【未来洞察のプロが語る企業選びの軸】未来への投資とは?先進的な働き方の見極め方は?

就職先を選ぶ際、ともすると企業の知名度や規模、安定性ばかりに気を取られがち。しかし、違う視点でリサーチしてみると、これまで知らなかった企業に出会える可能性も高まります。

今回は、未来洞察のエキスパートであるシンクタンク・日本総合研究所の田中靖記さんに、企業選びのポイントをインタビューしました。企業を選ぶ際に見ておくと良いポイントとは?

 

日本総研・田中靖記さんプロフィールカットプロフィール 株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー
田中靖記(たなか・やすのり)
未来デザイン・ラボ所属。世の中の「非連続的な変化」に着目し、どのような将来が訪れる可能性があるのか検討する「未来洞察」のプロジェクトを手掛ける。

【ポイント1】未来への投資をしているか

まず前提として、私は「変化しながら成長している企業」が良い企業だと思っています。なぜなら、数年前に流行った技術やサービスが今は廃れているなど、変化の激しい今の時代において企業はもちろん、人が生き残っていくためには、その変化に対応して成長していくことが必要だからです。

そのような成長企業を見極めるポイントはいくつかあります。まず1つ目のポイントは「未来への投資をしているかどうか」です。

未来への投資はどこを見たらわかる?

では未来への投資をどうやって見れば良いのでしょう。その見方をお教えします。

まずチェックしたいのは研究開発費です。簡便な方法としては、インターネットで「研究開発費 ランキング」で検索すると、研究開発費のランキングが見つかります。おそらく、ランキングでは研究開発費の額の大きい順から並んでいると思いますが、額を見るだけではダメ。その額を売上高で割るのがポイントです。この数字を見ることで、その企業がどれだけ未来に投資をしているかがわかります。ただし、研究開発費には、長期的な投資のための研究開発と、短期的な改善のための研究開発の両方が含まれています。外部からはその配分を知るすべはなく、一定の留意は必要です。

自分なりのグラフを作って複数の企業を比較する

さらに成長している企業を見極めたいという人にオススメなのが、横軸に営業利益率(売上高に対する営業利益の割合)、縦軸に先ほど計算した研究開発費比率を取り、気になった企業を当てはめていくことです。すると、複数の企業の比較にもなりますし、右上に該当する企業が優れた企業ということになるでしょう。

有価証券報告書を見る

大企業の場合、さまざまな事業を展開しています。それぞれの事業の未来への投資についてさらに詳しく知りたい場合は、上場企業については有価証券報告書や統合報告書、決算説明資料などのいわゆる「IR情報」を見てみましょう。そうするとセグメント別の売上高や研究開発費が記載されている場合があります。先と同じような方法で研究開発費比率を出せば、その事業に対する未来の投資度合いがわかります。

【ポイント2】新しい分野にチャレンジしているか

新しい分野にチャレンジしているかどうかをチェックすることも大事な要素です。企業が成長していくためには新しいチャレンジが不可欠だからです。

どんな新しいチャレンジに注目するといいの?

新しいチャレンジといっても、切り口はさまざま。既存の事業とは異なる分野に進出するということもあれば、今までの販売先を国内だけからグローバルに広げるということもチャレンジです。また「IT×金融(Fintech)」や「IT×不動産」のような業種横断型のサービスを手掛けているのもチャレンジです。

チャレンジしている企業の見分け方

新しいチャレンジをしているかどうかは、まずは企業の公表情報から確認しましょう。企業のホームページを開き、「沿革」を見ます。祖業だけでなく、時代の変化に合あわせて新しい事業領域に進出しているか、新しい製品を提供しているかをチェックできます。また、「研究開発情報」を公開している企業であれば、どのような未来像を想定しているのか、その未来を実現するためにどういう取り組みをしていくのかがきちんとストーリーとして語られているかを読み取ることができるでしょう。

中堅・中小企業だと上場企業のように情報公開されていないことが多くあります。そういった場合は、経営者のメッセージなどで、未来に向けた新しい事へのチャレンジをうたっているかどうかをぜひ、チェックしてみましょう。

未来洞察のプロが語る企業選びの軸:イメージ画像

【ポイント3】先進的な働き方を採用しているか

変化への対応が速い企業は、「働き方改革」にも積極的に取り組んでいます。例えば、時間や場所に縛られない働き方をしたいという人であれば、テレワーク制度の導入やサテライトオフィスの利用が進んでいるかどうかをチェックしたいもの。サテライトオフィスの利用状況をチェックしたいというのであれば、サテライト・シェアオフィスやコワーキングスペースサービスを提供している企業からたどっていくという方法があります。サービス提供企業のWebサイトなどに、利用企業一覧が掲載されているケースがあるため、導入状況などを確認することができます。

【ポイント4】どのような評価制度を採用しているか

「変化への対応力」という際に、変化するのは顧客や製品だけではありません。企業で働く従業員も変化し続けています。従業員とどのようにコミュニケーションをとっているのか、どのような手法で評価しているのかも重要な視点です。

就活の際、見逃されがちなのが、この評価制度の確認です。面接時にどういう評価制度を採用しているかを聞くことも大事だと思います。評価にあたって、個人の成果、チームの成果、企業の成果の割合はどのくらいなのか。目標を作るのは誰なのか、何が評価されるのか、など。

企業の中には同期であればほぼ横並びの評価制度を採用している企業もあれば、成果によって差が付く評価制度を採用している企業もあります。これは自分がどういう働き方をしたいかにもかかわってきます。面接で聞くには勇気が要るかもしれませんが、ぜひ聞くことをオススメします。というのも退職に至る理由の多くが評価への不満だからです。ですから、臆せずに勇気を出してみてください。できれば、制度の有無だけではなく、運用実態まで踏み込んで聞くことができればベターです。

【ポイント5】社外との共創を促進しようとしているか

社会の変化の速度が上がれば、自分たち(単一の企業内)だけで新しいことを進めることは困難になってきます。なぜなら、時間や経営資源は有限だからです。時代の速度に追いつく、合わせるための方策の一つとして、企業の垣根を超えた共創が盛んになってきています。「オープンイノベーション」などの言葉で語られる文脈ですね。この「共創」に取り組んでいるかどうかもポイントの一つです。

共創に積極的な企業を見つける方法は?

近年、「オープンイノベーション・プラットフォーム」のような、企業と企業、企業と個人(フリーランスなど)をマッチングして、新しい製品やサービスを生み出す仕組みがどんどん生まれてきています。プラットフォームに参加している企業は公表されているケースもあるので、そのようなプラットフォームから、どの企業が参加しているのかを確認してみましょう。

もう一つ、社外との共創に積極的な企業を知るためにオススメなのは、ビジネスパーソン向けに開催されている展示会(技術イベントなど)に出掛けてみること。日本全国で開催されているはずなので、その中で、自分の関心のある業界・技術分野の展示会があれば参加してみましょう。
例えばヘルスケアや航空・宇宙はこれからの成長産業なので、特に心に決めた業界や技術分野がないのであれば、これらの分野の展示会に参加してみるときっと面白い発見があると思いますよ。

また、展示会に参加する良さは、その分野にかかわる製品やサービスを提供している企業を幅広く知れること。しかも大手企業だけではなく、中堅・中小企業、ベンチャー企業なども出展しています。もちろん、展示会を見るだけでも勉強になるのですが、関心のある展示をしている企業があれば、(彼らの本来業務の邪魔にならない範囲で)ぜひ、話しかけてみましょう。そういう展示会で説明員を務めているのは、皆さん社員。直接話すことで、その企業で働く人を知ることができますし、その人を通してその企業の文化の一端を感じ取ることができるからです。

希望の展示会やイベントに参加することが難しい場合でもがっかりする必要はありません。先のような展示会では出展企業と出展内容を展示会ホームページで公開しているからです。それを見るだけでも、自分の知らなかった企業を知ることができるはず。ぜひ、いろいろな企業を知り、先のような軸で自分に合う企業に出会ってほしいと思います。

自分に合う企業を選べば、どんな未来も生きていける

日々多くの企業と接している私がもし今学生に戻って就活をするとしたら、どんな企業を選ぶのか。非常に難しい問題ですが、私は今の会社、少なくとも同じ業界を選ぶと思います。私がこの業界を選んだのは、悪く言うと飽きっぽい性格だったから。もう少し具体的には、コツコツ何かに取り組むことが苦手である一方、人がやっていないことに目をつけ、エッジを立てることに喜びを感じるところがあるからです。

コンサルティング会社でサービスを提供するには、常に新しい情報を追い求め、新しい解決策を考え続ける必要があります。つまり、常に新しいチャレンジをしているわけです。また、今の会社は、個人の成果をきちんと評価に反映してくれます。このような仕事内容や評価制度が、私の志向にマッチしました。その志向は今も変わらず、入社から10年以上たちましたが、日本総研での仕事はとても私に合っていると思います。

皆さんも、どのような仕事内容が向いているのか、自分の志向を見極めてみてください。その上で、いろいろな企業を知り、先のような軸で自分に合う企業に出会ってほしいと思います。また、強調しておきたいことは、就職がゴールではないということです。社会が変わっていく以上、企業のあり方も、仕事内容も変化し続けます。これに対応していくためには、学び続けることが欠かせません。「変化し続けながら成長している企業」が良い企業であると同時に、「変化し続けながら成長している人」が良い人材であるとも言えます。自分なりに未来のことを考え、新しいことを吸収し、変化し続けてほしいと思います。そうすればどんな未来になっても生き残ることができるでしょう。

 

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取材・文/中村仁美
撮影/平山 諭


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