面接などで「“失敗談”を教えてください」と問われたら、企業はその質問を通して何を知ろうとしているのでしょう。人事として新卒採用を20年担当し、現在はさまざまな企業の人事・採用コンサルティングを手掛ける採用のプロ・曽和利光さんに聞きました。
曽和利光(そわ・としみつ)
株式会社人材研究所・代表取締役社長。1995年、京都大学教育学部教育心理学科卒業後、リクルートで人事コンサルタント、採用グループのゼネラルマネージャーなどを経験。その後、ライフネット生命、オープンハウスで人事部門責任者を務める。2011年に人事・採用コンサルティングや教育研修などを手掛ける人材研究所を設立。『「ネットワーク採用」とは何か』(労務行政)、『悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?人事のプロによる逆説のマネジメント』(星海社新書)など著書多数。最新刊『人事と採用のセオリー』(ソシム)も好評。
“失敗談”を聞く企業の意図は?
企業が選考で“失敗談”を聞くのは、なぜなのでしょうか?企業の意図について曽和さんに聞きました。
選考で企業が知りたいのは、「あなたはどんな人か」ということ
エントリーシートや面接など、就活の選考で企業から問われる質問は、すべて「あなたはどういう人か」を知りたいという意図があります。そして、企業は質問への回答から学生の能力や性格、思考を見ているのです。
また、能力や性格、思考にまつわる過去の経験を聞くのは、学生の特性がどの程度根付いたものなのか、社会人になって環境が変わっても発揮できるものかを知りたいため。これは、入社して仕事をしていく中でも思考や行動パターンを生かして業務に取り組むことができるかどうかを知りたいからなのです。
“失敗談”を通じて、ピンチを乗り越えるときの思考・行動パターンがわかる
では、なぜわざわざ“失敗談”を聞くのでしょうか。それは人の本性や底力は、失敗したりピンチを迎えたりしたときにこそ見えるからです。その意味では、失敗談も特性を知るための質問の一つです。
選考は成功談や実績、成果を披露する場ではありません。「私が部長になり、部員が2倍に増えました」「アルバイトで売り上げを2倍にしました」などをアピールしても、その“成果自体”で学生の能力を判断することはほとんどありません。企業が知りたいのは、その成果を成し遂げるに当たってどんな力を発揮したのか、という点なのです。
また、成功談は「達成するのが本当に大変だったのだろうか」「本人の努力以外に別の要因があったおかげで成果を上げたのではないか」という見方もできてしまうため、学生がどんな力を発揮したのかを知るためのエピソードとして、弱いと思われてしまうケースも。
一方で、失敗談はその人の特性がよく現れるものだと言えるでしょう。悔しくも失敗に終わってしまったエピソードから、企業はその学生が持つすべての力を出したけどピンチを乗り越えられなかった時のことを知ることができます。「なんとか乗り越えよう」「ギリギリまで挑戦しよう」と試行錯誤したプロセスの中には、その人の思考や行動パターンが現れてくるのです。
“失敗談”を選ぶ際のポイント・注意点は?
では、選考で伝える“失敗談”を考えるとき、どんなことに気をつけるとよいのでしょうか?引き続き曽和さんに尋ねてみました。
企業が質問する意図を押さえた“失敗談”のエピソードを選ぼう
失敗談といっても、「授業の出席日数が足りずに単位を落としました」のように、ただ失敗しただけのエピソードを話しても意味はありません。これでは、だらしなさを露呈するだけになってしまいます。
しかし、同じ「単位を落とした」という話でも、「レポートに合格点がほとんど付かない厳しいゼミで、レポートを書くために入念に準備をしたり何度も書き直したりして食らいついたけれど、落としてしまった」のように努力のプロセスがあれば、選考で伝える失敗談としては成立するでしょう。たとえ悔しい経験であっても、その中で心がけたことや成長につながったことがあれば、それを伝えることができるでしょう。
「失敗談を通じて、企業に自分の強みや特性を伝えよう」という観点でエピソードを選んでみてください。
面接で“失敗談”を伝えるときの回答例
最後に、実際に面接で“失敗談”を伝えるときの回答例を紹介します。面接を受ける前に自分ならどのように答えるか、例を参考に考えてみてはいかがでしょうか。
【回答例】
所属していた写真サークルのメンバーがなかなか集まらず、存続を断念したことです。
入部した当初から同期がおらず、新入生の勧誘にも苦戦していたのですが、20年続いていたサークルがなくなることは避けたいと考え、最後のメンバーだった先輩2人と共に、サークルのPRを考え、実行しました。
私が企画したのはOB・OGの方々に協力をお願いしてサークルに所属していた人の写真をアップしたSNSの開設や、大学に交渉して月に1回学食で実施した作品展示などです。しかし、新しく入部してくれるメンバーはおらず、結果としてサークルの存続はかないませんでした。
ただ、この経験を通して最後まであきらめずに考えて行動したり、交渉する際に自分が成し遂げたいことを相手に熱意を持って伝えることの大切さを学びました。
上の失敗談は「頑張ったけれど失敗してしまった」エピソードですが、その過程における自分の価値観や行動特性を企業に伝える意識ができています。
また、数字や事実を具体的に伝えることができると、初対面の面接担当者にもエピソードがより伝わるでしょう。
取材・文/田中瑠子