インドのグルガオン(首都デリーの近郊都市)にある日系メーカーの現地法人に勤務。日本人駐在員ファミリーとのホームパーティーを通じた家族ぐるみの付き合いや、写真サークルでの活動が現地での楽しみ。現地の気候に育まれたおいしい果物を味わうのも日々の楽しみのひとつ。
時間に関する感覚は独特
はじめまして。はるおです。インドのグルガオンにある日系メーカーの現地法人に勤務しています。
職場は、日本人数人を除き、すべてインド人。取引先もほぼ全員がインド人です。したがって、やりとりは基本的にすべて英語。日本語ができるインド人スタッフは一人もいないため、その場に一人でもインド人がいれば、日本人同士でも英語で会話します。インドには多種多様の現地語があり、地域によって言語が異なるので、インド人同士も会話が成り立たないことが当たり前。しかし、仕事や社交の場面では、英語とヒンディー語が話されることが圧倒的に多いですね。一番多く話されているヒンディー語しか理解できない人も少なくなく、同僚や顧客にもそうした人が数多くいるため、ヒンディー語が話せると大変便利です。私も、赴任当初からヒンディー語を勉強しており、ごく簡単な会話レベルなら話すことができます。会議などで使用できるレベルではありませんが、当社のほかの駐在員や他社の駐在員にはヒンディー語を話す外国人はほとんどいないため、同僚や顧客からは大変喜ばれています。なお、日系企業の中には、外国語大学でヒンディー語を専攻したような日本人を現地採用で雇っている企業も少なくありません。
ここインドで日本と如実に異なるのが、「時間」に関する感覚です。よく言われることではありますが、インド人は時間に対してかなりルーズ。出社時間に平気で遅れてくるし、会議も時間通りに始まらず、かつ終わりません。当然、書類の提出期限も守られません。会議でも、「こうしよう」ということは決まっても、「いつまでにやる」という期限が定まることはまずありません。したがって、こちらから言うしかないわけです。
そんなとき、インドの人々は自分の頭で納得しないと動かないので、最終的なゴールから遡(さかのぼ)って、逆算する形でスケジュールを立ててあげる必要があります。いつまでに何をしなければならないか、その工程にはどのくらいの期間を要するのか、といったことを各工程で洗い出して、設定するわけです。もちろん、向こうに問いかけることもありますが、注意すべきなのが、彼らが最初に口に出すスケジュールが「超楽観的」であること。その通りにいくことはまずありません。また、動き出す時点で、その先に起きうる問題を予測することなどもまずあり得ないので、何かと理由をつけて期限を延長しようとします。こうなったときは、やはり上司にガツンと決めてもらうのが一番。いつもうまくいくわけではありませんが、普段は何かと言い訳をつけて先延ばしにするインド人も、上司から言われた途端に、何としてでもやろうと頑張ります。
インドは日本以上にトップダウン
加えて、インドの人たちはとても議論が好き。ひとたび会議が始まれば、徹底的に議論を尽くします。その分、時間がかかってしまいますが、曖昧な点を残して会議を終えることを嫌うのです。「何が正しい」「誰が正しい」「何が問題の原因になっているのか」「その解決策は?」などなど、各人が持論を展開し、躊躇(ちゅうちょ)なくしゃべりまくって意見を戦わせ合うので、その分、実のある会議になることが多いと感じます。もともと、ロジカルに考え、細かく議論を詰めていく能力があるため、その能力が会話を通じてどんどん高まるようなのです。そのおかげで、会議は、新しいアイデアがどんどん生まれる非常に生産的な場となります。
なぜなら、インド人スタッフは優秀な人が多く、問題解決の具体的方法を示したり、新しくて面白いアイデアを提案したりすることについて、非常に長(た)けているからです。例えば販売の場面では、どうしても「売れない製品」「売りにくい製品」が出てきてしまうのですが、こんなとき、在庫をなくすためのアイデアを募ると、「売れ筋商品と抱き合わせ販売にしよう」「売れ筋製品をいっぱい買ってくれた顧客におまけでつけよう」「その製品を買うとボリウッドスター(インド映画の人気俳優)に会える、というキャンペーンをやろう」「従業員やその家族に特別割引で販売しよう」といった、あらゆる手段を駆使した方法を考えてくれるのです。先入観にとらわれずに斬新なアイデアを寄せてくれるという点において、インド人スタッフはとても優れていると感じます。
したがって、彼らにいい仕事をしてもらうためには、とにかくスケジュールを管理することを何よりも意識して日々、取り組む必要があります。そして、トップとの打ち合わせを早めに設定し、合意をとりながら進めていくことも大切です。なぜなら、インドは日本以上に「トップダウン」だから。上司の指示は絶対であり、各上司が確固たる意見を持っているため、スタッフ同士で打ち合わせを重ねて提案を固めても、トップの判断ですべてが覆ることが少なくありません。私の担当する業務に関しては、私の上にインド人上司が2人おり、私はその2人と十数名のスタッフの間をつなぐ中間管理職の位置づけとなります。スタッフたちが良いアイデアを持っていても、上司を恐れて直接意見をぶつけられなかったり、スタッフ同士で無為に議論を繰り返すだけで前に進まないことがよくあるので、スタッフから優れたアイデアを引き出して、早々に上司にぶつけ、合意形成を図ることが私の役割だと思っています。
次回は、インドの人々についてお話しします。
オフィス近くの風景。動物と歩行者、そして車が共存している。
デリーのマーケット。食べ物から衣料品、雑貨までありとあらゆるものが売られている。
オフィスの近くにもスラム街があり、路上にテントを張って生活している人々がいる。
4人乗りのバイクも決して珍しくはないインド。ヘルメット着用を義務とする自治体もあれば、不要とする自治体もある。
インドのバス。相当、年季が入っていても、依然、重要な交通機関として活躍し続けている。
構成/日笠由紀