さまざまなジャンルの作品に挑戦する杉咲花さん「勉強にならない現場はないな、と思います」

杉咲花さん画像

プロフィール 杉咲 花(すぎさき・はな)1997年、東京都生まれ。2013年のドラマ『夜行観覧車』での熱演や、回鍋肉(ホイコーロウ)を旺盛に食べる味の素「Cook Do」のCMで注目される。映画『湯を沸かすほどの熱い愛』(16)で第40回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞をはじめ、多くの映画賞を受賞。『メアリと魔女の花』(17)で声優を務めたり、NHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』(16)に出演したりと活躍の場を広げる。近年は『無限の住人』(17)や『BLEACH』(18)などのアクション大作や『パーフェクトワールド 君といる奇跡』(18)のようなラブストーリー、今年4~6月に放送されたドラマ『花のち晴れ~花男 Next Season~』などにも出演。2019年にはNHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』が控えている。

11月3日公開のオムニバス映画『十年 Ten Years Japan』(http://tenyearsjapan.com)。その中の1編『DATA』に主演している杉咲花さん。何げない日常の中で、ある出来事を経験する女子高生を演じています。スクリーンに映える説得力のある演技は、彼女のどんな心持ちから生まれてくるのでしょうか。最新作『DATA』について思うこと、演じる仕事の面白さをうかがいました。

自分が感じたことや体験したことの尊さを、あらためて実感しました

-映画『十年 Ten Years Japan』は10年後の日本をテーマにした5本の短編オムニバス映画です。その中の1編、杉咲さんが主演された『DATA』は、亡くなったお母さんのデジタル情報(生前に書いたメールなどすべての情報)が閲覧できてしまう10年後の社会が舞台になっています。

今は当たり前のように、ネットで調べたらなんでもわかる情報化社会じゃないですか。この作品に出演させていただいて、私も知らないうちに情報に頼りがちになっていたところがあったのかもしれないなと思いました。

-とおっしゃると?

この映画のことを考えていて思い出したことがあって、日々起きたことを日記に付けているのですが、そのデータが全部消えてしまったことがあったんです。3年ぐらい書き続けていたので、ものすごくショックで。これまでの日々が消えてしまったという喪失感にさいなまれて。

-それはショックですね。

その時に、自分の感情や過ごした時間を、そうやってデータに残すことで安心していた部分があったのかなと気づかされました。データが消えると焦ってしまうぐらい、自分が体験したことなのに忘れていることも多くて。

-確かにそうですね。

この映画で(杉咲さんの演じる)舞花は、お母さんの生前のメールを見たことで、知らなくて良かったことを知ってしまって悩むんですけど。

-悩む舞花に、ある人が「そんなの(メールのデータ)見ても、(その人の本当のことは)何もわからないでしょ」と言うのが印象的でした。10年後は、ますます情報化社会になっていくと思いますが、杉咲さんはどう思われますか?

私もやっぱり考えさせられました。例えば私は映画が好きだから、時間が空いたら見に行きたいと思うんですけど、今はいろいろな人のレビューが読めるし、星5つで評価ができて、平均的にみんなが面白いと言う映画の情報を簡単に目にできてしまうじゃないですか。

-そうですね。

そういう情報が入ってくることで、その情報がなければ選んでいて、むしろ好きだったかもしれない映画を、見なくなってしまう…そういう寂しさはあるのかなって思います。

-SNSやネットなどデジタル情報は便利だけど、それだけでは大事なところはわからない…考えさせられます。

そうですね。舞花も「データ」ではなく、お父さんの「記憶」で救われるところがあるんです。だから、データにする以前に、自分自身が感じたことや自分しか経験したことのないこと、それ自体がとてもかけがえのない尊いものなんだと、この作品であらためて実感しました。

杉咲花さんインタビュー画像

印象的な演技のヒミツは「部活への憧れ」!?

-杉咲さんが演じられると、何げない日常の場面に、リアリティーが感じられます。『DATA』の津野愛監督も「いろいろな表情を出していただいて、ふとした視線や顔の向け方、手の動きなど、細やかにキャラクターを作ってくださった」とおっしゃっていました。

うれしいです。

-役としてご自身がその瞬間を生きていることで、自然と出てくる動きや表情という感じがするのですが。

そうですね。こういうふうに演じようというプランは一切ないです。やっぱり相手の方がいてくださって、それで初めて気持ちも目線も動くものだと思っているので。相手の方がどう来られるかも、やってみるまでわからないですし。

-5年前のドラマ『夜行観覧車』で、初めて杉咲さんの演技に注目した人も多いと思います。そういうところは当時から変わらないですか?

いえいえ、演技を始めたころは、せりふを言うだけでも必死でした。おうちで母に付き合ってもらって、せりふを言う練習とかしていましたから。一つひとつの現場に立たせていただく中で、いろいろな方とご一緒させていただいて、「ああ、こうやってやる方もいるんだな」とか「やり方はこれだけじゃないんだな」と。そういう発見は今も常にあります。

-印象に残る出会いがいろいろあったと思うのですが、その一つを教えていただけますか?

『トイレのピエタ』(15)という映画をやらせていただいた時に、松永(大司)監督から「演技している時に、うそをつくな」と言われたんです。悲しそうに悲しい演技をするのではなくて、本当に悲しくなるんだと。お芝居はうそをつくことだと思っていたけれど、うそをつかないことだったのかと、その時に気づかせてもらいました。

-『トイレのピエタ』は、オーディションの期間が長かったそうですね。

はい、1年ぐらい。その期間に3、4回、監督とお会いして、お芝居しました。

-泣きながらオーディションをされたと聞いたことがあります。

そうですね。松永監督には、かなり鍛えられました。(映画に必要な)私の一面を引き出すためだと思うのですが、すごく監督に叱られて。

-そういうとき、負けるもんかって思う方ですか?

褒められて伸びるタイプではないんです。褒められると安心してしまいますし、浮かれてしまう部分もあるので(笑)。怒られて怒られてっていうスパルタの方が自分には向いていると思います。

-厳しい環境が嫌いじゃないんですね。

私、部活をやったことがないんですけど、テレビで放送される部活のドキュメンタリーで、(部活に打ち込む人たちが)泣きながら食らいついて、必死に頑張っている姿を見て、本当にうらやましかったんです。「私もこうやってみたい!」って。怒られながら頑張るっていうのは、憧れだったんです(笑)。

-そうでしたか。頑張ると、その先にご自身の違う面が引き出されますよね。

そうですね。人と出会っての化学反応はもちろん大切で、これからも出会っていけたらと思うのですが、引き出されるというと頼ってばかりいる感じもして…。だから今は、自分からそういう部分を探していきたいという思いの方が強いです。

「みんなで一つのものを作る」楽しさが原動力に

-自分から探すということでいうと、ご自分で今の事務所のオーディションを受けられたそうですね。

そうです。中1の時でした。ワンクールにやっているドラマを全部見ているぐらい、ドラマが好きだったんですけど、特に好きなドラマのすべてに出演されていた志田未来さんに憧れて「演技したいな」と。母と一緒に志田さんが所属されている事務所を調べて、オーディションを受けました。

-お母さんが応援してくれたんですね。

習い事をたくさんやらせてもらっていたのですが、飽きて、やめていたんです。そんな私を見て、「一つの役をやって、撮影が終わったら、また次の役が始まってという俳優の仕事は、向いているんじゃない?」と。だから、母がこのお仕事に導いてくれたようなものなんですけど。

-杉咲さんのお芝居を拝見すると、早いうちにプロ意識が芽生えていらしたんじゃないかと思わされます。映画『湯を沸かすほどの熱い愛』では、教室でちょっと衝撃的なシーンがありました。撮影当時、抵抗はなかったですか?

迷いはなかったです。「体を張ったシーン」と言われたりする場面ですけど、私自身はそういう見方をしたことなかったです。あのシーンはとても重要な場面でしたし、あのシーンがあったからこそ、その後の伏線につながるものだと思ったので。いい作品にするために必要なことだと思ったので、何の違和感もなかったです。

―その原動力は?

単純に好きだったからだと思います。もともと運動会とか文化祭とか合唱コンクールとか、みんなで頑張ることが好きだったんですよ。どうやったらうまくいくかなと、みんなで話し合いながらやっていく時間が好きだったので。撮影現場に立つ時は、まさにそういう時間じゃないですか。だから、みんなで一つのものを作っているということに喜びを感じていたんだと思います。ちょうど映画が好きになって、もっと映画を見たいし、やりたいと思っていた時期でもあったので。

新たな挑戦をすると、自分に足りないものが見えてくる

-一つの作品に臨まれる際、例えば今回の『DATA』にはどんな思いで入られたんですか?

いい作品に絶対したいって、そのために自分ができることを頑張ろうと思って入りました。

-杉咲さんには作家性の強い映画に出られる演技派というイメージがありましたが、最近は人気コミック原作のアクション大作や連ドラなど、エンタテインメント作品にも挑戦されています。

そういう作品に呼んでいただくことはないだろうと思っていたので、お話を頂いた時は意外でしたし、驚きました。でも、やらせていただくと毎回、自分に足りないものが見つかります。

-「足りないもの」というと?

例えば、瞬発力とか。作品によって求められるものが違うので。多分、どちらかというと『トイレのピエタ』や『湯を沸かすほどの熱い愛』は内容やテーマ、映画の質感、役の境遇、そういうものが自分に向いていたと思うんです。

-はい。

と思っていたこともあったのですが、それはある種の逃げでもあったなと思います。

-とおっしゃると?

できないとか、やったことのない怖さから、ちょっと逃げているところもあったんじゃないかなと。実際にやってみたら、一つの現場で、みんなで作っていくことが本当に楽しくて。今年は特にそのことに気づきました。勉強にならない現場はないなと思います。

-連続ドラマ『花のち晴れ~花男 Next Season~』なんて同世代の俳優さんたちとの共演、それまでとはまた違った楽しさがありそうです。

楽しかったですね。仲間ができましたし、これまで私は同世代の人たちとどうやって接したらいいかわからなくて、高校時代もぜんぜん友達いなかったんです(笑)。そこもちょっと避けていた部分だったんですけど、今でも大事な、仲良しの仲間ができました。

-そうやって仕事を通じて、人生が開けていくのはすてきですね。一緒にお仕事された方には、お手紙を書かれると聞いたことがあります。かかわった方を大事にされているんですね。

みんなに書けるわけではないですけれど、打ち上げは時間が短いから、話せない人もいっぱいいるじゃないですか。みんなに「ありがとう」っていう思いがあるのに、伝えそびれてしまうのは寂しいなと思うので、書けるときは書いています。

-最後に、仕事をしていく面白さについて、お聞かせください。

いろいろな人に出会えることですね。あとは、自分がやってきたことに意味があったと思えたらいいな、と思うんです。今の仕事はきっとそう思える仕事だと信じているし、私自身、ドラマや映画を見て、夢をもらって救ってもらったこともあったので、自分が携わった作品が誰かにとって、そうなれたらすてきだなと思います。

杉咲花さんインタビュー画像

 

映画『十年 Ten Years Japan』メインビジュアル『十年 Ten Years Japan』
是枝裕和監督が総合監修し、10年後の日本をテーマに、5人の若手監督が描いた短編オムニバス映画。杉咲花主演の『DATA』は、その中の3作目。亡き母の生前のデジタル情報「デジタル遺産」を父に内緒で閲覧した女子高生の舞花。母のメールを目にしたことで、知られざる母の一面を知り、思い悩むが―。

舞花の父親役に田中哲司、幼なじみに映画『奇跡』の前田旺志郎。何げない日常をこまやかに温かに描き出したのは、ミュージシャン・高橋優のMV『さくらのうた』や是枝監督の映画『三度目の殺人』(17)のメイキングを手掛けた津野愛監督。

『DATA』
監督:津野 愛 出演:杉咲 花、田中哲司ほか
※『DATA』以外の『十年 Ten Yeas Japan』の4編には、國村隼、太賀、川口覚、池脇千鶴ほか出演

配給:フリーストーン
(c)2018“Ten Years Japan” Film Partners
11月3日(土)、テアトル新宿、シネ・リーブル梅田ほか全国順次公開
公式サイト:http:// tenyearsjapan.com

取材・文/多賀谷浩子
撮影/中川文作
ヘアメイク/ナライユミ
スタイリスト/山本マナ


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