「企業研究のやり方がイマイチわからない」就活生に、プロがマンツーマンで解説!

就活では「企業研究が大切」とよく聞くけれど、実際に会社のWebサイトを見たり会社説明会に参加したりして情報を集めてみたものの、「企業研究は何に役立つの?」「これで企業研究できているのかな?」と疑問を持つ就活生も多いのではないでしょうか。リクナビ就職エージェントのキャリアアドバイザー・飯塚菜々恵さんに、企業研究をした方がいい理由を詳しく聞きました。また、企業研究シートを使って、就活生の疑問に答えながら実際に企業研究を一緒にしてもらいました。

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飯塚菜々恵さんプロフィール飯塚 菜々恵(いいづか・ななえ)キャリアアドバイザー。教育系出版社でのサービス企画、編集の経験からキャリア教育に興味を持ち、「より個人の人生に寄り添える仕事を」と2017年よりキャリアアドバイザーになる。中途、第二新卒採用のキャリア支援を担当したのち、現在、学生向けのアドバイザーとして活動している。

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「企業研究をした方がいい」と言われるのはなぜ?

まず初めに、企業研究をした方がいいと言われる理由や企業研究が就活のどんなことに役立つのかを飯塚さんに聞きました。

「志望動機を考える」「入社後のミスマッチを防ぐ」ために、ぜひやってほしい

企業研究が大事な理由は、学生目線と、キャリアアドバイザー目線から2点あります。

就活生の皆さんにとって、企業研究は志望動機を考える上で欠かせないものだと考えています。と言うのは、志望する企業の事業領域や仕事内容、競合他社との違いを理解できて初めて、志望動機に説得力が生まれるからです。業界研究ができていても、個社の企業研究が浅いと「なぜ競合のA社ではなく、うちがいいの?」という企業側の素朴な疑問に答えられないでしょう。

キャリアアドバイザー目線では、入社後のミスマッチを就活の時点で防ぎたいという切実な思いがあります。その背景には私自身の、第二新卒(一般的に、入社後3年以内程度の社会人を指すことが多い)の転職アドバイザーとしての経験があります。転職を考える方の中に新卒採用で人気の大手企業に就職している方もいましたが、その多くがやりたいことと仕事内容のミスマッチに「こんなはずじゃなかった」と苦しんでいました。

そうした方に就活時まで振り返って話を聞いていくと、当時の企業研究が浅かったと思われるケースが多くありました。社名に聞きなじみがあったり、商品に接する機会が多いというだけで「その企業のことをよく知っている」と思って志望企業としていたり、「大手」というネームバリューにひかれて仕事内容をよく調べていなかったり、ゼミや部活の先輩がいるから、といった理由で入社を決めている方もいました。

さまざまな業界や企業について調べ、情報を比較しなければ、「同じ事業内容でも、ここがいい」と納得感を持って企業を選ぶことはできません。また、「ほかの企業ときちんと見比べた上で決めた」という自信は、入社後働く上でも大事なよりどころになるはずです。企業の特徴が自分なりにわかるように、ぜひ企業研究をしてほしいですね。

企業研究ってどうやる?プロに聞きながら実際にやってみた!

「企業研究の大切さはわかったけれど、具体的なやり方がわからない」「自分がやっている方法が正しいの?」…そんな不安が残る人もいるのでは?

そこで、飯塚さんに就活生のSさんと一緒に企業研究をしてもらいました。

「誰に、どんなものを、どのように提供している会社なのか」を考えてみよう

Sさん 企業の情報を整理しようと「企業研究シート」の項目を埋めてきました。でも、情報を集めただけで満足してしまって、そこから志望動機にどうつなげればいいのかわからなくて…。

企業研究シートを見せるS子さん

キャリアアドバイザー飯塚(以下CA飯塚) 企業研究が「情報収集」で終わってしまう学生さん、結構多いんです。情報集めはあくまでも前段階で、その情報を基に「思考する」ことが企業研究の肝。その会社は「誰に、どんなものを、どのように提供している会社なのか」を理解することから始めてみては?

Sさん 化粧品の通販企業で考えてみると、「個人のお客さまに化粧品をインターネット通販で売る」とかですかね。あらためて聞かれると、シンプルな質問なのに具体的に答えられないです…。

CA飯塚 例えば、商品やサービスがBtoB(法人向け)かBtoC(個人向け)か、あるいはオンライン通販などで消費者に直接販売するDtoC(Direct to Consumer)なのか、無形商材なのか有形商材なのか、高価格商品なのか低価格商品なのか、日用品なのか嗜好(しこう)品なのかを考えることができますよね。販売方法も、エンドユーザーに直接売るのか販売代理店に営業して売ってもらうのかという違いがあります。

「個人のお客さま向けの商品」と言っても、若年層向けか高齢層向けなのか、一般層向けか富裕層向けかなど、属性をより細かく見ていけば、仕事に求められるスピード感やお客さまとのコミュニケーション方法にも違いが出てくるでしょう。

法人向けの事業であれば「どのように提供するか」の違いから、取引先の担当者との信頼構築が重要なのか、経営陣へのプレゼンテーション力が重要なのかも変わってきます。

仕事内容についても、例えば「営業」とひと口に言っても、お客さまに対面で営業しているのか非対面なのかで営業のスタイルは変わってきます。

このように、「誰に、何を、どのように」だけでも、見るべきポイントはたくさんあります。

Sさん 3つの視点だけでそこまで深められるんですね。でも、企業ごとの違いを掘り下げていったところで、志望動機にどう結び付けられるのでしょう?

CA飯塚 企業ごとの違いがわかっていれば「ほかではなくこの企業を志望する理由」の切り口が増えます。例えば、人生設計にかかわる不動産や金融商材を扱う企業であれば、「個人のお客さまと信頼関係を築き、長く使っていただけるものを提案したい」という志望動機につながるでしょう。

また、「誰に、何を、どのように」を知ることで、企業が求める人物像や経営理念の理解も深まります。募集要項などに書かれている「求める人物像」や「企業理念」には、抽象的と感じるフレーズが多いかと思います。けれど、その企業が対象としているお客さまや仕事の進め方を具体的に知っていくと、「だから“人を巻き込む力”を求めているのか」などと理解が深まります。

志望動機で「理念に共感しました」と伝える際にも、自分なりに「こういう仕事だから“挑戦”という言葉を理念に掲げているのか」と解釈ができていると、説得力が出てくるでしょう。

Sさん なるほど。

CA飯塚さんがS子さんの相談を聞く様子

1社を深く調べてみると、見るべきポイントがわかってくる

Sさん 事業内容は企業ホームページや募集要項に書かれていることが多いのですが、仕事内容は幅広くて理解するのが難しいと感じてしまいます。具体的に理解するためには、社員の方に直接聞くしかないでしょうか。

CA飯塚 そうですね。企業ホームページには、各職種の仕事内容について社員インタビューを掲載しているところも多くあります。そういった記事を読むのも一つの方法ですね。ただ、最も理解が深まるのは、インターンシップやOB・OG訪問で出会った社員の方に直接聞くことだと思います。

このとき意識したいのは、質問の仕方です。例えば営業職であれば、「仕事内容について教えてください」と聞くよりも、「御社は、法人向けに一定期間プロジェクトを組んで、チームで営業をしていくとホームページで拝見しました。その働き方だからこその、面白さや大変さはどこにありますか?」など、ほかの企業との違いにフォーカスした質問ができれば、他社との比較検討の材料をより多く集めることができます。社員からもらった回答を、志望動機として伝えることもできるかもしれません。

Sさん OB・OG訪問前にリサーチしておくことが大切なんですね。でも1社1社、すべてをそこまで深く研究しようと思ったら、時間がいくらあっても足りなくなりそう…。

CA飯塚 とことん深く調べるのは、1社だけでいいと思います。1社をやると、どの情報を見るべきか観点がわかってくるので、ほかの企業にも応用できますよ。

「過去、現在、未来」を切り口に情報収集

CA飯塚 調べるときには「過去、現在、未来」という時系列で見るのもオススメです。ホームページなどで企業の沿革を見ると、創業時の事業内容、事業拠点の拡大、合併などの歴史がわかります。

「創業時から、多角的な事業展開をして今がある」とわかれば、「チャレンジ精神があってどんどん動いていく人が活躍しているのだろう」と、会社のカルチャーにも想像力が広がっていきます。

未来についての情報収集は、社長のインタビュー記事を探してみましょう。インタビュー記事の多くは「今後の経営計画」「どんなことを実現したいか」といったこれからの話が語られているので、参考になると思います。

Sさん 企業ホームページを読み込もうとばかりしていました。いろんなメディアに載っているインタビュー記事も検索してみようと思います。

福利厚生は「自分が求める最低条件は何か」を基準に見てみよう

Sさん 今回、企業研究シートを書いていて、意外に難しかったのは「福利厚生」でした。就活をした先輩に福利厚生をちゃんと見ておくといい、と言われて調べ始めたのですが、どの会社もだいたい同じで…。面接でも「福利厚生の良さで選びました!」とはアピールしないので、調べる意味ってあるのかなと思ってしまいました。

CA飯塚 福利厚生の優先順位は、人によってまったく違ってくると思います。「土日休みは譲れない」「家賃補助がないと困る」など、価値観はさまざま。

調べる際は、入社後に不満が出ないように「自分が職場に求める最低条件を満たしているか」という観点で見るとよいと思います。「地方出身者なので住宅手当が欲しい」「手取り25万円以上なければ、奨学金の返済が厳しい」など、個人の事情から欠かせないものがあるなら、チェック項目として見るとよいでしょう。

福利厚生の充実が人の満足度にどう影響するかを考える際、臨床心理学者・ハーズバーグ氏が提唱した「二要因(動機づけ要因・衛生要因)理論」が参考になるかと思います。

これは、仕事の満足感を引き出すには「仕事の達成や承認、責任」などの動機づけ要因にアプローチしなくてはいけない、という理論。「給与や労働条件」などの福利厚生は衛生要因であって、衛生要因がいかに充実していても、仕事への不満足感を減少させる効果しかないと言われています。

つまり、福利厚生は入社後の不満の解消につながるだけで、仕事内容のやりがいを求めなければ満足感は得られないということです。

福利厚生が気になる人は、充実の度合いだけでなく、「入社後にやりがいを持って働けるか」も見てほしいと思います。

企業研究のやり方のポイントをS子さんに解説するCA飯塚さん

Sさん 今日話をうかがって、企業研究で考えるべきことの多さに驚きました。いつごろから始めるのがいいのでしょう。

CA飯塚 理想は、合同企業説明会や会社説明会、面接が本格的に始まって予定が入るまでにインターンシップやOB・OG訪問を重ね、ひと通り終えておくこと。勉強や部活、サークル活動などやるべきことはたくさんあると思うので、少しずつ始められるといいですね。

説明会や面接の「アポ」が入ってくると、じっくり考える時間が取れなくなってしまいます。忙しく「アポ」をこなしていると、なんだか就活が順調に進んでいる気になってしまう。でも、企業理解を深めないままでは志望動機が薄く、面接を重ねてもなかなか受かりません。4~5月になって「もう一度やり直そう」と企業研究をあらためて始めることがないように、企業の情報を収集し思考する時間を取ってほしいと思います。

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取材・文/田中瑠子
撮影/鈴木慶子


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