選手のお母さん的存在。横浜F・マリノスのホペイロ山崎慎が語る仕事の喜び|前編

やまざき・しん●1987年、長野県生まれ。東海大学付属第三高校卒業後、上京。2008年、日本工学院専門学校サッカーコース卒業。横浜マリノス株式会社にマリノスサッカースクールのコーチとして入社。2010年よりキットマネージャー(※)に。選手の試合用スパイクシューズやユニフォームなどの用具管理を任され、アウェイでの試合にも同行する。横浜F・マリノス公式携帯サイト・公式スマートフォンサイトにて『慎ちゃんのホペイロブログ』を連載中(要会員登録/月額税込315円)。

※横浜マリノス株式会社では「ホペイロ」の呼称を使用しておらず、山崎さんの肩書は「キットマネージャー」。

監督やコーチがチームの「お父さん」なら、ホペイロは「お母さん」

-プロサッカー選手のスパイク、ユニフォーム、ボールなどの用具を管理するのがホペイロの仕事。とくに時間がかかるのが、スパイクの手入れだそうですね。ベンチ入りする選手18人分に、監督やコーチのものを含めると、1試合につき、100足以上準備されるとか。

はい。選手1人につき少なくても5、6足、多い選手だと10足ほど用意します。ウオーミングアップ用、試合の前半用、後半用と履き替える選手もいますし、予備も必要ですから。普段は柔らかい天然皮革スパイクを履き、雨の日は水を吸いにくい人工皮革のものを履くという選手もいます。フィット感は選手それぞれ微妙な好みがあるので、天然皮革の中でもより柔らかいカンガルー革を求める選手もいれば、あまり気にしないという選手もいます。靴ひもの通し方も選手によって違うんですよ。上から下に通すと締め付け感が強くなり、下から上だと足に合わせてなじむ感じになります。

試合で使ったスパイクはその日のうちに汚れを落とし、靴ひもを外して洗います。乾燥後、天然皮革の場合はクリームを塗り、シューズブラシで磨いてつやを出します。この瞬間が一番楽しいですね。特に黒のスパイクは磨き上げるとほれぼれするような艶が出ます。

-プロのサッカーチームには必ずホペイロがいるんですか?

海外では、たいていいますね。Jリーグではまだ少なく、スパイクなどを選手が自分で管理するチームも多いです。うちのチームの場合はスパイクやユニフォームだけでなく下着や小物、ドリンクまで準備し、僕が試合会場まで荷物を運びます。忘れ物があってはいけませんから、チーム用具室にある選手ごとに区切った棚を常に整えて、決まった手順で運び出し作業をしています。それでも、試合が無事終わるまでは気を抜けないですね。

-下着やドリンクまで準備とは、まるでチームのお母さんですね。

まさにその通りだと思います。監督やコーチが「お父さん」なら、僕たちは「お母さん」。それも、相当過保護なお母さんですね(笑)。選手が試合に集中できるよう、環境を整えるのが僕たちホペイロの役割です。

「サッカーにかかわる仕事がしたい」。最初は漠然とした思いだった

-ホペイロの仕事を知ったのはいつごろですか?

小学校時代からサッカーをやっていて、高校で進路を決める時に「ずっと好きなものにかかわれたらいいな」と思い、サッカー関連の専門学校に入ったんです。専攻したのはサッカーコーチや指導、審判に必要な知識やスキルを総合的に学ぶコースでしたが、専門学校が横浜F・マリノスと提携していて、現役のコーチからいろいろ話を聞く機会があったんです。その時にホペイロについて知り、面白そうだなあと思いました。僕は子どものころからスパイクを磨くのが好きで、用具にも興味がありましたから。

卒業後はホペイロとして横浜F・マリノスに入りたかったのですが、空きがなく、キッズサッカースクールのコーチとして入社しました。ただ、採用の面接で「将来的には用具を管理する仕事をしたい」と希望を伝えていたので、2年後に用具関連の仕事に異動させてもらえました。子どもが好きなので、コーチの仕事もすごく楽しかったですよ。でも、同僚には元プロ選手もたくさんいて、その中で自分が抜きん出るのは厳しいと感じました。誰よりも好きになれて、勝負できる場所はどこか。そう考えた時に、やはりホペイロだなと思ったんです。

最初は触ることを許されなかった、中村俊輔選手のスパイク

―用具関連の仕事を始めた当初はいかがでしたか?

僕と入れ替わりに前任の方たちが辞めたので、最初の半年くらいはわからないことだらけでした。「スパイクの汚れがきちんと落ちていない」「ドリンクがぬるいよ」と選手からいろいろ言われて。それらに一つひとつ応えながら、仕事を覚えていきました。当時の選手たちは年上の方たちばかりで、キャラクターも濃くて(笑)。要望をはっきりと言葉にしてくれたので、たくさんのことを教わることができ、ありがたかったです。今は自分より若い選手がほとんどで、僕に「もっとこうしてほしい」と思っても言いづらいところがあるかもしれないので、自分から「スパイク、どう?」と話し掛けたりしています。

―スパイクは手入れをするだけでなく、加工や補修をすることもあるとか。その技術も実地で学んだのでしょうか?

元横浜F・マリノスの中村俊輔選手の影響が大きいですね。俊さんは際立って足の感覚が繊細で、「スパイクのポイントを少し削ってほしい」「かかとを補強してくれる?」と具体的に指示をしてくれる。その会話を通して「足が地面に引っ掛かる感覚があるときは、こうすればいいのかな」「滑りやすかったら、スパイクのポイントを加工すればいいんだな」とデータを蓄積し、ほかの選手たちにも応用していくという感じでした。

俊さんがスパイクを大事にしていることはよく知られていますが、イタリア・セリエAのレッジーナ時代は自分でスパイクを洗っていたほど。横浜F・マリノスに復帰したのは僕がこの仕事を始めた年で、最初はスパイクを触らせてもらえませんでした。試合前日に預かって運ぶだけという時期が1カ月くらいあったと思います。そのうちに1足預けてくれ、2足、3足と少しずつ増えていきました。信頼してもらえたのかなと感じて、やはりうれしかったですね。

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後編ではホペイロの仕事のやりがいや、今後目指していきたいことをお話しいただきます。

→次回へ続く

(後編 5月17日更新予定)

INFORMATION

横浜F・マリノスの公式サイト(http://www.f-marinos.com)。チームや選手の紹介のほか、試合日程やゲームレポート、イベントの情報も掲載されている。2017年6月4日(日)の 川崎フロンターレ戦では、2016年に続き「レプリカユニフォーム付チケットの販売を5月14日(日)よりスタート。同企画は、F・マリノスのホームタウンである横浜が1859年に国際貿易港として世界へと船出した開港記念月にちなみ、「これからもYOKOHAMAを胸に!」を合言葉として、特別にデザインしたレプリカユニフォームが付いたチケットを通常チケットの価格にプラス600円で販売。

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取材・文/泉 彩子 撮影/鈴木慶子

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