糸井重里さん「働かないとつまんないよ。仕事で世界を1ミリ、うれしくしてみないか」

糸井重里さん写真

プロフィール 糸井 重里(いとい・しげさと)「ほぼ日刊イトイ新聞」主宰。コピーライターとして一世を風靡し、作詞や文筆、ゲーム制作など多岐に渡る分野で活躍。1998年にウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」を立ち上げる。サイトでは、さまざまな方へのインタビューやコラムなどあらゆるコンテンツがすべて無料で楽しめるほか、「ほぼ日手帳」「カレーの恩返し」といった生活関連商品の開発販売、犬や猫とひとが親しくなるSNSアプリ「ドコノコ」、買い物を中心としたイベント「生活のたのしみ展」の開催、古典をテーマとする「ほぼ日の学校」開校などさまざまに展開。2019年11月開業した新生渋谷PARCOに2つのスペースを出店する。

23歳でコピーライターになり、数々の名キャッチコピーで脚光を浴びた糸井重里さん。本の構成や作詞家、雑誌の連載やテレビの司会者も務め、ゲームの制作も手がけたマルチクリエーターとして活躍、1998年、「ほぼ日刊イトイ新聞」をスタート。ここから発展した株式会社ほぼ日は、2017年には株式上場も果たしています。そんなほぼ日が初めて本格的なインターン募集、新卒採用に踏み切るといいます。その背景とは?日本中の就活生に伝えたいこと、そして糸井さんの「はたらく観」とは。

発想に色がついていないというのは、大事なこと

―創業から22年目にして、初めてインターンの募集と新卒採用を決断されたそうですね。

というか、今までできなかっただけなんですよ(笑)。やっぱりみんな新しい人と出会いたいんです。やって欲しい仕事もあり過ぎるくらいある。ただ、教育期間がいるな、なんてことを考えると、採用にパワーを割く余裕がなかった。これはウチだけの話じゃなくて、そう思っているところはたくさんあるんじゃないかな。

―やはりまっさらな、ゼロの存在を採用するのが魅力なんでしょうか?

ゼロの存在というより、ヘンなものがついてないところがいいんです。中途採用では、どうしてもみんな“出身地”の匂いがします。テレビ局の人はそういう匂いがするし、代理店の人もそう。ほぼ日は出版の出身者が多いので、その匂いが強いですね。でも、新卒はその匂いがないんです。

―となると、どんなことに期待しているんでしょうか?

出身地がある人の発想とは違う発想が出てくることですね。その意味では、むしろ新入社員のほうが先輩になるかもしれないわけです。例えばうちの会社でいうと、デジタルネイティブな人はまだ社内に少ないですが、そうじゃない人より、デジタルネイティブな人のほうが、これからは先になることもあるわけです。先の人たちが後になったり、後の人たちが先になったりする。それがまた、面白さを生んでいくというか。

発想に色がついていないというのは、大事なことなんです。昔の人はコンテンツというと本を出すのが夢だという人が多かった。1冊でもいいから出版して著者になりたい、と。それが存在証明になったわけですね。

―今は違うんじゃないか、と?

それが本当に最終的な方法なのか、と問いただす感覚が持てるかどうか。実際、ユーチューバーの有名な人たちは、おそらく出版社が次々に声をかけているはずですが、どんどん本を出すかというとそうじゃないでしょう? 中国の素朴な暮らしの動画をあげている女性は自分でチームを雇って映像を作っているそうですが、これと本とどっちが格上なのか。そんなことを論じること自体が、実はむなしい時代になってきているんです。

―実際、本を作ってきた人には、新しい領域の経験はないですよね。

その意味では新人以下だと思いますよ。もう、そういう時代なんです。僕たちも、ほぼ日はホームページから始まって、次のステージに行かないといけない。もうホームページは終わりだよね、と半分思いながら、何ができるのかを考えないといけない。ただ、炎鵬(えんほう)が新しい相撲人気に火を付けたみたいなことが、僕たちにもできると思っているんです。その意味で、若い人には大きなポテンシャルがあると思っているし、大いに期待しています。

働かないとつまんないよ、と伝えたかった

―2013年にほぼ日が開催した「はたらきたい展。」。大変話題になったのを覚えています。この「はたらきたい展。」、2020年6月に、7年ぶりに開催するそうですね。なぜ今のタイミングなのでしょう?

前回がちょっと早すぎたんですよ(笑)。

「はたらきたい」という欲望、希望をタイトルにしたのがもの珍しかったんだと思うんですが、実は本当のところでは、まだ興味は薄かったんじゃないかと感じていたんです。ところが、あのときにやった気持ちみたいなものが、今の世の中では普通になってきた。まさしくそうなったので、本当に求められているところで、もう一度、問いかけてみたいな、と。

―この7年の間にいったい何が起きたのでしょう?

生き方とはたらくということが、マッチしてきたんじゃないでしょうか。みんなの気持ちの中で、はたらくというのは、メシの種を稼ぐとか、安定を求めるとか、そういうところで捉えられていた時期がけっこう長かったわけですよね。我慢料としてお金をもらう、みたいな。僕はそれがなんだか嫌だった。むしろ、働かないとつまんないよ、ということを、何か伝えられたら面白いなとずっと思っていたんです。

―糸井さんは、若い頃からとにかく仕事を面白がってやっていらした印象があります。

でも今は、僕だけじゃない。まさしくみんながそういうことを言いだしはじめた。やりがいとか、生きがいとか、そんな大げさなものじゃなくても、人生の中で「はたらく」ってすごい大きなものだって気づき始めているんじゃないでしょうか。自分を活かしたり、人に喜んでもらえる要素だよね、というのをみんなが理解し合えるようになったと思うんです。

―そういえば、ちょうどこの間、日本では働き方改革が進みました。労働時間を考え直そう、という社会的な空気の中で、むしろはたらくことの本質が見つめ直された、というのは極めて興味深いですね。

そもそも休みを取るのも、仕事をするのも、同じ「はたらく」の中に入っているんですよ。英語にレクリエーションという言葉があって、日本では気軽に使われてしまっていますけど、これはリ・クリエーション、つまり創造(クリエーション)し直す、という意味なんです。この領域って、ちゃんとした研究や専門家が必要だと僕は思っているんです。くたびれたから休む、やる気が出ないから遊ぶ、ということだけじゃないと思うわけです。

―確かに、そうですね。

自分と仕事がフィットしているときには、どうしてはたらいているのか、休みをどうするか、なんてたぶん考えない。はたらくことを目的にしているというよりは、自然に要請されている感じとか、必要とされることが肯定されている感じがする。そうすると、休みももっともっとポジティブになるわけです。実はこういうことって、はたらく場面にはすでにたくさんあったんだと思うんです。

糸井重里さんインタビューカット

「今日も、きみの仕事が、世界を1ミリうれしくしたか?」

―今若い人は「やりたいこと」を見つけて仕事にしなくてはと考える人が増えています。

そんなの、わかりませんよ(笑)。そんなに簡単に見つかるものではないわけです。それこそ、イヤイヤやっていたら、たまたま偶然ものすごく喜んでくれる人に出会って、それがやりたい仕事になっちゃう人だっている。

―そこにある仕事にこそ気を付けたほうがいい、と?

歴史上、日本の労働人口で最も多かったのは、農耕だったわけですよね。ドラマや映画の中だと、つらそうにはたらいてますよね。昔のお百姓さんが、「こんなに楽しいことはない」というセリフを言っているのは聞いたことがない。ドラマの脚本家も見つけられないくらい、なかったんだと思うんです。ところが、ちゃんと直に話を聞いてみると、そうじゃないことがわかる。

実際、お百姓さんに会ったりすると、農業のノウハウを自慢そうに教えてくれるときとかがあるんですね。例えば「長芋は下にツルが潜っていくんだけど、横に伸ばすやり方があるんだ」と。屋根の波板を土の中に埋め込むと横にどんどん伸びていく。「これ入れただけで、儲かってしょうがねぇんだよ」なんてうれしそうに言われるわけです。それを聞いて感動しました。どんな仕事でも、こんなふうに言える仕事人こそいいな、と。

その仕事にやりがいがどうの、なんていう前に、今やっていることを、これでどうだ!、と肯定するような心が生まれたら十分だと思うわけです。

―やりたい仕事をしたいのは、いい結果が生み出せると考えているから、だとも思うんです。

結果を自分の前にぶらさげて、そこを目指すと苦しいんですよ。そうではなくて、ちょっといい方に向かっている、ということが意識できたらいいと思うんです。僕が最近社内でよく言っているのは、「今日も、きみの仕事が、世界を1ミリうれしくしたか?」です。

1ミリうれしくしたかどうか、でいいんです。ところが、ものすごく努力しているのに、1ミリもうれしくしないこともあるんです。自分だけが満足してることもあるし、その努力は邪魔じゃないか、ということもある。

―いい結果を出そうという前に、その方向をこそ確かめたほうがいい、と?

あなたのやっていることが、世界の幸せの総量をちょっと増やしたかな、という問いかけ。これは、とてもいいなぁと思うわけです。このくらいの、やればできるところに持っていったほうが、苦しまないでいいんじゃないでしょうかね。

はたらく=自分の環境を耕して、広げていくこと

―そもそも「はたらく」とは、どういうことなんでしょう?

他者と生きる、ということだと思います。他者と生きる環境そのものが自分なんです。会社に勤めている人は、自分の会社の仲間を含めて自分なんです。相手側からも、自分はその仲間に入れられているわけですね。お互いに関係を共有しているんです。そこで豊かな関係を作るのに、はたらくというのは、とてもありがたいコミュニケーション手段になるんです。

―なるほど。

だから、自分の環境を耕すことこそ、はたらく、ということだと思うんです。自分というものの尺度の取り方が、環境を含んでいるんだということに気づけたら、はたらくということが当たり前だと気づける。

仕事を辞めてしまった人、あるいは定年退職してしまった人が寂しいのは、はたらくことが単に「仕事をすること」だけではないからです。

―確かに。

怒ってくれる上司もいなければ、それダメじゃないかと注意してくれる先輩もいないところで、ただ好きなことをしていてちょうだい、って言われていることって、実は自分を含めた環境を小さくすることなんです。これは悲しいですよ。

―はたらくことによってこそ、人は環境を広げていけるのだ、と?

仕事がなければ、あいつとも会わなかったな、とか、あるじゃないですか。仕事仲間もそうだし、取引先もそうだし、お客さんもそう。考えていくと、はたらくことで、自分の環境が耕せるんです。冒険できる場所がもらえるというのは、とても楽しいことなんです。

そのことに気づけると、会社にいることや仕事をすることの価値が、別の角度から見えてくるんだと思うんです。

―糸井さんの若い頃は、どんな仕事観を持っていたんですか?

若い頃は、できることなら自分に任せてくれ、という気持ちがやっぱりありましたよね。「やってごらん」というのを、ちょっと楽しみにしているというか。同時に僕は割とクールだったから、自分がやるより他の人がやるのを楽しむみたいな気持ちもあって、誰かやってくれないかなぁ、なんてことをよく思っていましたね。

面白いのは、そういうときには「それ、糸井さんがやらない?」という声が来ることが多かったことです。若いときの仕事は、みんなそのパターンで始まったんです。

―それでやってみた、と。

でも、やってみると、やっぱり辛いですよね(笑)。歩けば足が棒になる、みたいな。そういう辛さはあったけど、踏み込んでいった。それは、自分の環境が広がっていくことが楽しかったから。もっというと、自分が呼んだ人が活躍したりすると、それが喜びになっていったから。

―これが変化していくんですか?

そう…。どこかから、キミの環境、ルールはこうだというものをだんだんと押しつけられるようになっていって。野球でいえば、ここはぜひホームランを打ってくれ、とか、ここはバントで送ってくれ、とか。でも、自分が納得できないルールに合わせていくのは嫌だな、と思い始めた頃、「ほぼ日刊イトイ新聞」を始めるんです。

―ほぼ日の起業後は、仕事観がまた変わったんですか?

今度は他人が活躍してくれることが、自分の環境を耕してくれたり、切り開いてくれることになるわけです。だから、他の人が働きやすいように仕向けるとか、ヒントを出すとか。それからチームプレーの面白さが自分の環境の中に入ってきて。

―今はどうでしょうか?

僕の目が届かないところも動いているわけです。それが感じられるようになった。そこが、おだやかで活気に満ちた場所でありますように、という願いを実現するのが僕の仕事にだんだんなっていくといいな、と思っています。

糸井重里さんインタビューカット

「人って案外、悪いモンじゃないよ」と思えると、乗り切れる

―苦しい時代はありましたか?

もちろんありました。とりわけ、自分の中のステージが変わっていくときは痛みがあります。だから、もがくしかない。そりゃ、もがきますよ。死にたくなるくらい苦しかったこともある。

ただ、僕は希望のある人間観が好きなんです。人って案外悪いモンじゃないよ、とか、社会っていいモンだな、とか、人生は楽しいはずだ、という哲学を持っていると、辛いところで救われるんです。

―最後に、就職を目指す若い人にメッセージをお願いします。

今は自己肯定感という言葉がすごく流行っているそうですが、僕はずっと自己無力感ばかり感じてきた人間なんです。だから、悩むわけですね。でも、これは大きな肥やしなんです。

特にデジタル領域では、若い自己肯定感の高い人と、ゼロの僕がこれから競争することになるわけですね。なのに、もしここで僕が勝ったら、それはみっともないですよ(笑)。僕に負けちゃダメじゃない? と少し煽ってみたいですね(笑)。

株式会社ほぼ日では、「はたらくこと」について若い人たちと一緒に考えるトークライブを開催予定。糸井重里が3人のスペシャリストを迎えて語り合います。申込期限は2020年2月4日(火)。

トークライブ『仕事って、なんだろう?』
https://www.1101.com/intern/kobune_2020/events/index.html

取材・文/上阪 徹
撮影/八木 虎造


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