遠山正道さん(株式会社スマイルズ 代表取締役社長)の「仕事とは?」|後編

とおやままさみち・1962年、東京都生まれ。85年、慶應義塾大学商学部卒業後、三菱商事株式会社入社。99年に「Soup Stock Tokyo」第1号店をお台場ヴィーナスフォートに開店。2000年、三菱商事初の社内ベンチャー企業「株式会社スマイルズ」を設立。08年、MBOにより株式100パーセントを取得し独立、三菱商事を退社。アーティストとして個展を開催するほか、ネクタイブランド「giraffe」も手がける。09年、現代のセレクトリサイクルショップ「PASS THE BATON」を丸の内にオープン。10年、表参道ヒルズに2号店、15年には京都祇園に3号店をオープンし、現在に至る。著書に『スープで、行きます』『成功することに決めた』など。

スマイルズ http://www.smiles.co.jp

前編では三菱商事時代に学んだ仕事への姿勢や、社内ベンチャー企業として会社を設立するまでの経緯をうかがいました。

後編では大企業からの独立の理由や、社内外の起業家を支援することへの思いをお話しいただきます。

「もうかりそう」という理由だけでやるには、ビジネスというのは大変過ぎる

-「Soup Stock Tokyo」1号店オープンの翌年、三菱商事初の社内ベンチャー企業として株式会社スマイルズを設立。その8年後にMBO(子会社や事業部門の経営陣が事業の継続を前提として、親会社・オーナーから株式・経営権を買い取り自ら企業のオーナーとなる独立手法)によりスマイルズの株式100パーセントを取得し、三菱商事を退社されました。独立されたのはなぜだったんですか?

簡単に言うと、「自分自身で物事を判断したい」という思いが大きかったと思います。「Soup Stock Tokyo」はチェーン展開のスープ専門店という新しい業態で注目され、社内で一定の評価は得ていましたが、MBOを決意した当時、業績は伸び悩んでいました。当然、親会社や株主からは利益を上げることが求められ、現場では例えば、お客さまへの訴求力を高めるためにポスターをたくさん張るといったことが行われていました。確かに売り上げは大事なのですが、それは果たして、この事業のベースにあった「スープを飲んでホッとひと息ついている女性」のイメージに沿うものなのか。自分たちが求め、お客さまにも共感してもらえる姿なのか。どう考えても違うと思いました。利益を生むことは大事だけど、そのために「ホッとひと息つける空間」という価値を損なえば、共感は生まれない。価値を守ることで、利益を生んでいかなければいけません。しかし、それは大きな会社のビジネスの手法では実現しにくく、株主には理解されない。それならば自分が株主になって、やりたいことを実現しようと思いました。

独立後は「自分たちが本当に求めているものなのか」を基準に、商品の素材から店舗オペレーション、内装まで徹底的に見直しました。ポスターも厨房機器に貼ってあった無機質なラベルも一度全部はがして。それがよかったのでしょう。独立した年はリーマン・ショックが起きて大変な年だったにもかかわらず、過去最高益を上げました。

スマイルズでは「4行詩」と呼んでいるのですが、新しいことをやるときに私たちが大事にしているのは「やりたいこと、必然性、意義、なかったという価値」。利益ももちろん大事なのですが、ビジネスというのは残念ながら大変で、うまくいかないことの方が多い。その時にただ「もうかりそう」という理由だけで何かをやっていたら、よりどころが何もなくなってしまう。ちゃんと自分のやりたいことをやっていないと、とても踏ん張れません。初恋みたいな出会いがしらのものでもいいから、自分の中に理由を持って仕事をすることが重要ですよね。

自分の中にエンジンを持っている人なら、放っておいても大丈夫

-スマイルズ設立以来、「Soup Stock Tokyo」に続いてネクタイ専門ブランド「giraffe」、従来のスタイルとは異なるセレクトリサイクルショップ「PASS THE BATON」とご自身による事業を次々と展開されてきましたが、最近ではベンチャーの支援にも力を入れていらっしゃいますね。

毎週1冊の本だけを取り扱う「森岡書店」やシチリア料理店「ロッツォシチリア」など外部にも出資していますが、社員それぞれが持っているアイデアを生かせるよう社内ベンチャー制度も設けています。やはり、何かをやるときというのは、「言い出しっぺ」が一番力を出せるんですよ。「他人事」ではなく、「自分事」として仕事に向かうようになりますから。「Soup Stock Tokyo」を2016年2月に分社化したのも、「言い出しっぺ」の僕が少し手を離すことで、社員にとって仕事がより「自分事」になることを期待してのことです。

僕たちは「お地蔵さん」と呼んでいるんですけど、座って指示を待っているだけの人がたくさん集まっても、何も起きないんです。一方、自分の中にエンジンを持っている人なら、放っておいても大丈夫。僕が何の脈絡もなく個展を開いた時のように「何をやりたいかはわからないけれど、動き出さずにいられない」という状態であっても、エンジンを持っている人は目標さえ見つければ、渡した球をちゃんとゴールに入れてくれますから。僕は何かが動き出す時のウズウズした感じが好きだし、動き出していく人たちを見るのがすごく楽しい。会社をステージにて、自分の人生を自分で動かしていく。スマイルズはそういう人たちが集う素敵な場所であってほしいなと思っています。

学生へのメッセージ

企業というのは、規模の大小によってそれぞれの良さがあります。私は新卒で大企業に入りました。自社だけでなく取引先の利益も考えて仕事をする社員が多く、尊敬できる人たちに出会えたことは大きな財産になりました。ただ、大きな組織で働いていると、相対的に個人の意思は事業に反映されにくくなり、とがったことはやりにくくなります。また、事業規模が大きくなればなるほどリスクも高くなり、チャレンジがしにくくなるものです。一方、規模の小さい企業では、それぞれの社員に任される仕事の責任が大きく、受け身な人にとっては大変ですが、自分の意思を仕事に反映させやすく、自立的に動ける人ならやりがいがあるはず。規模の大きさや知名度の高さで企業を選ばず、自分の理想とする人生を具現できる環境を見つけてほしいと思います。

遠山さんにとって仕事とは?

−その1 与えられた環境の中で「自分ならどうするか」を問い続けることで成長する

−その2 「他人事」ではなく、「自分事」として捉えることで、力を発揮できる

−その3 ビジネスというのは大変なもの。やりたいことをやっていないと踏ん張れない

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INFORMATION

ネクタイ専門店「giraffe」は「サラリーマン一揆」をコンセプトに、「誰かに首を縛られるのではなく、自らの首をぎゅっと締め上げ、キリンのように高い視点で遠くを見つめよう」という遠山さんの思いから生まれたブランド。34℃「目を閉じる。目を開く。静寂。」、36℃「技術。家族。知性。」、38℃「反骨の気概。ユニークネス。恋愛!」、40℃「道化?覚醒?あとはご自由に。」をテーマに「体温別」にラインナップがそろえられているのが特徴。シンプルな色・柄のものもリバーシブルで使えたり、大剣・小剣のデザインが異なるなど遊び心があり、着用すれば、就職活動で出会う人たちとのコミュニケーションにもひと役買ってくれそうだ。

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編集後記

インタビューの終盤、スマートフォンを取り出して「最近のお気に入りなんですけど…」と遠山さんが見せてくれた一枚の写真。そこに写っていたのは、透かし編みやアラン編みなどいろいろな模様編みを施された黄色いニットカバーをかぶり、お皿に載せられた檸檬(れもん)たちでした。「これは何だろう?」と写真を見つめる編集スタッフたちに、遠山さんは「レモンのお洋服。いいでしょう、これ?」と誇らしげ。瀬戸内海の離島・豊島(香川県)でスマイルズが運営する1日1組しか泊まれない宿「檸檬ホテル」で販売している檸檬のニットカバーで、宿泊客のお土産として好評だそうです。「檸檬の洋服なんて機能は何もありませんから、これを一般的な雑貨店で売っても売れないでしょうけど、檸檬ホテルは瀬戸内国際芸術祭の作品として生まれた空間だから、ミュージアムショップのグッズとしてお客さんは『かわいいね』と共感して買っていってくれる。そういった“私たちだから成立するビジネスのあり方”みたいなものを、今後も見いだしていけたら」と話してくれた遠山さんの楽しそうな表情が印象的でした。(編集担当I)

取材・文/泉 彩子 撮影/刑部友康

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