三田 佐代子さん(プロレスキャスター)の「仕事とは?」|後編

みたさよこ・1969年神奈川県生まれ。92年、慶應義塾大学法学部卒業後、アナウンサーとしてテレビ静岡に入社。報道、スポーツ、バラエティーなどあら ゆる分野で活躍。96年、テレビ静岡を退社し、古舘プロジェクト所属に。スカパー!のプロレス・格闘技専門チャンネル「ファイティングTVサムライ」のプロレスキャスターを開局当時から務める。年間120大会以上を観戦・取材し、レポーターやMCのほか執筆でも活躍している。

前編でプロレスキャスターになるまでの経緯や新人時代について語ってくれた三田さん。今回はプロのキャスターとして大切にしてきたこと、やりがいについてうかがいました。

プロレスの幅広さ、さまざまな楽しみ方を伝えていくのが自分のやるべきこと

-プロレスキャスターとして視聴者に情報を伝えるにあたり、心がけていることは?

選手のここが良かった、悪かったというような二元論で自分の考えを伝えないようにしています。試合には勝敗がありますが、その試合が良かったのか、そうでなかったのかを判断するのは視聴者。選手がどんな思いでその試合に臨んだか、試合後の控え室でどんな状況だったのかといった一般の人が「知りたいけれど、知り得ない情報」をなるべくたくさん自分の目で見て、聞いて、伝えるのが私の役割だと思っています。

-この20年間で毎年120大会、1万試合以上を観戦されてきたそうですね。試合の種類も、新日本プロレスや全日本プロレスといったメジャー団体からインディー団体、女子プロレスまでさまざまとか。

例えば、プロレス専門誌やスポーツ新聞のプロレス担当の記者は組織が大きいので、ある程度仕事が細分化されていて、担当する団体や選手が特定されていることが多いんですよ。ところが、プロレス専門チャンネルのニュース番組となると、プロレスの情報を総合的に取り上げるので、あらゆるジャンルを追いかけることになります。自分には専門分野がないと不安に感じたこともありますが、今ではそれも良かったなと思っています。プロレスの多種多様な楽しさを知ることができたからです。

私がプロレスを追い続けてきたこの20年は、さまざまな団体の興亡があり、プロレス界が大きく揺れ動いた時期でした。そして、ここ数年は棚橋弘至選手や内藤哲也選手といったスター選手を抱える新日本プロレスが巧みなプロモーション戦略と試合の充実で観客動員数を増やし、プロレス界をけん引。大日本プロレスやDDTといったインディー団体も注目され、プロレスは再び盛り上がっています。今のプロレス界が面白いのは、かつてよりも団体の個性が多様化していて、少し関心を持てば、好きになれる要素がどこかに見つかるところ。プロレスってこんなに幅広くて、さまざまな楽しみがあるんだよということを伝えるのが私のやるべきことなんじゃないかなと思ったりしています。

プロレス以外のジャンルを担当しても、夢中になって仕事をしたと思う

-プロレス界が低迷し、ファンが離れた時期もありました。プロレスの先行きに不安を感じたことはなかったですか?

それが、まったくありませんでした。今でもプロレスを見ることが楽しくて仕方ないんです。試合を見るだけで飽きないし、選手はもちろん、団体関係者、報道関係者などプロレスにかかわるすべての人たちが熱くプロレスを語る現場がものすごく好きで、それを伝えることが使命だと思って仕事をしてきました。勝手な思い込みなんですけどね(笑)。語弊があるかもしれませんが、もしかしたら、私はプロレス以外のジャンルを担当しても、同じように夢中になって仕事をしたのではと思います。もちろんプロレス自体の魅力も大きいのですが、私にとってはそれ以上にみんなでものを作っていくことや、その過程を見るのが好きなんです。プロレスの業界規模をたずねられたときによく「約30団体で選手は500人ほどです」とお答えするのですが、その数はどんどん移り変わっていきます。プロレス界は絶えず追いかけていないと状況を把握できず、大変ですが、変化していくのがまた楽しい。幸い20年も追いかけ続けていると、「三田さんがわかりやすく説明してくれてプロレスを好きになりました」なんて言っていただけることもあって、うれしいですね。この先もずっとプロレスを見続けていきたいですし、選手が伝えたいなと思っていることとファンの方が知りたいことをちゃんとつなげていきたいなと思っています。

学生へのメッセージ

希望通りにいかないことも、人生ではたくさんあります。現在のプロレス界のエース・棚橋弘至選手(新日本プロレス)も入団試験に2度落ち、入団後も不遇の時代を経験。「エース」と呼ばれるようになってからも試合にお客さんが集まらない日々が続きました。それでもプロレスを続け、丁寧な試合運びと持ち前の明るいキャラクターで会場を盛り上げることで脚光を浴びるようになったのです。私自身も新卒で就職した会社やプロレスキャスターが第1志望だったわけではありませんが、いざ仕事を始めてみたらすごく楽しくなりました。第1志望の仕事に就けたらもちろん素晴らしいですが、それがかなわないからといってふて腐れていたら、もったいない。せっかくやるなら楽しくやって、自分の仕事を好きになってもらえたら素敵だなと思います。

三田さんにとって仕事とは?

-その1 縁のあった仕事を一生懸命やるうちに面白くなった

-その2 長く続けていくうちに、自分にしかできないことを見つけた

-その3 みんなでものを作っていくことや、その過程を見るのが好き

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INFORMATION

著書『プロレスという生き方 平成のリングの主役たち』(中公新書ラクレ/定価:840円+税)では、最近のプロレス人気の中心となっている新日本プロレスや全日本プロレスといったメジャー団体はもちろん、インディー団体や女子プロレスまでさまざまな団体を取り上げている。人気選手だけでなく、若手選手、レフェリーの生きざまや思い、プロレスメディアの取り組みについてもつづられており、プロレスを愛するあらゆる人たちの「仕事論」としても読める。

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取材・文/泉 彩子 撮影/刑部友康

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