やまざき・しん●1987年、長野県生まれ。東海大学付属第三高校卒業後、上京。2008年、日本工学院専門学校サッカーコース卒業。横浜マリノス株式会社にマリノスサッカースクールのコーチとして入社。2010年よりキットマネージャー(ホペイロ)に。選手の試合用スパイクシューズやユニフォームなどの用具管理を任され、アウェイでの試合にも同行する。横浜F・マリノス公式携帯サイト・公式スマートフォンサイトにて『慎ちゃんのホペイロブログ』を連載中(要会員登録/月額315円)。
前編ではホペイロの仕事の内容や、一人前になるまでの経緯をうかがいました。
後編ではホペイロの仕事のやりがいや、今後目指していきたいことをお話しいただきます。
どんなにスパイクを磨いても、チームが試合に勝てなければ意味がない
-これまでお仕事をされてきて、最も喜びを感じた瞬間は?
やはり、2014年の天皇杯優勝です。スパイクを磨くのは楽しいですし、選手がそのスパイクを履いてゴールを決めてくれたら、個人的にはとてもうれしい。でも、チームが試合に勝てなければ、意味がありません。チームが勝つために力を尽くすのが僕たちの仕事だと思っています。
-自分の仕事がチームの勝利につながっているという実感はありますか?
うーん、難しいところですよね。試合に出るのは選手ですから。それに、ホペイロがいるチームだから必ずしも強いとは限らない。スパイクを磨いて点が取れるなら、どのチームもこぞってホペイロを採用するはずです(笑)。それでも、自分が磨いているこの1足がチームの勝利につながっていると信じるようにはしています。選手たちの身の回りの環境を整えることで、彼らがサッカーに集中でき、少しでもパフォーマンスを上げてくれたらと常に願って仕事をしています。
サッカーチームにはさまざまな仕事があることを知ってほしい
-日本にはまだホペイロが少ないとうかがいました。後進を育てていきたいというお気持ちはありますか?
ホペイロはサッカーチームには欠かせない職種だと思うので、日本のサッカーがますます盛んになるために増えていってほしいという気持ちはもちろんあります。ただ、ホペイロがいるチームもその人数はわずか。うちも僕ともう1人でやっていて、今のところ新人の募集はしておらず、6年ほどこの体制です。直接育てるというのは限りがありますから、まずは、いろいろな人たちにホペイロの存在を伝えていきたいと思っています。最近、クラブで靴磨きイベントをやって、小学生から大人まで幅広い世代の人たちが参加してくれました。広報チームとの雑談から始まった企画だったのですが、参加者の方々に喜んでいただけたようなので、続けていけたらと思います。
ホペイロに限らず、サッカークラブには企画、広報、事務など選手の活躍を裏で支える仕事がたくさんあって、一人ひとりがチームの勝利のために働いている。サッカーにかかわる仕事は選手やコーチだけではないということも、皆さんに知っていただけたらうれしいですね。
学生へのメッセージ
学生時代は「やりたいことがぼんやりとしている」という人も多いのではないでしょうか。僕も「ホペイロの仕事をやってみたい」とは思っていましたが、確信があったわけではありません。意思がはっきりしてきたのは、キッズサッカースクールのコーチをやってみて、自分がより力を発揮できる場所はどこかを考えるようになったからです。だから、社会に出るまでにやりたい仕事がはっきりしていなくても、焦らなくていい。ただ、少しでも興味があったり、やってみたいことがあるなら、その方向に一歩踏み出してみるのが大事かなと思います。立ち位置が変わることで、見えてくるものもありますから。
山崎さんにとって仕事とは?
−その1 誰よりも好きになれて、勝負できる場所はどこかを考える
−その2 相手の要望に一つ一つ応えることで技術やノウハウを身につける
−その3 チームが勝つために力を尽くすのがホペイロの仕事
INFORMATION
横浜F・マリノスの公式サイト(http://www.f-marinos.com)。チームや選手の紹介のほか、試合日程やゲームレポート、イベントの情報も掲載されている。2017年6月4日(日)の 川崎フロンターレ戦では、2016年に続き「レプリカユニフォーム付チケットの販売を5月14日(日)よりスタート。同企画は、F・マリノスのホームタウンである横浜が1859年に国際貿易港として世界へと船出した開港記念月にちなみ、「これからもYOKOHAMAを胸に!」を合言葉として、特別にデザインしたレプリカユニフォームが付いたチケットを通常チケットの価格にプラス600円で販売。
編集後記
今回は横浜市港北区にある横浜F・マリノスのトップチーム専用用具室にお邪魔してお話をうかがいました。用具室に入ると、調整されたスパイクが100足以上掛けられたラックがあり、奥には選手ごとに区切られた棚にユニフォームや下着類が整然と並べられています。スパイクを見せていただくと、何度も使用したとは思えない美しさ。聞けば、山崎さんは小学生時代からスパイクを磨くのが好きで、きれいになるのが嬉しくてたまらなかったそうです。「誰でもサッカーをやった後はシャワーを浴び、ユニフォームも洗濯しますよね。それなのにスパイクは泥がついたままというのはおかしい。全部きれいにした方が気持ちいいのにって子どものころから思っていました」と山崎さん。仕事だからスパイクをきれいに磨くのではなく、「きれいにした方が選手も気持ちいい」と思って磨く。山崎さんのホペイロとしての成長の原点はそこにあると感じました。(編集担当I)
取材・文/泉彩子 撮影/鈴木慶子