あなたには「学生時代はこれを頑張った」と言えることがありますか?就活のES(エントリーシート)でもよく聞かれるテーマですが、「特別なことは何もしていない」「自慢できるほど頑張ったことがない」と、困っている人もいるかもしれません。
「でも大丈夫!自分で気づかないだけで、日常生活の中にも『頑張ったこと』は必ずあります」と励ましてくれるのは、リクナビ就職エージェントのキャリアアドバイザー、田添優紀さん。では、日常の中から「頑張ったこと」を見つけるにはどうしたらいいのでしょうか。そしてそれをどう表現すれば、企業が求めるエピソードになるのでしょうか。
悩める就活生の相談に数多く応えてきた田添さんに、日常生活から見つける「学生時代頑張ったこと」のつくり方を聞きました。
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目次
「学生時代に頑張ったことがない」人は一人もいません
企業が知りたいのは成果ではなく、その人らしさ
企業が学生に「学生時代頑張ったこと」を聞く理由は、ざっくり言えばあなたの人柄を知るためです。
具体的には、この人は何に対して頑張れる人なのかな?というモチベーションの源泉や価値観。さらに、それを達成するためにどんな手段を使うのかな?という、物事の捉え方や取り組み方を知りたいのです。そこから、自社の仕事にやりがいを感じてくれる人か、活躍できる人かを判断することができるからです。
ですから「頑張ったこと」が相当の努力を要したとか、その結果として目覚ましい成果を上げたということは、企業にとってそれほど重要ではありません。「○○の大会で優勝した」「バイトリーダーとして売り上げを伸ばした」など、必ずしも人に自慢できる話でなくてもいいのです。ほかの人と比較して「頑張ったこと」のハードルを上げる必要はありません。
「何かをしていた」人はその時の行動を思い出そう
「学生時代頑張ったことがない」と相談に来る人には、2つのパターンがあります。
1つは「バイトやサークルなどの活動をしてはいたけど、そこまで頑張っていない」という人。もう1つは「一切の活動をせず、勉強もせず、本当に何もない」と考えている人です。
もし前者であれば、本人にその活動を頑張っていた意識がないだけだと思います。
まず「頑張ったこと」を考えるというアプローチはやめて、その活動中に気づいたことや、取った行動を、事実ベースで一つひとつ確認してみましょう。
例えば同じコンビニバイトでも、話を聞いていくと「バイト仲間と仲良くなって店の雰囲気づくりをしていた」という方や「お客さまにタバコを早く出せるよう、写真を撮って銘柄を覚えた」という方など、それぞれの取り組みの違いが明確に表れます。そして、なぜそうしたかという理由を掘り下げていけば、自然に人柄が表れるエピソードができてくるはずです。
「何もしていない」人でも、必ずやってきていることがある
「自分は何一つ取り組まなかった」と思っている人は、こう考えてはどうでしょう。
例えば学校に入学したこと自体も、自分で何かしらの意思決定をして達成した、すごいことであるはずです。また、勉強熱心だったとは言えなくても、卒業に向けて単位を取るために必ず自分なりの工夫や努力をしているはずです。「あのレポートを書くために何を考えたかな」「どんな情報収集をしたかな」と、一つずつ確認してみてはいかがでしょうか。
このように「頑張ったこと」のテーマは特別な活動である必要はありません。ゲームや漫画に熱中したこと、家事、ダイエットなど、日常のあらゆるものに見いだすことができます。今日まで1000人を超える学生の就活相談をしてきて「結局何も出なかったね」という方は一人もいません。だからまずは安心して、一つひとつ順番に考えてみましょう。
「何もない」人は、日課や過去の自分を振り返ろう
では「全然何もしなかった」「テーマが思いつかない」という人が、「頑張ったこと」を見つけるには、具体的にどうすればいいのでしょうか。そのヒントを田添さんに聞きました。
自分が日々何に時間をかけていたかを考えよう
何も特別な活動をしていなければ「では、自分は何に時間を使ってきたのだろう?」と思い起こすことで、必ずヒントは出てきます。朝は何時に起きて、○○をして、次に○○をして…と、毎日のスケジュールを書き出すことから始めてみましょう。
ある学生の場合、日課をひもとくうちに、祖母を介護する母親を手伝っていたというお話が出てきました。そこで「具体的にどんなお世話を手伝ったのか」「その時に何を注意したか」を思い出していくと、ESでしっかりと語れる内容になっていきました。
また、あるゲーム好きの学生は「ゲームではアピールにならない」と思い込んでいました。でも、彼にその熱中ぶりを振り返ってもらうと、動画サイトで情報を集め、戦略を立てて論理的思考力を磨いてきたことがわかりました。
このように「こんなテーマで大丈夫かな?」というときでも「意識したこと」「行動したこと」を書き出してみると必ず何かしらの発見があります。ぜひやってみてほしいと思います。
自分では当たり前のことも、人に話せば違うと気づく
実は「学生時代頑張ったこと」を探すには、自分で考えるよりも人に話を聞いてもらう方がずっと効果があります。なぜなら、自分にとっては当たり前の行動であっても、聞き手にとってはそうではない場合が多いからです。
例えば自分が何げなく続けてきたことを人に話すと、「えっ!それはかなり頑張っているよ」とリアクションが返ってきて驚いた経験はないでしょうか?続けて「なぜそう考えたの?」「なぜそんなふうにできたの?」と聞いてもらえば、おのずと人とは違う自分の価値基準が見えてくるでしょう。
友達でも先輩でも、学校のキャリアセンターでも、もちろん就活エージェントでもOK。ほかの人に自分のことを話すだけで多くの気づきがあり、頭がクリアになっていくでしょう。
「頑張ったこと」のヒントが見つかる自分への質問
中には、なかなか自分のことを率直に人に話せない人もいるかもしれません。そんなときは、小学校時代までさかのぼって自分史を書き出してみるのがオススメです。
過去の自分は何を目標にし、どんなときにモチベーションが上がったか。何をつらいと感じ、乗り越えるためにどんな行動を取ったのか。そうした過去のエピソードが、その後の人生でも強みを発揮し、今の自分が頑張っている「何か」に通じると気づくことも多いのです。
自分史の中でも特にポイントになる7つの質問を以下にご紹介します。「頑張ったこと」のヒントを探している人は、ぜひご自分に質問してみてください。
(2)一番好きだった(得意だった)教科は何?
(3)苦手だったことは何?
(4)悲しかったことは何?
(5)夢中になっていたことは何?
(6)(1)〜(5)について、なぜそうだった?
(7)(1)〜(5)について、今の自分につながっていると思う部分はある?
日常を題材に魅力的なエピソードをつくるテクニック
では、ここからは実践編。日常的なテーマで「頑張ったこと」をまとめるときに注意したい3つのポイントと、具体的な書き方の例を、田添さんのお話からご紹介します。まずは書き方のポイントです。
「頑張ったこと」をつくるときに注意したい3つのポイント
1. 意識ではなく、実際に行動したことを書く
テーマにインパクトがあっても、「心がけた」や「意識した」という話だけでは、自己満足に見えてしまいます。たとえごく日常的なテーマでも、具体的に何をしたか、どういう行動を取ったかなどを明確に書いた方が、より企業に伝わるものになるでしょう。
2. 数字で表せることは数字で書く
「○年間」とか「1日○時間」など、実行した期間や頻度などはできるだけ数字で表すこと。それだけで頑張った内容がぐんとイメージしやすくなり、読み手に伝わりやすくなります。
3. 企業へのアピールを意識しすぎない。無理にまとめなくてもOK
結論は必ずしも「この経験から△△を学びました」などとまとめる必要はありません。例えば「こんな評価を受けた」や「社会でこう生かしたい」など、エピソードに合わせて結べばOKです。「この強みは御社で生きます」的な結び方もありですが、もし企業が求めるものとズレていれば、かえって自分を限定するリスクも。「頑張ったこと」はあくまでも、自分らしさを具体的に伝える手段と考えた方が良いでしょう。
「学生時代頑張ったこと」を書くときのポイントを、もっと詳しく知りたい方はこちら
身近なテーマを例に、実際にエピソードを進化させる~こう書くともっと良くなる!
ポイントをおさえたら、次は身近なテーマをもとに、実際のエピソードをみていきましょう。日常的なテーマでもどんなふうに書けば、企業が求める「頑張ったこと」エピソードになるのでしょうか。田添さんのアドバイスによる2つの例をご紹介しましょう。
例文1:頑張ったこと「ダイエット」
【Before】
私が頑張ったのはダイエットです。
大学で飲み会が増えたら8キロも太ってしまいました。友達に太ったと言われて(※1) ダイエットを決心(※2)。 早く痩せたくて食事を減らしたら、続かずに失敗。そこでジムで筋トレを始め、栄養の本を参考にして食事に気をつけました(※3)。 その結果1年半で体重が元に戻りました(※4)。
田添さんのアドバイス
※1 友達はきっかけなので、自分が決心した主体的な理由があるといいですね。
※2 いつまでに何キロ痩せるという目標設定や、こんな日程を立てたなど、具体的に言えるなら書きましょう。
※3 失敗後の情報収集はどうしたか、なぜジムを選んだのか。さらに苦労したことを入れると継続力やストイックさも伝わりますね。
※4 結果、自分がどう変わったのかを加えてみましょう。もし結果が出なかったとしても「周りにこう言われた」「また挑戦したい」など、素直な結びがあれば良いと思います。
【After】
私が頑張ったのはダイエットです。
大学生活は運動不足で、飲み会も多かったので8キロも太ってしまいました。友達に指摘されて目が覚め、昔陸上部で鍛えた体を取り戻そう(※1)とダイエットを決心しました。最初は3カ月で戻そう(※2)と極端な食事制限を試みたものの、体調を崩して挫折。反省して、ネットで高評価のダイエット本を数冊読み(※3)、軽い糖質制限と運動の組み合わせが理にかなっていると考えました。そこで「月に1キロ減」を目標に、スマホアプリで食事を管理し、筋肉量を増やすためにジムで週に3日の筋トレを始めました。停滞期には挫折しそうになりましたが、時には怠け、好きなものを食べることを自分に許しながら、継続を心がけました。その結果、ダイエットを始めて1年半で体重を元に戻すことができました。体調が良くなり、大学生活が忙しい中で目標を達成できたことが自信になりました(※4)。
例文2:頑張ったこと「犬のしつけ」
【Before】
頑張ったのは犬のしつけです。
大学に合格して親から犬をプレゼントされ、自分でしっかりしつけようと思いました(※1)。 本を読んで研究し、犬のしつけ教室にも行きました(※2)。 そのうち訓練が面白くなって簡単な芸も教えました(※3)。 近所の子どもやお年寄りに見せると喜ばれ、さらにレパートリーを増やしました(※4)。
田添さんのアドバイス
※1 自分の責任でしっかりしつけようとした理由は何でしょう?そこに自分らしさが表れます。
※2 なぜ本を読み、教室に通おうと思ったのか、何が得られてしつけにどう生きたかもわかるといいですね。
※3 うまくいかないときはどう乗り越えましたか。訓練が面白くなったきっかけは何でしたか?
※4 しつけの目的を家庭の中にとどめず、他者とのかかわりの中に面白さを見つけたのはすごいことです。なぜそれを始めたのか、やってみて何が変わったのかを書いてみましょう。
【After】
頑張ったのは犬のしつけです。
幼少のころから犬好きでしたが、両親は、私が世話のできる年齢になるまで飼うことを許しませんでした。ですから、大学の合格祝いに子犬を贈られたときはうれしくて「必ず幸せな一生を送らせよう」と固く決心しました(※1)。いい犬に育てるにはしつけが第一と考えて本を読み、バイト代で週に1度、半年間しつけ教室に通いました。特に犬が正しい行動をしやすい環境を整え、できたらすぐに褒める「陽性強化」が勉強になりました。つまずいたときはこの原点に立ち返ることで克服してきました(※2、※3)。
愛犬との一体感が味わえる訓練が面白くなり、2歳から芸も教え始めました。そのうちに、犬の芸をご近所の子どもやお年寄りに見せるのが楽しみになりました。これは私が小さなころから、歌や踊りを人に披露するのが好きだったからでしょう(※4)。その楽しさを思い出させてくれた愛犬と一緒に、これからも人を笑顔にしていきたいです。
自分らしさが伝わるのが「学生時代頑張ったこと」
「皆さんにお伝えしたいのは、万人に受けるESなんてないということです」と田添さん。
「どの企業でも通るものを目指すのではなく、より自分らしさが伝わる『頑張ったこと』を見つけた方が、選考を通過して入社した後、自分に合った仕事ができると思います」と言います。
周りの学生と比較して、「ありふれたこと」とか「すごくない」などと考える必要はまったくありません。素直な言葉で語れる、自分だけの「頑張ったこと」をぜひ見つけてください。
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取材・文/鈴木恵美子
撮影/刑部友康