程管理・進捗(しんちょく)管理・在庫管理などが不可欠です。これらをしっかりと進める生産管理の仕事は、重要な役割です。

営業

大手企業はもちろん、中小企業でも、完成機メーカーやTier1企業などと直接やりとりをする機会があります。取引先は海外企業が多いため、英語能力が求められるでしょう。

航空機部品業界の最近のTopics

航空機部品業界では、このような動きが現れています。

企業の枠を超えた共同工場の設置

部品メーカー同士が連携すれば、より短期間で部品の製造が可能になります。そこで、中小規模の企業が共同でエンジン部品の多工程一貫生産工場を設立してNadcap認証を取得するなど、企業の枠を超えた連携が進んでいます。

工場自動化への取り組みが活発化

ICチップを取り付けた特殊な治具パレットや工具ホルダー、ロボットによる無人搬送システムなどを導入し、多品種・少ロットの製品を手がける航空機部品の製造工場が登場。このように、自動化を進めて効率化・納期短縮化を目指す工場は増えていくでしょう。

異業種からの参入は盛んだが、参入は難しい

自動車部品を製造している企業の中には、航空機部品業界への参入に強い関心を持っているところもあります。ただし、求められる品質基準が高く、自動車業界とは製造プロセスや製造する数量も異なるため、参入は容易ではないと見られています。

航空機部品メーカーの探し方

最後に、航空機部品メーカーをどうやって探したらいいのかご紹介します。

就職情報サイトを使う場合

リクナビなどの就職情報サイトを使って企業を探す場合は、フリーワード欄に「航空機部品」などと入れてみるといいでしょう。

また業界から探す場合は、メーカーの中でも「輸送機器」や「金属製品」「機械」などの業界に属していることが多いので、見てみるのもオススメです。

インターネットで検索する場合

就職情報サイト同様に「航空機部品メーカー」と検索して各企業のホームページを見るのはもちろんですが、業界団体のホームページを見てみると、その団体に属している企業を一覧で紹介している場合があります。そういったところから、企業を見つけるのも一つの方法です。「航空機部品 業界団体」などと検索してみましょう。

また、各業界の展示会や各種イベントへの参加企業を確認してみることもオススメ。今まで知らなかった企業など、新たな発見があるはずです。

 

取材・文/白谷輝英
撮影/平山 諭


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