東海旅客鉄道
通称JR東海。1987年設立。東京~名古屋~大阪という日本の大動脈の新幹線輸送、そして東海地域の在来線輸送を担うとともに、鉄道事業との相乗効果が期待できる分野を中心に関連事業を展開してきた。また、超電導リニアによる中央新幹線計画や高速鉄道システムの海外展開など、次の日本を創るプロジェクトにも取り組んでいる。
就職活動中、志望企業をどのように選びましたか?
鉄道会社の社員というと「学生時代から鉄道が好きだったんですか?」とよく聞かれるのですが、私の場合は違うんです。
大学時代に一生懸命やっていたのは、アーチェリー部の活動。来る日も来る日も的を射ましたが、将来の目標だとか、何をやりたいかといった人生の「的」はまったく見えていなくて(笑)。就職活動の時期になり、さまざまな企業を訪問し始めると、何を基準に志望先を選んでいいのかわからず、迷いました。社会人になるにあたり、「社会に対して何らかの価値を提供し、社会に貢献し続ける存在でありたい」という漠然とした思いはあったのですが、それが具体的に何かはわからなかったんです。
そこで、大学までの自分の人生を振り返り、自分にとって一番大事な「価値観」は何かを考えてみました。その結果、浮かび上がってきたのが「人と人との出会いを創りたい」という思いです。大学時代に私の価値観を大きく変えたのが、趣味の一人旅で出会った多様なバックグラウンドを持つ人たちとの「出会い」でした。
大学に入るまでの私は、なんとなく「良い大学に入り、良い会社に入ることが人生の目標」というような考えで、受験勉強を頑張っていました。ところが、大学に入って、一人旅で全国各地を訪れるようになり、旅先で居合わせた人たちと夜一緒に飲んで、語り合うと、それまでの自分の価値観では計れない魅力を持った人たちにたくさん出会うわけです。高い学歴でなかったり、有名な会社の社員ではなかったりしても、人間として魅力にあふれ、輝きながら生きている人たちが本当にたくさんいる。そんな人たちから、自分にないものをたくさん教えてもらいました。それまで自分がいた世界がいかに狭かったかに気づいて愕然(がくぜん)としたのです。
いろいろな場所に出かけ、いろいろな人と出会って、自分の価値観、人間性を磨いていく。何億人もの人たちが生きているこの世の中で、自分が一生のうちに出会える人は限られています。旅先で偶然に知り合った人たちと接することで、自分の知らない世界を知る。まさに「一期一会」です。また、「人と人との出会い」というのは、何百年、何千年たっても、自分たちが人間である以上は、決して変わることのない価値だと感じました。「家族に会いたい」「恋人に会いたい」「友達に会いたい」…どんなに時代が移っても、その気持ちは変わることはないはずです。
「人と人との出会い」の大切さに気づき、そういう出会いを創ることができる仕事なら、自分が一生を懸けるに値するのではないかと考え、JR東海をはじめとする運輸業界に興味を持ったわけです。就職先を決断するにあたり、「人と人との出会いを創りたい」という自分の「価値観」を一番の決め手にしました。
企業選びの基準は人それぞれですが、私はもう一度就職活動をするとしても当社を選ぶと自信を持って言えます。当社が運営する鉄道をご利用になるお客さまの様子を目にするたびに「誰かの役に立っている」と肌で感じ、社会に与える影響力と価値の大きさに身が引き締まる思いがします。同時に、そこで働く自分の存在意義と仕事のやりがいをあらためて感じられるのがうれしいですね。そして、日本の大動脈輸送を維持・発展させるという「使命感」にあふれた多くの仲間がいる。私は、そんなJR東海で働けることを、誇りに思っています。
後悔のない就職活動をするためのアドバイスを頂けますか?
人それぞれの性格にもよると思いますが、私の場合は、幅広く企業を訪問し、「興味がない」と思っていた業種や職種についても知ってみることで新たな発見がありました。学生時代は知名度の高い企業や、身近な商品やサービスを扱っている企業に目が行きがちですが、世の中にはたくさんの仕事があります。さまざまな企業を訪問して話を聞くことで、意外な仕事を面白いと感じたり、自分に合った仕事が見つかることも多いので、最初から志望先を絞り込み過ぎないことも大事だと思います。
社会に出ると、就職活動の期間のようにたくさんの会社の人と一対一で話せる機会はなかなかありません。たとえ最終的にはその会社に就職しなかったとしても、世の中の企業がどんな仕事をしているのかを知ることは自分自身の成長にもつながります。就職活動も「人との出会い」の繰り返し。まさに「一期一会」です。ぜひ、たくさんの社会人の話を聞いて、いろんなことを考えてみてください。
小峰さんから学生の皆さんへ
自由な学生生活を終えて、社会に出ることを不安に感じている人も多いと思います。でも、社会人というのは意外と楽しいものです。学生というのは基本的には社会から利益を享受することが中心の存在です。ところが、社会人になると、目の前の仕事を通して主体的に社会に働きかけることができますし、組織で力を合わせれば、一人では決してなし得ないことも実現できます。それが、自分の存在意義を強く感じることにもつながりますよ。社会人になることを前向きに考えることで、自分の進むべき道も見えてくるのではないかと思います。
取材・文/泉彩子 撮影/刑部友康