「根拠がなくても“信じる気持ち”が最強」100本以上の舞台に出演してきた川平慈英さんの信条とは?

川平慈英さんインタビューカット

プロフィール 川平 慈英(かびら・じえい)1962年、沖縄県生まれ。上智大学在学中に学生英語劇連盟のミュージカル『fame』で初舞台。その後、『fame』で出会った演出家・奈良橋陽子のスーパーロックミュージカル『MONKEY』(1986年)や坂東玉三郎演出の『ロミオとジュリエット』(1986年)でミュージカル俳優としてのキャリアをスタート。以降、数々のミュージカルや映像作品で活躍。2009年からは自身がプロデュースする舞台『J’s BOX』を数年ごとに開催。昨年は『ビッグ・フィッシュ』の再演も好評を博し、今年7月には、たびたび組んできた三谷幸喜演出の『三谷幸喜のショーガール』が控える。サッカー中継のナビゲーターとしても人気を呼んでいる。

唯一無二の個性で、数々のミュージカルやサッカーナビゲーターとしても活躍する川平慈英さん。50歳を過ぎて、より舞台に立つことが楽しくなったという川平さんに、これまでのお話をうかがいました。自ら提案して実現に至ったというミュージカル『Forever Plaid/フォーエヴァー プラッド』(https://www.forever-plaid.com/)のお話も、2020年5月の再演は残念ながら中止になりましたが、その思いをお届けしたいと思います。(このインタビューは1月末に取材しました)

やさぐれてもいいんです。スタミナさえあれば

―川平さんは、最初からミュージカル俳優を目指していたわけではないそうですね。

そうなんですよ。プロのサッカー選手を目指して、奨学金をもらってテキサス州立大学にサッカー留学したのですが、挫折して。その挫折がなかったら、ミュージカルはやっていなかったと思います。

―サッカー部のコーチに「I don’t need you」と言われたと。

そう!「君はもう使わないから」って戦力外通告されて、その夜初めて、ルームメートの胸で泣きましたね(笑)。それでサッカーをあきらめて、日本の大学に編入したんです。

―気持ちを切り替えるまでが大変じゃなかったですか。

やさぐれていましたよ。でも、そういうときは、やさぐれていいんです。好きなものに出会 ったら、食らいつく。そのスタミナさえあれば。今から思うと、次に夢中になれる何かを欲していたんでしょうね。そういうバイブレーションを出していたから、出会いがあったのかな。

―出会いというのは、お友達が持ってきてくれたというミュージカル『fame』のオーディションのことですか。

そうです。高校時代の仲間がチラシを持ってきてくれて。映画版の『fame』は、もともと僕も観ていて大好きで。その中に出てくるリロイというダンサーがかっこよくてね。中学の時は英語劇部で、ミュージカルも好きだったから、こんなのやりたいなと思っていたんです。

―すごいタイミングですね。

オーディションの前日に知ったから、課題曲も何も知らなかったんだけど、「あの映画のミュージカル版か、しかも英語ならできるし、女の子もたくさんいそうだし」って(笑)。いいや、飛び込んじゃえ!って列に並んで、オーディションを受けたんです。

―いかがでしたか?

高校時代はサッカー部のほかに、友達とダンス・パフォーマンス・クラブを作っていたので、踊りの審査ではブレイクダンスを見せたりして。歌は『The Wiz(ザ・ウィズ)』というミュージカルの『Home』という曲を歌って。そうしたら、ピアニストの方が「あ、『Home』なら知ってる」って伴奏してくれたんです。今でも、その方にすごく感謝しているんだけど。

―いろいろなことがうまくいったんですね。

1週間後に合格通知が来て、3カ月後に世田谷区民会館で公演して。それが記録的動員数で、最後はスタンディング・オベーションが起きたんですよ。その瞬間に、俺はステージアクターになるしかないと。もう細胞レベルでわかりました。なかなかないでしょ。これだ!ってこと。それは、絶対に逃しちゃいけないと思います。

川平慈英さんインタビューカット

反復が一番のトレーニングなんです

―『Forever Plaid/フォーエヴァー プラッド』は、川平さんが提案されて、上演が実現した作品だそうですね。

そうなんです。もともと30代前半にオフ・ブロードウェーでこの作品を観て。それ以来、ずっとやりたいと思ってきた作品で。この作品のプロデューサーにお話ししたら、乗ってくださったんです。だから、僕にとっては、夢がかなった宝物みたいな作品なんですよ。

―今回が3度目の上演です。

うれしいですね。大好きなんですよ、こういう「男の子もの」。実際、キャストも男だけだから、稽古場も部室で遊んでいるみたいな感じ。すごく楽なんです。パンツ一丁で稽古してもいいぐらい(笑)。

―亡くなった4人のコーラス・グループが一夜だけ、この世に舞い降りるお話ですが、作品は本当に楽しい雰囲気ですね。

劇中の4人は亡くなっている設定だから切ないんだけど、稽古場ではみんなではしゃいで、やんちゃしていますね。それが、いざ歌うとなると、クオリティーの高い、圧倒的なコーラス・グループを見せないといけない。心臓バクバクです。

―どういう難しさなんですか。

3人のハーモニーはよくあるけれど、この作品は4人なんですね。しかも、ちょっと気の利いたジャズの不協和音が入ってきたりするので、きれいなハーモニーにするのがすごく難しいんです。並んで歌っていると、どうしても隣の人の歌声に影響を受けてしまうから、近い音程を歌う2人は、4人並んでいる両サイドに立つようにしているんですよ。

―そんな秘密があったとは…。

今回は3度目なので、さらにパワーアップしたいですね。初演より再演の方が、4人のハーモニーがうまくいったので。だから、今回はより楽しめたらいいなと思います、自分を信じて、仲間を信じて。

―4人が本当にいい感じですが、いいチームができ 上がるうえで、大切にされていることはありますか?

クサい話になってしまいますけど、リスペクトのひと言に尽きます。相手を尊重すること。そうすると、みんなも自分を尊重してくれて、なんかいい空気が流れるんですよね。でも「俺、これできないよ」っていう人とやるときもあるじゃないですか。

―そうですね。

そういうときも、相手を尊重する気持ちがあれば、「ああ、この人はこれが苦手なんだな、怒っているんだな」と寛容でいられるから。柔らかい接し方をすれば、必ずうまくいくんじゃないかなと思うんですけどね。

―受け止め方なんですね。

あとは、最終的にいいものができると信じる気持ちが大事ですよね。若い時から、そうなんですけど、“根拠のない信仰心”って好きなんですよ。絶対うまくいくっていう気持ち。

―理由を聞かれても答えられないんだけど…。

そう、難しいんですよ。裏返せば、ただのバカになることもあるから(笑)。でも、実はバカが一番強い。それも行動力を伴うことが大切。最初は小さなことでいいと思うんです。いい映画やいい本に触れるとか。それが積み重なれば、気がついたら頂きに近づいているから。

―今できることから始めるんですね。

そうです。背伸びしなくていい。25、6歳のころ、ダンスも歌も駄目だったから、自分だけ取り残されるのが嫌で、ニューヨークに行ったんですよ。1カ月間、レッスンとミュージカルを観ただけなんだけど、日本に帰ってミュージカルの稽古に入ったら、演出家に「変わった。ジェイ、抜けたね」って言われて。

―デビューして2年目ぐらいですか。

そうです。『CATS』で観たダンサーの歩き方が脳裏に残っていたから、ちょっとやってみたら、「すごくクオリティーの高いことをやっている」って感じることができて。やっぱり、いいものに触れるって、すごいなと思いました。

―それにしても、歌やダンスに苦手意識があったとは意外です。

特に歌はコンプレックスの塊でした。パーフェクトにできた!と思って、後で聞いてみると、音程が外れていたりして。そこからボイストレーニングを始めて、30代の半ばですよ、やっとソロで歌う役をもらって、少し自信を持てたのは。

―そうなんですか。

本当です。だから、場数だと思います。反復が一番のトレーニング。千本ノックですね。今回が再演も入れて、109作品目なんですけど。

―109作品!

今でも主役をもらって、ソロの曲がいっぱいある演目だと不安ですよ。もちろん100点満点なんて出ないし。「もうちょっと、あのパートで情感が出たらな」とか、いつも小さなことで悩むんです。基本的に、ものすごく小心者なんですよ。そうは見せたくないし、そうなりたくないから、もがいてあがいて、千本ノックしているんです。

―そうは見えません。

若い時は怖いもの知らずのイケイケでしたね。あるじゃないですか、俺サイコー!みたいな(笑)。舞台に立って表現する恐怖や不安や危険性は、年を取るとともにわかってきて。でも、逆にそこからが面白いんです。

―とおっしゃると?

なんとなく自分のことがわかってきて、弱さや至らなさを受け入れられるようになってくるんですよね。本当に不思議なんですけど、50歳を超えたぐらいから。若い時は、大好きな役にほかの人が決まると、自分もできるのにっていう気持ちがあったけど、年を重ねるに連れて、この役はやっぱり彼だなぁと思えるようになるんです。

―そこに至ったのは?

いろいろな仕事を経て、自分というものを客観的に見て、どこが強くてどこが弱いのかがわかるようになるんですよね。ほかの人の役は、僕にはできない。でも、僕がやるような役も、みんなができるわけじゃない。それがわかってくると、楽しくなってくるんです。だから、皆さん、50歳からが楽しいですよ(笑)。

舞台上でアクシデントが起きると、燃えます(笑)

―先ほど、109作品とおっしゃっていましたが。

この年になって、またやりたいことがたくさんできているんです。どちらかというと、プロデュース、製作の方なんですけど。一つは僕自身の少年時代の話で、シナリオを書いていて、いずれ舞台にしたいんです。文才は一切ないですけどね(笑)。

―若いころを振り返られて、思うことは?

昔はね、「俺はおまえが好きだ」っていう場面も、全身からほとばしるエネルギーでやっていたんですよ。それが今は(静かに)「おまえが好きだ」と。言葉の強さを信じられれば、普通に言うだけでいいじゃんって。

―余計な力が抜けるんでしょうか。

成功例も失敗例もいっぱい自分の引き出しにありますからね。こういうときはこうやればうまくいくだろうとか、今、そんなに頑張らなくていいって、やっとペース配分ができるようになってきました。そうなると、作品作りの全体が見えてくるから、相手が何に困っているかもわかるし、少しはアイデアも出せるし。ますます楽しくなるんですよ。

―『fame』の時から、ミュージカルへの情熱は変わりませんか?

どうなんでしょうね。109作品やっているってことは、変わっていないってことなんでしょうね。でも、飽き性だから、公演の中日を過ぎると、「なんか、違う踊りがしたくなってきたな」とか思うんです(笑)。

―飽き性なんですか。

そうなんです。だから、舞台上で、ちょっと楽しいアクシデントが起きると、燃えます(笑)。

―川平さんと共演した俳優さんによくうかがうのは、アドリブがすごくて、何をなさるかわからないと(笑)。

今はもうアドリブは禁じ手にしています(笑)。何かアクシデントがあったときに、取っておくんです。子役が僕をママと間違えたら、「いいよ、いいよ~、パパだけどね」って言えばいいなとか(笑)。焦る必要ないし。そういうの、超楽しくて、大好き。

―(笑)

時々、ステージ上で、こけちゃったりするんですよ。そういうときも気持ち的には、ああ、こけちゃったよ、ありがとう~みたいな(笑)。歌詞を間違えたりすることもあるんですけど、演出家に「ジェイ、間違ってもニヤニヤしながら歌わないように」って言われます(笑)。

―『Forever Plaid/フォーエヴァー プラッド』も、全編がほぼ歌で、ショーのような作品ですね。

音楽と物語の力ですよね。コメディーですけど、人生に別れは必ず来るっていう話でもあるから、今、生きていることが本当に素晴らしいことなんだって、その喜びをみんなで一緒に共有してもらえたら。八方ふさがりで気持ちが落ち込んでいる人にとっては、心と体が軽くなる作品だと思うんです。「ああ生きているだけで十分、まだ幸せが未来にある」って。就活で悩むことがあったら、劇場に来てほしいですね。

 

オフ・ブロードウェー・ミュージカル『Forever Plaid/フォーエヴァー プラッド』

『Forever Plaid/フォーエヴァー プラッド』PR画像初めてのビッグショーに出演するため、会場に向かっていた道中で事故に遭い、天に召されてしまったハーモニー・グループの4人のメンバー。そんな彼らが一晩だけこの世に舞い降りて、念願だったショーを実現する―。絶妙なハーモニーのヒット曲が心を躍らせる、ショーのように楽しく、そして切ない作品。

演出:板垣恭一
出演:川平慈英、長野博、松岡充、鈴木壮麻

※本公演は中止となりました。詳しくは公式サイトをご確認ください。
公式サイト:https://www.forever-plaid.com/

取材・文/多賀谷浩子
撮影/八木虎造
スタイリスト/emiko SEKI
ヘアメイク/NoV
衣装/LANVIN en bleu


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