「大企業に入り、将来安心して暮らしたい」「大企業に入れば、親や家族も安心しそう」そう考える就活生は多いかもしれません。
とは言うものの、大企業とはどんな企業を指すのでしょうか。中には有名企業、人気企業と混同したイメージを持っている学生もいるようです。また、大企業だからといって、いいところばかりではないかもしれません。企業によってもそれぞれに特徴があり、働く上で、どこも同じというわけではないからです。
そこで今回、人事として新卒採用を20年担当してきた採用のプロ・曽和利光さんに、大企業の組織の特徴、新卒で入社するメリットやデメリットについて、教えていただきました。
曽和利光(そわ・としみつ)
株式会社人材研究所・代表取締役社長。1995年、京都大学教育学部教育心理学科卒業後、リクルートで人事コンサルタント、採用グループのゼネラルマネージャーなどを経験。その後、ライフネット生命、オープンハウスで人事部門責任者を務める。2011年に人事・採用コンサルティングや教育研修などを手掛ける人材研究所を設立。『「ネットワーク採用」とは何か』(労務行政)、『悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?人事のプロによる逆説のマネジメント』(星海社新書)など著書多数。最新刊『人事と採用のセオリー』(ソシム)も好評。
大企業とは?具体的にどのような企業を指すの?
大企業に法律上の定義はありません。対して中小企業は、中小企業基本法で資本金・出資の総額と従業員数を定義しています。そのため大企業とは、中小企業よりも大きな規模の組織を示すと言えるでしょう。
企業の中には、有名企業、人気企業、上場企業などさまざまな呼び方がありますが、それらが大企業とイコールではありません。企業のグループ会社、100%子会社なども、定義と照らし合わせてみれば中小企業であることが多くあります。
関連記事:【プロが解説】中小企業に就職するメリット・デメリットは?どうやって選んだらいい?
大企業か見分けるなら、まず「従業員数」を参考に
興味のある企業が大企業に当たるのかどうか、会社の規模を理解しイメージするために最もわかりやすい指標は「従業員数」でしょう。従業員数の多さは、仕事の進め方や職場の雰囲気、指揮命令系統など組織の構造全体にかかわってくるからです。
中小企業の定義を参考にすると、大企業は301名以上の従業員がいる組織です(※1)。一般的に、人が一つの組織において顔と名前を一致させることができる人数は300名が限度と言われています。その人数を超えると異動や昇格について、一人ひとりの特性を見ながら考えるのが難しくなるでしょう。ですから、大企業になると、可視化された能力や経歴から異動先や評価を考える「人事制度」が生まれ、システムで組織を動かしていくことが多くなるのです。
(※1)定義は、業種や資本金によっても異なりますが、ここでは卸売業、サービス業、小売業を除いた「製造業、その他の業種」の定義を基に紹介しています
ただし、総従業員数が多くても、複数の事業を展開している企業は、1事業当たりの従業員数が中小企業と同じくらいということもあります。複数の拠点を展開している場合も、ひとたび拠点に配属されれば中小企業の働き方に近くなるでしょう。従業員数を事業数や拠点数で割るなどして、現場の大まかな人数を把握することをオススメします。
大企業はどのくらいある?どういった業界に多いの?
「2019年版中小企業白書」によれば、2016年時点の国内の中小企業が、約357.8万社であったのに対し、大企業の数は約1.1万社でした。全体の割合でみると、中小企業は全体の99.7%、大企業はわずか0.3%です。中小企業基本法の中小企業の定義から、大企業とは「301名以上の従業員がいる、もしくは資本金が3億円を超える企業」を指します(一部の業種は除く)。大企業は数こそ少ないものの1社1社の規模が大きいため、従業員数でみれば、労働人口の約30%が大企業で働いているのです。(※2)
(※2)出典:2019年版中小企業白書 全体版 – 中小企業庁 – 経済産業省
大企業が多い業界とは、企業の経営規模が大きいことがメリットになる業界と言えるでしょう。例えば、多方面から資金を調達する力が必要な金融業界、販売規模の拡大が売上につながる小売業界やメーカーなどがそれに当たります。これらの企業は成長とともに経営規模を拡大し、国内外に拠点を構えるようになるため、大企業の行きつく先はグローバル企業という場合も多いでしょう。なお、グローバル企業の中には従業員が数十万人にのぼるところもあります。定義がないとは言え、大企業の従業員数には大きな幅があることは認識しておきましょう。
大企業の特徴とは?入社後の働き方、キャリアパスのメリット・デメリット
大企業には、実際はどんな働き方やキャリアパスがあるのでしょうか?大企業の特徴に注目しながら、就職した場合のメリットやデメリットを見てみましょう。
【特徴1】勝ちパターンがあり、分業化・専門化が進んでいる
デメリット:若いうちは仕事の全体に携われないことも。試行錯誤の余地が少ない
大企業は「この事業はこのやり方を続ければ売り上げが上がる」という勝ちパターンに基づき、事業を分業化、専門化している場合がほとんど。そうして効率性を高めたことで生産性が向上し、企業規模を拡大してきたのです。
そのため、中小企業のように一人がさまざまな仕事を担当することがなくなり、一人ひとりの仕事の幅が狭まる分、業務に対する知識は細分化されていきます。一つの業務に注力して、スペシャリストを目指したい人にとってはメリットであり、若いうちから仕事の全体感を見ながら、幅広く業務に携わりたいという人にとってはデメリットになるでしょう。
また、勝ちパターンが決まっているということは、試行錯誤は不要ということにもなります。生産性を上げるには、決められたルーチンをいかに正確に、早くできるかが大事になるでしょう。そのため、新商品開発や新規事業開発といった、新しいビジネスを生み出す部署などを除き、ほとんどの従業員は担当する業務が明確に決められ、それを遂行することが求められます。決められたことをコツコツ進める、という働き方が合っている人にとっては心地よい環境だと言えるでしょう。
【特徴2】社内で携われる職種やポジションが多い
デメリット:能力などが可視化されたデータを基に、全社を通じ、最適になるよう人事異動を行うため、個人の希望が通りにくい場合がある
組織が大きく、複数の事業を展開している大企業は、その分ポジションや職種も多く、キャリアの選択肢が広いと言えるでしょう。ただ、組織の規模から、中小企業のように一人ひとりの性格や強み、ほかのメンバーとの相性を見て配属するといった細やかな配慮はできない場合もあります。
「2~3年ごとにジョブローテーションを行う」などシステマチックに人員配置を行う大企業も多く、効率化の観点から、属性や実績など可視化された能力や志向などのデータによって配属が決まっていきます。「プロジェクトの途中だったのに」「やっと今の業務に慣れてきたところなのに」など、個人の状況にかかわらず部署異動や昇格が起こりがちなのは、企業が会社全体の最適を考えるからです。
一方で、1社に所属しながら挑戦できる仕事にも多様性があるため、一つの部署にいては見いだせなかった能力、適性を開花することができる可能性もあります。また、社内でキャリアを積み上げ、管理職を目指したいのか、一つの仕事を究めて専門性を高めたいのかを選ぶこともできるのです。
【特徴3】一企業でありながら、社風や環境が一様であるとは限らない
デメリット:一部の社員や部署にひかれて入社しても、その特性が全社に共通したものとは限らない
大企業は組織が大きく、事業部も多いため、一様の社風や環境はほとんどないと言えるでしょう。入社前にインターンシップなどで一つの部署の雰囲気に触れ「働きやすそう」と思ったとしても、所属された部署はまるで違う会社のようだった…ということも少なくないのです。
一方で中小企業は、規模の小ささゆえに社風や環境が全社で大きく変わることはありません。入社前に社長をはじめ社員に会うなどし、それらを理解することも可能です。ただし、実際に働き始めて感じることが、必ずしも入社前の理解と一致しているとは限りません。配置転換の選択肢や環境の多様性が、大企業に比べ少ない中小企業では、組織に合わなければ逃げ場がない…という事態も起こり得ます。大企業であれば異動で解決できることが、中小企業では転職でしか解決できないケースもあるのです。中小企業の方が大企業に比べ、入社3年以内の転職率が高いのには、こうした背景もあるでしょう。
大企業では、入社後に上司が合わない、仕事が合わない…と思ったとしても、異動を社内転職と捉え、ほかのキャリアの選択肢を試す価値はあると思います。
さらに言えば、大企業のメリットが、これから入社する社員の雇用を定年まで安定的に保障すると確定しているわけでもありません。これまでの”常識”が、これからも続くとは限らないからです。
矛盾するかもしれませんが、ここでご紹介したメリット・デメリットも、別の観点からみると、必ずしもその通りではないという捉え方もあることを、知っておいてください。
就活で大企業に入社するのは難しい?
大企業への入社は狭き門です。リクルートワークス研究所によると、2020年卒までの大企業の求人倍率(民間企業への就職を希望する学生1人に対する、企業の求人状況を算出したもの)は、会社の規模にもよりますが大体1倍弱から0.5倍前後で推移してきました。一方、中小企業の求人倍率は8.62倍なので、こちらは深刻な人材不足であることがわかります。(※3)
(※3)リクルートワークス研究所「ワークス大卒求人倍率調査」2020年卒 大企業を従業員数5000人以上、中小企業を従業員数300人未満とした際のデータ
1人が複数の大企業の選考を受けるため、実際の内定倍率は100倍以上になることも。学生が大企業に集中して応募する傾向が入社の難しさに拍車をかけているのです。実際、大企業の採用に携わっている人事担当者からは、「1人の学生に内定を出すために、大体100人の学生に会っている」という声も聞かれます。
このように求人倍率が低い大企業だけに絞ってしまうと、就活がうまくいかなくなる可能性があります。また入社できたとしても、職場環境や社風が合わないとつらい思いをし、「こんなはずでは…」と後悔することもあるかもしれません。
会社の規模だけに注目せずに、自己分析や企業研究をして視野を広げながら、自分に合う企業を見つけていきましょう。
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取材・文/田中瑠子
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