くじ引きで代表に!? 飯田大輔さんが「恋する豚研究所」を立ち上げるまで|後編

いいだ・だいすけ●1978年、千葉県生まれ。2000 年、東京農業大学農学部卒業。大学3年生の時に母が亡くなり、その母が進めていた社会福祉法人の設立準備を継承。2001 年、日本社会事業学校(現・日本社会事業大学)研究科修了。 同年、「社会福祉法人福祉楽団」を設立。特別養護老人ホームの相談員や施設長など介護現場での経験を経て、2012年に豚肉の加工や販売を行う「株式会社恋する豚研究所」を設立。拠点となる千葉県・香取市の施設にはレストランや地元産の食品のセレクトショップも併設。障がい者の就労支援施設でもあり、福祉と地域活性化をつなげた先進的な取り組みとして注目されている。2013 年、千葉大学大学院人文社会科学研究科博士前期課程公共研究専攻修了。現在、社会福祉法人福祉楽団理事長、株式会社恋する豚研究所代表取締役。東京藝術大学非常勤講師。

前編では農学部を卒業した飯田さんが福祉の世界に入り、「恋する豚研究所」で新しいスタイルの福祉を実現していくまでの経緯をうかがいました。
後編では「恋する豚研究所」の経営や、現在進行中の新しい事業についてうかがいます。

「福祉を売りにも言い訳にもしない」という決意

-「恋する豚研究所」オープンから5年。現在、障がいを持つスタッフは28名で、月給も平均7万8000円を支払えるまでになっているそうですね。

目標の「月給10万円」にはまだ届いていませんし、「恋する豚研究所」単体ではまだ赤字です。黒字転換するにはここ数カ月が勝負といったところです。障がい者の就労継続支援にはA型とB型があり、B型はいわゆる「作業所」で雇用契約は結びません。「恋する豚研究所」の場合はA型で雇用契約を結びますから、そこで働く人は「労働者」であり「社員」となります。当たり前のことですが会社は、スタッフにお給料を払える経営をしなければいけません。

きちんとお給料を払う仕組みを作るには、福祉を売りにも言い訳にもしてはいけないと僕は考えています。ちゃんと売れるものを市場に出さないと。だから、「恋する豚研究所」の設立にあたり、運営母体の「社会福祉法人福祉楽団」とは別に「株式会社恋する豚研究所」という販売会社を作りました。福祉を前面に出して買ってもらうのではなく、商品そのものの価値で勝負するためです。「恋する豚研究所」の施設や商品パッケージに「福祉」の文字が一切ないのも同じ理由です。

つまり、何が言いたいかというと、経営というのはひと筋縄ではいかないなと(笑)。「恋する豚研究所」を地域の事業として持続可能なモデルにするためには、現在の事業形態を見直したり、新しい事業を取り入れて複数の収入源を取り入れていくことも大切だと考えています。そのひとつが、今年から始めた農林業です。

異分野の人たちとの交流から、広がっていく可能性

-なぜ農林業を?

もともとは、高齢化によって森や林の管理をする人材が不足して荒れている状況を見て「なんとかできないかな」と考えていて。いろいろな人に話しているうちに、「自伐型林業」というのを教えてもらったんですね。日本の林業は森林組合に委託して行う「委託型林業」が多く、大規模になりがちで費用もかかるのですが、小規模で自分たちで間伐する「自伐型林業」なら500万円ほどの投資でできる。山林の保全管理を無償でやるかわりに、間伐した木材をまきや家具として売れば、事業として成り立つなと思ったんです。障がいのある人と、そうでない人のチームで作業をする体制をつくれば、地域の景色が美しくなって気持ちいいし、雇用も生まれる。農業も同様に耕作放棄地を借りてサツマイモを育てることに。リーダーとなるスタッフを新たに採用し、農林業の拠点となる施設を「恋する豚研究所」の隣に建設中です。

-これまでお話をうかがった以外にも、高齢者や障がいのある子どものデイサービスを行う施設に、地域の子どもたちが自由に出入りして勉強できる「寺子屋」や近所の高校球児のための下宿を併設した「多古新町ハウス」(2013年、千葉県多古町に開設)、介護記録ソフト「ケアコラボ」の開発などさまざまな取り組みをされていますよね。アイデアの源は?

うーん。アイデアの源にしようと思っているわけではないのですが、視野が狭くならないよう、異分野で活動している人たちと会うようにはしています。「ケアコラボ」もIT業界の人たちとの交流から開発を始めたのですが、ITの人たちって福祉業界の人たちとはまったく考え方が違うんですよ。例えば、福祉業界で経営目標の話になると、「短期目標」は1年から数年先、「長期目標」となると5年、10年先を見据えたものとなることが多いのですが、ITの人たちの「短期」は1週間くらいで、「長期」は3カ月ほど。自分にはない視点や考え方が新鮮で、勉強になります。

2018年の改正障害者雇用促進法の施行による障がい者の法定雇用率引き上げを見越し、最近では流通や外食産業、メーカーなどさまざまな企業の方々が障がい者雇用のモデルケースとして「恋する豚研究所」の視察にいらっしゃいます。そういった方々とお話ししているうちに、うちとのコラボレーションをご提案し、前向きに検討していただけることもあります。実現はまだしていませんが、アイデアを考えることそのものが面白い。これからもさまざまな分野をつなげ、地域の中から新しい福祉を実践していきたいと思っています。

学生へのメッセージ

時代は変化していくので、どの時代にも変わらない大切なところは残しつつも、福祉もビジネスもその変化に合わせて新しくなっていく必要があります。そのためには今の社会で何が求められているのかを見極めていく必要がありますが、狭い世界に閉じこもっていたら、変化になかなか気づけません。また、どんな仕事も社会のさまざまな分野とつながっていて、そのつながりから新しい可能性が開けます。就職をすると、いつの間にか自分の会社のルールや考え方に縛られてしまいがちですが、若いうちからそうなってしまうのはもったいない。旅をしたり、会社とは別の世界に出かけてさまざまな人に会い、多様な価値観に触れてほしいと思います。その方が偏見や固定概念ができにくく自由な発想ができるし、何より楽しいです。

飯田さんにとって仕事とは?

−その1 福祉の世界の「当たり前」を一般社会の「当たり前」に近づけたい

−その2 未知の分野への挑戦は簡単ではないが、知らないことが多いからこそ楽しい

−その3 異分野の人とのつながりから、イノベーションが起きる

INFORMATION

「恋する豚」ブランドの豚を育てている「在田農場の取り組み」やハム作りを紹介した映像が「YouTube」で公開されている。

①農場編
http://www.youtube.com/watch?v=NoGEBgNhhzI
②ハム編
http://www.youtube.com/watch?v=uq5UBs_RfiM

また、「恋する豚研究所」のブランドサイト(http://www.koisurubuta.com/index.html)には千葉県・香取市にある複合施設の案内や豚のおいしい食べ方についての情報も。
ネットショップ(http://www.koisurubuta.com/shop/)で商品を購入することもでき、精肉やハム、ソーセージはもちろん、オリジナルのポン酢が人気だ。

編集後記

飯田さんの家庭は両親ともに事業をやっており、子どものころから実家が経営する乾物屋さんの配達を手伝っていたりしたそうです。「小学生のころ、『従業員の人が仕事をきちんとやってくれない』と母がこぼしたことがありました。母は壁に向かって話しているようなつもりだったでしょうし、僕もまともに聞いていなかったのですが、ふと『お金を払っているんだから、やってもらえばいいじゃない』と言ったんですね。そうしたら、母が『あんたね、人間がお金で動くなら苦労しない。お金で動くのはロクな人ではないし、お金ではなかなか動かないからこそ、動いてもらうにはどうすればいいかを考えなければいけないんだ』と。美談でもなんでもないのですが、その時に子どもながらに考えさせられるものがあったことを覚えています」と話してくれました。仕事観は社会に出て形成されるだけではなく、その前から醸成されるもの。家族など周囲の大人から仕事の話を聞いてみるのもいいのではないでしょうか。(編集担当I)

取材・文/泉彩子 撮影/刑部友康

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