将来を見据えた就職先の選び方とは?企業診断のプロが就活生にアドバイス

秋も深まり、大学3年生は就活に向けた準備に動き出しているだろう。この時期の学生がまず悩むのが「どの企業を受ければいいか」だ。

そこで今回は、企業診断のプロである、日本総合研究所のコンサルタント4人を招き「将来を見据えた企業の選び方」をテーマに議論した。

日本総合研究所研究員4名プロフィール写真

プロフィール(左から順に)
リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー 吉田賢哉(よしだ・けんや)さまざまな業界の企業を対象に、成長戦略や新規事業を中心とした仕事を担当。多角的・総合的な観点から企業の発展を支援している。
リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー 太田壮祐(おおた・そうすけ)企業を「人事」や「組織」の観点から支援する業務に従事している。「働き方改革」への対応のあり方や、労働人口減少時代における人材活用方法などについての研究にも参画。
リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー 高津輝章氏(こうず・てるあき)
企業を「経営企画」「経営管理」「財務」の観点から支援するプロジェクトを多数手がけている。また、企業がグループ本社機能の高度化・効率化を目指す際の支援も。公認会計士。
リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー 田中靖記(たなか・やすのり)
未来デザイン・ラボ所属。世の中の「非連続的な変化」に着目し、どのような将来が訪れる可能性があるのか検討する「未来洞察」のプロジェクトを手がける。

「将来を見据えた就職先」を選ぶポイントは5つある

議論に参加した4人は、それぞれが企業の内部に入って事業戦略の立案や業務効率の改善などを担う一方、数多くの企業を担当し、横並びで比較する目も持つ。いわば、「フェア」な視点で、学生に将来を見据えた企業の見極め方を伝授する。今回は「事業戦略」「人事」「財務」「未来洞察」といった観点から、5つのポイントをアドバイスとしてもらうことができた。就活を生業とする専門家とは一味違う観点からのアドバイスは、きっと参考になるだろう

1. 「BtoB企業」に注目する

「就職先の候補としてBtoB企業にもっと目を向けてほしい」。議論の口火を切ったのは、吉田賢哉リサーチ・コンサルティング部門シニアマネジャーだ。マーケティングや組織活性化、海外展開などの切り口から、企業の成長戦略や新規事業戦略を提案する仕事をしている。

BtoB(Business to Business)企業とは、製品やサービスを企業向けに販売する企業を指す。それに対し、消費者向けに販売する企業は「BtoC(Business to Consumer)企業」と呼ばれる。一般的に、BtoC企業はテレビCMなどで積極的に広告を打つため、学生に認知度が高く、就職先としてイメージしやすい。一方で、BtoB企業はビジネス柄、消費者に直接アピールする必要があまりないため、学生にはなじみが薄い。

しかし吉田氏は、BtoB企業を見落としてしまうのはもったいないと主張する。「まずBtoC企業と比べて市場規模がずっと大きい。しかも日本には、世界的に高い評価を得ているBtoB企業が数多く存在しています」と、指摘する。

たとえば、車やスマートフォンなど身近な製品で考えてみよう。学生は完成品の販売元であるメーカーを就職先として連想しがちだが、製品を構成する部品や機械を作っているのはBtoB企業だ。「日ごろ接している製品・サービスを裏方として支えているBtoB企業に注目してみると、進路選択の幅は一気に広がるはずです」(吉田氏)

【事業戦略のプロ・吉田氏が語る「企業選び軸」】BtoB企業に着目するといい?失敗を恐れない企業がオススメの理由とは?

2. 「業種」と「職種」の掛け合わせで考えてみる

一方、「人事の観点」から企業の見方について語ったのは、同じくリサーチ・コンサルティング部門の太田壮祐シニアマネジャーだ。企業の人事組織の改革を専門としている。太田氏が勧めるのは「業種と職種(仕事内容)を掛け合わせて考える企業選び」だ。

たとえば食品業界の商品開発職を志望する学生が、晴れて食品企業に就職できたとする。しかし入社後、商品開発に携われる保証はない。太田氏は「自分の希望はいつ、どの程度かなうのかを理解しておかないと、入社後にミスマッチが起きる可能性が高い」と話す。つまり、業種(食品)と職種(商品開発)のどちらに比重を置くかで、企業の選び方は違ってくるというわけだ。太田氏は「配属に関する実状や、仕事内容の実態など、外部から判断しにくい情報こそ、OB・OG訪問などで引き出すよう心がけてほしい」と提案する。

【人事のプロ・太田氏が語る「企業選びの軸」】業界ごとの給与水準を見ると良い理由は?制度はどこを見たらいいの?

3. 「営業利益率」が高い企業を調べる

「学生が注目すべきは、ずばり企業の『営業利益率』の高さです」。コンサルタントらしく数字の観点から話の舵を切ったのは、財務や経営管理が専門の高津輝章シニアマネジャーだ。「時代がどう変わろうとも、財務に関する指標は就職先を見極める上で役立つ」を信条とする。

営業利益とは、売上高から営業活動にかかるコストを差し引いた額だ。で、プラスであれば営業活動を行って利益が残る黒字の状態で、マイナスなら出費の方が多くなる赤字の状態ということ。そして営業利益率は、売上高に占める営業利益の割合で、いかに効率的・効果的に儲けを出しているかがわかる指標だ。そのため営業利益率の高さは、経営が順調か否かを測る上で重要な目安となるのだ。

高津氏は「営業利益率が高い企業は、知名度はなくても、確かな実力がある。値段が高くても売れるような付加価値の高い商品・サービスを手がけている可能性が大です」と説明する。企業研究の一環として、インターネットで「営業利益率 ランキング」などと調べてみると、意外な企業が上位に入っていて、参考になるという。

日本総合研究所・インタビューカット

4. 「研究開発費」の比率を知る

「定量的な指標として、研究開発費の比率も参考になるかと思います」。そう語るのは日本総合研究所の「未来デザイン・ラボ」に所属する田中靖記シニアマネジャー。将来的な経済動向の予測や消費者の動態変化を基に、企業の中長期戦略の策定や、新規ビジネスの戦略立案を提案する仕事をしている。

研究開発費とは、企業が新しい製品やサービス、あるいは既存品の改良のために投資する費用のことだ。目先の売り上げや、短期的な利益の回収よりも、将来的な事業の芽を発掘する意味合いが強い。田中氏は、「長期的な投資と、短期的な改善の二つの意味合いがある」と前置きしつつ、「研究開発費の比率が売上高に対して大きい企業は、未来への投資に熱心だと言える」と分析する。研究開発費は、上場企業であれば「有価証券報告書」などの株主向け資料に、東洋経済新報社発行の「会社四季報」などに掲載されている。

【未来洞察のプロ・田中氏が語る「企業選びの軸」】未来への投資とは?先進的な働き方の見極め方は?

5. 「新規事業を担う部署の動き」に着目する

「未来への投資」という観点では、こんなアドバイスもあった。太田氏は米国のシリコンバレーには「失敗をしないと恥だ」という文化があることを引き合いに出し、「日本企業は伝統的に失敗を許さない体質の企業が多かったのですが、変わりつつあります。挑戦がなければ失敗はありませんし、失敗から多くを学んだ人ほど、大きく成長できると認める動きが加速しています」と指摘する。

「学生は、会社説明会などで『大きな失敗をしながら、最終的に重要な経営のポジションに昇進した人はいますか』などと直球で聞いてみるのもアリ」(太田氏)という。

一方、質問という点で吉田氏は、どんな社員が新規事業に携わっているのかを聞いてみるのも手だとする。「新規事業を担う部署にエース級の人材を登用しているなら、成長の可能性が高い。一方で、社内で左遷人事を意味するなら、その逆ということです」(吉田氏)。

【番外編】 自分に合う企業を選ぶため「自分史」で志向を整理する

今の時期は、企業選びよりも前に、「自分が社会に出て何をしたいのかが見えない」という学生は少なくないと思う。そうした学生はどうしていけばよいのだろうか。

太田氏は「自分史を書くこと」を勧める。「思い出せる範囲で、幼い頃から今まで自分がやってきたことを、すべて書き連ねてみます。そうすると、今の自分の志向は、過去に遭遇した一つ一つの出来事から影響を受けて作られているとわかります。自分史の中で情熱を傾けられたことを把握できれば、それに近いものが、将来的に仕事でも熱中できることなのでしょう」(太田氏)。

就活準備での自己分析は、何か壮大な作業に思われがちで、何から着手してよいかわからないと感じる学生が多いようだ。太田氏の助言にあるように、単純に過去の自分が何に興味をもっていたかを洗い出してみることで、自分の行動パターンや、志向が整理されるかもしれない。

【まとめ】プロが思う、大切にして欲しい就活の心構え

企業選びの技術的な側面での話が中心だったが、最後に就活での心構えについても意見があった。

自分の直感を大切に、今の自分に正直でいること

高津氏は、実際に社員に会ったり、会社説明会に参加したりするときには「直感的な違和感や不快感も意外と目安になります」と語る。「例えば皆が飲み会に行くから自分も行って、楽しいフリはするけれど無理をしている、などという状況は経験があるはずです。企業選びも同じ。会社説明会でどこか居心地が悪いと思うなら、きっとマッチしていない。逆になぜか落ち着くと感じるなら、悪くないはずです」(高津氏)。

インターンシップや会社説明会、OB・OG訪問などを通じた情報収集は就活の勝負どころの一つではある。しかし、どれほど情報を集めても百聞は一見にしかず。社風も仕事内容も、職場で働く人たちの性格も、実際に働いてみなければ本当にはわからない。そこで吉田氏は、エントリーする企業選びでも、複数の内定から1社を選ぶときにも、「決め切る重要性」に言及する。「まずは集めた情報を、自分なりに多角的な視点で検討してみてください。あれこれ悩むことも、決めた後の納得感を得るために必要です。そうして一度決めたら、『自分は現時点でベストな判断をした』と信じきりましょう」(吉田氏)

田中氏も「大事なのは常に『今の自分』に正直でいること。だから1年後に全く違うことを考えていても、その変化を怖がらないでほしいです。人は進化し続けるわけですから」と、同調する。

企業選びに正解はない。だからこそ大切なのは納得感であり、そのために判断する材料は多ければ多いほどよいだろう。4人のコンサルタントが伝授する「BtoB企業を調べてみる」「企業の営業利益率を確認する」「研究開発費の比率を調べてみる」など、様々な方法を試してもらいたい。こうした具体的な手法以上に、学生に受け取ってもらいたいメッセージは、「企業選びに正解はなく、選んだ道で正解だったと言えるようにやり切ることが重要」だということだ。

 

文/白谷輝英、就職ジャーナル編集部
撮影/平山 諭


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